国内の反乱を煽る米政府2015年5月13日 田中 宇今年7月15日から9月15日まで、米国のテキサス州を中心とする南西部の7州で、陸軍グリーンベレーや海軍シールズといった特殊部隊など米軍部隊が、敵対的な地域における隠密行動の軍事訓練を計画している。「ジェイド・ヘルム15」と題するこの訓練には、平服の特殊部隊が一般市民を装って町の中で行動し、市民や地元の警察に兵士だと気づかれずに秘密作戦を行う訓練などが盛り込まれている。訓練は、7州の中でも主にテキサス州で行われる。荒野に町が点在するテキサスの地形が、この訓練に適しているというのが、国防総省が発表した理由だ。 (The Training Exercise Causing Jitters in Texas) (Covert warfare coming to Texas sparks some fears of federal takeover) この訓練は、荒野が多い中東や中央アジアなどに米軍が特殊部隊を派兵することを前提に行われている。「ジェイド・ヘルム」は「ヒスイ(宝石)を支配する」という意味で、ヒスイは中国の象徴だから、この訓練は米特殊部隊による「中国(西域)侵略」を想定した「中国敵視策」の一環という見方もある。 (Who Is Threatening Texas?) とはいえ、国防総省が「定期的な通常訓練にすぎない」と平静を装って説明するこの軍事演習が有名になった理由は、中東や中国との関係でない。テキサス州の右派(反連邦、共和党系)の言論人や政治活動家たちが「米政府(民主党オバマ政権)が、軍事演習を装って特殊部隊を送り込み、共和党の反連邦派の牙城であるテキサス州を軍事支配(戒厳令施行)しようとしている」と騒いでいるからだ。 (Conspiracy Theories Over Jade Helm Training Exercise Get Some Traction in Texas) (Operation Jade Helm 15: Military training exercise or martial law? Ask the Internet) 国防総省は3月、この軍事演習について各州の関係者に説明し、その際に配布した資料の一部がマスコミや活動家にリークされた。その中の地図の一枚が、演習を行う7州のうち、テキサス州とユタ州を赤く塗られた「敵対的(hostile)」に分類し、カリフォルニア州、ネバダ州、コロラド州を青く塗られた「寛容的(permissive)」に分類していた(同地図は米軍の作成だと米マスコミ各社が報じている)。米国では、共和党が優勢な州を赤く塗り、民主党が優勢な州を青く塗った地図が広く流布しており、テキサスとユタは共和党系の赤い州、カリフォルニアとネバダ、コロラドは民主党系の青い州だ。 (Covert warfare coming to Texas sparks some fears of federal takeover) (国防総省が作成したジェイドヘルム15の地図) (Where Did The Idea Of "Red States" and "Blue States" Come From?) 国防総省は、共和党が優勢な州を敵地とみなし、特殊部隊を敵地にひそかに送り込んで支配を試みる軍事訓練をやろうとしている。米国の政治に敏感な人々は、国防総省がそのようなメッセージを今回の軍事演習に込めていることを感じた。国防総省はこれまでも、ある地域を敵地、隣の地域を味方の地域に指定して陣取り合戦的な軍事訓練を行うことがあった。しかし、今回の訓練は、現実の政治状況と一致するかたちで敵味方を赤青に分けている点で前代未聞だ。実際の政治地図と同一の赤青の色分けは、あまりに政治的に露骨で、訓練のために州を便宜的に敵味方に陣地分けしたと釈明できる範囲を超えている。 (Why Operation Jade Helm 15 is freaking out the Internet - and why it shouldn't be) 3月末にテキサスの共和党系の右派言論人たちが軍事演習に対する非難を開始した後、国防総省や米マスコミは、テキサスの右派言論人を「陰謀論者」と呼び、彼らの主張を思い込みによる無根拠な非難だと批判し返した。しかし、昔から連邦政府に対する不信感が強かったテキサス州の右派勢力が、今回の軍事訓練で、イラクのスンニ派や、イスラエル占領下のパレスチナ人と同様、軍事的に狙われている(反撃するとテロリストのレッテルを貼られる)と感じて激怒するのは、しごく自然な反応だ。彼らを陰謀論者と呼び、この問題を軽視する米政府・マスコミの方が、陰謀を練っていると疑われる。 (Army Special Operations Command pushes back against alarmist claims about upcoming exercise) テキサスは、連邦政府による中央集権の強化に対する抵抗が全米で最も強い州の一つだ。