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QEやめたらバブル大崩壊

2015年3月1日   田中 宇

 報道によると、米国の経済はリーマン危機後の不況から好況へと、堅調に推移している。だから株価が毎週のように最高値を更新している、と説明されている。私は以前から、こうした報道や説明を歪曲や粉飾の結果と考えてきた。米国(や日本)の「景気回復」は、中央銀行が金融緩和策で作った過剰資金を株式市場に流入させたり、雇用統計などの経済統計を「改善」の方向に粉飾したりした結果であり、実体経済の状況は非常に悪く、雇用も改善していない、リーマン危機後の金融救済の失敗がこのひどい事態を生んだ、米経済は非常に悪い状態なのに政府や金融界やマスコミがウソをついている、と私は考えてきた。 (揺らぐ金融市場) (アベノミクスの経済粉飾

 そんなことを書いているのは君だけだよ(また空想じゃないのかね)と、私は言われている。だが、私は最近、非常に強い味方を得た。それは(またもや)世界最高の金融の権威の一人であるグリーンスパン元米連銀議長だ。彼は2月26日、米CNBCのインタビューで「実際の米経済の需要の状況は非常に悪い。(1930年代の)大恐慌の最悪の時期(後期)と同じぐらいだ(株価はこの異様な悪さを全く反映していない)」「実経済が非常に悪いことから考えて、雇用はそれ(喧伝されている状況)ほど良くない」「前四半期の米経済の成長率が年率2%と発表されたが、実際はそれより低いかもしれない」「(QEで投資用の資金が巨額にあるのに)長期的な資本投資が行われていないことが最大の問題」「今後金利が上がると、金融危機が再燃するかも」などと語った。 (Greenspan: Effective demand as weak as during Depression) (Greenspan: "The Stock Market Is Great", But The Economy Feels Like In "The Late Stages Of The Great Depression"

 この発言は、連銀のイエレン現議長が米議会証言で経済が改善していると発言したのと前後して発せられており、イエレンがウソを言っていることを示唆している。グリーンスパンはまた、別のインタビューで、連銀がQEによって深刻な問題を抱えており、この状態を終わらせるには大きな金融崩壊(significant market event)を経るしかないとも述べている。 (Alan Greenspan Warns: There Will Be a "Significant Market Event... Something Big Is Going To Happen"

 グリスパは今年に入って、ドルをいずれ紙切れになりかねない「幽霊通貨」と呼び捨て、ドル崩壊の反動として金地金高騰(金本位制への移行)があり得ることも指摘した。これらの指摘は、私や、私が参考にしている米欧の非主流の分析者たちが指摘してきたこととだいたい同じだ。 (陰謀論者になったグリーンスパン) (金融危機を予測するざわめき

 グリスパの話を私なりに補足して語ると、以下のようになる。巨額資金を金融市場に注入するQE(量的緩和策)は、リーマン危機で破綻した米国中心の債券金融システムを延命するために行われている(昨年末から、QEの中心は米連銀から日本銀行に移っている。3月からいやいやながらEUも加わる)。債券市場はQEの注入資金以外に大きな買い手がなく、QEをやめると金利が高騰し、金融システムが再崩壊する。金融市場は植物人間の状態で、QEは生命維持装置だ。 (米国と心中したい日本のQE拡大) (逆説のアベノミクス

 QEは、プラスとマイナスの副産物を生んでいる。株価上昇や、国債金利の低下(政府利払いの減少)は、政府を助ける方向のプラスの副産物だ。当局は金融界が持つ(不良)債券を買い、金融界はその代金収入で株を買って株価をつり上げ、マスコミが「株高は景気回復の証拠だ」と喧伝する。これがQEをめぐる談合のルールだろう。(国債金利の上昇を防ぐため、米政府はQEだけで足りないので、長期的な経済成長に必要なインフラ投資を大きく引き締め、国債発行・財政赤字を減らしている。グリスパが問題にした「長期投資の不在」の一因はこれだ) (Quarter of US bridges designated as structurally deficient or functionally obsolete

