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ドル覇権を壊すトランプの経済制裁と貿易戦争

2018年8月18日   田中 宇

トランプの米国から経済制裁を受け、エルドアンのトルコが経済破綻しそうになっている。米国とトルコの外交関係は、米国人のブランソン牧師の釈放要求をトルコ政府が拒否していることや、イラン制裁への参加をトルコが拒否したこと、トルコがNATO加盟国のくせにロシアから新型迎撃ミサイルを買ったことなどを理由(口実)に、7月下旬から劇的に悪化した。03年のイラク侵攻以来、トルコ国民の間では反米感情が強い。米国がトルコ側を怒らせると、エルドアン大統領のトルコ政府は、米国に譲歩して対立を緩和するのが難しくなり、むしろ国民の反米感情を煽ってエルドアンの人気を高めることで乗り切らざるを得なくなる。それがわかっていたので米国(軍産)は従来、トルコとの対立をこじらせないようにしてきた。米国の安保戦略にとってトルコは重要なNATO加盟国だ。 (Turkey Ready for War, Says Erdogan, US Involved in Financial Warfare against Turkey) (Donald Trump has thrown the Turkish lira under the bus

だがトランプの米国は今回、ブランソン牧師の釈放問題でトルコとの交渉を破談にした。そしてそれを理由に、米国はトルコの閣僚2人の資産を凍結する制裁を決定し、トルコも米国の閣僚2人の資産を凍結して報復した。8月9日には、トルコから米国に輸入される鉄鋼とアルミニウムに対する関税を懲罰的に倍増させることを決めた(鉄鋼50%、アルミ20%に)。この間、米金融界がトランプに同調してトルコからの資金流出を扇動し、トルコリラの対ドル為替を暴落させた。14年のピーク時には1ドル=2・5リラだったのが今や7リラ前後だ。ドル建てで資金を借りているトルコの債務者たちは返済不能になっている。インフレや金利も高騰し、人々の生活苦が一気にひどくなった。 (The Turkish Emerging Market Timebomb) (16 Billion Reasons Why Turkey's Currency Crisis Will Become A Debt Crisis

「トルコの経済危機は、新興市場の典型的なバブル崩壊であり、悪いのはエルドアンを筆頭に、安直なドル建て資金調達で儲けてきたトルコ人自身だ。米国のせいではない」という「解説」が、軍産系のプロパガンダとしてマスコミに出回っている。エルドアン配下のトルコ金融界や建設業界が、低利のドル建てで巨額資金を調達し、イスタンブールなどで建設ブームを引き起こして、政治資金の中抜きと、トルコ経済の成長を引き出してきたのは事実だ。だが、米国などからのドル建て資金のおかげでエルドアン政権がトルコ経済の成長を維持し、親米姿勢を続けることが、軍産の世界支配にとって大事なことだったのも事実だ。 (How much to worry about Turkey’s turmoil) (Turkey’s currency and debt crisis has been years in the making

米金融界は最近、トルコだけでなく中国やロシア、インド、東南アジア諸国など、世界中の新興市場から資金を引き上げる流れを作り出している。トルコリラだけでなく、人民元やルーブル、ルピーなどの対ドル為替も大幅に下がっている。これは、新興市場の資金を米国に引き戻すことで、米国の株価や債券相場の下落を防ぐための延命策であるが、その流れの中でトルコリラも暴落し、エルドアンと米国の互恵関係を破壊した。トランプは、それに便乗してトルコに高関税などの経済制裁を発動し、米国とトルコの関係を不可逆的に破壊した。 (ドル延命のため世界経済を潰す米国) (Can Turkey Rewrite the Crisis-Management Rules?