地理的に、英国から独立した米国と、スペインから独立したメキシコの間にあり、歴史的に米墨両方の中央政府からの支配を嫌い、自立心が強い。メキシコが1821年にスペインから独立した際、テキサスの人々はメキシコの一部になる道を選んだが、メキシコの政府が中央集権を強めようとしたため、米国からの移民も多かったテキサスは1935年に独立戦争(テキサス革命)を起こし、米国から越境してきた志願兵の部隊がメキシコ軍を駆逐し、独立してテキサス共和国になった。しかしその後、テキサス共和国は、住民に米国系が増え、彼らの意志に基づいて、9年後の1845年に米国に併合されて28番目の州となった。テキサス革命は、1898年の米西戦争やハワイ併合、フィリピン占領と同様、独立支援を装った米国の領土と影響圏拡大の謀略だった。 (Texas Revolution - Wikipedia) テキサスは、南北戦争で保守派の南部(アメリカ連合国)に属した。南北戦争は北部(アメリカ合衆国)の勝ちとなり、南部は負けたが、テキサスの軍勢は北軍より強く、南北戦争中、北軍は州内に入れなかった。今も州内は保守派の共和党が強く、リベラルな北部系の民主党を異質と感じる傾向が強い。テキサスでは今も、1836年にメキシコからの独立が宣言された3月2日を「テキサス独立記念日」として祝い、まいとし反連邦派がアメリカ合衆国からの独立を求める集会を開いて気勢を上げている。 (Texas Nationalist group rallies for secession) 08年のリーマン危機後、米経済を支えてきた債券金融システムの崩壊感(QEなどで何とか延命させている感じ)が強まった。自立的なテキサス州は、米連邦が財政難・弱体化・分裂気味になっていくなか、巻き込まれて州が混乱するのを防ぐため、独立傾向を強める姿勢をとっている。一昨年、財政赤字が上限に達して米連邦政府が機能不全に陥りかけた際、テキサス州議会はいち早く、連邦政府が機能不全になっても、州政府が食糧やエネルギー、水資源など州内の生活インフラを維持して自給自足できるようにするための法律(Texas Self-Sufficiency Act)を立法している。米国の石油埋蔵量の4分の1、天然ガス埋蔵量の3分の1がテキサス州内にある。 (Texas Bill Would Prepare for Federal Meltdown) (Texas Official: State Actively Preparing to Become an Independent Nation) また州議会は、リーマン型の金融危機が再燃してドルが崩壊した場合に備え、金地金を正式な通貨として認める法案を、ずっと検討している。もともと合衆国憲法は、金銀の地金のみを通貨として認めているが、現実のドルは1972年のニクソンショック(金ドル交換停止)以来、地金に全く裏打ちされていない「幽霊通貨」だ(昨年末、グリーンスパン元連銀総裁が、幽霊通貨ドルの崩壊つまり金融危機の再発と、金地金の5年内の大幅上昇を予測した)。金地金を正式な通貨として認める検討をしているテキサス州は、正常な危機管理の感覚を持っている(対照的に、米連邦や日本の政府は異常か無能だ)。 (This US State is on the Verge of a Silver & Gold Revolution!) (◆金融危機を予測するざわめき) 米連邦政府の諜報機関NSAが全米で市民の電話やインターネットでのやり取りを傍受してきたことが暴露されたり、共和党支持者を中心に広範な反対運動が起きている連邦政府による銃規制強化など、連邦政府に対する反感が強まるたびに、テキサスなど全米のいくつかの州で、分離独立を求める草の根の右派系の運動がさかんになったり、州議会がNSAや銃規制の関連の連邦法を州内で制限する州法を定める動きをしたりする。テキサスはその中心にいる。 (White House: Texas must remain part of the US) (Why Texas Could Probably Secede) (Discontent with Washington, US states look to nullify federal laws) 日本では地方の行政機関が「地方自治体」と名づけられているが、それは名ばかり(米占領政府が終戦後の当初、日本に地方自治を植えつけようとしたが、朝鮮戦争とともに構想が消えたなごり)で、自治など何もなく、自治を求める市民の声もない。日本は中央集権が非常にきつい国だ。日本人の多くは自治の意義すら理解不能だろうが、対照的に米国民の多くは、各州が連邦政府からの独立を選択肢として持っているのを良いことと考えている。米国民のうち、自州が実際に連邦政府から独立すべきと考える人が24%、自州の独立に反対している人が53%いると報じられている。日本では「自分の県が東京の政府から独立すべきと思いますか」という質問自体、想像を絶するものだ(この設問がいずれ俎上にのぼりそうなのは、米軍基地で東京から不当に苦しめられている沖縄ぐらいだ)。 (Exclusive: Angry with Washington, 1 in 4 Americans open to secession) (Northern Californians Seek Independent State) リーマン危機以降、米国では、株価だけ上がって消費など実体経済は悪化が続き、貧富格差が拡大し、フードスタンプなど貧困対策事業が財政難で縮小されている。全米50州のうち22州の財政が赤字だ。米国の州は赤字の累積を許されないので、赤字の州は支出の切り詰めを迫られている。州の財政で支えられている道路などインフラ整備、貧困対策などの予算が減り、米国民の経済難がひどくなっている。 (Almost Half Of US States Are Officially Broke) (Here's The Chart Of The US Infrastructure Spending Collapse That Everyone Is Talking About) (飢餓が広がる米国) 米国は公的な社会保障制度も、財政難や運用失敗、高齢化を反映し、基金が破綻する方に向かっている。米政府の社会保障局は以前から、何も対策が打たれない場合、社会保障の基金は2020年に支出が収入を上回り、33年に基金が底をつくと予測してきた。ハーバード大学は最近の調査で、この予測は楽観的すぎ、実際はもっと早く社会保障基金の破綻が現実になると主張している。米議会の多数派を握る共和党は、社会保障のテコ入れに反対だ。米国の社会保障制度は、いずれ崩壊する可能性が高い。現時点で米国はすでに、先進諸国の中で、医療費が最も高い半面、受けられる医療の質が最も低い国になっている。 (Social Security will fail by next decade: Harvard Study) (U.S. Pays Most for Healthcare of Any Industrialized Nation … But Ranks Worst for Healthcare) 米政府は財政難だけでなく、政府要員の職業倫理の低下もひどくなっている。証券取引委員会SECや原子力安全委員会NRC、環境保護庁EPAなどの職員が、仕事をさぼって職場のパソコンで長時間ポルノを見ていたことが発覚したり、米国民の電話やネットを盗聴している諜報機関NSAの職員が、テロ捜査と称して自分の知り合いの異性のメールなどを漁って盗み見していたことが問題になっている。 (America's Main Problem: Corruption) カナダ政府は昨年、米国に行く自国民に対し、多額の現金を持って行かない方が良いと忠告を発した。現金を見つけた米国境の検査官が、濡れ衣で「テロ資金」の疑いをかけて現金を没収し、カナダ人が裁判をやってもなかなか取り返せない。カナダ政府によると、米当局は、これまでに25億ドルを国境でカナダ人から没収している。財政難の中、没収したカネが米当局の予算の一部になるので、テロの濡れ衣をかけて没収して返さない行為が頻発している。カナダ人だけでなく、米国民も、現金を持ち歩くと当局にテロ資金の濡れ衣をかけられ没収される危険がある。昨今の米国は、非常に腐敗している。 (Canada Warns Its Citizens Not To Take Cash To The USA) ("Common People Do Not Carry This Much Currency" - How Police Justify Stealing American Citizens' Money) リーマン危機後、不安定化する傾向にある。ファーグソンやボルチモアでの警察と住民の衝突による暴動、デトロイトなどでの地方政府の財政破綻、行政の異様な腐敗などは、その表れだ。このような社会の危機に対し、米国の民主党支持者は、リベラル的な貧困救済策、社会保障策の再拡大による安定化を望むが、債券金融システムの崩壊感の強まりの中、安定策の原資となる財政自体が不足しており、米民主党の策は無効になっている。対照的に共和党支持者は、社会が混乱したとき自分で自分の身を守ることを重視する傾向だ。ダウ平均株価が1万5千ドルを割ったら社会の崩壊に備え、家に武器と食糧を備蓄しろ、などと共和党系の人々は言っている。 (Trend Analyst on Stocks: "If The Dow Drops Below 15,000… I Would Suggest People Start Buying Food & Ammo") (Senate passes Republican budget with deep safety net cuts) 一昨年時点の世論調査によると、社会の不安定化や政府の腐敗、弱体化などを受け、米国民の29%は、数年以内に米国内で武装蜂起が必要な事態になると予測している。数年内に武装蜂起が必要になると考えている人の割合は、民主党支持者が18%なのに対し、共和党支持者では44%に達している。自分で自分の身を守りたい共和党支持者は、連邦政府の銃規制に反対する傾向も強い。