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大戦争になる中東(3)

2006年12月20日  田中 宇

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「アメリカもしくはイスラエルがイランを空爆し、アメリカ・イスラエルの好戦派(ネオコン)同盟と、イランを中心としてイラクのシーア派・レバノンのヒズボラ・パレスチナのハマスなども加わった反米イスラム主義同盟との全面戦争が中東全体を巻き込んで始まる」という予兆は、ここ1−2年間、強弱を繰り返しながら続いているが、最近、アメリカ側がイランと開戦する日が近づいているのではないかと思わせる事態が再び発生している。

 私が今回「何かありそうだ」と思ったきっかけは、12月11日、サウジアラビアの駐米大使だったトルキー・ファイサル王子が、突然駐米大使を辞任してサウジに帰国したことである。辞任理由について、トルキーは自分の側近に「家族とすごす時間をもっと作りたいと考えて、駐米大使を辞めることにした」と発表せよ、と言い残して帰国した。(関連記事

「家族とすごす時間を増やすため」という理由は、米政府の高官が突然不自然に辞任するときに理由として発表されることが多く、マスコミが「何か裏があるのではないか」と勘ぐるケースである。アメリカとサウジでは、家族に対する概念がかなり違うので、この辞任理由はその意味でも非常に奇異で、トルキーが米政界を敵視して発した「最後っ屁」の感じがする。トルキーが駐米大使だったのは1年3カ月間で、前任者のバンダル王子が22年間も駐米大使をやったのと比べて非常に短期間で、その点も変だった。

 トルキーの兄のサウド王子はサウジ政府の外務大臣をしているが、高齢で病気がちなので、兄の後継のトルキーは外相になるために、国王から帰国を命じられたのだという説が出たが、外相就任のための帰国なら「家族とすごす時間を増やすため」と言うはずがない。トルキーはワシントンの米政界の人々と親密になれなかったので無能の烙印を押されて召還されたという説もあるが、トルキーがサウジ王室内で持っている重要な位置から考えると、今回の人事はそんな矮小な話ではない。

▼トルキーとアルカイダ

 トルキー王子は、1977年から2001年の911事件の直前まで25年間、サウジ政府の諜報機関(GID)の長官をしていた。1980年代の10年間、サウジはアメリカのために、アフガニスタンでソ連の占領軍と戦うイスラム主義ゲリラ(ムジャヘディン)を支援しており、多くのサウジ人の若者がアフガンに行き、ゲリラ戦に参加した。トルキーの諜報機関は、アメリカのCIAなどと連携し、ムジャヘディンの世話をしていた。アメリカが敵視するオサマ・ビンラディンは、ムジャヘディンの現場司令官の一人で、トルキーとは何度も会っているはずである。(関連記事

 ソ連がアフガンから撤退して崩壊した後の1990年代、アフガンから帰国したサウジ人の若者は、サウジ国内などでイスラム主義の主張にもとづく反米テロを繰り返したが、トルキーの諜報機関の任務は、彼らを監視し、必要に応じて取り締まることだった。イスラム主義への支持が強まっていたサウジでは、アフガン帰りのテロリストをみだりに検挙することは王室にとって得策ではなく、当局の対応は慎重だった。

 彼らは、911とともに「アルカイダ」として知られるようになったが、911テロ事件の計画を事前に知ったと思われるトルキーは、事件の10日前に突然長官を辞任した。このことから「トルキーは、アルカイダのテロをひそかに支援したのではないか」などと米マスコミに書かれた。(関連記事

 911については、ライス国務長官(当時は大統領補佐官)ら米政府の高官たちも、事前にテロの予兆についてCIAなどから報告を受けたのに無視していたことを、すでに国務省が認めている。ロシアなど各国の諜報機関も、事前に米政府に「近くテロがありそうだ」と連絡しており、有能な各国諜報機関の上層部はみな911のテロ計画を事前に察知していた。トルキーが911の発生を事前に知っていたのは当然で、トルキーはテロリストの一味だという容疑につながるものではない。(関連記事

 むしろトルキーは、テロ事件が起きそうなのに米当局がそれを阻止しないというアメリカ側の謀略の進展を知って、これはサウジに犯人の濡れ衣を着せるつもりだと察知し、急いで辞任した可能性の方が大きい。

