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米覇権延命と多極化の両極で戦う暗号通貨

2017年12月17日   田中 宇

 12月1日に配信した「ビットコインと金地金の戦い」は、ドルを擁する米金融界が、巨大なバブルと化している米国中心の債券金融システムを守るため、債券金融(米国債、ドル、株式)の究極のライバルである金地金の価値の上昇を防ぐ方法として、ビットコインを有力な投資先に見せるための新たなバブルをふくらませ、ビットコインが金地金に喧嘩を売る構造を作り「ドルが、ビットコインに地金潰しをやらせ始めた」という分析だった。 (ビットコインと金地金の戦い

 あの記事を配信した後、12月10日にビットコインの対ドル為替の先物市場を米国の2つの取引所が開始した。先物市場は、現物を持っていなくても証拠金を払って現物を借りたことにして売買し、現物市場の何倍もの相場の変動を作り出せるレバレッジの仕組みを持っている。先物市場は、使い方によって、現物市場での損失のリスクを予防(ヘッジ)することもできるし、逆に、現物市場の相場を歪曲する(上がるべき相場を下げたり、相場の上下をひどいものにしたりする)こともできる。たとえば、金地金の現物価格が上がらないのは、先物と現物の市場が一緒くたにされていて、金融界が先物を使って現物価格の上昇を止める歪曲作業を続けているからだ。 (US regulator gives green light for bitcoin futures trading) (Bitcoin's Growing Price Gap Between Exchanges Creates Potential Headaches For Futures Trading

 ビットコインの現物相場はこれまで、非常に大きく上下してきた。だから、先物市場が相場の乱高下がもっと大きくなリそうだという予測が、先物市場の開設前に出ていた。為替相場が安定しないことが、ビットコインが「通貨」として機能せず「コモディティ」でしかない状態に押しとどめてきた。先物市場の創設で乱高下に拍車がかかると、ビットコインは通貨からさらに遠のく。 (It's Official: Bitcoin Surpasses "Tulip Mania", Is Now The Biggest Bubble In World History

 だが、先物市場の開設から1週間、ふたをあけてみると、この間のビットコインの為替相場は、先物市場の開設直前の1週間に比べて、かなり安定した「ゆるやかな右肩上がり」になっている。まだ1週間しか経っていないので判断は時期尚早ともいえるが、この「ゆるやかな右肩上がり」の新状況を見て、私は「もしかして・・・」と思うところがあった。それは、米金融界がビットコインの従来の乱高下の状態を抑止し、ゆるやかな右肩上がりを演出していくために、ビットコインの先物市場を開設したのでないかという推測だ。

 米国に作られたビットコインの先物相場は、米金融界が、自分たちの利益になるために作ったと考えられるが、米金融界の利益とは、冒頭(=以前の記事)に書いたように、ドルの究極のライバルである金地金を、ビットコインとの戦い(流入資金の奪い合い)で消耗させて金相場上昇を抑止し、ドル(米国債や株式)をできるだけ長く延命することだ。これまでビットコインは相場が激しく乱高下するので資産の備蓄先として魅力が少なかったが、先物を使って米金融界がビットコインの相場を安定(ゆるやかな右肩上がり)にすれば、ビットコインを魅力的な投資先として喧伝でき、金地金に向かうべき投資金のかなりの部分をビットコインが横取りする事態を演出できる。金地金の価値の上昇は今後も抑止され、その分、ドル(債券や株)が長く延命する。 (Ron Paul ‘Surprised’ With His Followers Resounding Pick of Bitcoin Over Gold

 ビットコインは、対ドル為替がとても低かった創設期からの約千人の保有者が、発行済み総額の4割を保有している。彼らが一度に多額のコインを売ると為替が暴落するが、その点も、先物市場を創設したことにより、暴落の程度を抑えられる。 (The Bitcoin Whales: 1,000 People Who Own 40 Percent of the Market

 ビットコインの相場が安定すると、商品を買うための通貨としても、今より使いやすくなる。金融界が先物を使ってビットコインの相場を安定させる事態が続くと、ビットコインが使える店舗やネット通販店が増え、それがまた「ビットコインは通貨として使えるようになった」と喧伝できる事態になり「金地金はもう古臭い。これからはビットコインだ」と言って、金融界やその傘下の宣伝機関(マスコミ)が金地金潰しに精を出せる。ビットコインの先物市場の開設と同時に、日本でもビットコイン投資がやたらと宣伝され出した。マスコミに簡単に騙される国民性を持つ日本人が、どんどん騙されていきそうだ。 (Japanese company offers to pay its employees in bitcoin

