シリア内戦 最後の濡れ衣攻撃2018年9月15日 田中 宇シリア内戦は、シリアのほとんどの地域で政府側(アサド政権)の勝利が確定し、反政府勢力(テロ組織。ISアルカイダ)が残って政府側と戦う姿勢を見せているのはシリア北部、トルコ国境沿いの町イドリブだけになっている。イドリブは、シリア各地で政府軍に投降したISカイダの兵士と家族らが集められている場所だ。アサド政権と、それを支援してきた露イランは、アレッポやグータなど、シリア各地で打ち負かして投降・武装解除させたISカイダとその家族を、そのままその地域に残しておくとまた戦闘を起こしかねないので、バスの隊列に乗せてイドリブに移動させる作業を続けてきた。 (アレッポ陥落で始まった多極型シリア和平) イドリブはシリア国内だが、トルコ軍とISカイダが統治してきた。イドリブはシリア内戦の前半、トルコがアサド打倒を目指し、米サウジと一緒にISカイダを積極支援していたころ、トルコからシリアへ越境する出入り口で、ISカイダに支援物資を送ったり、新たな志願兵を越境させたり、戦闘の負傷兵をトルコ側の病院で治療するために越境させるための兵站の町だった。15年にロシア軍がアサド政権への支援を開始し、内戦が露アサドイランの優勢に転換した。負け組入りを回避したいトルコは、米サウジから離れてロシアに接近した。ISカイダ支援と、アサド敵視は続行したが消極的なものになった。 (勝ちが見えてきたロシアのシリア進出) (欧米からロシアに寝返るトルコ) その流れの中で、シリア各地でISカイダが露アサドイラン側に負けるようになった時、投降したISカイダをイドリブに移動させ、トルコ軍の監視下で「更生」させることになった。合計で約2万人のISカイダの兵士がイドリブにいる。兵士以外の避難民もイドリブに多く集まり、もともと80万人だったイドリブの人口は200万人に増えている。トルコ軍はイドリブに12カ所の監視塔を作った。 (Turkey’s de-escalation efforts around Idlib come with risks) (Turkey to clear Idlib of militants to prevent Syrian government assault) だが、イドリブのISカイダ勢力は「更生」せず、アサドの政府軍と戦う姿勢を取り続けている。ISとアルカイダが再合流し、アルカイダ(ヌスラ戦線など)に戻っている。イドリブに入っているトルコや米英の諜報要員の中に、彼らアルカイダをけしかけて露アサドイランと戦わせ続けようとしている勢力がいるようで、トルコ側からアルカイダへの武器供給が続いている。今夏、シリア南部のイスラエル・ヨルダン国境沿いの地域の戦闘が、アサド側の勝利で終わり、イスラエルもアサドの勝利を認めた。北方のクルド人も、アサド敵視をやめて、内戦後の自治獲得に向けたアサドとの政治交渉に入った。残るはイドリブだけになっている。 (米国から露中への中東覇権の移転が加速) 今春以来、ロシアとトルコ、イランは、イドリブをどうするかについて、何度も話し合ってきた。アサド政権は、イドリブもシリアの一部なので、従来のようなトルコやISカイダがイドリブを占領している事態をなくしたい。アルカイダが武装解除・更生を拒否し続けるなら、シリア政府軍がイドリブに侵攻し陥落・奪還するとアサドは表明してきた。トルコは、テロリストたちを更生させるのでもうしばらく待ってほしいという態度だが、その一方でトルコ(と英米)の諜報界は、アルカイダに武器を供給し続けてきた。 (Turkey boosts arms to Syrian rebels as Idlib attack looms - rebel sources | Reuters) (Turkey reinforces military in Syria's Idlib after ceasefire call fails) ロシアとイランは、シリアとトルコの間を仲介する立場だが、善悪でいうと、シリア領であるイドリブをシリア政府が奪還しようとするのが善であり、イドリブのアルカイダに武器支援するトルコは悪だ。露イランは、シリア政府の肩を持たざるを得ない。イドリブが戦争になるとトルコ側への難民の流入が急増し、トルコ経由で西欧に向かう難民の流れも増えそうで、その点が比較的説得性のあるトルコの言い分だったが、それだけでは露イランを説得できなかった。 (Turkish push for Idlib solution failing to make headway in Moscow) ロシアはシリアで、反政府勢力がアサド政権と交渉して投降・武装解除するための仲裁機能を持っている。8月初め、ロシア側の呼びかけに応じ、イドリブのアルカイダの一部が、アサド政権と交渉しても良いと表明した。だがその後、この勢力は、最後まで戦うべきだと主張するアルカイダの別の勢力によって拘束され、処刑されてしまった。仲裁は失敗した。 (Militants in Idlib arrest members for seeking reconciliation with Syrian govt.) (As Assault Looms, Syrian Rebels Detain Those Trying to Surrender) 9月7日のテヘランでの露イラントルコの首脳会議で、トルコは露イランを再度説得しようとしたが失敗し、露イランがシリア政府軍のイドリブ攻略を認める姿勢を強めた。これで、イドリブをめぐるトルコと露イランの交渉は決裂したと指摘されている。イドリブ周辺での政府軍とアルカイダの戦闘は以前から続いており、いつ本格的な攻略が始まってもおかしくない状態だ。イドリブのアルカイダは強くない。これまま本格戦闘になれば、数週間でシリア政府軍の勝ちが決まる。これがシリア内戦の戦闘終結になる。 (Turkey's Erdogan gets no love from Russia on Idlib) (Post-war Syria destined to be sanctions-busting hub, the Russian-Iranian-Turkish summit decides) ▼バレバレの濡れ衣をかけてロシアやシリアと戦争すると乱入してきたトランプ だが、ここで「場外」から乱入してきた勢力がいる。トランプ政権の米国だ。米国は、シリア政府の許可を得ずに2千人の米軍をシリア東部のアルタンフに派兵・駐屯しているものの、露イラントルコが議論するシリア再建に関する外交交渉に全く参加せず、シリア問題で「場外」にいる。それなのに、米政府は8月下旬から、ボルトン補佐官を中心に、シリア政府軍がイドリブで化学兵器を使った攻撃をやりそうだと言い、もし政府軍が化学兵器を使ったら、米軍は英仏軍を率いてシリア政府軍を攻撃する軍事制裁をやると宣言し始めた。シリア政府軍がイドリブ郊外で塩素ガスを使った攻撃をやりそうだという、具体的な予測まで出てきた。 (Bolton Again Warns Assad "We Will Respond" If Chemical Weapons Used In Idlib Offensive) (America last: Trump has brought US to irrelevance in Syria) この件に関し、ロシアは異なる見方をしている。ロシアによると、シリアの反政府勢力の支配地で、戦闘で破壊された瓦礫の中から市民を救出することで有名になった「民間」の救援部隊である「白ヘルメット」が、イドリブ郊外のジスルシュグール(Jisr al-Shughur)に8月末、8本の容器入りの塩素ガスを持ち込んだ。 (White Helmets help Nusra terrorists stage chemical attack in Syria's Idlib: Report) 白ヘルメットは、シリア各地のISカイダ占領地域で、救援活動をする一方で、シリア政府軍がISカイダの支配地域に対し、通常兵器を使った攻撃(軍用ヘリに積んだ樽型爆弾の投下)をした直後に、あらかじめ用意しておいた塩素ガスを散布し、市民に被害者が出ている様子や、白ヘルメットが被害者を救出している様子を動画に撮り、それをユーチューブなどにアップし、アサド政権を敵視する米欧マスコミに「シリア政府軍が市民を塩素ガスで攻撃した」と報じさせる「濡れ衣戦争作り」を繰り返してきた。 (いまだにシリアでテロ組織を支援する米欧や国連) (シリアで「北朝鮮方式」を試みるトランプ) (Russia: US plans new Syria strike with false flag attack) 白ヘルメットは、ISカイダ(特にアルカイダ=ヌスラ戦線)の別働隊であり、ISカイダを支援してきた米英の諜報機関や、英外務省・米国務省からの支援を受けてきた。そのため、諜報界の一部である米英マスコミは、白ヘルメットの動きに積極的に連携して、濡れ衣戦争の構図作りをやってきた。この動きは、米英の中で、とくに英国が分担する仕事になっていると分析されている。