銃規制の強化は、共和党を標的にした、民主党のオバマ政権による政治攻撃だと考えている共和党員も多い。 (Poll: 29% Think Armed Rebellion Might Soon Be Necessary) 米国防総省もリーマン危機後、経済難や財政破綻、社会対立の激化によって、米国が内戦状態に陥る懸念を抱くようになった。国防総省はリーマン危機から半年後の09年3月、ワシントンDCのジョンズホプキンス大学の研究所(APL)に金融専門家たちを集め、米国で金融危機が再発しそうかどうか、危機が再発したら米国はどうなるかをシミュレーションした。その結果、金融危機は再発しそうで、国債金利高騰、基軸通貨ドルの崩壊、超インフレなどが予測されるという結論になった。 (Pentagon preps for economic warfare) (Is America Being Deliberately Pushed Toward Civil War?) 国防総省は同時に、全米各地の大学に研究費を出し、中東などの事例を参考に、社会が極限状態になったら反乱・暴動・内戦などが、どの時点でどんな風に起きるかをモデル化する「ミネルバ研究事業」を続けている。これは表向き、外国への軍事介入を前提としているが、米国がいずれ金融危機再燃で社会崩壊しそうだと、国防総省自身が予測しているのだから、国防総省はこの研究を、米国での暴動や内戦への対応策としても考えているはずだ。 (Pentagon preparing for mass civil breakdown) 国防総省など米当局は、金融危機再燃による米国内の暴動や内戦状態を「予測」するだけでなく「扇動」しているふしがある。911以後、イスラム教徒の米国民が広範にテロリストの濡れ衣をかけられる一方、キリスト教原理主義の説教師たちの発言がマスコミなどで注目され、イスラム対キリスト教の宗教憎悪が米国内で扇動された。最近では、政治活動家パメラ・ゲラーによるイスラム敵視運動が、米マスコミなどで大きく取り上げられ、イスラエル右派団体がそれを支持する中で、イスラム敵視の政治扇動が再燃している。 (Merchants of Hate - Pamela Geller and her "mainstream" conservative accomplices) (Pamela Geller - Wikipedia) ファーグソンやボルチモアの暴動では、黒人対白人の対立や、黒人が自分たちを差別する米国社会に対して怒りをぶつけることが扇動されている。以前の記事に書いたように、投資家のジョージ・ソロスの基金が、ファーグソンで反政府活動を続ける市民団体に資金を供給している。ソロスの基金は、オバマ大統領が青年期にシカゴで最初の政治活動をやった政治団体にも資金援助しているが、オバマ自身、ファーグソンの市民には反対運動をする権利があると言って、運動の拡大を煽る姿勢をとっている。 (◆中央銀行がふくらませた巨大バブル) (Ghetto policing tactics follow African-Americans to suburbs) (Obama Continues To Fan The Flames Of Civil Unrest In Ferguson) ファーグソン暴動の際、ソロスが資金援助している市民団体などが、ネットのSMSを使って、暴動を扇動するような内容のキャンペーンを展開したが、ファーグソンの暴動で「活躍」していた市民運動系の50のSMSアカウント(Occupy and AnonymousやAnswer Coalitionなど)は、ボルチモアで暴動が起きた際にもさかんに扇動行為を展開した。これらの中には、米当局やソロスのような勢力による、米国で暴動や内戦を誘発する策略の道具になっているものがあると疑われる。米国では、今後さらに暴動が増える傾向にある。米国民の96%は、今夏さらに暴動が起きると予測している。 (50 Social Media Accounts Agitating In Ferguson Also Active In Baltimore) (96% Of Americans Expect More Civil Unrest In U.S. Cities This Summer) テキサス州の元下院議員で、共和党の草の根勢力(リバタリアン)から圧倒的な支持を受けてきたロン・ポールは以前から「金融危機が再発し、ドルや米国債が崩壊し、米国民の生活が大打撃を受け、暴動や反乱が頻発する」との予測を表明してきた。この予測は、すでに紹介した国防総省の予測とほぼ同じだ。 (US facing major financial crisis, Ron Paul warns) (Ron Paul: Collapsing Economy Fuels Baltimore-Style Riots) (Ron Paul & Jim Rogers: "There's More Chaos To Come") 金融危機の再燃と、その後の社会混乱や暴動、内戦化が予測され、米連邦当局や米中枢の人々自身が社会混乱と暴動を扇動している観がある中で、もともと連邦当局に対する不満が大きく、社会が混乱するなら銃をとって自衛しようと考えてきた共和党の草の根右派の人々が多いテキサス州に対し、国防総省が今夏、軍事訓練と称し、テキサスを敵陣に見立てて特殊部隊を送り込む。