 ビットコインは「中央銀行や国家に依存しない通貨」であるのが売り文句で、この点では金地金と同様、ドルのライバルだ。しかし、ドルのライバルが金地金だけである状況に比べ、金地金とビットコインが争う状態を作ることで、資金の逃避先が二股に裂かれ、ドルが漁夫の利を得られる。

 究極の金融危機の最終段階になると、金地金のうち、先物やETFは信用を失い、「金の取り付け騒ぎ」が起きて「地金の預り証」は、地金でなく紙幣としか交換できない「紙切れ」と化すが、その後の状況において、債券や不換紙幣は、物理的な金地金(原始的な価値)にかなわない存在になる。金地金の価値は、こうした究極の金融危機の事態において強いという、安全保障的な強さに立脚している。その点、ビットコインには、この手の有事的な強さがない。金融界が先物を使って現物の金相場を動かせる現状が続いている限り、金地金はドルにかなわないが、ドルの側がバブル崩壊を引き起こしていくと、上記の「金の取り付け騒ぎ」に事態が近づき、金融界の手に負えなくなる。 (金地金の売り切れが起きる?

 ビットコインは、物質的な価値が何もない。債券は担保物件の価値、株式には企業の価値が後ろ盾として存在しているが、ビットコインには、そうした後ろ盾すら何もない。「中央銀行や国家から完全に自立したシステム」という売り文句だけが、ビットコイン固有の価値だ。ビットコインは、金融界が債券発行によって作ったドルの巨額資金でコインを買って相場をつり上げており、その意味で「ドルのバブル」の一部だ。ドルのバブルが崩壊すると、ビットコインの価値も急落する。金融界にとって、金地金は究極的に御しがたい存在だが、ビットコインは簡単に潰せる。今春に急騰が始まって以来のビットコインは金融界にとって、ドルのライバルのふりをしたドルの傀儡だ(それ以前のビットコインは、ネットのプログラム好きの集団による楽しい実験だった)。ビットコインは金融界に乗っ取られた。 (Satoshi Secrets & Why Nearly 4 Million Bitcoins Are "Lost" Forever

 ビットコインの総額は上限の2100万BTCに近づいており、1BTC=2万ドルの現状で、ドル建て総額は約4千億ドルだ(前編に書いたが金地金は8兆ドル、債券金融は100兆ドルの総規模)。米金融界は、ビットコインの価値をここまで膨張させてから先物市場を開始した。これは多分意図的な策略だ。これより小さな総額だと、金融界の上層部の意図に反する逆張りをやって儲けようとする一部の投機筋が為替を乱高下できてしまう。金融界の多数派が先物を使ってゆるやかな相場上昇を演出し、それが妨害されにくい規模として4千億ドルがあるのでないか。 (ビットコインと金地金の戦い

 以上は私の仮説・推測だ。米金融界の策略の全体像は見えていない。ビットコインが来年、右肩上がりのゆるやかな上昇傾向を続けるなら、私の仮説が当たっていた可能性が高くなる。バブルが早く崩壊した方が、中長期的な社会(世界)の安定のためには良いのだが、今回の仮説が当たると、バブルが延命し、その逆になる。金相場は抑圧され続け、今年並みか、今年よりもさらにさえない展開が続く。逆に、ビットコインが依然として乱高下を続ける場合、今回の仮説は間違いになる。

▼米国による濡れ衣制裁を迂回するための暗号通貨

 このように、ビットコインは米金融界に乗っ取られて傀儡と化し、金地金と「共食い」を展開する役回りをさせられている。米国の金融バブル崩壊は、米単独覇権の終わりになる。ビットコインは、金融界による米国覇権の延命策の道具に使われている。ビットコインは、ブロックチェーンの技術を使った暗号通貨のひとつだ。ビットコインは、米国覇権の延命策の道具にされているが、ブロックチェーン技術自体は、中国やロシアなどによって、米国からの攻撃を迂回し、米国覇権に対抗して別の(多極型の)国際体制を作るための国際決済の道具としても使われ始めている。