 今回のトルキーの辞任で私がまず疑ったのは「911直前のように、間もなく米本土で再び大規模テロが起きることが分かり、トルキーは急に帰国したのではないか」ということだった。この疑念を補強する材料として、イギリス当局が「クリスマスに大規模テロがある」という予測を出していることもある。しかし、その手のテロ警報はすでに無数に出されているものの、実際には何も起こらない状況が続いており、何とも判断しがたい。ロンドンで実際に起きた昨年7月7日の同時多発テロも、アルカイダの策動より、捜査当局の事件後のごまかしの方が目立った。(関連記事

▼サウジ王室の微妙なバランス

 むしろ、アメリカの国際政治系のウェブログ(信憑性は定かではないが、多種多様な推論が存在する点で、国際情勢を自分の頭で分析する際に役立つ)をいくつか読んだ後、私は「サウジ王室の最上層部で、今後も親米的な態度を続けるか、それとも対米従属をやめてイスラム主義を擁立する方向に少しずつ転換するかという議論が激化しており、トルキーはイスラム擁立側を加勢するために帰国したのではないか」と考えるに至った。(関連記事

 サウジアラビアでは1930年代の建国以来、王室がアメリカに石油を売り、アメリカはサウジの近代化や防衛、資金運用など国家運営のすべての面倒を見る、というアメリカに頼った体制が続いていたが、1970年代に中東全域でイスラム主義が強まって以来、サウジ国内では「アメリカに頼るのをやめて、イスラム教に基づいた政治をやるべきだ」というイスラム主義の考え方が強まった。サウジ王室内では、アメリカ(欧米)と石油を軸にした関係強化を図ろうとする親米勢力と、イスラム主義に傾く中東の大衆世論に立脚しようとする親イスラム(反米)勢力が存在し、併存しつつ対立する状況が強まった。

 サウジアラビアにとって、欧米に頼った近代化は建国以来の国是であるが、その一方でイスラム教の中心地メッカを擁する国として、イスラム世界の世論に沿った国家運営をする必要もあり、親米と親イスラムという矛盾しがちな2つの方針のバランスをとることが、王室の統治理念だった。

 1970年代以降、イスラエルの右傾化と、その反動としてのイスラム世界の反米化によって、サウジ王室のバランス戦略の維持は、難しいが、非常に重要な課題となった。トルキー王子は親イスラム勢力とのつながりが深かったが、彼とは対照的に、トルキーの前任の駐米大使だったバンダル王子は、親米勢力の代表格だった。

 22年間も駐米大使を続けたバンダルは、アメリカの石油王であるブッシュ家とも非常に仲の良い関係で、ブッシュ家の人々から身内意識を込めて「バンダル・ブッシュ」と呼ばれ、それが愛称として定着したほどだ。ブッシュ大統領は、2003年のイラク侵攻の決意を、パウエル国務長官より先にバンダルに伝えたと報じられている。バンダルは、チェイニー副大統領とも長く家族づきあいをしている。(関連記事

▼チェイニーのサウジ訪問の意味は?

 1990年代後半に「イスラム主義は反米テロリストだ」という考え方が、ネオコンによってイスラエルからアメリカに移入され、2001年の911事件によってこの傾向が確立された。しかし03年のイラク侵攻とその後の占領の泥沼化を通じて、中東全域で反米感情と親イラン(シーア派)・親ハマス(スンニ派)などの親イスラム感情が高まり、形勢は再び逆転した。

 そんな中、さる11月25日、アメリカのチェイニー副大統領がサウジアラビアを訪問した。訪問の目的は、ブッシュ政権の中東政策を立て直すため、サウジ王室に、イラクのスンニ派ゲリラを抑制するとともに、パレスチナとレバノンで強まる反米親イランの世論を抑制する役割を果たしてほしいと要請することだったと報じられている。同時期にブッシュ大統領はヨルダンを訪問し、イラクのマリキ首相らと会談した。(関連記事

 しかしブッシュとチェイニーの中東訪問は、イラクやパレスチナなどの中東情勢に何の改善ももたらさず、アラブ諸国のマスコミは「ブッシュとチェイニーは何をしに来たのか」といぶかる論説記事を載せた。

