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リベラルとトランプ

2017年7月15日   田中 宇

 昨秋、米大統領選挙でトランプが勝って以来、米国や欧州などで「トランプ対リベラル」の対立が続いている。「リベラル」は日本語だと自由主義、寛容思想といった感じで、他の宗教や民族に寛容=移民・難民歓迎、人権重視、民主主義信奉=独裁反対(植民地の民族自決に寛容)、男女平等主義、同性愛容認、環境保護重視、自由貿易体制支持などの思想信条を持つ勢力だ。米民主党はリベラル派の政党だし、米国のマスコミの多くはリベラルだ。トランプは、不正入国者であっても移民や難民を歓迎してきた従来の米国の政策に反対で、テロ対策の名目でイスラム諸国からの移民や難民の入国を制限した。

 リベラル派は、トランプが石油パイプラインの敷設や、シェール石油ガス採掘(フラッキング)に関して規制緩和したがり、地球温暖化対策も嫌っているのを見て、環境保護の姿勢がないと非難している。またリベラル派は、トランプがロシアとの関係改善をめざしていることも、人権侵害するプーチンのロシアと仲良くするのはダメだと言っている。ロシア敵視のNATOや、G7は、自由主義諸国の同盟体と言われ、NATOやG7に同調しないトランプは、自由主義の国際社会を拒否する孤立主義者と呼ばれている。トランプがTPPを離脱し、NAFTAを嫌っていることも、自由貿易体制に反対する保護主義と非難されている。 (Blocpolitik

 リベラルと対立するトランプのこれらの姿勢は、すでによく知られており、思想信条の問題としてマスコミなどで解釈されている。だが私は、トランプがリベラルと対立する理由について、思想信条の問題でなく、リベラルが戦後の米国の覇権国としての世界戦略の基本理念であり、トランプは米国が覇権国である世界体制を壊すため、リベラルを敵に回す政策をやっていると考えている。これを説明するにはまず、戦後の米国覇権とリベラルの関係史から見ていく必要がある。 (米国民を裏切るが世界を転換するトランプ

▼英国も帝国も嫌いだったのに、英国と組んで隠然と世界帝国になった戦後の米国

 米国はもともと、覇権国(世界帝国)だった英国の世界支配から、米国自身を含む各地の植民地や諸民族が自立・独立すべきだという理念を掲げて建国された。米国の建国以来のリベラルな姿勢の原点は「英国の世界支配(覇権)からの自立」「帝国からの独立」だった。ニューヨークの「自由の女神」は、米国の独立100周年を記念してフランスが米国に寄贈したものだが、あの女神像が称賛する「自由」は、米国の独立、つまり米国が大英帝国の支配からの「自由」であり、反英国のメッセージが込められている。米国は、リベラルな建国の理念からして、反帝国、反英国、反覇権、内政干渉反対だった。

(「帝国」は、植民地や異民族併合など直接支配によって領土を拡大した国。「覇権国」は、政治的な影響力行使や隠然とした威圧によって影響圏を拡大した国。帝国は直接支配、覇権国は間接支配。近代に入り、世界の各民族がそれぞれの国民国家を持つことが世界的目標・国際資本家からの世界経済の効率改善要求として出された<臣民より国民の方が、すすんで国家のために無償労働する>ため、直接支配の帝国主義が悪いこととされ、代わりに、公式には存在しないことになっている隠善化した覇権主義へと、英国など列強の世界支配がバージョンアップした。第2次大戦後、帝国を自称する国は皆無となり、米国にせよ、最近の中国にせよ、覇権国と呼ばれることすら嫌がっている。覇権でなく、パクスアメリカナ<米国がもたらす平和>と呼べと。よく言うぜ)

 米国のもともとの国家理念は、自国を含むすべての植民地や支配された民族の独立を支援するもので、米国が2度の大戦に参戦した理由(大義名分)も、大戦後に植民地独立や諸民族自決が実現する世界を作る「世界民主化」のためだった。第1次大戦後の国際連盟と、第2次大戦後の国際連合は、いずれも米国の発案や主導で作られている。確かに、第2次大戦後、帝国主義は一掃され、全世界の諸国が独立して国民国家になった。その面で、米国はリベラルな目標を達成できた。第2次大戦で、敗戦国は日独伊という「全体主義で悪の帝国な枢軸諸国」とレッテル貼りされ、戦勝国は覇権や帝国主義と無縁な「民主主義でリベラルな同盟諸国」として喧伝された(勝てば官軍)。