トルコからの資金流出や為替の下落、金利の上昇が続くと、それらを緩和するためのトルコ政府の資金が底をつき、財政破綻やデフォルト(債務不履行)の危機に直面する。それを防ぐ方法は従来、IMFから資金を借り、米欧金融筋がトルコを金融的に破壊しようとするのをIMFに止めてもらうことだった。IMFは支援の見返りに、トルコに対し、緊縮財政政策の発動を求める。トルコ政府がIMFの命令に従って緊縮財政をやり出すことは、エルドアンが米欧の借金取り戦略の餌食になって敗北したことを意味し、トルコ国内でのエルドアンの人気が急落し、政権交代に追いやられる。 (Turkey’s closer ties to China ‘will be economic’ as Nato and EU retain share of loyalty

IMFは以前(リーマン危機前)、この方法で、インドネシアのスハルトや、中南米諸国のいくつもの政権を潰してきた。米金融筋とIMFが組んで新興市場諸国の政権を潰すのが、IMFがリーマン危機まで続けてきた「ワシントン・コンセンサス」の覇権策だった(リーマン後、IMFは中国が率いる新興の多極型諸大国にすり寄っている)。ドイツのメルケル首相は最近、エルドアンに金融的な助けを求められた際に「IMFに頼むのが良い」とアドバイスしたそうだが、これは、エルドアンに「死んじまえ」と言ったのと同じだ。IMFに頼むことは、エルドアンにとって政治的な破滅を意味する。 (Turkey Rules Out Capital Controls As Germany Says IMF Bailout "Would Be Helpful") (アメリカによる世界経済支配の終焉

以前なら、破滅になるとわかっていても、IMFや米欧しか頼るところがなかった。だが、今はもう違う。エルドアンは、中国(を筆頭とする多極型の新興諸大国)に支援を求めることができる。中国やロシアにとって現在、トルコは、地政学的に非常に重要な国だ。そのため、多極型諸大国の中で「金づる」の役を果たしている中国は、かなりの額の負担をしても、トルコを経済破綻から救うための資金を出すと考えられる。すでに、中国の大手銀行はトルコに対して人民元建ての融資を拡大している。 (China will buy Turkey on the cheap

今の世界は、米国覇権がしだいに退潮し、中露BRICSなど諸大国による多極型の覇権構造に転換していく多極化の流れの中にある。そのなかで今回、エルドアンのトルコは、米国との同盟関係を切り、多極型の覇権構造の中で自国を発展させていく新戦略へと転換することを宣言している。トルコは、BRICSと上海協力機構への加盟を申請しているほか、ASEANやアフリカ連合などとの協力関係の強化を模索している。トランプはトルコを、多極化の方向に押しやっている。米国では、トランプ以前から、共和党の好戦派でイラク戦争を引き起こした政策立案集団の「ネオコン」(隠れ多極主義者)が、エルドアンをことさら敵視し、トルコを米覇権下から多極型勢力の一員へと押し出そうとしてきた(ネオコンは同様の動きとして、中東最大の親米国であるサウジアラビアもことさら敵視してきた)。 (US Sanctions Foster Emergence of Multipolar World) (US Senate Bans Sale of F-35s to Turkey: Dealing with an Unreliable Partner

トルコは、欧州とアジアをつなぐシルクロード上にあり、中国が進めている「一帯一路」(新シルクロード戦略)の中にある。中国の一帯一路は、ロシア主導の「ユーラシア経済同盟」とつながっていて、これらは中露の同盟的なユーラシアの地域覇権戦略となっている。トルコが米国と疎遠になり、中国やロシアとの関係を強化することは、トルコが欧米経済圏の一部として発展していく戦略をやめて、中露の同盟に入って経済発展していく新戦略に移ったことを意味している。これは、中露にとって大歓迎だ。 (After Russia, Turkey now expands military cooperation with China

トルコは、このまま進むと、いずれNATOから脱退する。その前に、NATOに残留しつつNATOを内側から破壊しようとするかもしれない。NATOは、米国がロシアの脅威を口実に欧州などを傘下に入れて単独覇権を維持するために必要な組織だ。トランプがドイツやカナダと喧嘩してNATOの結束を意図的に壊している中で、トルコが抜けると、NATOはその後の結束を立て直すことができず、解体していく可能性がある。これまた、中露にとって大歓迎だ。トルコは、トランプから中露への巨大な贈り物と化している。 (The US-Turkey Crisis: The NATO Alliance Forged in 1949 Is Today Largely Irrelevant) (トランプ政権の本質

