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せめて帝国になってほしいアメリカ

2003年12月2日   田中 宇

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 最近、ニオール・ファーガソン(Niall Ferguson)という在米イギリス人の歴史学者に注目している。彼は、大英帝国時代のイギリスや、第一次世界大戦前後のヨーロッパ情勢を主な研究分野としているのだが、これまで常識とされてきた見方をくつがえす新しい歴史分析を行っている。そしてその新しい視点を使い、現在の世界情勢やアメリカのあり方をとらえ直し、斬新な提言をしている。

 たとえば、彼の主張の一つに「アメリカは、隠然とした帝国から、自覚した帝国に変身すべきだ」というのがある。アメリカ人は、自国が「帝国」(empire)であると認めることを強く嫌い、代わりに「覇権」(hegemony)という言い方を好むが、ファーガソンは「今のアメリカはまさに帝国の状態にある。アメリカは帝国であることを認めず、帝国としての義務を果たさず逃げているのではないか」と主張している。(関連記事

 帝国も覇権国も、他国を力で支配することには変わりないが、帝国より覇権国の方が、目的があって他国を支配するという意味が強い。ファーガソンによると、歴史上初めて覇権という言い方が出てきたのは古代ギリシャ時代で、ギリシャにあった都市国家の連合体が東方(今のイラン、トルコ)のペルシャ帝国と戦う際、団結する必要に迫られて、都市国家の中で最強だったアテネが指導的な地位に就くことになり、アテネが他の都市国家を率いる「覇権国」になったのが最初だという。

「18世紀から20世紀初頭にイギリスが大英帝国となったときは、イギリス自体の利益のため他国を支配したのであり、それが帝国のモデルだとしたら、アメリカはそれとは異なる。アメリカは自国のためではなく、世界の民主主義や自由主義を守るために同盟国を率いて戦っているのだから、帝国ではなく覇権国なのだ」というのが大方のアメリカの知識人の考え方である。だがファーガソンは「大英帝国も、世界の自由貿易や自由航行を守るという義務を果たしており、それはイギリスの国益のためと同時に、世界の人々の多くが望んでいたことでもあった」という。

 そして逆に「イギリスは支配した国のインフラ整備や国家建設のために巨額の投資を行っていたが、今のアメリカはイラクやアフガニスタンに対して軍事費以外の資金をあまり投入していない」と彼はアメリカを批判する。

 1870年代から、第一次世界大戦が始まる1914年まで、イギリスは官民合計で自国経済(GDP)の4−5%、多いときには9%もの金を対外投資に回しており、たとえばエジプトの電信網や鉄道は、当時の世界最先端のものだった。植民地経営がうまくいっている限り、これらの投資は高利回りの儲けを出すが、植民地経営をうまくやるためには、地元の人々の不満をある程度取り除く必要があり、世界中で民族主義が高まるにつれ、イギリス人による直接支配をやめて、地元の親英の政治家たちに政府を作らせ、独立させていく間接支配に切り替えた。(関連記事

 これに対して今のアメリカは、新たに直接支配するようになったアフガニスタンとイラクに対し、軍事費(GDPの1−2%)以外に、ほとんど金を出していない。民間投資も、アメリカから世界への投資額の1%しか中東に向かっていない(大半は欧州と東アジア向け)。

▼中東民主化などやる気がない

 人材的にも、今のアメリカは支配した国に自国の人材を投入していないという。かつて大英帝国の時代には、1500万人のイギリス国民が海外植民地で暮らし、植民地経営に貢献していた。今のアメリカは400万人しか海外におらず、しかもほとんどはカナダ、メキシコ、西欧に集中しており、中東には少ない。

 アメリカ政府は「中東を民主化する」といいながら、アラビア語が話せてアラブ情勢に詳しい人々(アラビスト)を積極採用することをやっていない。むしろ逆にアラビストは「親アラブ」とみなされ、911後は冷や飯を食わされたり、下手をするとテロリストの嫌疑を掛けられて逮捕されたりするケースが増えている。イラク復興を主に取り仕切っているのは、アラビストが比較的多い国務省ではなく、アラブを毛嫌いするイスラエル右派を支持する人々(ネオコン)が高官をしている国防総省である。