白ヘルメットを13年に創設したのは、英諜報機関の要員(元英陸軍)であるジェームス・ル・メズリエ(James Le Mesurier)だった。 (US senator claims Britain's MI6 is planning a fake chemical weapons attack on Syria) (Syria moves to retake control over Golan Heights from terrorists) (Who is James Le Mesurier?) シリア内戦では約72回、化学兵器を使った攻撃が行われたとの指摘があり、そのほとんどについて「シリア政府軍の仕業だ」とマスコミや英米当局が決めつけている。だが、白ヘルメットなど、ISカイダ・英米諜報傘下の地元組織による塩素ガスの散布など、濡れ衣の構図作りの作業の存在を勘案すると、シリア政府軍の仕業であると確定的に言い切れる化学兵器攻撃は、約72件の中に1件もない。シリア政府軍は、空軍力においてISカイダよりはるかに優勢で、通常兵器による空爆だけで十分戦える。国際非難される化学兵器を使う理由がない。シリア内戦における化学兵器の使用のかなりの部分(もしくはすべて)が、ISカイダとマスコミなど英米諜報界傘下の勢力が作った濡れ衣(ISカイダが化学兵器を撒いたか、もしくは全くのでっち上げ話)だった可能性がある。この件は、以前の記事「シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない?」で詳述した。 (シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない?) 白ヘルメットやマスコミがアサド政権に着せた濡れ衣の化学攻撃の話を、英米政府は全部鵜呑みにしてアサドを非難してきた。だが米政府はこれまで、オバマもトランプも、アサド政権を倒すための本格戦争に踏み切らず、アサド政権を非難したり経済制裁するだけだった。米政界内の好戦派(軍産複合体)は、米政府が濡れ衣に基づいてシリアで本格戦争を仕掛けることを望んだが、米軍がシリアで本格戦争を仕掛けるとイラク戦争と同様の占領の泥沼にはまってしまうので、大統領は本格戦争をやりたがらない。オバマは、13年夏にダマスカス郊外の東グータでアサド政権が化学兵器で市民を攻撃したという濡れ衣が作られ、米政界の好戦派がオバマに本格戦争しろと圧力をかけた時、米国自身でやらず、シリア内戦の問題解決をロシアに丸投げした。それ以来、シリアはロシアの覇権下に入る流れになっている。 (シリア空爆騒動:イラク侵攻の下手な繰り返し) (シリア空爆策の崩壊) トランプも最近まで、シリアへの軍事関与を減らす方向を希求していた。トランプは今春、シリアから軍事撤退したいと表明していた。だが最近、トランプ政権は、米軍がこの先もずっとシリアに駐留する方針に転換した宣言するとともに、シリア政府軍が化学兵器を使う可能性が高く、化学兵器が使われたら米軍が英仏軍を率いてシリア政府軍を攻撃すると表明し始めた。好戦派=軍産と戦ってきたはずのトランプが、方針転換して好戦派になったと指摘された。好戦派のボルトン補佐官が、トランプ政権の政策を勝手に書き換えているとも言われた。ボルトンは「シリア政府の化学兵器使用を容認しているロシアやイランもアサドと同罪だ」と、露イランをも敵視・非難している。 (Is Trump Going Neocon in Syria?) (US, France, and UK In Direct Talks Over Possible Syria Strikes) トランプと側近たちは、8月下旬から「シリア政府がイドリブで化学兵器を使いそうだ」と言い続けており、トランプ政権がそのような主張をした後になって、白ヘルメットがイドリブ郊外に新たな拠点を開設したとか、塩素ガスを持ち込んだとかいった話が出てきている。どうも、トランプ政権側の方から米英諜報界に「シリア政府軍(とその背後の露イラン)と戦争したいので、開戦事由として使える濡れ衣を作ってくれ」と依頼し、諜報界が白ヘルメットを動かした感じだ。その前の段階で、白ヘルメットは、シリア内戦の終結とともに英国やカナダに亡命する手はずが語られていた。トランプ政権がわざわざ諜報界に頼んで白ヘルメットを再登場させ、濡れ衣づくりを再演させている。 (White Helmets Look to Set Up Shop in Syria's Rebel North) (Syrian White Helmets: 800 Rescue volunteers evacuated to Jordan by Israel) ロシアは「シリア政府軍がイドリブで化学兵器を使ったというのは米英が作った濡れ衣」「シリア政府軍はISカイダを退治してイドリブを奪還する権利がある」と言っている。8月末には、ロシアの米国駐在の外交官が、米政府に対し、アルカイダがイドリブで化学兵器を使う準備をしている証拠を提出し、イドリブで化学兵器が使われるとしたら、犯人は、米政府が言っているようなシリア政府軍でなくアルカイダだと、正式な外交ルートで伝達した。ロシアがここまでやるのは珍しい。ロシアは15年からシリアに軍事駐留しているが、これまでは、米英がシリア政府に化学兵器使用の濡れ衣を次々とかけ続けることを、ある程度黙認してきた。だが今回は、もう黙認せず、濡れ衣作りを非難し、アサドのシリア政府を擁護する姿勢を強めている。 (In Rare Meeting, Russia Delivers Intel To US Officials Showing "Planned Chemical Provocation" In Syria) 近現代の戦争は「どちらが正義か」が重要だ(だから英米は、マスコミを使い、善悪を自分たちに有利なように歪曲してきた)。今のシリアでは、濡れ衣に基づいてシリア政府を軍事攻撃し、テロリストを支援する米英が「悪」で、米英の攻撃からシリア政府を守ろうとするロシアやイランが「正義」になる。米欧日など先進諸国では、マスコミが善悪を歪曲し続けているので、多くの人が米英=正義、露イラン=悪だと思い違いをしたままだ。だが、それ以外の新興諸国では、米英がシリアなど世界各地で濡れ衣を口実に侵攻して政権転覆してきた史実が正しく伝えられ始めている。ロシアやイランは、自分たちがシリアで正義の側にいるため強気になり、米英が脅してきても譲歩せず、一戦交えてもかまわないという態度になっている。 (Russia Sees US Building Up for Possible Syria Strike) 米露が本気で戦い続けると、全人類を巻き込む世界大戦になる。米英が、イドリブで、シリア政府軍が化学兵器(塩素ガス)を使って一般住民を殺傷したというでっち上げを白ヘルメットにやらせ、この濡れ衣を開戦事由として米軍が英仏軍を率いてシリア政府軍を攻撃すると、ロシア軍とイラン系民兵団(ヒズボラなど)がシリア軍の援護に入り、米英仏と露イランシリアとの本格戦争になりかねない。米軍はシリアに2千人しか駐屯しておらず、地上軍の戦闘になると、イランシリアの軍勢に対して苦戦する(ロシアのシリア駐留は空軍のみで、地上軍を出していない)。米軍が挽回のためイラン本土を攻撃する事態になると、とても危険だ。 (U.S. Will Respond "Swiftly" If Assad Uses Chemical Weapons: White House) この危険な事態に対し、米諜報界のOB(=重鎮)たちが「米軍はイドリブで露シリア側と戦争してはならない」「トランプは軍事力でなく、外交力を使い、シリア政府軍がイドリブの奪還戦を思いとどまるよう、露シリア側と交渉すべきだ」と主張する公開書簡を、トランプあてに出した。米諜報界は軍産複合体そのものであり、好戦的なはずの軍産がトランプに対し、戦争するな、外交をやれと求めている。 (Moscow Has Upped the Ante in Syria) (Intel Veterans Urge President Trump To Step Back From The Brink On Syria) 英仏は、今回の展開に対し、とりあえず米国に付き従っているが、明らかに濡れ衣の開戦事由をこれから作って露シリアと戦争しようとするトランプのやり方を嫌っているに違いない。トランプは昨年4月にも、白ヘルメットがイドリブでやった化学兵器使用をシリア政府軍の仕業だと言い募り、米軍が英米を引き連れて、シリアにこけおどしのミサイル攻撃を行なっている。この時イドリブで化学兵器を使ったのがシリア政府軍だという証拠は何もなく、英仏はトランプの戦争に付き従うことの危険をすでに感じている。トランプが今後、米国と露シリアの戦争に突入しようとするほど、英仏も、米諜報界のOBたちと同様、トランプに戦争をやめさせようとするだろう。 (ミサイル発射は軍産に見せるトランプの演技かも) 米国が濡れ衣の開戦事由で戦争し、あとで国際信用を大きく失った最大の先例は03年のイラク侵攻だ。