 QEの副産物のプラス面は短期的な効果しかないが、マイナス面はもっと長期的で大きな悪影響だ。その一つは「QEを持続するために景気の改善を止めておかねばならない」ことだ。米国も日本も、経済の大半(米国の7割、日本の6割)は「製造」でなく「消費」だ。景気を改善したければ、QEで大増刷した資金の一部を一般市民(中産階級と貧困層)に、給与もしくは貸与によって与えると、それが消費に回り経済成長につながる。米国は2000−05年ごろ、本来住宅ローンを借りられない貧困層に「サブプライムローン」を大盤振る舞いで貸与し、住宅関連の消費を拡大して経済成長につなげていた。これをやりすぎて債券バブル崩壊が始まったのだが、少しずつやればこの手の方法は実体経済の改善に効果がある。 (Paul Craig Roberts: Whatever Became of Economists (and the American Economy)?

 今はこうした実体経済の回復が行われていない。昨今のQEは、おそらく金融界から外(実体経済)に資金が出ないようにする行政指導をともなっている。QEの資金が実体経済に回って経済成長を引き起こすと、デフレが解消されてインフレ気味になり、目標が達成された中央銀行は、金融システムへの生命維持装置であるQEをやめねばならなくなる。加えて、インフレに押し上げられて長期金利が上がり、グリスパが指摘した金利上昇時のバブル崩壊が起こりやすくなる。今の債券金融システムはとても脆弱なので、金利上昇時のバブル崩壊の可能性が非常に高い。 (QEするほどデフレと不況になる

 QEの表向きの目的が「景気回復」であることと裏腹に、当局はQEを続けるために景気を回復させないようにしている。景気が全く回復していないことが世間にばれると「QEは効果がないからやめろ」と言われるので、QEの資金で金融界に株式を買わせて株高を演出し、マスコミに「株高だから景気は回復している。QEは効果がある。ただしデフレは解消されないのでQEを続ける必要がある」と書かせている。 (Is The Bank Of Japan 'Managing' US Stocks Today?

 GDPや失業率などの経済統計が改善されないと、景気回復の演出がばれるので、統計上失業者でない半失業者や求職活動停止者を増やすなど、統計を歪曲・粉飾している。この歪曲は、長期的に経済統計への信用性を落とす悪影響をもたらす。これらの大きなマイナス面を勘案しても、なおQEをやらねばならないと米日の当局は考えているようだ。それだけQEをやめた場合の金融崩壊の程度が大きいと予測されているのだろう。QEをやめたらバブルの大崩壊が起きるということだ。 (経済の歪曲延命策がまだ続く?) (揺らぐ経済指標の信頼性) (米雇用統計の粉飾

 中央銀行は、民間銀行を通じて資金を市中に流入(融資)することができる。なぜ、この通常の方法でなく、中央銀行が直接に債券を買い支えるQEが重視されているかといえば、それは民間銀行に融資をさせると、その資金は実体経済を構成する企業や個人に融資され、消費を拡大させ、経済成長、デフレ解消、インフレ傾向、金利上昇、バブル崩壊懸念の拡大につながるからだ。中央銀行が死に体の債券金融システムを延命させるには、資金の用途を債券の買い支えに限定するQEを実施する必要があった。

 昨年初め、英国の中央銀行の研究者が、QEと民間銀行の関係について興味深い論文を発表している。預金を集めた分を融資するのが民間銀行の仕組みとされてきたが、実はそれが間違いで、以前から民間銀行は中央銀行から好きなだけ通貨を受け取ってそれを融資できる。融資のほぼ全額が、どこかの民間銀行の預金になる。預金が融資になるのでなく、融資が預金になる。民間銀行の融資こそ「資金創造」だと説明するこの論文は、こうした従来型の金融もQEも、中央銀行が無制限に資金を供給する点で同じであり、QEが特に異常・不道徳なわけでないと釈明しようとしている。 (Money Creation in the Modern Economy

