習近平の覇権戦略2014年7月10日 田中 宇
この記事は「米国自身を危うくする経済制裁策」(田中宇プラス)の続きです。 7月15日にブラジルで開かれるBRICS(中露印伯南ア)のサミットで、各国で100億ドルずつ出し合って、IMFのライバル機関となる「BRICS開発銀行」を今年中に設立することが決まりそうだ。この銀行は、BRICS加盟諸国が資金を均等割りで備蓄し、加盟国が金融危機に見舞われた場合、備蓄金を使って経済破綻を防ぐIMF的な機能や、共同備蓄の資金の一部を各国のインフラ事業に投資する世界銀行的な機能を持つ。 中国は、各国が均等割りで出す資金の総額をもっと増やすべきだと主張したが、他の諸国は余裕がないので断り、結局各国100億ドルずつになったとされる。最終的には金額を倍増し、総額1000億ドルの基金をめざす。この規模はIMFの6割にあたる。BRICS開発銀行は当初、BRICSだけを対象とした国際機関として発足し、いずれ他の発展途上諸国や新興市場諸国の加盟も認める構想だ。BRICSだけでも世界のGDP総額の4割を占めるが、他の途上諸国の加盟を許すと、明確に米国主導のIMF・世銀のライバルとなる。 IMFはこれまで、1998年のアジア通貨危機への対応に象徴されるように、米英の投機筋が国債や為替の先物市場を使って金融崩壊させた新興諸国に対してIMFが救済に入り、救済の見返りに、さらに経済を疲弊させる厳しい緊縮財政や、国民のために国営企業や国有資産を民営化して米欧企業が買収できるようにすることを求め、新興諸国の成長や安定を阻害する「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれる「弱い者いじめ」を行ってきた。IMFは新興諸国の間で恐れられ、嫌われてきたが、実際に金融危機に直面するとIMFしか頼る先がない場合が多かった。 (南米のアメリカ離れ) BRICS開発銀行は、こうした従来の世界体制を終わりにする可能性を持っている。BRICSは、自分ら自身が以前の発展途上諸国として、米英から支配や嫌がらせを受けてきた。投機筋の動きなどによって経済危機に陥った途上諸国が、厳しい条件を出すIMFと、条件が甘いBRICS開発銀行のどちらかに頼れるとしたら、IMFでなくBRICSに救済してもらうだろう。 「そんなことをしたら、野放図な経済運営をして経済破綻した国が、何の改善も求められずに救済され、野放図が改まらない」と、既存のIMF体制の支持者たちは言う。しかしIMFのやり方は、破綻した国に「改善」を求めるふりをしつつ民営化を要求し、米欧企業が買収で儲ける「新植民地主義」のやり方だ。日本は、米国に次ぐIMFの出資国だが、米英に従属する国是なので、IMFの新植民地主義に対して見て見ぬふりをしてきた。 BRICSは途上諸国に対して慈善事業をやろうとしているかといえば、そうでもない。IMFでなくBRICSに頼って救済してもらった途上諸国は、その後、BRICS諸国の国営企業との経済関係を強化するだろう。「北風と太陽」の寓話の構図で、無理に民営化を迫るより、表向き何も条件をつけずに金を貸す方が、長期的に得になる。 BRICSの中で最も世界に進出しているのは中国企業だ。中国企業は、各地の途上諸国で、日用品の売り込みやインフラ事業の経営、石油ガス・鉱物資源の開発、武器販売などを急拡大している。インドやブラジル、ロシアの企業も中国に負けじと拡大しているが、今のところ中国勢が最も拡大している。BRICSがIMFに取って代わる動きは、中国にとって最も大きな利益をもたらす。 中国はすでにアフリカ大陸で「北風と太陽」の手法を採り、それまでアフリカを支配してきた米欧勢を押しのけて成功している。米日のマスコミでは、中国がアフリカでいかに嫌われているかを強調する記事を好んで出す。たしかに嫌われている面もあるが、米欧も中国に劣らず嫌われている(日本は条件をつけないので好かれるが、米国が了承した範囲でしか動かない)。アフリカにとっては中国が来たことで、経済発展に協力してもらう先として米欧だけが選択肢だった時代に比べて選択肢が増え、得になっている。