 これまでの世界の国際決済のほとんどは米ドル建てだ。ドル建ての国際決済は、すべて米国のNY連銀を経由することになっている。米政府はNY連銀を経由する国際決済を監視し、米国に楯突く国々の間の国際決済を止めて経済制裁することができる。ドル建ての国際的な銀行間決済では、SWIFTという決済の連絡をするシステムが使われ、SWIFTは本部が欧州のベルギーだが米国の監視下にある。イランなど、米国に敵視された国々がSWIFTから追放される経済制裁を受けており、ロシアも何度か追放されかけている(西欧諸国の反対で追放を免れている)。 (Proposed Russia Sanctions: EU warns US of swift retaliation

 ドル建て決済のシステムは、米国が「敵の諸国」を経済制裁する道具として使われている。米国が「ほんとうに悪い国々」「国際法違反が明確な国々」だけを経済制裁するのなら良いが、この20年ほど、米国による敵視・制裁の大半が濡れ衣に基づいている。米国の恣意的な「敵視」が先にあり、敵視した国に国際法違反の濡れ衣をかけてドル建て決済を制限・禁止する経済制裁をしている。 (米国自身を危うくする経済制裁策

 イランは核の平和利用しかしていないのに、核兵器開発の濡れ衣をかけられて米国に制裁された。ベネズエラは政府が社会主義を標榜したという理由で米国から制裁されている。米国はウクライナの政権を転覆してウクライナがロシアを敵視するように仕向、ロシアが安保上の正当防衛としてクリミアを併合すると、それを理由に制裁した。これも、濡れ衣的な汚いやり方だ。米国は、中国と東南アジアの問題である南シナ海紛争に、関係国でないのに介入し、恣意的に東南アジアの側に立って中国を非難している。北朝鮮の核武装ですら、米国が北を脅して核武装せざるを得ない状態に追い込んだ結果だ。(日本人は対米従属のプロパガンダに洗脳され、国際政治的な善悪の価値観を歪曲されている) (米欧がロシア敵視をやめない理由

 これらの恣意的・歪曲的な敵視戦略の上に、ドル決済を使った米国の経済制裁がある。親米的な国でも、選挙で非米・反米的な指導者が選ばれたら、いつ米国から制裁されるかわからない。日本のように、米国からにらまれないよう卑屈にお追従し続けるのが一つの対応策だが、そのようなみじめで馬鹿げた姿勢をとりたくない国々は、最近、ドルやSWIFTを使わない国際決済のシステムを構築し始めている。その際に安価で導入しやすい有力な技術が、暗号化のプログラムを組み合わせた電子的な台帳システムであるブロックチェーンを使った決済システムだ。 (ロシアは孤立していない

 SWIFTなど既存の決済通知システムは、独自の通信網や端末を持たねばならず、しかも資金のやり取りを銀行に依存している。世界的な決済システムを構築するのに膨大な時間と資金がかかる。ブロックチェーンを使った暗号通貨なら、既存のインターネットを使うことが可能で、銀行に依存せずに実際の資金のやり取りまでできる。受け取った資金をそのままブロックチェーンのウォレットに入れておけば備蓄通貨(無利子の預金)になる。既存の銀行機能の多くは不要になる。通貨がドルでないので、米国に制裁されることもない。 (Russia May Turn To Oil-Backed Cryptocurrency To Challenge Sanctions & The Petrodollar

 ロシアと中国は、それぞれが自国通貨建てのブロックチェーンの決済システムを試験段階で開始しており、それらの暗号通貨を相互に使うことで、両国間の貿易決済を、暗号通貨化したルーブルと人民元によって行うことを計画している。人民元とルーブルを暗号通貨化して中露間の貿易決済で使うのは、既存のドル建て決済を回避するため相互通貨建てにして、それを暗号通貨化するだけだが、中露とインド、ブラジル、南アフリカからなるBRICSの5か国は、それをさらに一歩進めて、5か国の通貨を加重平均するなどして5か国間の貿易で使うための新通貨を作り、それをブロックチェーンによって暗号通貨化し、貿易決済をその通貨建てで行うことを検討している。これは、BRICSにとってのIMF世銀である「新開発銀行」が考案している。 (BRICS countries considering own cryptocurrency as settlement mechanism) (ドル崩壊とBRIC

