ずっと世界恐慌、いずれドル安、インフレ、金高騰、金融破綻2020年7月1日 田中 宇国際金相場が1オンス1800ドルを越えて上昇傾向にある。金相場は昨秋、米連銀(FRB)がQE(造幣による債券などの買い支え)の再開を余儀なくされて以来、上昇傾向にあった。金地金はドル(不換紙幣の基軸通貨)の究極のライバルであり、米連銀やドルが弱体化するほど金相場が上がる。今年3月にコロナ危機の都市閉鎖による大恐慌が始まり、連銀がQEで大恐慌のすべての損失を穴埋めすることを決めてQEを急拡大した直後、QEの資金で巨額の金先物が売られ、金相場はいったん暴落した。1オンス1700ドルだった金相場は、3月中旬の10日間で1450ドルまで暴落したが、その後の20日間で1750ドルまで大反騰した。米連銀は、V字型に金相場を暴落させることで、昨秋以来のドルの弱体化に乗じて金先物を買っていた投資家たちを大損させていったん潰した。QE主導の暴落で安値感が出た金の現物と先物に買いが入り、V字型に反騰した。 (Gold prices top $1,800 an ounce to score highest finish since 2011) (Citibank Joins Mainstream Gold Bulls Forecasting Record Prices) その後、コロナ危機とそれにともなう世界恐慌が長期化する可能性が高まり、QEですべてを買い支える米連銀の策はいずれ破綻するという予測から地金の上昇が続き、1800ドルにまでなった。しかし、今後もずっと金相場が上がり続けるかどうか、考え方は分かれる。それは、米連銀など中銀群のQEが、永久に続けられる政策なのかどうかについての見解の分裂である。古典的な考え方は「不換紙幣は造幣しすぎると信用を失い、インフレと長期金利の上昇を引き起こして破綻する」というものだ。 (中央銀行群はいつまでもつか) (無制限の最期のQEに入った中央銀行群) これに対してMMTなどの新しい考え方は「世界の主要通貨はすべて不換紙幣であり、ドルもユーロも円も中銀群がQEを続けている。金利は世界的にゼロで、いくら国債を発行しても政府は利払いしなくて良い。不換紙幣が過剰発行で信用を失墜しても、代わりに買われる通貨がない。だから信用失墜が具現化しない。金地金は先物と現物の市場が合体しており、QEで作った巨額資金で金先物を売れば現物の金価格も暴落するので、ドルの信用が下がっても先物売りで金相場の上昇を防ぐことで、ドルから地金への資金流出を防げる。ドルは永遠に基軸通貨であり、QEは無限に拡大できる」というものだ。3月中旬以降の米連銀のQE急拡大は、こうしたMMT的な考えに基づき、無限の造幣でコロナ大恐慌と金融システムのすべてを穴埋めしている。このシナリオに基づくなら、今は上昇している金相場が、近いうちにQE資金による巨額の金先物売りによって再びV字型の暴落を経験することになる。 (すべてのツケはQEに) (MMT: Not Modern, Not Monetary, Not a Theory) MMTやQEを永続できるという考え方の前提にあるのは「ドルに代わる基軸通貨は今後もずっと出現しない」という予測だ。私が最近、考えるようになった、さらに新しい考え方は「トランプの米国が、既存の米国覇権体制をないがしろにしているので、中国やサウジアラビアなどからEUまでの諸国が、米ドルでない貿易決済体制を望むようになり、相互の各国通貨での決済や、IMFのSDR利用、人民元やユーロの国際化などが進み、国際決済の非ドル化が進むほどドルの基軸性が低下して世界的にドルが使われなくなり、いずれドルが他の主要通貨に対して安くなり、ドル建ての物価がインフレを起こし、米国債の金利が上昇し、QEは破綻し、金地金も高騰する」というものだ。私が考えたこの新たな理論は、MMT=現代通貨論に対抗して「多極化通貨論」とでも呼ぶべきものだ。最近の記事に書いたように、中国は日韓との貿易決済を米ドルでなく、日中韓の通貨を加重平均した新しい仮想通貨を貿易決済に使うことを検討し始めている。 (ドル崩壊への準備を強める中国) (Here’s Is Why The Entire Stock Market Will Crash! This Is The Worst Economy In My Lifetime) 1990年代以来、米国が開発した債券市場の急拡大によってドル建ての金融システムが250兆ドル以上の規模になり、80兆ドルの規模である世界の実体経済より何倍も大きくなった。急成長する金融システムがほとんどドル建てなので、儲けたい世界の人々はドルの金融資産を持つのが有利で、それがドルの覇権・基軸性を支えてきた。世界各国は製造業製品や石油ガスなどを米国に売ってドルを得て、それを米国に投資して金融でも稼いできた。米国の消費力と金融利益率がドル覇権のカギだった。こうした体制は、今回のコロナ大恐慌ですでに終わっている。米国は消費力が低下し、トランプのデカップリング・経済鎖国政策と相まって、米国は世界から輸出しない傾向を強めている。金融の表向きの利益率は、QEで株や債券を買い支えているため高利回りだが、QEによる買い支えが露骨なので、世界中が米国金融を不健全だと思う傾向が強まっている。トランプは中国を敵視・経済制裁し、EUやサウジアラビアなど同盟国にも意地悪を強め、世界的に米国離れと多極化が進んでいる。多極化通貨論のシナリオになる素地が増している。 (US companies tumble into bankruptcy at fastest pace since 2013 under coronavirus stress) (The Fed Is Now A Top 5 Holder Of The Biggest Corporate Bond ETFs) コロナ危機はまだまだ続く。世界的に、PCR検査数を増やすことで感染者を増やして「第2波が来た!!」と大騒ぎする策略が盛り上がっている。米国などでは、第2波を理由にした再度の都市閉鎖に入りつつあり、最初の閉鎖ではつぶれなかった企業や家計が、2度目の閉鎖ではたくわえを使い果たしているのでつぶれていく。「第2波」の再閉鎖があまり行われなくても、倒産や家計の破綻はこれからひどくなる。米国の鉄道輸送量や大型トラックの受注数が減り続けている。 (The Media is Lying About the ‘Second Wave’) (Rail Traffic Still Down) (Was the COVID-19 Test Meant to Detect a Virus?) 米国では、コロナ危機発生以来の失業者の増加は4千万人と発表されているが、連邦政府の所得税収の減少幅(33%)からは、その3倍の失業者がいる計算だと指摘されている。米国民の3分の1が、今月の家賃を払えそうもないと思っている。食料支援所(フードバンク)の行列(車列)が再び長くなっている。全米各地の断続的な暴動の長期化で商品の流通がとどこおり、食料品価格がインフレになっている。米国の消費は回復しない。コロナ危機前から予測されていたことだが、米国では2025年にかけて多数の公的年金基金の支払不能が発生する。メディケアや社会保障も2030年までに資金が底をつく。コロナ危機で失業が増え、年金や社会保障が最も必要とされている時に、米国でそれらの制度が破綻していく。暴動や内戦に拍車がかかる。 (Stagflation Is Paradise For Gold And Silver) (Federal Tax Receipts Show A Record Plunge In May, Raising More Doubts About Employment Data Accuracy) コロナ危機は純粋に医学的なものでなく、国際政治的に演出されたものであり、いま喧伝されている危機の無限性から考えて、コロナ危機は数年間かそれ以上続く。米連銀は、感染がおさまるまで経済も回復しないと言っており、大恐慌がこれから何年も続く。どんどん会社がつぶれ、貧困層が世界的に増えていく。IMFがそのように言っている。世界的な食糧難も予測されている。 (Fed Chair Powell Says "Full Recovery Unlikely Until People Feel Safe") (コロナ大恐慌を長引かせる意味) (Act now to avert COVID-19 global food emergency: Guterres) コロナ危機の世界恐慌はこれからずっと続く。