トルコは、シリアとロシアの間に位置している。シリア内戦では後半になってトルコが、負け組になりそうな米国を見限って、勝ち組のロシアに急接近した。しかし、もともとISアルカイダを支援し、アサドとクルドを敵視してきたトルコは、ISカイダを敵視して親アサドなロシアと齟齬が残っていた。今回、トルコがトランプに意地悪されて経済破綻に瀕し、ロシアの盟友である中国に頼らざるを得なくなったことで、トルコは以前よりも中露の言うことを聞かざるを得なくなり、シリアの国家再建の後見役であるロシアにとって有利な展開になっている。ロシアは最近、アサドの政府軍がイドリブを攻略・陥落するのを止め切れないと言ってトルコに圧力をかけ、投降したISカイダの集積地であるイドリブを監督してきたトルコに、イドリブでテロ組織の取り締まりを強化させようとしている。 (Turkey hopes to find solution on Syria's Idlib with Russia) (欧米からロシアに寝返るトルコ

今後、米国がイラン制裁を強めるだろうが、その際にも、トルコが米側から中露側に転じたことが大きな意味を持つ。イランとトルコは隣国だ。米国に制裁されているイランは、同じく米国に制裁(報復課税)されている中国とロシアから支援されている。今回、米国から制裁され始めたトルコがそこに入ることにより、米国の制裁を無視してイランを助ける勢力が拡大し、EUやインドなども含め、イラン制裁に従わない国々が、ドル以外の通貨による貿易決済を拡大するなど、世界経済の「非米化」を推進する。トルコの転向により、釜山からアテネまで、非米的な中国経済圏のネットワークが立ち上がりつつある。 (ロシア・トルコ・イラン同盟の形成) (中国の一帯一路と中東

中国からの分離独立をめざすウイグル人は、トルコ系民族(トルキスタン人)で、トルコは以前、ウイグルの独立運動を支援していた。カザフスタンやトルクメニスタン、アゼルバイジャンも、多数派がトルコ系民族だ。中国にとっては、トルコが自国の傘下に入ることで、新疆ウイグルへの弾圧がしやすくなり、中央アジアへの影響力を増加できる。 (近現代の終わりとトルコの転換) (中東を反米親露に引っ張るトルコ

おりしも、これらのトルコ系諸国とロシアとイランに囲まれた、カスピ海の領土・領海紛争を解決する70年ぶりの新たな「法的地位協定」が先日、カスピ海沿岸の5か国で締結されている。海底油田の帰属など、曖昧なままの点も多いこの協定の最大の意味は、米国(NATO)がカスピ海の周辺地域に介入できないようにしたことである。カスピ海はかつてペルシャ帝国のもので、19世紀にロシア帝国が南下してきて影響圏が衝突していた。この10年ほど、米国に制裁されるイランをロシアが助ける傾向になり、ロシアとペルシャの和解の産物として、今回のカスピ海協定になった。「ユーラシアを制する者が世界を制す」という「地政学」の要諦を思い出すと、これらの新たな動きが、全人類にとって大きな意味を持つことがわかる。(地政学は英国が考案した詐欺だが) (Escobar: All hands on deck: the Caspian sails towards Eurasia integration) (Deciphering The New Caspian Agreement

▼新興市場が貿易・投資の非ドル化を進めると、新興市場の危機がドルの危機に変わる

中露にとってトルコを引き入れることの重要さを説明しようとして、地政学的なことを延々と書いてしまったが、トルコの転向で最も重要なのは「ドル」をめぐる話だ。最近、トルコだけでなく、新興市場の多くの通貨が、ドルに対して大幅に為替を下げている。すでに書いたように、これは米金融界が、QEの限界露呈で自分たちの延命策が手詰まりになってきたので、ドルや米国の株や債券を延命させるため、新興市場から米国への資金還流を誘発した結果だ。トルコの動きは、トランプの地政学的な多極化策が便乗してきたため、特に目立っている。 (軍産の世界支配を壊すトランプ