 この論文も、前出のグリーンスパンの発言と同様、当局者が語れないQEの実態と合わせて考えると奥が深い。論文は「民間銀行は中央銀行から好きなだけ借りられる。中央銀行が民間銀行の融資を統制する唯一の方法は貸出金利の調整だ」と書いている。中央銀行は、その唯一の金融統制の方法である金利の調整の機能を、金利をゼロの前後に固定してしまうQEによって喪失している。米債券金融システムの崩壊を招きかねないので、米日などの中央銀行は、金利を二度と上げられない(英中銀はすでにQEをやめているが、米日欧のQEの影響を受ける)。金利調整機能の喪失は恒久的だ(QEの終了、つまり金融システムの大崩壊が起きるまで続く)。

「集めた預金の中から融資する」という、厳格でつつましい印象を銀行界に付与してきた神話を破壊することもかまわず、英中銀がこの論文を出した理由は、既存の神話が間違いであることがすでに多くの人に自明の理になっているからだと、この論文を紹介した英ガーディアン紙は書いている。同紙の記事は「英中銀は歴史的に、世界の中央銀行界の先導役者だ。英中銀が言い出す時にはラディカルなことが、その後平凡なことになる」とも書いている。 (The truth is out: money is just an IOU, and the banks are rolling in it

 米連銀は、今年中に利上げしそうな雰囲気を流布しているが、これは、米連銀が利上げできない状態にあることを世間に察知されないようにするための演技だと私は疑っている。米金融システムの脆弱性を考えると、利上げはとても危険な行為だ。もともと粉飾している雇用統計を失業増の方に戻し、景気が急に後退したことにして利上げを見送る、などといったことがあり得る。 (US investors primed for midyear rate rise

 QEによって金利はほぼゼロになり、融資業務で民間銀行が得る利ざやも事実上ゼロになっている。民間銀行が自由に融資できるなら、サブプライムローンのような高リスク融資が増えるはずだが、米日とも銀行は貸し渋りを続けている。利ざやがゼロになったので融資したがらないという説明もできる。QEによるゼロ金利が長引くのは必至だ。それによって、旧来の民間銀行業務のほか、生命保険や年金基金など、利ざやで回ってきた事業のすべてが、いずれ立ちゆかなくなる。英中銀は、要らなくなった旧来の神話を暴露したが、この神話崩壊は、いずれ市民生活に大きな悪影響をもたらす。 (Negative rates to shake up financial system, say experts) (Rates Don't Matter - Liquidity Matters

 各国の中央銀行は、せっせと金地金を貯め込んでいる。通貨(預金)や債券、融資債権などの「紙切れ」は、金利が存在の根幹にあるが、金地金は「野蛮な価値」であり、存在が金利と関係ない。英中銀の論文の題名は「現代経済の価値創造機能について」だが、金地金は「古代経済の価値備蓄機能」である。論文に金地金の話は出てこないが、題名と現状から推測できるのは、現代経済の価値創造機能が失われ、古代経済の価値備蓄機能が復活することだ。いずれ中央銀行界(現代金融システム)に対する世界的な信用失墜が起こり、QEの手法が行き詰まる。中央銀行自身、それを予知しているからこそ「古代金融システム」である金地金を貯め込んでいる。 (Central banks start lying about Gold at once) (This Marked the Beginning of the End for the Central Banking System As We Know It) ("More ominous would be a renewed bull market in Gold reflecting a loss of faith in central banks."

 行き詰まりが起きるとしたら、QEを最も過激にやっている日本銀行(と円)が最初だろう。対米従属に強く固執している日本は、生半可なところでQEをやめず、金融財政が大破綻するまでQEをやりそうだ。超円安や日本国債の金利上昇が起きるかもしれない。日銀がもうQEをやれなくなったら、その前後に米連銀がQEを再開するだろう。EUがどうなるか、米国の無理心中につき合うか、対米従属から上手に離脱できるか、微妙なところだ。カギを握るのはギリシャ発の欧州新革命の行方かもしれない。米国は、自らが財政破綻する前に世界を潰してドルを守ろうと、意図的に世界経済を大混乱させる可能性が大きい。米国はすでに、世界をかなり混乱させている。 (崩れゆく日本経済) (日本経済を自滅にみちびく対米従属) (EU統合加速の発火点になるギリシャ



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