 私は2000年に妻の留学に同行して米ハーバードで聴講生をしたが、そのとき印象に残った光景がある。中東情勢を教える授業で、ユダヤ教の小さな帽子(キッパ)を頭に乗せた親イスラエルの学生が、毎回教室の前方に陣取り、先生がイスラエルに批判的なことを言わないよう、親アラブになりすぎないよう、にらみを利かせていた。キッパ軍団は、中東情勢を扱うシンポジウム会場にもおり、イスラエル批判やPLO擁護の言説に対し、喧嘩腰で食ってかかっていた。こんな状態では、アラブに対する理解を深め、アラブ人に信頼される現地行政ができる学生を育てる授業を行うのは難しい。

 大英帝国がたくさんの人材を世界に派遣していたことについては「植民地を抑圧する悪い行政をするためだった」と見る人もいるだろう。ところが、現実は必ずしもそうではない。たとえば1917年にイギリスの軍司令官がバグダッドを占領してイラクの植民地化を開始したときの演説と、今年4月にブッシュ大統領がイラク国民に向けてテレビ演説したときの内容は「われわれは、あなた方イラク人に自由と豊かさをもたらすためにやってきた」と強調している点で、ほとんど同じ趣旨のことを言っている。(関連記事

 これに対して以前なら「大英帝国は悪意のある嘘をつくが、アメリカは本当のことを言う国だ」という見方があり得たが、もはやアメリカ政府がたくさんのウソをついて戦争を始めた経緯が見えている現在では、そんな見方をする人はほとんどいないだろう。

「イラクが安定したら、アメリカは資金や人材をイラクに投入し始めるのではないか」と考える人がいるかもしれないが、そうではない。米政府の高官たちは「イラクが安定したらアメリカは引き上げる」と言っているが、現実には、イラクのような多民族国家を民主主義でまとめるには何十年も時間がかかる。そして、イラク人はそれを独力でやらねばならない。多分、失敗するだろう。もし今後イラクが安定したとしても、最初の選挙が終わり、米軍が撤退した後、再び混乱に陥る可能性が大きい。アメリカがイラクを軍事力で民主化したいと本当に思っていたのなら、イラクに多数の軍と行政官を50年ぐらい駐留させるつもりで、あらかじめアラビストを何万人か養成してから侵攻すべきだった。

 間接統治期間を含めると、イギリスは中東地域の要となる場所として1917年から1958年まで40年間イラクを統治し、かなり整った官僚制度を作り、行政能力を持ったイラク人も多く現れたが、イラクは結局安定した国にはならなかった。アメリカが第二次大戦後に支配して成功させた日本やドイツはほぼ単一民族国家で国内社会は安定しており、戦前から選挙も行われ、アメリカの占領下に入る前からある程度の民主主義があり、産業もかなり発達していた。イラクは日独とは全く違う。

 そもそも米国民は、一部の知識層を除き、海外に対する興味が薄い。イラク侵攻に対する米国民の支持の多くは「中東を民主化しよう」という思いからではなく「テロ組織を潰して911のような惨事がないようにしてほしい」という思いから出ている。米当局は、フセインとアルカイダの区別がつかない一般の米国民向けには「フセインとビンラディンはつながっている」というニュースを流すが、実のところ、米政府はフセイン政権とアルカイダが関係しているという証拠を示せず、両者は関係がない可能性が大きい。

 そのため知識層は「フセインとビンラディンはつながってないのでは?」と疑問を抱く。「中東を民主化する」という言い方は、彼ら知識層に対する米政府からの釈明にすぎない。今のアメリカ社会には、中東の民主化に対して本気で協力しようという気風はほとんどない。むしろ中東の人々を嫌う傾向が続いている。