トランプの米国は、ブランソン牧師を釈放しないトルコをもっと制裁すると言っている。トルコは、米国と交渉しようとしたが、米国は「無条件の釈放」を強硬に主張し、意図的に交渉を破綻させている。米国のトルコ制裁は今後さらに厳しくなる。ブランソンはキリスト教原理主義の牧師だ。米国民の4分の1が、原理主義の教会に通うキリスト教徒だ。彼らは従来、奔放な性癖のトランプを嫌う傾向だったが、ブランソン牧師の問題でトランプが強硬姿勢を取り始めたため、11月の中間選挙を前に、キリスト教原理主義の有権者のトランプ支持が一気に増えている。トランプのトルコとの喧嘩は、トルコを中露の側に押しやり、NATOを崩壊に導き、ドルを潜在的に弱体化する多極化策であるだけでなく、トランプの再選策にもなっている。トランプは狡猾だ。 (Turkey ready to release pastor but US offering nothing) (Donald Trump uses dispute with Turkey to rally evangelicals

トランプは、イランへの経済制裁も今後さらに強める。米政府は、米国の制裁を無視してイランから原油を買い続けている中国などを制裁すると言い出している。米国は、貿易戦争とイラン絡みの制裁の2本立てで、経済面での中国敵視を拡大する。トランプはまた、英国での濡れ衣的なスクリパリ事件を口実に、ロシアへの経済制裁も拡大した。トランプは、トルコ、イラン、中国、ロシアへの制裁をどんどん強めている。これに連動して、新興市場全体から米国への資金逃避が今後も続く。新興市場の諸通貨が下がり、ドルが高止まりする状態が続く。 (China: Turkey can overcome 'temporary' economic crisis) (英国の超お粗末な神経ガス攻撃ロシア犯人説

米国の金融システムは、リーマン危機前と似たバブルの膨張状態になっている。自社株買いが株のバブルを扇動している。債務の担保の掛け目が下がり続け、債券の質が悪化していると、天下のWSJが指摘している。金融システムの最大の延命策だった中央銀行群のQEは終わりかけている。今秋、リーマン危機をしのぐ金融崩壊が起きても不思議でない。だが、米国の金融崩壊を防ぐための動きとして、トルコなど新興市場の経済危機を米国が引き起こし、新興市場から米国への資金逃避が起きている。 (Leveraged Loans Not as Safe as They Once Were

資金逃避が続いている間は、米国(やそれに連動している先進諸国)の株や債券は上昇傾向で、10年もの米国債の金利も3%を越えにくい。たぶん今秋は大きな金融危機にならない。人民元など、新興市場の諸通貨は、まだ下がる。今年から人民元にペッグしている金地金のドル建て相場も、まだ下落の方向が続く。米国の株や債券の上昇傾向は、米国の中間選挙でトランプの共和党を有利にする。 (Why China’s Yuan Fall Hasn’t Stopped Stocks—Yet) (金相場の引き下げ役を代行する中国

経済界に支持されている共和党内には、トランプと中国の貿易戦争を歓迎しない勢力が強い。トランプは11月上旬の中間選挙までは、党内に配慮し、中国と貿易交渉を続けるふりをする。だが中間選挙で共和党が優勢を維持すると、その後、トランプは中国との貿易戦争を再び激化する。トランプはおそらく、新興市場諸国の側が有効な反撃をとれるようになるまで、新興市場に対する貿易戦争や経済制裁を続ける。その間、新興市場から米国への資金逃避が続き、米国の金融が延命する。この傾向が長く続くほど、トランプ再選の可能性が高まる。 (U.S. Policy Stirs Foreign Markets

米国と新興市場との経済戦争は、序盤である今のところ、新興市場の側は資金不足(ドル不足)にあえぎ、苦戦している。だが、この戦争が長く続くほど、新興市場の諸国は、ドルでなく自分たちの通貨を使って貿易・投資する体制を整えていく。今後の経済戦争ではドルの独歩高が続くので、新興市場諸国は、ドル高を回避するためにも、自国通貨や人民元を使う方が便利になる。トランプは、新興市場だけでなく、日本やドイツ、カナダなど先進諸国に対しても懲罰関税をかけている。この傾向は今後しだいにひどくなる。トランプは、同盟諸国に対しても容赦しない。今はまだ米国に敵視されていない同盟諸国も、ドルでなく自国通貨や人民元、ユーロなどで貿易・投資決済することが安全策になっていく。 (Turkey sees long-term partner in China) (米国の破綻は不可避

