ドイツ戦争責任の終わり?
2025年2月3日
田中 宇
ドナルド・トランプの事実上の特使として国際言論を使った攻撃(や実験?)を進めるイーロン・マスクが、ドイツ国民に対し、第二次大戦のナチスの戦争責任にもう拘泥するなと勧める発言を放った。マクスは1月25日、ドイツ東部のハレで開かれた右派政党AfDの集会(4千人参加)に動画をつないで画面参加して演説した。
(Elon Musk faces criticism for encouraging Germans to move beyond 'past guilt')
マスクは演説で「(ドイツ人は第二次大戦の)歴史的な罪にこだわりすぎだ。子供たちは、親や祖父母の罪を自分たちの罪として背負うべきでない。過去を乗り越えて未来に向かうべき」とか「ドイツの文化や伝統価値は素晴らしい。誇りに思うべき。(リベラル派や権威筋マスコミが流布する英米系の)多文化主義に希釈されている現状から脱した方が良い」「ドイツの文化を重視するAfDは素晴らしい」といった趣旨を述べた。
(Elon Musk tells Germans to be ‘proud’)
マスクの発言は、これまでのAfDの主張に沿ったもので、AfD支援の一環としてこの演説を放った。
トランプは、米欧を支配するリベラルエリート層と、その元締めとして米覇権を運営してきた米英諜報界の英国系(DS)を潰し、米覇権を解体(して世界を多極化)するために大統領になった。
トランプ名代のマスクは昨年末から、ウクライナ戦争や温暖化やコロナの超愚策などエリートの政策のせいでひどく自滅し、有権者がエリート支配に愛想をつかしたドイツを言論戦場に選び、エリート支配に対抗して出てきたAfDを応援して2月末の選挙で勝たせ、エリート(英国系)の支配を崩そうとしている。
(Musk’s support for AfD ‘disgusting’ - Germany’s Scholz)
マスクの発言はAfD応援が目的だが、それを超えたもっと大きな意味も持っている。ドイツを第二次大戦で敗戦させ、永久戦争犯罪国に仕立てるとともに、米ソ対立を利用してドイツを東西に分割して国力を永久に削ごうとした黒幕は、ドイツを仇敵とみなす英国だった。
英国は、覇権国になる米国も諜報界を作った方が良いと言ってCIAなどを作りつつ入り込んで牛耳り、独日やソ連中国などライバル諸国を抑えつつ、戦後のリベラル米覇権の世界体制を作って支配した。トランプは、この英国系の支配体制を破壊しようとしている。
(トランプ以前に、米諜報界で英国系と暗闘してきた多極派が、イラク戦争やリーマン倒産や温暖化やコロナやウクライナ戦争などで、超愚策を連発して米覇権を自滅させてきた)
(トランプの隠れ多極主義)
この歴史を見ると、マスクがドイツをナチス関連の永久犯罪から解放したがっていることは、それ自体が、トランプ陣営による英国系潰し・多極化策の一つになっている。
英国系は、ナチスだけでなく末代までのドイツ人全部を「極悪」に仕立て、ドイツが悪から脱しようと思ったら末代まで喜んで英国系の傀儡になるしかない状況を作った(多くの独日の人々は喜々として英傀儡になった)。
世界的に、英国系に逆らう者は、軍事だけでなく倫理的に大敗北させられた。真に極悪なのは、こうした歪曲構造を作った英国系自身なのだが、それを指摘するだけで英国系(間抜けなうっかり英傀儡のリベラル派やマスコミ)から「極右」など悪のレッテルを貼られて非難検挙(弾圧)される。
この手の人道主義や人権外交が、戦後の英国系の世界支配(米覇権)を維持してきた。ドイツ(や日本)は、戦後大成功した英支配の初期の犠牲者だった。
(欧州を政権転覆するトランプ陣営)
イーロン・マスクが試み始めた、永久犯罪からのドイツ解放は、英国系による世界支配を破壊する策になっている。
マスクは1月20日のトランプ就任式で挨拶した際、ナチスの敬礼みたいな仕草を繰り返した。ナチス敬礼をすることは欧州のドイツなどで犯罪になるので、マスクの仕草がナチス敬礼だったのかどうか議論になった。
マスクはあの仕草をすることで、AfDを鼓舞すると同時に、ナチスを理由にドイツを恒久傀儡にしてきた英国系を挑発して宣戦布告したのだろう。
(Elon Musk draws scrutiny over arm gesture at post-inauguration rally)
ナチスといえば「ホロコースト」だ。独ハレのAfD集会でのマスク演説は、ホロコースト記念日の2日前に発せられた。イスラエルのホロコースト博物館長(Dani Dayan)はマスクの演説を、ナチスの犠牲になった人々への侮辱だと非難した。
マスクはトランプ陣営の重要人物だ。トランプは稀代の親イスラエルだ。ドイツをナチスの戦争犯罪から解放しようとするマスクの発言は、トランプとイスラエルの関係を悪化させないのか。今のところ、イスラエル政府は何も問題にしていない。むしろ、ネタニヤフの訪米など、イスラエルとトランプの関係は絶好調だ。
(Holocaust museum chief slams Musk’s AfD speech)