 米国は、建国以来のリベラル理念が反覇権、反英国だった。それなのに米国は第2次大戦後、覇権を英国から譲り受けて単独覇権国となった。その理由は、米国が戦後の「世界民主化」の主導役をこなすために、英国の覇権(帝国)運営技能を必要としたからだった。英国は、自国の技能を売り込んで米国中枢の戦略決定の場に入り込み、第2次大戦で米国内の権限を拡大した軍事部門や諜報界(=軍産複合体)と結託した。英国と軍産は、米国作った「世界民主化体制」の中心にある国連の安保理常任理事国制度(P5、5大国制度)を破壊すべく、ソ連を敵視する喧伝をやって成功し、米ソが軍事的に恒久対立する冷戦構造を作った。この時に使われたのが「ソ連は民主主義でなく共産党の一党独裁で、人権侵害もひどい。経済も自由主義でない。ソ連は敵だ」という、リベラルの考え方だった。

 ソ連との恒久対立は、米国の中枢での軍産複合体の権力を拡大し、軍産英複合体が米国の覇権を運営する事態になった。ソ連と戦うため米英同盟や、米英が支配する軍事同盟NATOが何より大事とされ、自由の女神像が「反英国」の象徴だったことは、きれいに忘れ去られた。ソ連を敵視する好戦的な反共論者が「自由の戦士」ともてはやされた。軍産英の目標は、ソ連を潰すことでなく、自分らの権限を維持できる米ソの恒久対立が目標だったので、ソ連は敵視し封じ込める存在だが潰すべき存在でなかった。米国がソ連を潰せなくなるよう、軍産英は、ソ連のスパイに核兵器開発の情報をわざと漏らした。

 米国は戦後、イランやベトナム、東南アジアや中南米の諸国などに露骨に内政干渉し、いくつもの国で政権転覆を扇動し、ベトナムなどでひどい戦争をしたが、そのほとんどすべてが、共産主義者の影響力を排除するという「冷戦型リベラル」の発想に基づいていた。戦後の米国がやったことは、まるで帝国主義だったが、それらの行為は「一党独裁で人権侵害で危険なソ連や共産主義を封じ込めねばならない」という冷戦型のリベラル思想で正当化されていた。米国の戦後のリベラル思想は、軍産英によって換骨奪胎され、建国時の崇高な理念とは似ても似つかぬ偽善のかたまりになった。人権を重視するリベラル派は本質的に「戦争反対」であるはずなのに、戦後の米国のリベラル派の中で「反戦リベラル」は、ベトナム反戦運動が起きた時期を除き、少数派でしかない。米民主党など、米国のリベラルの主流派は好戦リベラル・リベラル軍産であり「共産主義者やイスラム主義者といった反リベラルな脅威に対抗するために戦争が必要だ」と考えている。 (人権外交の終わり

▼軍産に入り込まれて汚されたリベラル理念を奪還できないリベラル派

 戦後の米国は、誰が大統領や議員になっても、軍産が采配するソ連(ロシア、中国)との恒久対立と、アルカイダやフセイン政権やベトナム共産主義者との無意味な戦争が繰り返されてきた。その点で、戦後の米国の権力構造は「民主主義」ですらなく、軍産英による「隠然独裁体制」だといえる。60年代からイスラエルが米政界・諜報界・軍産内部に入り込んできて、米国は軍産英イスラエルによる隠然独裁体制になった。これは、戦後の日本がずっと「官僚独裁体制」だったのと同じだ。対米従属な日本の官僚機構は、米軍産の傀儡機構である。