 最近、ワシントン発のウェブログに出ている指摘は「チェイニーのサウジ訪問の最大の目的は、近くアメリカはイランを攻撃して戦争になるので、その際にサウジはアメリカへの支持を表明してほしいと王室に要請することだった」というものである。サウジ王室の中でも親米派のバンダル王子の勢力は、このチェイニーの要請を受け入れるべきだと主張し「サウジは、エジプトやヨルダン、クウェートなどを誘ってスンニ派アラブの親米連合を作り、アメリカと協調し、イスラエルとも仲直りして、イランとシーア派勢力の台頭に対抗する」という戦略を採りたがった。(関連記事

 バンダルは、すでに書いたように、2003年のイラク侵攻の際にも、早くから侵攻計画についてホワイトハウスから情報をもらっていた。これからアメリカがイランと戦争する気なら、バンダルと長いつき合いの好戦派のチェイニーがサウジ訪問の際に、バンダルに侵攻計画を伝え、サウジ王室内に根回ししてほしいと要請することは十分ありうる。

▼親米派と反米派が対峙するサウジ王室

 バンダルは、アブドルアジズ皇太子の息子で、サウジ政府の安全保障政策の責任者をしており、大きな権限を持っている。だが王室内には「サウジ国内や他のアラブ諸国では、アメリカのやり方に激怒して反米感情を募らせるイスラム主義系の世論に満ちている。これ以上アメリカの方針に従い続けると、サウジ王室の存続そのものが危ない」と懸念する声が多い。

 スンニ派のサウジが、アメリカとイスラエルのためにシーア派のイランと戦ってくれて、スンニとシーアの両方が疲弊することは、イスラエルの敵が同士討ちして弱体化することになる。アメリカの好戦派とイスラエルにとっては結構な話であるが、サウジがそんな策略に乗せられるとしたら間抜けである。

 バンダルがチェイニーに乗せられてサウジを自滅に導くことを懸念したアブドラ国王は、反米親イスラム系のトルキー王子をワシントンから帰国させ、対米従属派のバンダル派と論争させ、王室内外の世論形成の様子を見ることにしたというのが、私がありそうだと思った裏の展開である。

(サウジ王室は1970年代に宮廷内紛の話が外部に漏れて権威を失墜しかけた経験があり、その教訓から、宮廷内の事情を秘密にする強いメカニズムがある。トルキー王子の帰国の真の理由は、今後も確定しない可能性が大きい)

 最近の世論調査によると、サウジアラビア国民の9割が、イラクとパレスチナの情勢を見てアメリカへの反感を強めたと答えている。ブッシュ政権は最近、イラクへの兵力増強を内定したが、パウエル元国務長官ら米軍関係者や、イラクの政治家のほぼ全員が、兵力増強はイラクの事態を改善しないと懸念を表明している。イラクが今後さらに不安定化することは必至だ。(関連記事その1その2

 サウジ、ヨルダン、エジプトなどのアラブの親米政権にとって、これ以上アメリカについていくことは、自分たちの滅亡につながりかねない。サウジ王室が、自分たちの政治権威を守るため、これまでの対米従属の方針をやめることを検討するのは当然である。

▼本当にイラン攻撃は近いのか

 アメリカとイスラエルの右派は、以前から「イランとの戦争は近い」と言い続け、私を含めて多くの国際政治分析者がそれに振り回されてきた。実際には、イランは侵略されるどころか逆に有利な立場に立っている。(関連記事

 米軍はイラク占領で手一杯で、むしろイラクのシーア派に影響力を持っているイランと仲直りしなければならない状態だ。レバノンではヒズボラ、パレスチナではハマスというイランの傘下にある勢力が台頭して人々の支持を集め、親米勢力を追い詰めている。だからチェイニーがサウジ側に「イラン攻撃が近い」と伝えたというのは、無根拠なでたらめにすぎないと考えることも十分可能である。

 しかし事態をよく見ると、アメリカが直接イランを攻撃して戦争が始まるのではなく、イスラエルがレバノンに再侵攻してそれがシリアとの戦争に拡大し、シリアと同盟関係を結んでいるイランとの戦争に発展し、イランとイスラエルの戦争にアメリカが巻き込まれる可能性は高い。

