他の記事を読む

減速する中国経済

2013年7月26日   田中 宇

 中国経済の成長が減速しそうだという予測があちこちから出ている。中国は昨年7・8%成長し、今年は最低でも7・5%の成長をすると中国政府が予測している。しかし、米欧金融界が出している最も悲観的な予測は、今年の成長率が6%、もしくはそれ以下(ことによっては3−4%)になるというものだ。中国当局は、1−3月の経済成長を1・7%(年率7・5%)と発表した。だが、これはデフレを十分に勘案しておらず、実際の成長率はマイナス0・2%だったという指摘も米欧から出ている。 (China risks deflation trap as true GDP crumbles) (Fuzzy numbers? Real China growth only half: Expert

 中国市場で販売をしている外国企業は、売り上げ不振が目立っている。中国に積極進出している18社の米国企業のうち12社が予測より少ない売り上げしか出せず、外食産業の中には中国での利益が15%減ったところもある。携帯電話のアップルは昨年、中国での売り上げが前年比43%増だったが、今年は14%増に減速した。円安傾向なのに、日本から中国への輸出も、今年5月に前年同月比8・3%増だったものが、6月は4・8%増に減速した。いずれも、4−6月期の中国の経済成長が、1-3月期より急速に鈍化したことを示している。 (China, U.S. companies' great hope, now a drag) (As China industry slows, effects felt worldwide

 中国経済が減速している理由は複数ある。一つは、欧州など世界経済が不振で、中国経済の牽引役だった輸出が伸び悩んでいること。もうひとつは、中国政府が08年のリーマンショック以来、景気を下支えするために続けてきたインフラ整備への巨額の投資を終息させたためだ。中国政府は、リーマン危機後の5年間で、10年かけてやるべきインフラ整備をやった。投資が続いている間は景気が良かったが、各所で投資の過剰と重複が目立つようになり、投資策をやめざるを得なくなった。 (Stalled Project Shows Why China's Economy Is Wobbling

 中国政府は、今年7・5%の成長率を達成できると発表し続け、目標を達成するため、小規模な景気対策(ミニ刺激策)をやると言っている。中国政府は、リーマン危機以降の投資の大盤振る舞いをやめて、設備の過剰を解消する必要があるので、今から大規模な景気対策をやるわけにいかない。そのため景気対策は、輸出手続きの簡素化や、中小企業に対する売上税の免除など、新たな投資バブルの拡大を伴わないミニ刺激策しかやれず、効果に疑問がある。 (China unveils measures to boost economy

 中国政府が恐れているのは、経済成長率が減速すること自体でなく、経済の減速によって雇用が減り、失業者が増えて中国共産党に対する中国人の不満が強くなることだ。中国政府は「7%以上の経済成長が必須だ」と言っているが、成長がそれ以下になっても、共産党への不満が増えて社会が不安定にならなければ、中国政府にとってあまり悪影響がない。中国政府が過剰投資を再開して無理に7%成長を維持して後でもっとひどい投資バブル崩壊に直面するより、7%以下の成長に甘んじた方が健全だという見方が、米欧にもある。 (China Sees 7% as Bottom-Line Growth Tolerable in Slowdown) (Is China about to launch a new round of stimulus?

 中国政府は、2011年まで「経済成長が8%以上ないと社会不安が起きる」と言っていたが、その後この下限は7%に下がった。中国の貧富格差はひどいが、全体的に人々はしだいに豊かになり、中産階級(年収170万−350万ドルの層)が急増している。中国に必要な成長率の下限は6%に向かっている。 (China's middle class emerges, to spend more) (China takes foot delicately off growth turbocharger

 米欧には「中国経済はハードランディング(崩壊的に減速)する」と予測する分析がいるが、その定義は「経済成長が6%以下になること」だ。6%以下になったら、自動的に「ハードランディング」とか「崩壊(クラッシュ)」と呼ばれるのだろうが、そうなっても中国社会があまり不安定にならなければ「崩壊」は具体的なものにならない。米欧では「中国経済が停止した」と報じられているが、実際は4−7%の経済成長を維持しており「停止」でない。 (What if China lands hard? SocGen outlines the scenario

 中国の経済成長が低下する可能性が高いが、中国政府はそれほど困っているように見えない。中国政府は先日、全国の役所の建物について、今後5年間、新設や増築することを禁じる政策を発表した。これまでの5年間のインフラ整備の大盤振る舞いの中で、各地の地方政府がお手盛りで宮殿のような立派な役所の建物を建設しまくり、民衆の反感をかっている。だから役所建設の5年凍結策となったわけだが、もし中国経済の大幅減速の回避がどうしても必要なら、役所の増築ぐらいは認め、減速をいくらかでも食い止めるだろう。それをしないということは、中国政府にまだ余裕が感じられる。 (China bans construction of government buildings for five years

 中国政府は、経済成長の減速を容認しようとしているようにも感じられる。中国は、輸出主導型の経済から、内需主導型の経済に転換していこうとしている。輸出主導型経済は人件費の低さによって支えられてきたが、中国人の生活を向上させるには所得の増加が必須で、人件費の上昇を容認せざるを得ず、輸出主導型経済から離れる必要がある。そして、内需主導型への転換によって、経済成長がこれまでの10%以上から、5−6%程度へと鈍化するのは必須と考えられている。 (The long game: Why a China slowdown isn't scary