 リベラル陣営の米民主党は結局、米国を冷戦構造への幽閉から引っ張り出すことができなかった。ケネディは暗殺されたし、カーターは不発で1期4年のみだった。米国を冷戦から引っ張り出したのは、保守派であるがゆえに軍産(軍人)や英国(保守党)との関係が深い共和党の大統領が、冷戦構造による対立を過剰にやって意図的に破綻させ、失敗したので仕方なく現実主義(リアリスト)の戦略に転換すると言って中国やソ連との敵対を解消してしまう(隠れ多極主義の)策略の方だった。共和党のニクソンは中国と和解し、レーガンはソ連と和解して冷戦を終わらせた。 (ニクソン、レーガン、そしてトランプ

(冷戦終結はリベラル思想のおかげでもある。ソ連が80年代のアフガン占領で弱体化した後に出てきたゴルバチョフは、ソ連も西側のリベラル諸国の仲間入りしたいという「西欧かぶれ」な思考を持っていたので、そこにレーガンが漬け込んで米ソ和解して冷戦を終わらせた。中国共産党も90年代は、リベラルをめざすふりをして、いずれ民主的な選挙を導入するかも、などとやる気もないウソを言い、米国に気に入られようとしていた。リーマン危機後、米国の衰退が加速し、習近平はリベラルのふりをするのを全くやめた)

 冷戦終結後、共和党のパパブッシュや民主党のビルクリントンが軍事産業の縮小をはかったがあまり成功しなかった。軍産は、英国よりもイスラエルと組み、ソ連の代わりに「イスラム」を敵として新たな恒久対立の構図を作ろうとした。90年の湾岸戦争では、イラク軍をクウェートから追い出した米軍が、そのままイラクに侵攻してフセイン政権を倒すシナリオがパパブッシュ政権中枢で取り沙汰されたが却下された。あの時、米軍がイラク領内まで進軍してフセイン打倒までやっていたら、冷戦が終わってすぐ、中東での恒久対立構造が、軍産イスラエルによって構築されただろう。フセイン政権の「罪」も、独裁、人権侵害といった、軍産好みに歪曲されたリベラル思想に基づくものだった。

 結局、ソ連の代わりにイスラムを敵とする恒久対立の「新冷戦」の構造は、湾岸戦争から11年後に起きた自作自演臭の強い911テロ事件によって、一気に立ち上がった。911は軍産のクーデターだったと言える。「テロ戦争(テロとの戦い)」と命名された新冷戦は、人権侵害や独裁体制を作るイスラム勢力を敵として、軍事もしくは諜報謀略による政権転覆によってイスラム世界を強制民主化することを目標としていた。 (仕組まれた9・11

 テロ戦争は、イスラム教徒を強制的にリベラル化(=脱イスラム化、世俗化)する戦略だが、リベラルはもともとキリスト教(プロテスタント)の思想であり、イスラム社会から見ると、リベラル化は「イスラム教徒をキリスト教徒に改宗させようとする敵対的、植民地支配的、十字軍的な動き」に見える。テロ戦争の実際の戦略は、アフガニスタンやアフガニスタンに対する侵略戦争だ。米国で「善行」とみなされた「テロ戦争」を、イスラム社会は「極悪」とみなした。テロ戦争に対する防衛として、多くのイスラム教徒がますます深く信仰に入って原理主義化し、イスラムと米国の戦いが永遠に続く仕掛けになっている点で、テロ戦争は冷戦と同じ構図だった。 (覇権転換の起点911事件を再考する

「全世界の民族運動を支援して帝国を倒し、世界を民主化・自由主義化する」という米国の建国理念が、冷戦時代の「全世界の共産主義を倒し、世界を民主化・自由主義化する」という冷戦リベラル(ネオリベラル)に変質し、911後は「全世界のイスラム主義を倒し、世界を民主化・自由主義化する」というテロ戦争のリベラル主義へとつながった。冷戦もテロ戦争も、米国が実際にやったことは、建国の理念と正反対の、内政干渉・自国の防衛と関係ない帝国的な侵略戦争・政権転覆後の植民地支配的な軍事占領である。ピンポイントでテロリストだけ殺すので人権重視だと国防総省が言うが、実際は誤爆だらけだ。軍産は、米国の国家理念であるリベラル主義を悪用・換骨奪胎しつつ、世界的な軍事覇権と、米国での隠然独裁的な支配体制を維持してきた。 (Twilight of Unipolar American Power