 アメリカがイラクから敗北的な撤退を余儀なくされるのは、もはや時間の問題である。ブッシュ政権が今やっているいくつかのイラク立て直し策は、いずれも成功する見込みがほとんどない。

 米軍は来年、バグダッドのゲリラを一掃するために、2万人程度の増派を数カ月行うと報じられているが、米軍やその傘下のイラク政府軍は、これまでの蛮行のせいで、イラクの市民から全く信用されておらず全く孤立しているので、ゲリラ一掃には2万ではなく20万人かそれ以上の兵力が必要だ。現場の米軍司令官は、2万人ぐらい増派しても全く意味がなく、むしろイラク人に占領の永続化を感じさせて敵意を煽るので逆効果だと言っている。(関連記事

 またアメリカは、政治的には、シーア派の最大派閥であるサドル師の反米勢力(マフディ軍)を潰すため、シーア派の第2勢力(SCIRI)を率いるハキム師を最近アメリカに呼び、ブッシュが直接会って協力を求めた。今のイラク政府のマリキ首相はシーア派だが、自前の政治勢力を持っていないのでハキムがテコ入れして、サドルに対抗できるようにしてほしいと頼んだのだが、これは全くの愚策である。(関連記事

▼親米派も反米派も親イラン

 1950年代にイラクでイギリスの傀儡の王室が倒れてアラブ・ナショナリズムに基づいた左翼系のバース党政権ができた後、シーア派の聖職者だったサドルの父親は、無神論のアラブ・ナショナリズムを嫌い、シーア派イスラム教に基づいた政治政党(ダワ党)を作る運動を行い、同じくシーア派の聖職者だったハキムの父親がこれに賛同して合流し、2人は同志になった。

 79年に大統領になったバース党のサダム・フセインは、イランのシーア派による同年のイスラム革命に影響されてイラクのシーア派がバース党に立ち向かってくることを恐れてダワ党を大弾圧し、80年にサドルの父は処刑され、ハキムの親子はイランに亡命し、イランとイラクの戦争が激化する中、息子のハキムが82年にイラン政府の肝いりでSCIRIを作り、ダワ党の運動を継続した。今首相をしているマリキも、かつてダワ党員で、サドルやハキムの親子と仲間だった。(関連記事

 つまりサドルもハキムもマリキも、みんなダワ党系で、イランの言うことを聞く人々である。アメリカは占領開始後、反米のサドルを敵視し、反米感情を強めるイラクのシーア派市民が皆サドルを支持してアメリカの手に負えない大勢力になると、今年5月に、ダワ党系の勢力の中でも武装勢力の後ろ盾がないマリキを首相にして、イラク政府軍をマリキの傘下につけてサドルに対抗させてみたが、イラク政府は市民からアメリカの傀儡としか見られず、失敗した。そこでブッシュ政権は仕方なく、シーア派の中でも最もイランとの関係が深いハキムを引っぱり出し、サドルと戦わせようとしている。

 ハキムは、アメリカからカネや武器がもらえるので、ブッシュの要請に応えたが、本気でサドルと戦うとは考えられない。アメリカの戦略を失敗させ、米軍が撤退したら、ハキムとサドルは再結束し、イランとも同盟関係を強化して、反米のイラクができあがるだけである。

 イラク占領がうまくいかないので、アメリカは占領開始直後にいったんは敵視して公職追放した旧バース党勢力の公職復帰を認めた。こうした反米勢力に協力をあおぐ戦略は、アメリカにとって危ない綱渡りだ。アラブ人は裏取引が得意なので、反米各派がシーア・スンニなどの対立軸を越え、アメリカを追い出すことでひそかに結束することを誘発しかねない。(関連記事

▼イランを攻撃するしかなくなるイスラエル

 アメリカがイラクから撤退したら、イスラエルは唯一の後ろ盾を失い、レバノンやパレスチナといった周辺地域の勢力と和解しなければならなくなるが、レバノンではヒズボラ、パレスチナではハマスという、イスラエルを絶対に許さないイスラム主義勢力が主導権を握りつつあり、イスラエルと和解しうるレバノンの親米シニオラ政権と、パレスチナのアッバス大統領は、いずれも風前の灯火である。レバノンもパレスチナも内戦になりそうだが、内戦になったら、確実にイスラム主義勢力が増大し、イスラエルへの敵視が強まる。

