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トランプの隠れ多極主義
2025年1月25日
田中 宇
ドナルド・トランプの米大統領就任から4日経った。就任と同時に大量の大統領令を発し、就任式やダボス会議で演説した。表明・決定された策のうち、違法移民の取り締まり、リベラル諸策の打ち切り、石油ガス開発再開とパリ条約脱退などは、以前から予測されていた。
パナマ運河の奪還、カナダ併合案などの北米主義の発露は、就任前にトランプが表明し始めていた。繰り返しの表明は、トランプが米州主義に本気であることを示している。米州主義は多極化対応の一つだ。
(トランプの米州主義)
国内減税と輸入品への高関税、インフレ対策などの経済政策も、前から言われていた。これらの経済策は、どのくらい効果があるのか不明だ。高関税は、選択的に課されるだろう。目くらましが多いトランプが、関税策をどう運営するかまだ不明だ。
トランプは、米国から世界に対する国際支援を90日間止めて、不要・不正な支援を精査し、取捨選択する策も開始した。継続されているのは、イスラエルとエジプトへの支援だけだ(エジプトが入っているのを、イスラエルの傀儡国だから、とみるべきか、それとも停戦中のガザ支援の拠点国だから、とみるべきか)。
(State Department issues immediate, widespread pause on foreign aid)
(Trump lists perks should Canada become 51st US State)
90日間の停止には、ウクライナへの軍事支援も含まれている。ウクライナは戦闘能力がさらに落ちる。トランプは、これからの百日でウクライナ戦争を終わらせると言っており、それと連動している感じだ。ウクライナ戦争がどうなるかは、表と裏があるので改めて考える。
国際援助の停止は、トランプの覇権放棄・多極化対応策の一つだ。米州主義と合わせ、トランプが明言しない「隠れ多極主義者」であることが見て取れる。
(Trump Cuts Ukraine Aid As State Dept "Totally Went Nuclear" On Foreign Assistance)
(Why Trump's 100% BRICS Tariff Threat Looks Like Bluff)
今回の就任で見えてきた流れの中で、私が最も注目したのは、トランプがこれからプーチンや習近平やモディといった、非米側の諸大国である露中印BRICSの指導者たちに会っていくことだ。
北朝鮮の金正恩にも会って、朝鮮半島問題の解決につなげそうだ(尹錫悦の追い出しはその前哨戦)。ロシアのおかげで北朝鮮はすでに非米側・中露傘下にしっかり組み込まれており、もう戦争はない(政治劇としてのつばぜり合いのみ)。
トランプは首脳外交が好きで、一期目にも、これらの非米反米側の指導者たちと積極的に会っていた。その流れが今後も続く。
(Trump planning early China trip - WSJ)
(韓国戒厳令の裏読み)
前任のバイデンは非米諸国を敵視するだけで、首脳外交を展開しなかった。米覇権がものすごく強く、非米側など取るに足らない存在ならそれで良かったが、現実は、ウクライナ開戦以来、米覇権の低下と非米側の台頭(つまり覇権の多極化)が加速した。バイデンの首脳外交の不存在は、彼の無能、というより認知症のひどさを示していた。
対照的にトランプは、首脳外交が大好きだ。一期目の2017-2021年に比べて多極化が進んだ今、トランプの首脳外交の有効性が大きく増している。
(Nuclear reduction, ending the Ukraine conflict and massive tax cuts: Key takeaways from Donald Trump’s Davos speech)
トランプは非米側を重視する反面、NATOやG7などの米同盟諸国には意地悪で冷たい。イーロン・マスクは独英仏の政権に喧嘩を売り、トランプはカナダを併合するぞと脅している。石破の日本は無視されている(というより日本の側がいないふり戦略)。
G7の中でトランプと仲良くしてもらっているのは、右派政権であるメローニ首相のイタリアだけだ。
メローニは、欧米の既存エリートであるリベラル中道系でなく右派(マスコミ権威筋リベラル・軽信者が言うところの極右)だから、マーラゴのトランプ御殿にも招待され、トランプやマスクと仲良くしている。
(Scholz calls Musk threat to democracy)
(Giorgia Meloni, Donald Trump's new European friend)
メローニや、ハンガリーのオルバン、スロバキアのフィツォといった右派の指導者は、欧州の中でも、トランプと姿勢が同じ方向なので親しくできる。欧米間の今後の友好は、彼らが担いうる。
反対に、英独仏を支配してきたリベラル・中道系の右派と左派のエリート勢力は、トランプ陣営と敵対関係にある。マスクはトランプ当選後、トランプの事実上の代理として、英独などの政権のエリート勢力を非難し続けて喧嘩を売っている。
(欧州を政権転覆するトランプ陣営)
米覇権を運営してきたG7やNATOは、欧州と米国のエリート勢力の組織だった(米国は民主党と、ブッシュ家など共和党の旧主流派)。米諜報界(深奥国家=DS)はその頂点にいて、英諜報界がDSの黒幕だった。
米国のトランプや、イタリアのメローニ(イタリア同胞党)やドイツのAfDやBSW、フランスのルペン派などの右派勢力は、米欧エリート同盟の枠外から出てきた。
だからトランプは、DS民主党マスコミ権威筋リベラル派などのエリート勢力とその傀儡から思い切り攻撃され続けた。メローニらイタリア右派(極右)は本性を隠し、政権取得後もエリート枠内の中道右派であるようなふりをして、排除攻撃されるのを防ごうとしてきた。
(What The Flying F**k Is Going On In Britain?)