これがテキサスの右派の人々に対する扇動策でないなら、何であろうか。 今夏の軍事演習をめぐる騒動が起きて以来、テキサスでは、共和党の政治家が連邦政府に楯突くほど、州民の支持を集めるようになった。当然ながら、テキサスの共和党政治家たちは、軍事演習を装った敵視策に対抗する傾向だ。4月28日には、共和党のアボット州知事が、知事の監督下にある州兵の軍勢に対し、連邦軍による今夏の軍事演習を監視するよう命じた。事態はまるで、テキサス革命の時代に戻ったかのようだ(こんどの敵はメキシコでなく、アメリカ合衆国=北軍だが)。 (Texas governor orders troops to 'monitor' Jade Helm) 来年の大統領選挙に出馬予定の、共和党のテッド・クルズ上院議員も「オバマのことをだれも信用していないのだから、テキサスの人々が今夏の軍事演習の話を聞いて不安に駆られるのは当然だ」と発言し、アボット州知事の動きを支持した。 (Ted Cruz, GOP weigh in on Jade Helm - but are they playing to the alarmists?) 今夏の軍事演習では、共和党の反連邦派が強いテキサスだけでなく、宗派としての団結力が非常に強いモルモン教(末日聖徒キリスト教徒)が多く住むユタ州も「敵地」に指定されている。以前から麻薬組織などの動きが活発なカリフォルニア州南部のメキシコとの国境地帯は「反乱軍地域(insurgent pocket)」に指定されている。いずれも、当局や軍隊による威嚇に敏感な人々が多い地域で、扇動する側としては、扇動しがいがある場所だ。 (Military Drill Identifying "Hostile" U.S. States Sparks Alarm) 問題の軍事演習の公式な開始日は7月だが、演習ないし扇動は、隠然的にすでに始まっているとの見方もある。5月3日、テキサス州ガーランドで、反イスラム的な風刺画を集めた展覧会の会場で2人の男が銃を乱射する事件があり、ISIS(イスラム国)が犯行声明を出した。これを機に、米軍はテキサス州での警戒を一気に強め、7月からの軍事演習を先取りする事態になっている。ISIS自体、イラク駐留米軍が創設に協力したテロ組織だし、米国内でテロをやりそうな奴らをこっそり育て、テロの発生を機に軍事支配や反乱扇動の動きを強めようとするのは、911以前からの米当局の策略だ。 (Curtis Culwell Center attack - Wikipedia) (露呈するISISのインチキさ) (イスラム国はアルカイダのブランド再編) (敵としてイスラム国を作って戦争する米国) (911事件関係の記事) 7月のテキサスの軍事演習開始にかけて、テキサスだけでなく全米で、反乱や暴動の発生や、米当局による反乱扇動の動きが強まるかもしれない。米軍は5月7日、テキサスでのガーランド乱射事件の発生を理由に、米全土の米軍基地における警戒の水準を、平時の「A」から、攻撃があり得る状態の「B」に引き上げた(攻撃が近いC、攻撃が起きた後のDまで4等級ある)。米当局は少なくとも、諜報的な手腕を通じ、米国内におけるISISの動きを操れる状態にあるのだから、これは米当局がこれから米国の混乱を一段階ひどい状態にしていきますよというメッセージと感じられる。 (Pentagon Boosts Security Level, Citing ISIS) テキサス州の共和党は、反連邦的な草の根右派が多い半面、父子で大統領になり、次期大統領選挙にも兄が出馬しそうなブッシュ前大統領の一族はテキサスの出身で、テキサスの人々は、米議会など連邦を牛耳る共和党の主流派においても有力な勢力だ。しかも、米軍の人々は伝統的に共和党支持だ。オバマは、軍内での支持率が非常に低い。今のオバマ政権が民主党だからといって、米連邦政府や米軍がテキサスの共和党を潰すために特殊部隊を派遣する構図は、まったく茶番劇である。草の根右派の人々を怒らせ、すでに起きている米国の暴動や反政府運動の傾向を扇動しようとする、共和党自身の策略のように見える。 米当局が意図的に自国で暴動や内戦を誘発している理由をめぐる考察は、以下に並べる何本かの以前の記事に書いた。今回の記事は非常に長くなったので、米政府が自国を混乱させたい理由についての新たな分析は、あらためて書くことにして、今回はとりあえずここまでにしておく。 (揺らぐアメリカの連邦制) (世界的な「反乱の夏」になる?) (米覇権自壊の瀬戸際) (世界的な政治覚醒を扇るアメリカ)
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