 アメリカは行政面だけでなく軍事面でさえ、イラク関連の出費をケチっていることは、以前の記事「戦争民営化のなれの果て」に書いたとおりだ。イラク戦争に必要な兵力も、米軍の制服組からは「数十万人は必要だ」と開戦前に忠告されていたのに、国防総省のタカ派・ネオコンの高官たちはそれをあえて無視し「5万人程度でできる」と主張し続けた(実際には両者の中間の15万人体制が採られた)。多分、5万人でもフセイン政権を潰すことはできた。だが、その後の状況を見ると、フセイン政権の軍事部隊は地下組織化しただけで半年後にゲリラ戦を激化させ、米軍は15万人いても満足な防御ができていない。ゲリラを鎮圧するには、やはり50万人程度の軍勢が必要だったのである。

 軍の制服組の忠告を無視することで開戦前から分かっていた軍事面での安定化策を怠り、アラブ専門家を活用せず、意図的に何の準備もせずにイラクに侵攻したブッシュ政権のアメリカは「帝国」よりひどい国だといえる。そういう背景をふまえると「アメリカは帝国であることを自覚すべきだ」というファーガソンの主張は、十分に筋が通っている。せめて帝国になってくれ、ということである。

▼イギリスからアメリカに譲渡された「帝位」

 ファーガソンは、大英帝国とアメリカを比較した場合「帝国」も「覇権国」も、ほとんど同じ意味でしかないといっている。アメリカが「帝国」を嫌うのは、大英帝国の植民地だった13州が、独立戦争を経て建国された歴史があるからだ。アメリカは、イギリスよりも高い理想を実現するという目標を掲げて建国され、その後世界各地から集まった移民たちを「アメリカ人」という一つの国民意識でまとめるため、理想の建国理念が重視され続けた。

 そんな理想を掲げるアメリカの本質が変化したのは、二度の大戦を経て大英帝国が衰退し、イギリスが持っていた帝国としての世界支配力を受け継いだからである。

 ファーガソンは「欧州大陸内部の戦争として始まった第一次大戦が激化して世界大戦になったきっかけは、イギリスの参戦だった。イギリスは参戦する必要などなかった。イギリスが参戦しなかったら、欧州大陸はドイツを中心に統合されただろうが、イギリスは帝国の版図や力を弱めることもなかっただろう。イギリスの世論も参戦に賛成していたわけではなかったのに、英政府内にどうしても対独参戦したいと考える勢力がいた。参戦の結果、イギリスはアメリカに頼らないと戦争を終わらせることができなくなった」と分析している。(関連記事

 その後の第二次大戦を経て、イギリスと欧州大陸諸国は、アメリカに頼らねばならない状態にまで落ちぶれた一方、アメリカは二度の大戦の戦争特需によって儲けた。アメリカは、その儲けのごく一部を戦後の欧州復興(マーシャル・プラン)のために贈与して西欧諸国にありがたがられ、さらに冷戦の激化によって西欧は「アメリカに頼らなければソ連に攻め込まれる」と感じる状態になった。アメリカは完全に西欧を支配下に置いた。

 ファーガソンは「イギリスの政治家の多くが、衰退しつつある大英帝国の世界統治の負担をアメリカが受け継いでほしいと考えていた。アメリカの政治家の一部も、それを望んでいた」と分析している。第一次大戦から第二次大戦にかけての期間に、イギリスの「帝国」としての部分が、アメリカに譲渡されたと考えることができる。(米国では、この「帝国の譲渡」という見方を嫌う傾向が強いが、ファーガソンは譲渡が行われた可能性を指摘している)(関連記事

 米国民の多くは建国以来の理想を堅持する「帝国嫌い」だった。アメリカの支配層は自国を「帝国」ではないかたちで帝国化する必要に迫られた。そこで「覇権」という形式が採られたのだと思われるが、第二次大戦後のアメリカが覇権国となる格好の理由となったのが「冷戦」だった。

▼正義を演じるための悪意

 古代ギリシャのアテネの例を見ても分かるように「覇権」は「必要に迫られて(やむを得ず)自国が指導者(盟主)となり、同盟体を一つにまとめる」という行為で「必要なら同盟内の他国に干渉しても良い」という「やむを得ない一時的な帝国化」である。冷戦は「共産主義という反民主主義・反自由主義の悪と戦う正義の戦い」だから、アメリカが覇権国になることは、建国の理念に沿った行いになった。