今回トランプが返り咲いて米国を握り、米国の民主党系を中心とするリベラルエリート勢力は、ほとんど反撃しないまま急速に弱体化している。
(本質は諜報界内の暗闘であり、ロックフェラーなど昔からいる隠れ多極派が、リベラルなど覇権勢力=英国系に背乗りして、ネオコンから温暖化・コロナ・米選挙不正・違法移民歓迎・覚醒運動や言論統制などリベ全までの、過激で稚拙な超愚策を連発し、意図的にエリート勢力を自滅させた。多極派は、トランプの返り咲きとともにリベラル側が全崩壊するように仕掛け、トランプがやりたい放題にやれるようにした。今後が楽しみ)
(Soros a bigger danger than Musk - Italian PM)
トランプ陣営は米国のエリート退治と同時に、欧州でもエリート退治を始め、2月にはドイツの選挙でAfDが勝ちそうな流れになっている。
これまで英傀儡を装ってきたメローニが本性をあらわし「イーロン・マスクが欧州に内政干渉している」と非難する独英エリートに対し「ジョージ・ソロスだって欧州に内政干渉してきた。ソロスは欧州をダメにしたが、マスクは欧州を良くする」と言い返している。
米国でトランプが勝ち、欧州でAfDやルペンやファラージが勝ちそうなのは、有権者が右傾化したからでなく、既存の左右中道エリートが超愚策を連発し、経済と社会が悪化して、有権者がエリートを見放したからだ。
米欧ともに右派が主流になったら、右派がG7やNATOを継承するのか??。英国系やリベラルの従来エリートが凋落し、右派やトランプ系が新たなエリートになって世界的な米単独覇権体制やDS(諜報界による支配)を維持するのか??。新諜報長官のトルシ・ガバードは、そのために米諜報界を乗っ取るのか??。
(De-Weaponizing The Federal Government)
それらはいずれも、ない。現実の状況として、今すでに、米覇権傘下の領域(NATO+日韓豪など。米国側)よりもBRICSなど非米側の方が、経済や政治の面で強く、安保軍事的にも互角だ。マレーシア首相が「東南アジアへの影響力は米国より中国が強くなった」と宣言するなど、米国側は縮小するばかりだ。
(US Has Lost Ground to China in South-East Asia - Malaysian PM)
米欧の政権を右派が握っても、米国側の縮小は止まらない。そもそも、既存エリートが世界のリベラル化や民主化を標榜して米単独覇権体制を無理やり維持しようとした挙げ句に大失敗して人々の支持を失って下野したから、替わりに右派が与党になっている。
(Tulsi Gabbard vs. the War Party)
理想主義(を使った支配体制)のリベラル派と対照的に、右派はトランプもAfDも現実主義だ。リベラル派は、ソ連やロシアの脅威を扇動して自由主義の名のもとに欧州を英米(DS=諜報界)の支配下に置くためにNATOを維持した。
G7は、ニクソンショック後に弱体化したドルの立て直しという米経済覇権の維持策を、対米従属な日独にやらせるためのドルてこ入れ(為替の協調介入)機関だったG5から発展している(リーマン危機でドルと債券システムがいったん破綻したのでG7は経済面の役目を終えた)。
西側(米国側)が東側(非米側)よりはるかに強かった冷戦時代はNATOが有効だったが、非米側の方が強い今はもう時代遅れだ。世界の過半を占める非米側が、ドルや米金融システムに替わる経済体制をBRICSで構築している今、G7も不適切だ。
(世界のデザインをめぐる200年の暗闘)
米欧で右派が主流になると、非現実的な米単独覇権の維持・復活でなく、それとは逆方向の、現実に沿った、露中BRICS非米側との関係改善、世界が不可逆的に多極型に転換したことの容認、米欧を多極型世界に組み入れる策をやるだろう。