 この5年間の投資によるテコ入れ策は、金融面でも限界にきている。08年のリーマン危機後、中国政府は国営4大銀行を通じて、全国の地方政府や国有企業に巨額の投資金を入れ、その資金がインフラ整備に使われて、世界不況を穴埋めする経済テコ入れ策となったが、この投資金が投機に回って不動産などのバブル拡大につながった。そのため中国政府は、09年から4大銀行への融資を引き締めた。だが、銀行は政府からの資金がなくなった分を埋めるため、子会社を作り、投資家をつのって債券を発行し、集めた資金を地方政府や国有企業に貸し続けた。この代替金融システムは肥大化し、米国の債券金融システムのためにつけられた「影の銀行システム」の名称を借りて命名され、昨年から問題視され出した。 (Shadow Banking Threatens China's Economy - but What Is It, Exactly?

 米連銀の量的緩和策(QE3)が縮小に向かうことになり、中国など新興市場諸国から資金が流出するとともに、中国経済が減速に向かう中、中国版影の銀行システムで不良債権化の急増が懸念され出した。中国人民銀行(中央銀行)は6月中旬、影の銀行システムを救済する融資をしない姿勢を打ち出した。 (China's about face with banks eases fears of crisis

 そのとたん、金融界は相互に貸し借りしたがらなくなり、銀行間金利が急騰した。この事態は「いよいよ中国金融が崩壊だ」と国際的に喧伝されたが、中国当局が得意とする荒治療だったようで、数日後、人民銀行が破綻しそうな金融機関は救済すると宣言した後、金利が大きく下がり、通常に戻った。この荒治療の後、中国当局は、為替自由化の前に必要な金利自由化の一環として、銀行の貸出金利を自由化する措置を発表した。 (China signals will cut off credit to rebalance economy

 影の金融システムが中国経済を破綻させるという説もあるが、中国当局が金利自由化の前に影の金融システムを揺るがす荒治療をやったのを見ると、それほどの危機でないようにも感じられる。中国の影の金融システムは、日本でいうと「ノンバンク」だ。その規模は2兆ドルといわれ、規模が20兆−70兆ドルといわれる米国の影の金融システムよりずっと小さい。米国はこの20年間、金融の拡大が経済成長の原動力であり、金融危機が不況に直結するが、中国の成長は製造業など実体経済の拡大が主導で、金融危機が不況に直結しない。 (中国経済はクラッシュするのか

 日本の90年代のバブル崩壊(ノンバンクの連続破綻)のように、中国の影の銀行システムが崩壊して「失われた20年」になるという予測も出ているが、日本の90年代は高度成長が終わった後で、しかも政治的に対米従属を維持するために日本当局が経済低迷を放置した観もある。対照的に、中国はまだ内陸部が貧しく、米国に対抗する意志もある。中国のバブルが崩壊しても、日本のバブル崩壊より被害が少ないと考えられる。 (Fitch says China credit bubble unprecedented in modern world history

 リーマン危機後、先進諸国の経済が低迷する中で、中国経済は世界経済の牽引役となっている。中国の経済成長が大きく減速すると、世界経済の成長が半減するなど、大きな影響が出る。中国は、石炭と鉄鉱石に関して世界の総需要の約半分を、銅など金属類に関して3−4割を消費している。中国経済の大幅な減速は、世界からの原材料やエネルギーの輸入を急減させ、商品相場が下落し、オーストラリアやカナダなど資源輸出国の経済が打撃を受ける。米欧日の製造業大手の多くは利益が減る。経済成長を国民に約束している安倍政権も、中国が減速すると約束の達成が難しくなる。日本は政治面で対米従属策の一環として中国を敵視する一方で、経済面で中国に頼っている。

 米国政府は、中国包囲網(アジア重視)の姿勢をとっているが、その一方で中国との経済面の戦略対話を重視している。米国は、政府(大統領)より金融界や経済界が上位にある国だ。中国に対する敵視と儲けと、どちらが米国の中国戦略の本質かといえば、儲けの方だろう。米国の中国敵視策の本質は、中国敵視そのものでなく、日本や東南アジアなどアジアの同盟国から利権をとることだろうというのが私の分析だ。中国は世界最大の米国債保有勢力で、米国政府は中国のおかげで世界支配を続けられる。中国経済が減速したら、中国自身よりも、米国や日本など、世界各国の方が困ってしまう状態だ。 (中国包囲網の虚実

 経済成長を輸出に依存している限り、中国政府は人民元の為替を低くする政策をとり、米国から非難されても人民元の対ドル為替をゆっくりしか上げない。だが今後、経済が内需主導型に転換していくにつれ、むしろ中国は、輸入価格を重視して人民元の為替切り上げを容認するようになりそうだ。中国政府は近年、金地金を買い貯めていると指摘され、これまでの実質的な人民元の対ドルペッグ(為替固定)をやめて、金地金に裏付けられた通貨体制に移行するのでないかとも分析されている。今後、米連銀がQE3(ドル大増刷による債券買い支え)をやめていくにつれ、ドルや米金融界は危険な状態になる。ドルと米国債から離れていくのは、中国の防衛策になっている。 (Is China Preparing To Back The Yuan With Gold?) (China Is Quietly Becoming Gold Superpower



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