最近、20年以上続いたソマリアの内戦が終わり、内閣や議会が21年ぶりに復活した、中国はソマリアで大使館を23年ぶりに再開すると決めた。英国はすでに昨年から大使館を再開しているが、米国や日本はまだだ。 (China to re-open embassy in Somalia closed in 1991) BRICSを通じた中国の多極型覇権戦略は、国際政治上で負うべき責任を5カ国で分散する一方で、経済利益は5カ国で最大のものを得る構図になっている。BRICSの中で、米英との喧嘩はロシアのプーチンが積極的にやってくれる。インド、ブラジル、南アは米国との関係が良いので、中露が反米的でもBRICS自体は米国から敵視されない。米国覇権の後に来るであろう多極型覇権体制は、中国にとっておいしい体制だ。 BRICS開発銀行の本拠地は、中国の上海になりそうだと報じられている。IMFの本拠地は、覇権国である米国の首都ワシントンDCにある。中国政府は「覇権を求めません」と宣言しているが、実のところ隠然と覇権国になりつつある(隠然とした国際支配こそが本来の意味の覇権だ)。BRICS開発銀行に取って代わられたくないIMFのラガルド専務理事(フランス人)は先月「IMFの本拠地は最大出資国にあるものだから、いずれ中国が最大出資国なったら、本拠地がワシントンから北京に移るかも」と発言した。 (Beijing-Based IMF? Lagarde Ponders China Gaining on U.S. Economy) BRICS開発銀行の設立は、IMFと対立することを掲げていない。BRICSが大国化したので、米欧日にIMFの投票権の一部をBRICSに渡すよう求め、了承されたのに米議会が批准せず実施を無期延期しているので、しかたなくBRICS開発銀行を作ったことになっている。米国が悪いので仕方なく中国などが覇権を拡大しているかたちになっている。米政府はBRICS開発銀行の設立を歓迎する表明をしている。 中国の覇権戦略は、米国の覇権体制より、その前の英国の覇権体制に似ている。第二次大戦後の世界は、米国の単独覇権体制だった(米国は当初、国連安保理常任理事国に象徴される多極型の覇権を希求したが、英国に冷戦を誘発され潰され、単独覇権体制になった)。それ以前の第一次大戦までの世界は、英国がフランスやドイツなど列強を誘って世界を分割して植民地支配し、英国が他の列強より少しだけ秀でる、多極型を採り入れた隠然覇権体制だった。 BRICSは、新設の開発銀行の機能の一部として、各国の中央銀行どうしが自国通貨を交換(スワップ)する制度を確立し、それで貿易代金の決済ができるようにする。これは、既存の世界的なドルの貿易決済体制に取って代わるものだ。世界のGDPの4割を占めるBRICS5カ国の相互貿易が、ドル建てから5カ国の通貨建てに転換していく流れが加速しそうだ。この決済制度に他の途上諸国も加わっていくと、ドルの基軸通貨体制に対する世界の依存度が低下する。各国が貿易で儲けた資金がドル建てで、米国債を買って運用せざるを得なかった従来の状況が終わり、米国債の売れ行きが悪化し、米国の金利上昇のおそれが増加する。 (The BRICs Are Morphing Into An Anti- dollar Alliance) リーマン倒産の直後、基軸通貨としてのドルの終わりが米欧の政界やマスコミで語られ、IMFの準備金制度の単位であるSDR(世界の主要諸通貨を加重平均したもの)がドルに代わる基軸通貨として取り沙汰された。米国がIMFの決定権を手放さなかったため、その後SDRは基軸通貨として実用化されていないが、今回のBRICSの多国間スワップ制度は、SDRよりも現実的な、すでにいくつかの2国間で開始されている、ドルに代わる決済(基軸通貨)体制として注目すべきものだ。 BRICSのスワップ体制には事実上、ユーロも参加している。EUの3大国であるドイツ、フランス、英国は、いずれも最近、中国と協議して、人民元とユーロやポンドを交換する決済所を創設した。前回の記事に書いたように、フランスは米国がBNPパリバ銀行に対する嫌がらせの巨額罰金を科したので、報復として貿易のドル決済を減らしてユーロ決済を増やすと表明している。