 周囲からの敵意が強まる中、アメリカからイラクから撤退せざるを得ない窮状になったら、イスラエルはどう対応するだろうか。ヒズボラとハマスの後ろ盾となっているイランのアハマディネジャド政権に戦争を仕掛け、アメリカを巻き込んでアハマディネジャドを潰してもらうしか手がなくなる。

 しかしこの作戦も、中東の人々をますます反米反イスラエルにするばかりで、アハマディネジャドは死んでも、他の勢力がイスラエルに戦いを挑み、いずれアメリカは中東から完全に手を引き、イスラエルという国は消滅するという、アハマディネジャドが「予告」しているとおりの展開になってしまう。

 イランに戦争を仕掛けるのはイスラエルにとって成功率の低い賭けなので、今のところイスラエルでも戦争を主張しているのは右派だけで、オルメルト政権は好戦的な世論に抵抗している。しかし、おそらくレバノンとパレスチナで親米派が壊滅するのは時間の問題だから、オルメルトが抵抗を続けられるのも時間の問題で、いずれイスラエルはイランに戦争を仕掛けざるを得なくなる。

 チェイニー米副大統領は、今年7月にイスラエルがレバノンに侵攻する際、イスラエルを焚き付けて侵攻を扇動した人である。彼がイランとの戦争を画策するとしたら、それは7月のレバノン戦争の続きとして、イスラエルをイランと戦わせることを意味している。(関連記事

▼アメリカに破られたイスラエルの核のベール

 ブッシュ政権は、親イスラエルのふりをしているが、実際にはイスラエルを追い詰めている。先日、ラムズフェルドの後任として国防長官になるための議会公聴会で証言したロバート・ゲイツ新国防長官は、イスラエルがこれまでひた隠しにしてきた核兵器保有について、さらりと認めてしまった。ゲイツは「イランは、四方をパキスタン、ロシア、イスラエル、ペルシャ湾の米軍という核兵器保有国に囲まれているのだから、核兵器開発したくなるのだろう」と述べ、イスラエルが核保有国であると言ってしまった。(関連記事

 これ以降、イランやアラブ諸国、EUなどは「イランの核開発を問題にするのなら、イスラエルの核保有も問題にすべきだ」と言い出している。イスラエルは、何とか国際社会にイランを制裁させようとあがいているが、まさにその努力を無にするかのように、イスラエル自身の核兵器のベールがアメリカの新国防長官によってはがされてしまった。(関連記事

 この事件と前後して、サウジアラビアを筆頭とするペルシャ湾岸諸国は、イランに対抗して「核の平和利用」を始めると宣言した。この動きは、アメリカが撤退して「核の傘」がもうすぐ外れるかもしれないことへの予防策とも受け取れる。(関連記事

▼ドルの覇権も中東から崩壊するかも

 今後、事態がイランとの戦争に向かった場合、サウジを筆頭とする親米アラブ諸国の政権は、生き残りのために親米から「非米」の方向に転換すると予測されるが、すでにその動きが始まっているふしもある。アメリカのグリーンスパン前連銀総裁は先日、アラブ産油国(OPEC)がドルを売ってユーロや円を買う動きをしているので、これからドルは下落するだろうと述べた。(関連記事

 これまで、アラブ産油国の石油収入は「オイルダラー」としてアメリカの金融市場に還流していたが、それが先細るということである。ドルはすでにあちこちの国の中央銀行から、備蓄通貨として持っておくのは危険だと思われている。中国や日本といった東アジア諸国はドル離れしたがらないが、アラブ産油国は一足先にドル離れを検討しており、湾岸諸国は今後数年かけて自国通貨の対ドルペッグを外すことを検討している。アメリカの通貨覇権の失墜は今後、アラブ産油国のドル売りによって顕在化するかもしれない。(関連記事

 アメリカの世界支配は、中東を皮切りに崩壊していきそうな感じが、しだいに強まっている。アメリカの覇権の崩壊は、日本にとっても国家的な死活問題である。このところ私の記事には中東情勢が多いが、この問題はいずれ日本の国体や日本人の生活に影響を与えることになるかもしれないという点で、私には大変気になっている。



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