 習近平の中国は、これから30年かけて、これまで経済開発が遅れていたユーラシア大陸の内陸部などの地域と中国を結ぶ経済インフラの整備や工業化を進める「一帯一路」の計画を開始しているが、一帯一路の各事業の国際的な資金決済を行うシステムとして、新たなブロックチェーンの決済システムを香港で立ち上げようとしている。一帯一路の計画の中で、香港は、欧米や日本などの諸外国から一帯一路に投資してくる資金を集約する金融センターに定められている。その香港を拠点に、一帯一路に絡んだ国際資金決済を、おそらく人民元建ての暗号通貨によって行おうとするものだと考えられる。 (Hong Kong Official Touts Blockchain for China's 'Belt and Road' Plan) (世界資本家とコラボする習近平の中国

▼石油の決済通貨をドルから離脱させ米覇権を終わらせる暗号通貨化

 米国が覇権絡みで濡れ衣をかけて経済制裁する国々の中には産油国が多い。70年代の石油危機に象徴されるように、産油諸国は、自国の石油を武器に、米国や先進諸国に立ち向かおうとする。それに対して米国は、産油国に各種の濡れ衣をかけて経済制裁して潰し、傀儡国にしようとする。米国がドル決済の禁止によって産油国を経済制裁するには、世界的な石油決済の通貨がドル建て一辺倒になっていることが必要だ。 (Putin’s revenge may see petro-yuan replace petrodollar

 石油決済のドル建て一辺倒を維持する策略として「ペトロダラー」がある。これは、米国とサウジアラビアの談合体制だ。70年代の石油危機からのアラブ産油国と米国の対立を解消した80年代の「手打ち」として、世界最大級の産油国であり、圧倒的に世界最大の生産余力があるため国際石油相場を動かせる産油国の盟主サウジが、石油を必ずドル建てで売り、そのドル収入で米国債を買って米国の財政赤字増大を下支えし、長期金利の上昇を防いだ。米国はその見返りに、サウジを安全保障面で全面的に守ってやり、サウジがアラブとイスラム世界の主導役であり続けられるようにした。 (A Currency War Will Escalate as China’s ‘Petro-Yuan’ Is Set to Challenge the U.S. Military-Backed ‘Petro-Dollar’

 ペトロダラー戦略によって、ドル以外にユーロや円が国際通貨として出てきても、石油決済は必ずドル建てで行われ、米国が非協力的な産油諸国をドル決済システムからしめ出すことでいつでも経済制裁できる状況が維持された。08年のリーマン危機後、米国の長期金利を安定させる機能は、中央銀行が造幣して債券を買い支えるQEによって行われるようになり、ペトロダラーの機能は重要でなくなっているが、依然として世界の石油決済の99%以上がドル建てだ。 (バブルを支えてきたジャンク債の不安定化

 だが米国の覇権運営、制裁手法は、01年の911以降、どんどん恣意的で身勝手になり、国際社会が米国に愛想を尽かす傾向になって覇権(国際影響力)が低下しているのに、トランプ政権になって身勝手さに拍車がかかっている。ロシア、イラン、ベネズエラといった米国から敵視される産油諸国と、世界最大の石油輸入国で、これまた米国から敵視されている中国は、石油の決済をドル建てでないものに転換することで、米国の勝手な、国際法違反の制裁行為を無効化しようとしている。米国による制裁の方が国際法違反なのだから、制裁を迂回する戦略の方が合法で「良いこと」になる。 (De-Dollarization Continues: China, Iran To Eliminate Greenback From Bilateral Trade

 石油決済の非ドル化の計画にも、ブロックチェーンと暗号通貨が、安価で導入しやすい有力な機能として使われ始めている。すでに書いたロシアのほか、ベネズエラも、ブロックチェーンによる自国通貨建ての暗号通貨を最近創設した。ロシアは、それらを連動し、ドルを使わない暗号通貨による石油決済のシステムを作ろうとしている。 (Oil Producers Turning To Crypto To Solve Sanctions Problems