軍産やネオコンは、世界各地の米国の敵国に対し、次々と濡れ衣の開戦事由を作ってきた。「シリア政府軍の化学兵器使用」はその濡れ衣策の一つで、シリア内戦の初期から何度も繰り返されてきた。軍産の内部には、どんどん濡れ衣を作る勢力(ネオコンら。隠れ多極主義)と、イラク侵攻の失敗を繰り返したくない(米国の覇権を守りたい)のでもう濡れ衣戦争をやりたくない勢力(エスタブリッシュメント)がいる。13年夏にシリアのグータで最初に化学兵器使用の濡れ衣が作られ、好戦的な米マスコミが「オバマはアサドを武力で倒せ」とけしかけた時、米諜報界のOBたちはオバマに「グータで化学兵器を使ったのはシリア軍でないかもしれない。慎重に動いた方が良い」と進言し、オバマは軍事行動をとらず、シリア内戦の解決をロシアに丸投げした。 (On the Brink With Russia in Syria Again, 5 Years Later) だが、トランプはオバマと正反対の方向を進んでいる。昨年は、シリア政府軍が化学兵器を使ったという濡れ衣を丸呑みしてシリアをミサイル攻撃し、今年は安保担当補佐官にネオコンのボルトンを就任させ、化学兵器使用を理由に露シリアと戦争しようとしている。以前から書いているように、これはトランプの意図的な戦略だ。 (軍産複合体と正攻法で戦うのをやめたトランプのシリア攻撃) (中東大戦争を演じるボルトン) (軍産の世界支配を壊すトランプ) トランプは、米覇権体制の世界を運営してきた軍産の主流派が「やめてくれ!」「和平の方がましだ!」と叫ぶような無茶で過激な好戦策を突っ走り、軍産を十分にビビらせておいて、戦争しない覇権放棄の方向に転換する。昨年から今年にかけて、先制攻撃の叫びから米朝首脳会談へと大転換した、北朝鮮に対するやり方が象徴的だ。シリアはすでに露イランの影響圏であり、米軍がシリアへの介入をやめた時点で、覇権放棄が完了する。 (米朝ダブル凍結を実現したトランプ) (北朝鮮を中韓露に任せるトランプ) 今もトランプと親しい戦略家スティーブ・バノン(トランプ陣営の別働隊)がやっていたニュースサイトのブライトバードは最近、シリア政府軍が化学兵器を使ったとさかんに報じている。軍産ネオコンを敵視してきたブライトバードが、軍産ネオコン的な「アサドの化学兵器使用」を喧伝し始めたのは、かなり怪しい。トランプが、軍産を潰すために軍産以上の過激な好戦策をやり、それにブライトバードも乗っている感じだ。 (Breitbart: U.N. Investigators Find More Evidence Assad Used Chlorine Gas on Civilians) シリアで今にも米露が世界大戦を起こしそうな今の事態は、軍産をビビらせ、覇権放棄に持っていくためのトランプの策略だ。シリアで米露が本格戦争することはない。軍産の主流派や英仏は、何とかしてシリア政府軍にイドリブ奪還戦を思いとどまらせようと外交的に奔走している。今にも行われそうなでっち上げの「シリア政府軍による化学兵器使用」も、行われずに終わるかもしれない。でっち上げが行われ、トランプが、昨春のようなシリア政府施設に対する、ロシアが無視できる範囲の、こけおどしなミサイル攻撃をするかもしれないが、これに英仏が参加するか疑問だ。 (Washington ramps up diplomatic efforts to stave off Idlib operation) イドリブのアルカイダは、周辺に住んでいる一般の住民(多くが国内避難民)に避難することを禁じ、一般住民を人質(人間の盾)にして、シリア政府軍と戦う姿勢を強めている。イドリブのアルカイダは、米英トルコ側から武器の供給を受けており、露シリア側がイドリブ奪還戦の本格化を延期するほど、アルカイダが軍事力を取り戻し、イドリブの奪還が難しくなる。そのため露シリア側は、米トルコ側から求められても、イドリブ奪還戦の遂行をやめることはない。トルコやEUがアサド政権との国交を回復するといった意外な大譲歩が行われない限り、10月末までに奪還戦が開始され、年内にイドリブがシリア政府の統治下に戻りそうだ。 (Syrian rebels preventing refugees from leaving Idlib as Russian forces prepare final offensive)
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