戦後のドル建ての貿易体制には、黒字国が貯めたドルで米国債を買って備蓄するシステムが併設され、これが米国債の安定を保障していた。だが今後、世界がドルを敬遠するほど、同時に米国債も敬遠される。すでにロシアや中国、日本などが、米国債の持ち高を減らす傾向にある。今は、新興市場から米国に逃避する資金が米国債市場にも流れこみ、国債金利が低く抑えられている。しかし、いずれこの逃避が一段落すると、米国債金利の大幅な上昇が不可避になる。それは、ドルが基軸通貨としての機能を喪失する時でもある。国際決済通貨としてIMFのSDRが再検討されるだろう。 (Forget About Turkey: Asia Is The Elephant In The Room) (人民元、金地金と多極化

今後の最大の転換点はおそらく、欧州が、ドルでなくユーロでの貿易や投資を主力にしていく非ドル化に踏み切る時だろう。欧州は自分の基軸通貨としてユーロを作ったのに、米国の覇権下にとどまってぐずぐずしている(それはたぶん敗戦後のドイツが日本同様、米国の傀儡にされ、そこから離脱できないからだ)。トランプは、自分の2期8年のうちに、何とかして欧州にドルを捨ててユーロで自立させようと、ドイツなど欧州勢にさかんに喧嘩を売っている。トランプから別々に敵視されている新興市場諸国と欧州が、米国やドルに頼らない世界体制の構築で結束せざるを得なくなる時、ドルが基軸性を喪失し、米単独から多極型への覇権転換が起きる。 (US economic sanctions against Iran, Russia losing effect amid dollar decline: Analyst

ロシアのラブロフ外相は、トルコ危機を皮切りとした新興市場からの資金逃避が激しくなった8月14日、ドルの国際基軸通貨としての地位が失われつつあると宣言した。ロシア政府は、すでに手持ちの米国債をほとんど売り払って金地金などに替えており、貿易決済でのドル使用もやめる検討をしている。ラブロフの宣言の意味は、トランプが世界に対する貿易戦争や経済制裁を今後ずっと続けていき、世界がドル使用をやめていく流れが始まっている、ということだ。 (Russian foreign minister says dollar's days numbered as global currency

ロシアはリーマン危機後にも、ドル使用をやめる検討をした。だがその後、米欧日の中央銀行によるQE策でドル体制が延命したため、ドルはその後も基軸通貨であり続けている。しかし今回、QEの終わりとともに、再びドルの終わりが近づいている。 (ドル崩壊とBRIC) (ドルは崩壊過程に入った

新興市場との経済戦争は、うまく選択的にやるなら、新興市場の諸国をバラバラの状態にして反米非米で結束させず、米国の覇権を守るドルの延命策としてのみ機能し得た。米金融界は、新興市場との経済戦争をうまく展開するつもりだったのだろう。だがトランプは、経済戦争を意図的に過激にやり、新興市場諸国を反米非米で結束させてしまった。トルコなど、トランプに攻撃された諸国の国民は反米ナショナリズムを一気に強め、エルドアンはその流れに乗って通貨が暴落しても政権を維持できている。トランプは同盟諸国にまで喧嘩を売り、多くの国々が米国覇権の存続を望まなくなる事態を引き起こしている。ブレジンスキーがあの世からトランプにウインクしている。 (世界的な政治覚醒を扇るアメリカ) (Russell Napier: "Turkey Will Be The Largest EM Default Of All Time"

新興市場との経済戦争による米金融の延命を発案したのは米金融界かもしれないが、トランプはそれを過激にやって失敗させ、多極化策へと変質させている。軍産が世界支配の復活を狙って始めたテロ戦争を、稚拙なイラク侵攻などで意図的に失敗させて多極化へと転換させたネオコンの戦略を、トランプは経済金融に適用している。 (トランプの相場テコ入れ策



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