世界的な「反乱の夏」になる?2009年2月26日 田中 宇2月23日、英国ロンドンの警察の治安担当幹部(Supt Hartshorn)が、不況の深刻化による失業増、社会福祉など行政サービスの削減、銀行破綻による預金封鎖などを受け、今年の夏にかけて英国民が政府批判を強め、大規模な反政府活動や暴動が発生して「反乱の夏」(summer of rage)になるかもしれない、と指摘した。 ロンドンでは4月2日に、G20サミット(G7+BRICなど)の開催が予定されているが、そこに英内外からの反政府分子が結集し「反乱の夏」の幕開けとなりそうだとか、公金による政府救済を受けたのに高いボーナスを役員や行員に払い続ける銀行も襲撃対象になるといった予測を発表した。 (Police bracing themselves for 'summer of rage' against economic crisis) 欧州では、すでに経済危機による生活苦の怒りの矛先を政府に向けた国民によって、アイスランドやラトビアで政権が転覆されている。ハンガリー、ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ、スイス、そして英国などが、今後、金融や財政の危機を深め、社会的な混乱の拡大を招きそうな国として名前が挙がっている。「新たな革命に火がつきそうだ」という言い方まで出ている。 (Up to 120,000 protest in recession-hit Ireland) (Buckling Europe fears protests may spark a new revolution) 東欧の金融危機がユーロを崩壊させ、もう一段の世界金融危機の引き金を引くかもしれないと指摘されている。ユーロ圏では、ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの5カ国が、経済が最も弱い国々、ユーロ崩壊の引き金を引きそうな国々と名指しされ、これらの5カ国の頭文字を連ねてPIIGS(英米からの侮蔑や揶揄を込めた、英語の「豚」pigs のもじりか?)と呼ばれている。このほか、フランスなどでも大規模な反政府デモが起きている。 (Rioting Greeks, angry Germans and why the euro may well collapse) その一方で、これまでEU政治統合に反対意見が多く、昨年夏の国民投票でEU政治統合のリスボン条約を否決し、条約発効を潰してしまったアイルランドが、経済難で困窮した挙げ句、EUに頼る傾向を強めざるを得なくなり、政治統合に同意する国民投票やり直しを意外と早く行うのではないかとも予測されている。EUでは、加盟各国の国債金利の間の乖離が大きくなってユーロ崩壊に近づく動きと、政治統合を加速して崩壊を回避できるかもしれない動きとが、ないまぜになっている。 (US, UK, Eurozone Banks Face Collapse: Global Banking System Insolvent) (Crisis Builds Irish Support for EU Pact) 「革命」の再来をにおわせる昨今の国際的な混乱拡大は、第一次世界大戦前後の1910−30年代の、世界的な混乱や経済難、民族主義や社会主義、全体主義などの政治運動の高まりの再来を思わせるものがある。世界大戦の再発は不可避だという予測も、誰でも思いつくものだけに、あちこちから出てきても不思議ではない。しかし、たとえば金融危機を受けて暴動と政権転覆が起きたアイスランドでは、財政節約のため、軍隊を廃止する案が出ている。 (Iceland May Shut Defense Agency to Save Money) アイスランドはもともと軍隊がなく、安全保障を駐留米軍(NATO)に頼っていたが、06年に米軍が出ていったため、新たに軍隊を編成した。しかし今回、軍隊の維持にかかる費用節約のため、軍隊を解散して海上防衛任務を沿岸警備隊だけにすることを検討している。同時にアイスランドは、これまで加盟を見送ってきたEUとユーロへの加盟を検討している。 (EU aims to swallow Iceland) (Iceland hunts the euro) 世界不況が世界大戦に結びつくとは限らない。世界不況で国家間の不和が強まる状況はあるものの、欧州ではむしろEUへの結束を強めることで、国家間の不和が解消される方向性が見えている。アジアではASEAN+3(日中韓)の協調が見直されそうだ。また世界の発展途上国は国連での結束を強め、米英中心体制崩壊後の世界運営の主導権を取ろうとしている。 