右派がそれをやらないと、米欧は今よりさらに縮小し、いずれ多極化を受け入れねばらない。伊メローニも独AfDも仏ルペンも、親ロシアだ。欧州の右派は、すでに既存の露敵視の米覇権体制を拒否し、多極型世界を受け入れている。
トランプは、表向き既存エリートへの目くらましとして露中敵視の姿勢を維持しつつ、実質的な動きとしてプーチンや習近平やモディとの首脳外交を展開し、多極型世界に対応する。
トランプの対露・対ウクライナ政策は表裏がある。トランプとプーチンは首脳外交を続けながら、部分的な米露対立を続ける。その方がロシアや非米側の結束が続き、多極化が進行するからだ。
(リベラルとトランプ)
プーチンは昨日、2020年の米大統領選挙でトランプが不正に負けさせられたことを指摘した。外国首脳があの選挙不正を指摘するのは初めてだ。プーチンはトランプの味方だ。
米民主党がトランプ排除のため大規模な選挙不正をやっていたことは、これから露呈していく。
(2020 election victory was stolen from Trump - Putin)
(米民主党の選挙不正)
米欧が多極型世界に入るなら、米国と欧州が同盟関係である必要もない。欧州はユーラシア大陸にあり、近隣のロシアや中近東アフリカとの関係が最重要だが、米国はユーラシアから遠く離れた西半球・南北米州にある。欧州と米国は、地政学的な状況が大きく異なっており、国際戦略もかなり違うものになる。
既存の(英傀儡)地政学は、ユーラシア中央部を支配した者が世界を支配するという大間違いな説を立て、米欧や日豪が同盟してユーラシア中央部を取り囲み、中国やロシアと対立する構図を正統なものとして描いてきた。
(選挙不正が繰り返される米国)
英国製の地政学は、米国を無理矢理にユーラシアの国際紛争に縛りつけ、米国が欧州を傘下に入れて露中と対立する冷戦構造を正当化するためのインチキで、米国(諜報界)を黒幕的に支配する英国の発案だ。世の中で地政学と言われているものは、専門家という名の英傀儡が発するウソである。
地政学のウソを看破した上で世界における米国のあり方を再考すると「米国は西半球のことを優先し、ユーラシアのことは二の次で良い」という「米州主義」になる。
(トランプの米州主義と日本)
これが本来のあり方だが、専門家たちはユーラシア争奪論の地政学を振り回して米国を世界覇権に縛りつけ、米国主義に極悪な「孤立主義」のレッテルを貼った。
トランプは、グリーンランド、カナダ、パナマ併合論など米州主義を打ち出す際、たわごと的な「私論」の色彩を出している。既存の世界観がまだ強い現時点で赤裸々にいうと政治的に危ないからだ。
今後、英国や米諜報界が弱体化し、多極型世界の現実を人々が認めざるを得なくなると、米国が北米全体を統合していくトランプの策が受け入れられていく。
(Trump lists perks should Canada become 51st US State)
トランプは2016年に最初に立候補したときから、外交安保の基本政策として「米国第一主義」を掲げ、そのもとでの「強い米国」を希求してきた。米国第一主義は、米州主義につながるので、多極型世界を前提としている。トランプは隠れ多極主義者である。
以前の米国は「隠然な英国第一主義」だったことになる。日本の国是も、対米従属でなく対英従属だ。
(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
英国製のウソを取り除くと、世界は諸大国が仲良く立ち並ぶ多極型の方が安定することに気づく。英国から覇権を譲渡された米国は、第二次大戦後の覇権の機関化として国連を作り、米英仏ソ中(P5)の安保理常任理事国の多極型世界体制を頂点に置いた。
だがその後、英国が米国を巻き込んで冷戦を起こし、多極型体制を破壊した。ニクソンやレーガンが冷戦を壊し、いまトランプが多極型に引き戻す動きを継承している。
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