 中国は、まもなく(年内?)人民元建ての石油先物市場を上海で起動する。イランやベネズエラ、ロシア、サウジなどが、人民元建てで石油を売ることに同意しており、人民元建てで売買される石油の価格変動による損失を埋めるヘッジのために、上海の先物市場が使われる。人民元建ての取引は、まだ世界の石油総取引の0・4%未満しかないが、すでに述べたBRICSの暗号型の統合通貨(人民元主導)などと、新設される元建ての石油先物が組み合わさると、今後、人民元建ての石油取引が増えると予測される。トランプに引っ掛けられて失敗させられているサウジ皇太子がいずれ覚醒して米国から離反すると、石油決済の非ドル化が加速する。これは長期的に、ドルの基軸通貨としての機能をおびやかすものになる。 (All Chinese Oil Traders Want for Christmas Is a Futures Contract) (China preparing to trade oil in yuan, no more US dollar) (サウジアラビアの自滅

 新設される上海の石油市場の興味深い点は、人民元だけでなく、金地金建てでも取引ができることだ。人民元は、国際通貨としての地位がまだ低いため、中国政府は、人民元と金地金を連動させ、地金の力を借りて、人民元の国際性を押し上げようとしている。暗号通貨のうち、先駆的で反政府的なビットコインは今年、金地金を潰したい米金融界に乗っ取られ「金地金の敵」として振る舞い始めている。対照的に、暗号通貨の中でも中国やロシアが作り始めている非米諸国の国家絡みのものは、金地金を味方として取り込み、金地金と共闘しようとしている。中国やロシアの中央銀行はリーマン危機後、ドル崩壊後の事態に備えて金地金を買い貯めている。これは国際政治の戦いだ。 (It's Political: Why China Hates Bitcoin and Loves the Blockchain) (金本位制の基軸通貨をめざす中国

 中国経済は金融のバブルがひどいと米国や日本のマスコミで喧伝されているが、これは中国政府がバブルを早期に潰すことを優先し、バブルが早めに表面化していることの表れだ。中国のバブルは過大に喧伝される傾向だ。対照的に、米国や日本では、中央銀行や先導してバブルを膨張させており、金融がひどいバブルになっていることを、当局やマスコミができるだけ隠そうとしている。日米のバブルは過少に評価されている。長期的に見ると、バブルを早めに潰している中国の方が経済の健全性を喪失せず、バブル膨張を煽って延命している米国や日本の方が、最終的にひどいバブル崩壊に見まわれ、ドルの基軸性や米国覇権の喪失に至る。 (China’s banking system risks facing crisis: IMF) (金融を破綻させ世界システムを入れ替える

 いずれ起きるドルのバブル崩壊、米国の覇権喪失を考えると、ビットコインと、中露の国家通貨という、2種類の暗号通貨のうち、最終的に生き残るのは中露の方であり、ビットコインはドルと一緒に(もしくはドルの先駆として)バブル崩壊するだろう。 (ユーラシアは独露中の主導になる?

 こうした先行きとの絡みで、もう一つ興味深いのは、戦後ドルを守るための国際機関(ブレトンウッズ機関)として作られたIMF(国際通貨基金)が、08年のリーマン危機後、ドル崩壊後の国際通貨体制を見据えて支援する国際機関に目立たないように変身し、人民元の国際化や、多極型の主要通貨バスケットSDR(特別引き出し権)の実用化、そして今やSDRや人民元の暗号通貨化の構想を支援していることだ。IMFを率いるラガルド専務理事は今年9月、講演の中で、暗号通貨化したSDRが、いずれドルに代わる国際基軸通貨になるかもしれないと示唆している。今はまだ、各地の政府や国際機関がブロックチェーンを使った暗号通貨化の構想を乱立させているが、今後ドルのバブル崩壊の危険性が顕在化するにつれ、それらが統合されて一つの現実になっていくだろう。 (中央銀行とトランプのバブル延命、その後出てくる仮想通貨) (中国を世界経済の主導役に擁立したIMF

 これは、米単独覇権から、多極型の覇権構造への転換と同期している。いつものことだが、そこに至るまであとどのくらいの時間がかかるのか、予測はまだできない。とりあえず来年にかけて、多極化とは逆方向の、米覇権の延命がまず進み、ビットコインのバブルがさらに膨張し、株や債券も上昇を維持する半面、金地金はさえない展開が続きそうだという感じがする。覇権構造の転換には、まだ時間がかかる。



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