 1950−60年代には「ソ連はそれほど強い軍事力を持っていないのではないか」「ソ連と交渉して軍縮し、世界を安定させた方が良いのではないか」というような分析が米国内に現れた。それに対して「ソ連は見かけよりたくさんのミサイルを持っており、脅威である」という間違った分析に基づいた主張(ミサイル・ギャップ論)が大統領になる前のケネディら米民主党から出てきた。

 また、キューバで戦争を起こそうとしてCIAが訓練したゲリラ部隊を潜入させて失敗した1961年の「ピッグス湾事件」や、ホワイトハウスが北ベトナムとの戦争を起こすことを目的に、米駆逐艦が北ベトナム軍に攻撃されたという不正確な発表を行って議会に開戦承認を決議させた1964年の「トンキン湾事件」など、米政府(内の一部勢力)は戦争を起こすためにウソをついたり、他国を挑発するための不正な秘密作戦を何回も行った。これは多分「やむを得ず正義の戦争をする覇権国」の体裁を貫くための行為だった。

 この手の「正義の戦争」の体面を作るためのウソや挑発作戦は、第二次大戦前からあった、という見方もできる。1941年に日本の真珠湾攻撃を誘発した背景にも、日本を引っかけるための巧妙なアメリカ外交戦術があった。また、アメリカが中南米と太平洋地域の支配権をスペインから奪った1898年の米西戦争は、キューバの港に停泊していたアメリカの商船「メイン号」の爆発・沈没がきっかけで、アメリカ側は「スペイン側の攻撃で沈没した」としてスペインに宣戦布告したが、爆発の原因はいまだに特定されておらず、宣戦布告は米側の言いがかりに基づいたものだった。

 冷戦後も、アメリカは覇権を維持するための「引っ掛け」作戦を続けている。湾岸戦争の勃発につながるイラクのクウェート侵攻の直前の1990年7月25日、アメリカの在イラク大使だったエイプリル・グラスピーは、イラクのフセイン大統領に会い「われわれは、イラクとクウェート間の国境紛争のようなアラブ諸国間の対立には、口を挟むつもりがない」と伝えている。(国防総省の高官も、同時期に議会に対して同様の証言をしている)(関連記事

 当時、クウェートが対イラク国境付近の油田で採油していることに対し、イラクが「盗掘である」と抗議して国境紛争になっており、これがこじれてイラクはクウェートに侵攻したのだが、グラスピー大使はこの侵攻の直前、フセインに対し「クウェートに侵攻してもアメリカは介入しない」という言質を与えていた。実際には、アメリカはクウェートに侵攻したイラク軍を「侵略者」として徹底的に攻撃し、冷戦後にアメリカが「世界の警察官」になるという新しい覇権体制を「新世界秩序」として確立することを宣言した。フセインは、かつての日本と同様、うかつにもアメリカの引っ掛けに乗せられ、世界的な悪者になった。

 911事件も、米当局が捜査結果をほとんど発表していないので犯行者側の実態が全く分からず、確たることはいえないが、アメリカの覇権維持のための「引っ掛け」(誘発)だった可能性がある。少なくとも、米当局が911当日に通常の防空体制をとっていたら、あのような惨事は起きなかっただろう(テロの進行を防がなかった米軍)。911を契機に、米政府は「テロ戦争」という新しい世界覇権のメカニズムを打ち出した。

 アメリカは「正義」のための覇権体制を維持するために、不正義なことを積み重ねてきた。イラクのフセインや北朝鮮の金正日、ロシアや中国など、人権侵害を批判されている他の「悪者」たちは開き直って悪をやっている感があるが、アメリカは「正義」を演じるために悪いことをやっている。その意味でアメリカは、たちが悪い。フセインや金正日が暴力団的な悪さだとしたら、アメリカは詐欺師とか暴力団を雇う人、悪徳商法的な「巨悪」の悪さである。