第一次大戦は、英国の衰退によって英国覇権(パックス・ブリタニカ)という当時の国際政治機構が崩壊したから起きた。戦後は国際連盟ができたものの、米国が不参加だったりして機能不全となり、第二次大戦が起きた。今は、国連、G20、G7、EU、NATO、ASEAN+3、上海協力機構、OIC(イスラム諸国会議)、OAS(米州機構)など、多種多様の多国間組織が存在し、金融危機の深化とともに、多国間組織の動きも活発化している。今後の世界が安定を維持できるかどうかは、これらの多国間組織の動きにかかっている。 ▼反乱鎮圧に備える米軍 ことし「反乱の夏」となりそうなのは、欧州だけではない。世界不況の震源地である米国も、今年は波乱含みだ。最近の記事に書いたように、全米各州は財政破綻の傾向を急速に強めている。合衆国憲法上の「州が連邦から自立する権利」を議会で再宣言する州もその後さらに増えている。 (揺らぐアメリカの連邦制) その一方で「米連邦は、各州政府と州民が納得していたから、成立していただけにすぎなかった。だが、各州が連邦に主権の返還を求めても、連邦政府が簡単に権力を明け渡すはずがない。連邦軍や(イラク占領で悪名高い)ブラックウォーターのような傭兵組織を使い、米国民に銃を突きつけ、権力維持を画策するだろう」といった警告的な予測も出ている。 (Firestorm Brewing Between US States and Federal Government) これは、まさに米国の独裁政権化である。米国史上初めて国民の大半から独裁者と非難されそうな大統領が黒人というのも、皮肉な話である(だから黒人にやらせたという見方もできる)。権威権力に無前提に従属する傾向が強いアジアの人々と異なり、自尊心と自立心の強い米国民は、連邦政府が露骨に独裁化することを許さず、内戦になるだろう。 「反政府の若者たち(もしくは老若男女)がロッキー山中のモンタナ州に立て籠もり、あるいは南部のニューオリンズ市に結集して連邦政府に反旗を翻し、そこを米軍のヘリが空爆し、特殊部隊が投入される」といった、少し前までハリウッド映画の世界でしか考えつかなかった「米国のアフガン化」が、現実のものとしてあり得る。 米軍はすでに、米国内での反乱鎮圧の準備を着々と進めている。ニューオリンズ市では2月に入り、市街地に150人の米軍特殊部隊がヘリコプターで降下して席巻し、爆弾投下までおこなう「訓練」が実施された。 (U.S. Troops In Black Helicopters Invade New Orleans, Drop Bombs) (Urban Warfare Drills Linked To Coming Economic Rage) ニューオーリンズは05年にハリケーン「カトリーナ」が上陸して市街地が浸水し、当局の対応が悪かったため暴動になりかけた地域だ。復興費用として巨額の連邦政府予算が組まれたが、ひどく不効率な使い方しかされていないため、今も復興が満足に進まず、市民は政府に不満を持っている。市民の不満が大きい都市なので、米軍の反乱鎮圧訓練が行われたと考えることもできるが、これ見よがしに鎮圧訓練を展開して市民の反感を意図的に扇動しているふしもある。米軍は、カトリーナ襲来当時、被災者を暴徒扱いして市民の怒りを煽った前科がある。 (アメリカ「カトリーナ後」の孤立主義と自滅主義) 東部のバージニア州リッチモンド市の周辺では1月、のべ2200人以上の海兵隊員が参加して、降下作戦など市街戦の訓練が展開された。訓練をやった理由は「兵士がこの地域に慣れておく必要があるから」で、あたかも軍が今後の市民暴動を予測しているかのようだ。訓練に対する事前の広報がほとんど行われなかったため、街の駐車場にヘリで着陸する海兵隊を見て、市民は度肝を抜かれた。 (Marines Landing in our Neighborhood, Chopper is just above car....) (War games break out over Richmond region) 中西部アイオワ州の町アルカディアでは、州兵が「侵略」に対する訓練を4月に予定したが、住民の反対を受け、訓練の露骨さを緩和した。計画された訓練は、住宅地における一軒ごとの家宅捜索と武器押収など、まるで米国民をイラク国民のように扱うものだった。米国のど真ん中の内陸にあるアイオワ州を侵略する外国勢力があるとは思えない。これも明らかに、地元住民の反乱鎮圧に対する訓練である。 (Guardsmen to conduct urban training at Arcadia in April) ▼経済対策が失敗するほど反乱に近づく 対米従属の日本は今後、米国の不況対策を、経済現象してみるだけでなく、政治社会現象として分析せねばならない。米政府の不況対策が失敗するほど、米国民の反政府感情が高まり「反乱の夏」に近づく。米政府の銀行救済は、銀行経営者や株主に対する配慮が強すぎると批判されている。 (Economic catastrophe looms) 9万人の従業員で、政府から160億ドル支援金を受けている大手自動車会社のGMは、従業員一人あたり17万ドル(約1600万円)の支援を受けていることになり、税金の無駄遣いだと批判されている。そもそも米政府の経済対策は、200万人の雇用創設のために2兆ドルの公金を投入するが、これは一人の雇用を創出するのに100万ドル(1億円)かけており、途方もなく非効率である。 (Stop GM Before They Kill The Economy Again!) (GM's Plan: Subsidize Our 48-Year-Old Retirees) 米政府の景気対策は、公金を使って外国からの輸入を増やすだけで、米国自身の製造業の復活につながらないという指摘もある。米政府は、中国の労働者に失業対策をしてやっているというわけだ(米国の製造業衰退は30年前からの話で、今回の金融危機はとどめの一発にすぎないが)。 (How Can the U.S. Recover Without Manufacturing Capacity?) 米国では今後、政府健康保険(メディケアなど)の運営破綻も起こる。メディケアは国民から集める保険料より病院や製薬会社に払う保険金が多い状態が放置され、最終的に政府が負担せざるを得ない赤字額が30兆ドル以上になると、以前から指摘されてきた。私も3年近く前、この件で記事を書いたが、読者から「また田中宇が空想を書いている」と言われた。しかし今、米国のメディケアや公的年金を含めた財政赤字は65兆ドルになることが、改めて問題になっている。 (Federal obligations exceed world GDP) (アメリカは破産する?) これらの失策は、今後、経済対策が失敗し、財政破綻の色彩が強まって米国民の困窮が今よりひどくなった時、米国民の堪忍袋の緒を切り、反乱誘発の役割を果たす。財政赤字の急増で米国債が売れなくなり、ドルへの信頼が揺らいでハイパーインフレーションが起きるとの予測もあり、これも米国の反乱につながる(世界各地の反乱ともなる)。覇権国である米国の混乱は、それ以外の国の混乱に比べ、世界に対する悪影響が格段に大きい。米国の地方都市や僻地の治安状態を分析することが、今後の世界システムの分析として不可欠になっている。 (Greek ce-Style Riots Coming To U.S.) ▼米国とメキシコが戦争する? 先に「米国のアフガン化」と書いたが、その傾向は国境の南でも見られる。米国の南隣にあるメキシコは、昨年あたりから麻薬組織と政府との対決がひどくなり、現政権になってから当局の担当者を含む8千人が麻薬組織に殺されている。警察など治安当局は機能不全に陥り、麻薬組織は各地の商店街などを脅して上納金を取るので、住民は自警団を作って麻薬組織との対決姿勢を強め、事態は内乱に近づいている(少なくとも、米国ではそう報じられている)。 (The Revolution in Mexico has began) (Mexico's Instability Is a Real Problem) 米国の国防総省は最近「メキシコは、パキスタンと同程度にひどい失敗国家になりつつある」とする秘密報告書を作ったと報じられている。メキシコが今以上の混乱に陥った場合、国境を接するテキサス州など米国側へ難民や武装勢力が流入する懸念があり、米軍の方でメキシコに先制的に侵略することも検討されている。これは、150年ぶりの米墨戦争に発展しうる。 (Mexico worried US might invade!) (If Violence Escalates in Mexico, Texas Officials Plan to Be Ready) こんな有事なのに、メキシコと境界を接するカリフォルニア州では、脳天気に事態を悪化させる構想が進んでいる。加州にはメキシコから大量のマリファナが違法に流れ込んでいるが、これを合法化し、21歳以上ならマリファナをやってよいことにして課税し、年間10億ドルの財政収入にして、破綻した州財政の建て直しに使おうという案が、加州議会で出されている。これは、メキシコで政府と戦争状態にある麻薬組織を儲けさせ、応援することにほかならない。 (California Legislator Sees Benefit in Legalizing Pot) 米国には1100万人と推定される違法移民が住んでいるが、その多くはメキシコやその先の中南米諸国から来ている。合法の中南米移民は700万人いる。米政府は中南米移民に対し、ブッシュ政権時代から稚拙な政策を繰り返してきた。米政府は違法移民を追い出すようなことを言って移民たちを激怒させる一方で、911以後に国境警備強化のために巨額の予算を取ったくせに米墨国境の警備は手薄で、取り締まりは90年代より緩和されている。 (Efforts to Secure US Borders 'Have Slowed Since 9/11') 半面、3000キロの米墨国境に、巨額の政府予算をつけて違法入国者の流入を止める防御壁を作る構想が米議会で出たりして、巨額の金をかけて超非効率なことをやるというイラク戦争・テロ戦争型の政策が行われた。当初20億ドルで作れると概算された防御壁の監視システムは、その後15倍の予算が必要と算定され直すという、国防総省の新型戦闘機と同類の「軍産複合体によるぼったくり事業」となっている。 (Ups Estimates for Virtual Border Fence) 米政府の稚拙な移民政策と移民排斥の傾向に業を煮やし、2006年には加州などで移民が50万人規模のデモ行進を行い、そこではメキシコ国旗も振られた。今後、米墨戦争が起きると、中南米系の在米移民は「敵性国民」とみなされ、かつての日系人と同様、収容所送りとなりうる。 (After Immigration Protests, Goal Remains Elusive) 中南米系の移民に対する米政府のやり方を見ていると、911以来、イスラム教徒の米国民をわざと怒らせてテロ戦争の構図を米国内に持ち込もうとした米当局の戦略と、同根のものを感じる。テロ戦争の「原型」となった「文明の衝突」を90年代に書いたハーバード大学のサミュエル・ハンチントン教授は、2004年には「中南米移民を排斥しないでいると、彼らに国を乗っ取られる」という趣旨に読める「分断されるアメリカ」(Who Are We?)という本を出し、中南米移民の読者が多いマイアミ・ヘラルド紙から「人種差別主義者を驚喜させる本」と非難された。 (Huntington's unease) ▼対立扇動の設計図を描くハンチントン ハンチントンの「文明の衝突」から「分断されるアメリカ」への発展は、一つの流れとして読める。ハンチントンはもともと70年代後半のカーター政権の政策顧問で、当時の経済難を反映して、75年には「経済成長が鈍化した先進国では、政府への不満が高まって暴動が起きやすくなるので、有事体制を敷かざるを得ない」と読み取れる論文「The Crisis of Democracy」を書いている。 この発想は、有事の際に国家主権を集中させる機関としてカーター政権下で79年にFEMA(連邦緊急事態管理局)が設立されることにつながった。FEMAの設計図はハンチントンが書いた(ほかに、米欧日で世界を管理する発想の三極委員会も、ハンチントンの企画といわれる)。 FEMAはその後、大災害の際に現場出動するものの、被災者が暴徒化しないかどうかを確認したりするばかりで、実際の救援や復興を満足にやらなかったため、有事を口実に、米連邦政府の独裁体制を強化するのが真の目的ではないかといった非難が続出した。FEMAの秘密独裁政府的な面を現実のものとして書いた記事も、ワシントンポストなどに出たことがある。 (アメリカで秘密裏に稼動する「影の政府」) ハンチントンは、ソ連という仮想敵がなくなった90年代中ごろから「欧米には敵が必要だ。敵が明確なら、自分たちの社会をうまく定義することができ、アイデンティティの危機を回避できる」と考えていたという指摘もあるが、こうした考え方の延長に位置するのが、イスラム教世界とキリスト教世界との恒久対立である「文明の衝突」の構図(構想)と、その具現化である911を奇貨とした前ブッシュ政権の「テロ戦争」である。 (VON BUELOW INTERVIEW BLOWS 911 CASE WIDE OPEN) 911後、イスラム世界では反米感情が高まったが、それは「米国を倒せ」という好戦論より「なぜ米国は無理解なのか」という嘆きの方が強く、根っこの対米従属意識は変わらなかった。中東の親米政権(エジプト、サウジなど)がイスラム主義勢力によって転覆される事態は起こらず、かつてのソ連と比べて、イスラム世界は欧米の「敵」として機能することに消極的だった。 