日本や韓国、中国、東南アジアなどは、国内が安定しており、対米輸出を地域内での消費に切り替えつつ、悪化の幅が比較的少ない状態で推移していきそうだ。北朝鮮は激昂した演技をしているが政治的な理由からであり、実際に東アジアを不安定化する戦争にはならない。米中や中印の敵対も演技であり、戦争はない。中東やアフリカなどはもともと不安定で貧しいので、コロナ危機での追加のマイナスは少ない。世界の不安定を維持する覇権戦略だった米国が覇権放棄し、代わりに安定化して儲けたい中国やロシアなどが途上諸国に覇権行使するので、途上諸国はむしろこれから安定していく。欧州は不調続きだが、今後の悪化は米国ほどでない。消去法で考えると、長期化するコロナ危機で最も落ち込みが激しいのは、これまで世界一だった米国である。その他の世界各国は、経済的に米国に頼らずに安定や成長を取り戻そうと動いていく。世界経済は米国から離れてデカップリングしていき、多極型に転換していく。 (コロナ、米中対立、陸上イージス中止の関係) (2.2 Million Restaurants Worldwide Teeter on Brink of Collapse) コロナの世界恐慌はずっと続き、その悪影響を最大限に受けるのは米国だ。世界経済は米国から離れていく。ドルは基軸通貨の座から落ちていき、ドル安になり、インフレがひどくなり、長期金利が上昇し、米政府は国債利払いが困難になる。米国では社会保障制度も破綻し、暴動や内戦で社会の不安定が増す。ドルに代わる多極型の基軸通貨の世界体制はまだ確立していないので、ドルを見放した資金の行き先として金地金が重要になる。金相場は今後、米連銀QEの謀略によるV字型の一時的な暴落がしばらく繰り返されるかもしれない。だがQE資金が金相場暴落と、株・債券高騰の謀略を露骨にやるほど、米連銀とドルに対する信用が落ちていく。多極化とのバランスで、今後いずれの時点でドル崩壊や米国の金融破綻が急進展する。 (No, The U.S. Economy Will Definitely Not Be Returning To “Normal”. In Fact, Things Will Soon Get Even Worse.) (ウイルス危機が世界経済をリセットする) 金相場が高騰し、ドルが崩壊していくと、どこかの時点で、米国など世界各国の政府が、金地金の取引や保有を国民に禁じるのでないかという懸念がある。QEが行き詰まり、先物売りによる金相場の上昇抑止が不可能になったら、米連銀などドルの側に残されている金地金の封じ込め策は、法的な金保有の禁止しかない。それが行われるのか??。私が見るところ、その可能性は低い。米国憲法では、金地金のみを通貨と定めている。ニクソンショック以降のドルは、憲法違反の通貨である。米政府が国民に金保有を禁止するには、合衆国憲法の改定が必要だ。米国の各州の中には金地金を通貨と認めているところがいくつかあり、これらの州は金保有の禁止を合法だと主張し続ける。連邦政府が金保有の禁止を強行すると、米連邦の崩壊や内戦、合衆国解体の傾向に拍車がかかる。 (LAND OF THE “FREE”: STASHING GOLD MAY BE ILLEGAL SOON) (US GOLD CONFISCATION WOULD BE FOLLY) (Why Gold, and Why Now) 米政府が国民に金保有を禁じたとしても、世界の他の諸国が同調しなければ、米国から他の諸国に金地金が流出して話が終わる。米国の最大のライバルになった中国は、人民元と金地金の金本位制っぽい連動を以前から意識している。中共は人民に金保有を奨励している。中国がその傾向だと、日本を含む東アジア・東南アジア諸国も、国民に金保有を認め続ける。米国で金保有が禁じられても、日本で禁じられることはない。欧州諸国も金地金を重視しているので米国に追随しない。世界が追随しないのに米国だけ民間の金保有を禁じても悪影響ばかりになるので、米国自身も金保有を禁止しない。 (金本位制の基軸通貨をめざす中国) (A collapsing dollar and China’s monetary strategy)
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