 911テロ戦争は子ブッシュ政権で始まり、その次の民主党オバマ政権は、テロ戦争の構図からの脱却を図った。だがオバマは、米国のリベラルな世界覇権を、歪曲されたテロ戦争型から、建国時の理想主義的な寛容主義(米国とイスラムの再和解)へと戻そうとして、軍産イスラエルに妨害されて不成功に終わった。対米従属な戦後の日本やドイツなど西欧では、リベラルが絶対善だ。国際情勢の現実を知らない人々は、オバマの高邁な理想主義の演説に酔いしれたが、オバマの対イスラム和解策は進展せず、言葉だけに終わった。

 オバマが実際に国際政治上の実績として残したことは、イランに対する濡れ衣の核兵器開発疑惑を解いたことと、シリアにロシア軍を呼び込み、中東覇権をロシアに割譲する形で中東の安定化を図るという、いずれも元祖が共和党の隠れ多極主義的な策略の成果の方だった。リベラルの言葉は「耳ざわり」が良いだけで、もう何十年間も、米国の国際戦略を良い方向に動かしていない。米政界は、リベラルのふりをする軍産に乗っ取られて久しい。オバマ政権がやった民主党軍産リベラル的な極悪な策略の代表は、ウクライナで反政府運動を米諜報界が扇動し、ロシア敵視の極右政権を誕生させ、ウクライナ内戦を引き起こしたことだ。 (危うい米国のウクライナ地政学火遊び

▼リベラル軍産と無節操で偽悪的な喧嘩を公然とやり続け、同盟諸国に愛想を尽かさせて多極化を進めるトランプ

 リベラル派出身のオバマは、軍産に乗っ取られて戦争装置に改造されてしまったリベラルの理念を、もともとの理想主義に引き戻そうとしたが、不成功に終わった。オバマの次に大統領になった今のトランプは、対照的に、リベラルの理念に基づいて行われた諸政策が米国に損害を与えていると主張する、反リベラルな「米国第一主義」を掲げて当選した。トランプは選挙戦で、NATO、TPPやNAFTA、移民難民に寛容な政策、地球温暖化対策など、リベラルの覇権戦略の多くを否定し、リベラル軍産に公然と喧嘩を売りつつ当選した。戦後、リベラル(軍産)の戦略の根幹を否定して当選した大統領はトランプが初めてだった。 (軍産複合体と闘うオバマ

 米政界は軍産支配が強い。大統領になって軍産と戦うやり方として、選挙戦では軍産傀儡のふりをしてマスコミに評価されつつ当選し、その後、しだいに反軍産な本性をあらわしていく策もある。オバマはそっちの感じだったし、ヒラリーも当選したらそうなっていたかもしれない。トランプは、こうした隠然策をとらず、正反対に、最初から公然と軍産に楯突き、リベラルに喧嘩を売りつつ、リベラル軍産に辟易している有権者に支持されて当選した。 (米大統領選と濡れ衣戦争

 昨年の選挙戦当時、911テロ事件から15年が過ぎ、テロ戦争が世界を良くしないことが明確になっていたが、ワシントンDCのエリートの多くはいまだにリベラル軍産の理念に固執しており、米国人の中に、そのような現状を間違っていると考える人が増えていた。トランプは、その状況を活かして当選した。マスコミなどは、トランプがリベラルに喧嘩を売るのは喧嘩好きだからだと報じているが、それは浅はかな見方だ。

 トランプは就任後も、リベラル軍産に公然と喧嘩を売り続けている。その理由として考えられるもうひとつは、リベラル軍産との対立を公然化することで、マスコミや米議会、諜報界などのエスタブリッシュメントがいかに軍産の傀儡であるか、もともとの理想主義な米国のリベラルの理念が、軍産によっていかに換骨奪胎・汚されているかを米国民の前に暴露・顕在化し、怒れる国民による民主主義の力で米国の中枢から軍産を追い出そうとする戦略でないか、ということだ。これは、トランプが就任演説で放った「トランプ革命」と合致している。トランプがツイッターでの発信を続けるのも、マスコミの歪曲報道に対抗し、喧嘩を公然化し続けるためだ。 (トランプ革命の檄文としての就任演説