911後、米軍はキューバ島のグアンタナモ基地に、無実のイスラム教徒をテロリスト扱いして無期限拘束して拷問する収容所を作った。米本土では911後、FBIが1000人以上のイスラム教徒米国民を逮捕状なしに拘束した。これらは、米国のイスラム教徒の怒りを扇動し、米国内で有事体制を作ることが目的だったようだが、イスラム教徒はあまり扇動されず、テロ戦争による米政府の有事体制作りは今一つ成功しなかった。 そして911から3年たって、ハンチントン教授は、次の標的を中南米系の移民に定めたのか、前述の移民差別の本を書いた。在米の中南米系の人々も、在米イスラム教徒と同様、今のところ「反米」ではなく「無理解を嘆く」方が強く、移民排斥による有事体制作りは成功していないが、今後はわからない。 ハンチントン自身は、移民排斥本を書いた後、マスコミの取材に応じず、マスコミの電話取材に対して大学の他のスタッフが「本人が電話に出たくないということは、ハンチントン自身もこんな風に書きたくなかったのではないか」と答えている。 (Huntington's unease) ここからうかがえることは、キリスト教徒とイスラム教徒の対立を企図した「文明の衝突」も、中南米系と他の米国民との対立を企図した「分断されるアメリカ」も、ハンチントン自身が書きたくて書いたのではなく、どこからか頼まれて書いたということだ。本の内容も、ハンチントン自身の研究というより、これまでに多くの研究者が書いてきたことをつなぎ合わせたものだ。 誰がハンチントンに、文明の衝突など対立扇動戦略的な問題本を書かせたのか。確たる答えはないが、文明の衝突が描いた構図がそのまま911後の米政府の世界戦略になったことから考えて、米国の国家戦略を立案する奥の院的な勢力が黒幕だろう。それは「外交問題評議会(CFR)」「ニューヨークの資本家」「ロックフェラー」などという名称でくくられている勢力であろう。 このように考えると、今回のような金融危機と大不況によって米国内が混乱し、内乱状態になることは、以前から米中枢の人々が構想ないし予期していたことであると感じられる。金融危機自体、米当局のあまりに稚拙な対応の末に、ここまで悪化してきており、意図的な悪化策と考えた方が自然なものだ。 ▼階級闘争と政治覚醒の時代へ なぜ、彼らは自国を混乱させたいのか。それは以前から私の疑問でもあるが、私なりの答えは「欧米経済が成熟して成長鈍化した後の対策として、覇権の多極化による世界経済の発展の持続を狙っているのではないか」という、これまでに何度も書いてきた多極主義の仮説である。それ以上に妥当な感じがする考え方は、まだ見つけていない。 この疑問について、他の専門家らに問いかけても「米中枢の人々が自国を自滅させたいはずがない」という、現状そのものをきちんと見ていない反応しか得られず、そうこうするうちに金融危機は悪化し、米国は自滅的に覇権を失い、世界は多極化している。多極主義の仮説のとおりの展開になっており、私は自分の仮説がおおむね正しいと思うに至っているが、表層しか見えない人々は、相変わらず「自滅するはずがない」と言い続けている。 ハンチントンは、オバマ政権の顧問をしているブレジンスキーと、カーター政権の中枢で一緒に働いており、2人は同じ戦略を共有しているという指摘がある。 (BERNARD LEWIS - British Svengali Behind Clash Of Civilizations) ブレジンスキーは最近、米国で不況が続くと暴動が起こり、階級闘争が激化するだろうと、テレビ出演の際に警告している。以前の記事に書いたように、ブレジンスキーは昨年から世界が騒乱期に入ったことを指摘し、それは世界的な政治覚醒につながると、肯定的にとらえている。 (Brzezinski warns of riots in US) (世界的な政治覚醒を扇るアメリカ) 金融危機で反乱が政府転覆につながったアイスランドでは、従来は政治に無関心だった大多数の人々が、金融危機による財政破綻とともに、急に政治に目覚めて敏感になったと指摘されている。こうした転換は、他の国々でも起こりそうだ。ブレジンスキーが言ったとおりのことが、すでに起きている。 (Iceland is steamed, may be echoed worldwide) 今年の「反乱の夏」に世界各地で起こりそうな反乱を「政治的覚醒」ととらえると、そこからいろいろなことが見えてきそうだ。政治運動が好きな人々にとっては、至福の時期がきそうだということでもある。その考察を書き出すと、また長くなってしまうので、今回はこのぐらいにしておく。
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