ドイツも、先日のスパイ事件で米国への信頼を失い、ドイツ政府内にまだいそうな米国のスパイを探す策を強めている。NATOの同盟関係(相互信用)は崩壊しつつある。 (米国自身を危うくする経済制裁策) (Germany to escalate counter-espionage efforts in wake of US spying allegations) 中国の覇権戦略は、トップ(主席、大統領)が胡錦涛から習近平に代わった後、加速している。1989年の天安門事件から胡錦涛までの中国は「米国に反抗するとひどい目に遭うので、しばらくは国際的な力を拡大せず、米国に嫌がらせされても頭を低くして耐えろ」というトウ小平の国家訓を守っていたが、習近平が主席になるとともに、中国はしずかにトウ小平の国家訓を卒業した観がある。米国は、経済的にも政治的にも力が衰えている。今年5月、ウクライナ危機で米国から敵視されたロシアのプーチン大統領が訪中し、米国の覇権体制を塗り替える必要性を習近平に説いた後、中国はBRICSを米国覇権に代わる多極型覇権の主導役にする策を加速している。 (◆米国覇権の衰退を早める中露敵視) 米国経済は表向き、株価が史上最高値を更新し続け、国債相場も高く、好調に見える。しかし米経済の好調さの大部分は、当局が発表する指標の粉飾と、連銀が大量発行する資金が株価や国債相場を押し上げて金融バブルを膨張させる効果によるものだ。発表されている米国の失業率は6・1%だが、低賃金のパートの求人が多く、求人の少なさに失望して求職活動をやめてから1年未満の人を含めた失業率は、公式統計(U6)で12%台だ。求職活動をやめてから1年以上経つ人を含めた失業率の公式統計はないが、23・1%と概算されている。しかも米当局は、公式統計の季節調整値の算出方法を毎月変更して失業率を低く見せている。加えて、雇用統計を産出する基礎となる出生死亡モデルを操作し、雇用が全く増えなくても6万2千人の雇用増になるように調整している。これらの粉飾をのぞいた実体的な米国の失業率は30%前後だろう。 (Paul Craig Roberts: "The US Economy's Phantom Jobs Gains Are A Fraud") 失業率の粉飾に代表される歪曲が、ずっと奏功するとは思えない。いずれバブルの再崩壊し、ドルや米国債の基軸性が失われる。「米国より先に中国が経済崩壊するから、日本が対米従属を続けても大丈夫」と言う人がいるが、それは戦時中の「神風が吹いて日本が勝つ」に似た、楽観的すぎる見通しだ。私が見るところ、今後5年以内に、米国のバブルが再崩壊する可能性は6割、日本経済が今より悪くなる可能性が7割なのに対し、中国経済が今より悪くなる可能性は、多く見積もって3割だ。中国の不動産バブルの再崩壊はあるだろうが、中国の不動産はこれまで何度も崩壊しており、次回も中国経済全体から見ると大した影響を与えないだろう。 (減速する中国経済) (中国経済はクラッシュするのか) 中国は、IMF世銀やブレトンウッズ体制(ドル覇権)に取って代わるBRICS開発銀行の創設を進めているだけでなく、世界銀行のアジア地域版ともいうべきアジア開発銀行(ADB)に取って代われる「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)を設立する計画を進めている。資金量はADBの1650億ドルに対し、AIIBが1000億ドルとなる。 (China plans investment bank to break World Bank dominance) ADBは歴代日本人が総裁であると同時に日本の対米従属の姿勢が、米国15・7%、日本15・6%という出資比率(決定権比率)に現れている。中国には5・5%の出資比率しか与えられておらず、これに不満な中国が、自前の国際開発銀行を創設した。ベトナム戦争が本格化した後の1966年に日米主導で創設されたADBは、同年に米国傘下の東南アジアの反共同盟体として創設されたASEANと並ぶ機関で、もともと反共・反中国的な色彩がある。