▼覇権を自滅させるイラク戦争

 今年のイラク戦争も、この延長線上で起きている。だが、これまでと異なるのは、開戦に至る過程でアメリカが国連や西欧諸国を切り捨ててしまい、覇権の体制を自ら壊してしまったことである。覇権とは「同盟諸国の盟主」であるので、国連や西欧諸国との同盟関係が不可欠のはずだった。国連や西欧(NATO)はアメリカと敵対する勢力ではなく、アメリカの覇権の傘の下にあった。国連のアナン事務総長は、アメリカが非協力的な先代(ブトロス・ガリ)を追いだして据えただけに、アメリカの傀儡色が強かった。ブッシュ政権は、その国連を「歴史的な役割を終えた」などと言って切り捨ててしまった。

 アメリカは、あと数カ月かけて西欧諸国を説得すれば、国連と西欧を傘下に置いたままイラク侵攻できたかもしれない。覇権維持のために戦争するなら、そうすべきだった。その意味で、今回のようなやり方のイラク侵攻は、アメリカにとってやってはいけない愚かな戦争だった。それは開戦前から明白だった。

 ファーグソンは、第一次大戦へのイギリスの参戦は、自滅につながる全くの愚行だったと分析するが、同様にイラク開戦は、アメリカにとってあまりに愚かな行為だった。私は「アメリカは戦争しないのではないか」と思っていた。ぎりぎりのところで「寸止め」するのがアメリカの作戦ではないか、と開戦直前まで思っていた。(イラク侵攻をめぐる迷い

 アメリカをイラク侵攻まで持ち込んだのは、ウォルフォウィッツら国防総省のネオコンの人々だった。彼らが「何が何でもイラクに侵攻する」という姿勢を貫いたのは、アメリカの覇権力を自滅させるためだったのかもしれない。だが、石油利権にとっても、軍事産業にとっても、イスラエルにとっても、アメリカの世界覇権が続いた方が良いはずなのに、何のためにアメリカを自滅させたいのか、その説明がつかない。(ネオコンは左翼からの転向組なので、彼らは実は隠れ極左で、アメリカを壊すことが究極の目的だった、という仮説が成り立つが、にわかには信じがたい)

 テロ戦争がアメリカの覇権の維持拡大に役立つものである一方、イラク戦争は覇権を壊す方向性の行為であるという対比を考えると、米の支配層(中道派)が911を契機にテロ戦争を始めた移行期の不安定さに乗じて、ネオコンがホワイトハウスを一時的に乗っ取り、イラク戦争をやってしまった、と見ることもできる。イラク戦争を「例外」として考える見方である。

 私は開戦時の「寸止め」予測が外れたことにより、一部の人から中傷されたが、私などよりずっと大変な状態になっているのがアメリカ自身である。ファーガソンは「イギリスは大金持ちの債権者として帝国中に投資を行い、その資金力が帝国維持の原動力だった。だがアメリカは逆に巨大な債務を抱え、債務を拡大しながら戦争をしている」と比較する。彼によると、アメリカの国債の購入者は、10年前には8割が他の国々の政府や公的機関で、残りの2割だけが民間の購入者だったが、今では民間購入者が4割に増えている。(関連記事

 債権者が他国の政府なら「うちの国債を売り払ったらどうなるか分かっているのか」と脅して政治的に売却を防げるが、民間投資家に対してはそれができず、市場原理で物事が決まる。アメリカがイラク戦争の泥沼から抜け出せないと、アメリカとドルに対する国際信頼が落ち、米国債が市場で急に売られる日が来るかもしれない。それは「刷るだけの金鉱山」と呼ばれるドル紙幣の神話が崩れるときでもある。

 米国債を大量に買っているのは、日本と中国である。ドルの暴落は、日本にも破壊的な影響を与える。小泉首相が「何が何でもイラクに自衛隊を派遣する」と言っているのは、もしかすると、アメリカがイラク戦争に勝てないという印象が世界に広がってドルが暴落すると日本も破綻するので、それを防ぐための下支えとしてやっているのかもしれない。



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