 トランプは選挙戦で、ロシアと和解したいと表明し、当選後に実行しようとした。だが、軍産の一部である諜報界とマスコミから「トランプ陣営はロシアのスパイだ」とする濡れ衣スキャンダルを起こされ、対露和解は頓挫している。トランプが喧嘩を公然化しているおかげで、こうした経緯の大部分は、米国民の知るところとなり、米国民の多くが「ロシアと対立する必要はない」と考えるようになっている。 (軍産複合体と正攻法で戦うのをやめたトランプのシリア攻撃

 トランプの言動を見ていて感じられるもうひとつのことは「同盟諸国を呆れさせ、米国覇権から遠ざける」策略だ。トランプは、リベラル軍産との喧嘩のやり方が、かなり無節操で、偽悪的だ。しかもトランプは、発言がしばしば右往左往する。これらに関しても「トランプの人間性」に帰する「解説」が席巻している。だが、大統領は個人でなく、側近群とのチームで動いている。トランプは独断の人でなく、側近の意見を聞きたがる。トランプ自身だけでなく側近たちも、無節操で偽悪的で朝令暮改なリベラル軍産との戦い方で良いと考えていることになる。 (Europe May Finally Rethink NATO Costs

 米国は単独覇権国なので、リベラル軍産の考え方や戦略は、米国以外の同盟諸国、NATOや日本、豪州などの諸国でも、国際戦略の基本路線として定着している。冷戦時代、米国の同盟国であり続けるため、同盟諸国は米国のリベラル軍産の考え方を「正しいこと」としてそっくり受容し、米国のコピー・傀儡になる必要があった。その世界体制はテロ戦争でも受け継がれ、今に至っている。 (米国に愛想をつかせない世界

 911後のテロ戦争で、ブッシュ政権の米国は、「フセイン政権が大量破壊兵器を持っている」という開戦事由がウソだった03年のイラク侵攻など、しだいに理不尽な戦略、国際法違反、人権侵害、誤爆などが頻発した。その多くは、戦略としてあまりに稚拙で、未必の故意的な意図的な失敗(隠れ多極主義)の感じがする。こうした米国の稚拙さに、同盟諸国は、傀儡国として見てみぬふりをしようとしたが、米国に対する潜在的な不信感が強まった。次の8年間のオバマはスマートさを好み、前政権の無茶苦茶を受け継がないようにしたが、その次のトランプになって、無茶苦茶さが一気に再来した。 (理不尽な敵視策で覇権放棄を狙うトランプ

 ブッシュ政権は「強制民主化(政権転覆)」「単独覇権主義(同盟国不要論)」など、リベラル軍産的な戦略を過激にやって失敗しただけだったが、トランプはその戦略をバージョンアップし、リベラル軍産の戦略そのものを否定し、就任後、最初のG7やG20のサミットで、ドイツを筆頭とする同盟諸国が「トランプの米国とは一緒にやっていけない」と表明する事態になった。トランプの覇権放棄策、多極化策は成功している。 (Is Trump Pushing Merkel to Create A German Superpower?

 トランプは、イスラエル支持とイラン敵視に関しては、リベラル軍産の戦略を踏襲している。その理由は、イラン敵視の構図を維持することでイスラエルと、サウジなどアラブ諸国を結束・和解させ、イスラエルが米国にとりつかなくても中東の国としてやっていけるようにして、米国の中東覇権を低下させたいからだ。 (イランを共通の敵としてアラブとイスラエルを和解させる

 トランプとリベラル軍産の戦いは、まだしばらく続く。軍産が、テロ戦争に代わる新たな延命策を発し、トランプの覇権放棄策を不成功に終わらせる可能性もあるが、今のところ軍産の新たな延命策は見えてない。トランプが覇権放棄を成功裏に進め、軍産が弱体化したら、大戦前の理想主義リベラルが復活するのかどうかもわからない。トランプとリベラル軍産の戦いの行方が、今後の世界の長期的な展開を決めていくことは確かだ。



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