AIIBには日本や米国も参加を招待されているが、運営が稚拙だという批判が日米から出ており、日米の参加は未定だ。 (China expands plans for World Bank rival) 日米主導で中国包囲網的なADBに対して、AIIBは逆に、中国が「西域」「シルクロード」として歴史的な影響圏とみなす、中央アジアや西アジア諸国のインフラ整備に援助して傘下に入れるために創設する、中国の地域覇権拡大のための国際機関だ。中国は、中央アジアやイラン、パキスタン、アフガニスタン方面への「陸のシルクロード」だけでなく、ミャンマーやバングラディシュ、スリランカ、モルジブなどインド洋に面した諸国を経済支援して傘下に入れる「海のシルクロード」の構想も進めており、これもAIIBの投資対象になる。 (Beijing making a counterplay to Washington's Asia-Pacific pivot) (China makes waves with maritime 'Silk Road') 中国が「シルクロードを貿易路として再開発する」とさかんに言い出したのは、習近平が今年3月に欧州を歴訪してからだ。中国と欧州の貿易を、シルクロード経由の鉄道や航路でつなごうとEU側を誘った。これはEUに、中国が中央アジアや西アジアを傘下に入れて開発することを認めさせようとする動きだ。同時に、ウクライナ危機で険悪になったEUとロシアの関係を中国が取り持ち、BRICSの仲間であるロシアを助ける意味もある。 (China pivot fuels Eurasian century) (China's Silk-Road lessons for India) 5月にロシアのプーチンが中国を訪問した際には、アジア諸国で対米従属的でない地域安全保障の枠組みを作ることをめざす「CICA(アジア相互協力信頼醸成会議)」が上海で開かれた。政治組織であるCICAは、経済組織である中国主導のAIIBと表裏一体をなし、中国のアジア地域覇権戦略の両輪となっている。 (◆プーチンに押しかけられて多極化に動く中国) 7月3日には、習近平が主席になってから韓国を初めて訪問した。それまで中国の歴代主席は、就任すると韓国より先に北朝鮮を訪問するのが慣例だったが、習近平はまだ北を訪問していない。公式的に、北朝鮮は中国の同盟国だが、韓国は冷戦時代の敵方だ。しかし北朝鮮は、金正恩政権になってから中国の言うことを聞かなくなった。北朝鮮は、自国に圧力をかけて言うことを聞かそうとする国に猛反発する。以前は、米国が北に圧力をかけており、中国はなだめ役だったが、近年は米国がそっぽを向いて北を敵視するばかりで、中国が北に圧力をかける役割を担っている。だから、北は近年、中国に反発するようになった。それに対する制裁・意地悪の一つとして、習近平が北より先に韓国を訪問した。北は反抗的な姿勢を見せようと、習近平の訪韓の4日前に短距離ミサイルを試射した。 (Xi's Seoul visit leaves Pyongyang in the cold) 習近平は訪韓時、韓国との貿易における人民元と韓国ウォンの決済を増やし、中韓貿易におけるドル決済の比率を下げることを韓国政府と合意した。これはBRICS開発銀行の設立と同じ流れだ。また習近平は、中国と韓国が北朝鮮に核開発をやめさせるための協調を強めることも合意した。韓国は従来、米国と協力して北に圧力をかけてきたが、この10数年間の米国の対北戦略は好戦的で、朝鮮半島の緊張緩和につながらなかった。中国は、北に対してもっと微妙な圧力のかけ方をしており、この点で韓国が中国との連携を強めると、米韓の軍事関係に齟齬が生じかねない。中国は、いずれ自国の影響圏に戻そうと考えている朝鮮半島から在韓米軍を撤退させるのが長期的な目標であり、その意味で、中国が対北戦略で韓国を引っぱり込もうとするのは、韓国を対米従属から引き剥がそうとする策略だ。 (Chinese President's Visit to South Korea Is Seen as Way to Weaken U.S. Alliances) 習近平は、日本の「戦争責任」問題を批判する動きにおいて韓国との連携を強めることも模索した。しかし韓国は、米韓同盟と日米同盟を通じて日本と間接的な同盟関係にあるので、中国と組んで日本を批判することに消極的だった。 韓国は、中国との協調を強めつつも、対米従属の国策を変えたくない。米国は以前から、韓国における有事の軍事的な指揮権を在韓米軍から韓国軍に移譲しようとしているが、韓国は移譲の時期を何度も延期しており、軍事的な自立をいやがっている。しかし長期的に考えると、いずれ金融バブルが崩壊して米国の財政難が強まり、在韓米軍は撤退していく。韓国はそれまでの間、親中国と親米の間を右往左往するだろう。これは地政学上、自然な動きだ。 日本では、この韓国の右往左往について、馬鹿にする論調で報じられる傾向が強い。もし日本が中国の覇権拡大に対抗したいなら、韓国と協調する姿勢を強め、韓国を日本の側につかせようと画策するのが得策だ。しかし日本は逆方向で、韓国を馬鹿にしたり嫌悪する姿勢を続け、国際戦略上の愚策をやっている。日本と韓国がうまく組めば、中国の覇権拡大を抑止できるのに、今の日本はそうした可能性を自ら潰している。 日本政府は、習近平が訪韓して中韓で北朝鮮に圧力をかけようと持ちかけるのと同時期に、それまで北朝鮮と敵対する目的で続けてきた拉致問題を終わりにする動きをしている。北が何人かの拉致被害者を日本に帰国させ、日本政府が拉致問題の「解決」を表明することは、安倍政権に対する支持を増やし、次の総選挙における自民党の勝利につながるかもしれない。だが、国内の人気取り政策を超えた国際政治的な挙動として見ると、中韓が協力して北に圧力をかけて核兵器開発をやめさせようとする努力を、日本が邪魔していることになる。 もともと拉致問題は、かつて北朝鮮問題を解決する主導役だった米国が、北が核廃棄したら日朝、南北、米朝が和解し、朝鮮戦争を正式に終わらせて在韓、在日米軍が撤退できる環境を作ろうとしたので、それをやられると対米従属できなくなる日本が、北との敵対を維持するために独自に設けた「外交防波堤」だった。日本が今回と同じ条件で拉致被害者を帰国させることは、以前にも可能だったが、外交防波堤の機能があったので、日本政府は拉致問題を解決せず据え置いた。北朝鮮問題を解決する主役が米国から中国に移りつつあるので、外交防波堤として拉致問題を据えておく必要が低下し、せっかく終わるのなら拉致問題を終わりにすることを安倍政権の人気取り政策に使おうというのが今回の策だ。 (拉致問題終結の意味) 全体として日本は、中国の台頭に対する対抗策をやっていない。尖閣問題も、島と海域を守る以外のものでない。そもそも日本が尖閣を国有化して対立を激化したのは、日本が中国と敵対を持続し、日米が組んで中国と対決する構図を永続化させて日本が対米従属を続けられるようにするためだった。 以前は、日本が台湾(中華民国)と協調関係を強めて日台で中国に対抗する策が採り得たが、今では台湾が中国と政治的にどんどん親密になっている。先日は、初めて中国の閣僚が台湾を訪問した。台湾では、ある程度の反対運動があったものの、経済的に市場・投資先・製造現場として、中国とのつながりが台湾にとって不可欠になっているで、台中の親密化は止められない。尖閣問題でも、日台が敵対関係で台中が仲間だ。もはや台湾には、日本が政治的に割り込む隙間がない。 (Protesters Disrupt China Envoy's Taiwan Trip) 中国に対抗してアフリカ諸国との関係を強化する策も、日本政府のかけ声を超える実体が少ない。首相の靖国参拝など、戦争犯罪問題を蒸し返したことは、中韓が国連で「日本を安保理常任理事国にするなどもってのほかだ」と騒ぎ立てられる状況を作ってしまい、日本の常任理事国入りの道も閉ざされている。日本政府の昨今の動きからは、自国の国際影響力を拡大することを軽視(無視)し、対米従属の維持のみを重視していることがうかがえる。
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