「ホロコースト」は、タブーな裏の構図が巨大だ。以前の英国覇権(大英帝国)の強さの秘訣となった英諜報界は、ユダヤ人の商業政治軍事の国際情報ネットワークをコピーして作られた(ユダヤ人によると、旧約聖書をコピーしてコーランが書かれたように。ムスリムは、経典を下賜した神様が同じだから同じ物語になっただけと言っている。「多神教徒」から見ると、笑)。英諜報界のコピーが米諜報界だ。
大英帝国の一部だったユダヤ人は、世界的に民族運動が流行った時、分離独立してイスラエルを作った。
イスラエルは英国に対し、ユダヤのノウハウやネットワークを使って諜報力を強化したのだから使用料を払えと言い出した。英国は、2度の大戦で破産してカネがない。そこで一計を案じた。
(覇権の起源:ユダヤネットワーク)
メディアやジャーナリズムは「真実を報道する」と言って歪曲誇張報道・プロパガンダを流布するが、この詐欺構造を国家機構と連動させて大成功し、英米を大戦に勝たせたのはユダヤ人の功績だ。
戦時の歪曲誇張された報道内容を戦後、そのまま反論不可な「事実」や「歴史」として固定化したのが、ホロコーストや南京大虐殺だった(リベラル全体主義のはしり)。
ホロコーストでは、ナチス政権のドイツ政府がユダヤ人を大量虐殺する「恒久犯罪」を犯したことになっている。ユダヤ人を代表するイスラエル政府は、戦後のドイツ政府に対し、虐殺の賠償金を恒久的に支払わせ続ける権利を得た。
(ホロコーストをめぐる戦い)
南京大虐殺は主に日中間の問題だが、ホロコーストは世界的な大問題に格上げされた。イスラエルはドイツだけでなく、ナチスに寛容だった(と誇張され得る)諸国・諸勢力に対しても、悪のレッテルを貼って賠償まがいの資金や利権を出させる権利を得た。
英国(米諜報界の英国系)は、ホロコーストをすごいものに膨張させることで、イスラエルが資金や利権を得られるようにした。英国系はイスラエルに対し、こうした懐柔策をする一方で、パレスチナ問題を作ってイスラエルに国土分割を強要し、イスラエルの台頭を抑制してきた。
(覇権の暗闘とイスラエル)
ホロコーストは、英国とイスラエルがドイツを踏み台に共存共栄する構図、もしくは英国がライバルであるドイツを潰し続ける策にイスラエルが協力して見返りを得る構図だ。
英国が米覇権を牛耳って世界を安定的に支配していた以前は、この構図が隆々としていた。だがこの四半世紀、米覇権は自滅し続け、トランプの登場で米覇権の自滅と世界多極化の流れが完成の領域に近づいている。
イスラエルは、英国系に追随するのをやめて、トランプと組んで英国系潰しに協力し、その見返りに、トランプの協力を得て、パレスチナを抹消した上でサウジなどアラブ(やイラン)と共存する関係を築き、多極型世界における中東の地域覇権国(の一つ)にのし上がることになった。
(パレスチナ抹消に協力するトランプ)
イスラエルは今後もホロコーストにこだわり続け、否定論を許さない。だがホロコーストの裏にあった英国系との協力関係はすでに放棄し、イスラエルは英国系を潰すトランプと同盟している。
イスラエル自身が、猛烈な大虐殺・人道犯罪であるガザ戦争を展開し、ホロコースト断罪以来の人権外交やリベラル覇権をこれ見よがしに踏みにじっている。
ガザ戦争は実のところ、イーロン・マスクがナチス敬礼の仕草をすることに似た、イスラエルから英国系への挑発・宣戦布告である。マスクとイスラエルは手口が似ている。博物館長がマスクを非難するが、ネタニヤフはトランプとラブラブだ。
(厚顔無恥なイスラエルの成功)
今後AfDが政権に就いたりしたら、ドイツ人は過去の戦争を自分の罪と思わなくなっていくのか??。世界は、ナチスを問題にしなくなるのか??。いや。少なくともロシアとかポーランドなどは、そうならない。
ロシアなどにとって、ホロコーストなど、ドイツを永久に極悪に仕立てて弱体化させておける概念は、ドイツの脅威拡大を防ぐための好都合な話だ。中国にとって南京大虐殺は、日本を弱体化させておける好都合な話だ。
世界が多極化するほど、ロシアや中国の国際政治力は前より大きくなる。ホロコーストや南京大虐殺の構図は英国系が作ったものだが、これから多極化で英国系が衰退した後も、ロシアや中国に引き継がれて今後もずっと続く。
ドイツや日本が、多極型世界の中で「うちも極だぞ」と言いつつ対米自立して好き勝手にやり始めたら、ホロコーストや南京大虐殺を使った抑圧に抵抗できる。
ドイツは、英傀儡のエリートがAfDなど民族派によって一掃されていくと、マスクに勧められたように独自文化を掲げ、欧州という極を主導する国になっていける。
日本はどうか。米覇権が消失していくことへの国家的な準備は、ほとんど行われていないように見える。極になる気がない。以前あった試みは、安倍晋三とともに殺された。
独裁的な官僚機構は、世界が多極化して日本は東アジアの中国覇権下に入るなら、それでもいいやと思っている観がある。「おかみ」が、米国から習近平に替わるだけだ。
となると、南京大虐殺など日本の「戦争犯罪」の「極悪性」は中共主導で維持され、今後もこのままになる。日本の役人マスコミ権威筋は、それで良いらしい。一方で「中国は脅威だ」と対米従属にうそぶきつつ、他方で「いずれ中国に支配されるけど、上司が代わるだけだから、それでいいや」と思っている。
居心地良いけど衰退するばかりの小役人国家。
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