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金地金高騰の背景
2024年10月16日
田中 宇
金相場が上昇している。もっと早く上がるのが自然だったが、ずっと米連銀や金融界の側から不自然に上昇抑止されてきた。
金地金の価格変動の要因を説明するのは簡単でない。専門家たちの説明は、少し考えると不合理だ。
(操作される金相場)
(A great wealth transfer is underway: How the West lost control of the gold market)
中国印度中東などで金の実需が増えているので値上がりすると言われる。世界的に中央銀行群も買いまくっている。それは10年以上前から言われてきたが、最近の12年間のうち、2011-2019年の8年間、相場は横ばいか下落だった。実需が増えたのに値下がりした。
地政学・国際政治が不安定になると金が上がるとも言われるが、近年最大の地政学的激動だった2022年2月のウクライナ開戦後、金相場は瞬間的に上がっただけで、その後半年以上むしろ下落した。
株安だと資金が金投資に移動して上がると言われる。だが、最近は株高なのに金高だ。米国債金利が下がると金が上がるとも言われる。確かに、ウクライナ開戦から半年間の金下落は金利上昇(QE停止)と連動していたかもしれない。だがその後、最近までの金高騰は金利上昇傾向の中で続いてきた。
(Gold's Bull Market Persists Under The Surface Despite Recent Stagnation)
(The Future Of Gold: Will The Price Surge Continue?)
金相場を考える際、ドル建てだけで考えると、他の通貨に対するドルの強さの変化が混入する。ドル建てのほかに、SDR建てや人民元建ての金価格がどう動いているかも見る必要がある。
(XAU to XDR Chart)
(Gold Priced In Swiss Francs Is Finally Breaking Out)
私が見るところ、2008年のリーマン危機から2019年ごろまでの金相場の主題は「米連銀・金融界による信用取引や先物を使った上昇抑止策」だった。
リーマン危機は、1980年代に米英が作った債券金融システム(米金融覇権体制)の30年の(バブル)膨張の後の大崩壊、ドル崩壊だった。世界経済の大黒柱だったドルや債券が崩壊したのだから、金相場が大幅に高騰するのが自然だった。
金相場はリーマン後、2011年まで高騰したが、その後2019年まで下落と横ばいの傾向が続いた。米連銀と金融界は、QEなどの資金による信用売りで金相場の上昇をずっと抑止していた。
QE資金は、株高や債券高(金利上昇抑止)にも使われた。債券金融システムは崩壊したままなのに、あたかも蘇生したかのように演出され、米金融覇権が延命した。
(やがて破綻するドル)
(Central Bank Gold Buying Through First Half Of 2024 Sets Record)
2019年前後は、覇権運営体である米諜報界を隠れ多極派が牛耳り、新型コロナや温暖化対策、ウクライナ戦争など、過激で稚拙で情報歪曲に満ちた米覇権自滅策・超愚策を連発する「大リセット」を仕込み始めた時期だ。
隠れ多極派は2001年の911事件後、米諜報界で強くなり、米国が中東など世界各地で過激で稚拙な政権転覆・経済制裁・人権外交・強制民主化をやりまくるネオコン系やリベラル全体主義系の要員を米政府中枢に送り込み、米国の覇権を浪費・自滅させてきた。
(金相場抑圧の終わり)
彼らが掲げた「大リセット」は、世界の社会構造を改良方向にリセット(再起動・大転換)する策と公式説明されているが、実のところ「米覇権を自滅させ、多極型・非米的な世界構造へと再起動・大転換する大リセット」である。
この大リセットには、戦後のドル基軸制や、1980年代以来の債券金融システムといった米経済覇権の崩壊が含まれる。リーマン危機が経済面の大リセットの始まりだったことになる。その後QEなどで延命してきたドルや債券の再崩壊は今のところ起きていないが、いずれ起きる。
(金相場引き下げ策の自滅的な終わり)
(ひどくなる大リセット系の嫌がらせ)
リーマン危機後に延命していた米覇権が再崩壊していく流れである大リセットが2019年ごろに仕込まれるのと同時に、金相場は8年間の抑止期を終えて上昇し始めた。
2020年2月ごろからコロナ危機が始まり、欧米を中心に都市閉鎖など、コロナ蔓延を防げないと昔からわかっていて経済自滅にしかならない超愚策が行われ、金相場が高騰した。だが同時に、米欧中銀が経済対策と称してQEを大幅増額し、資金の一部を金相場抑止に注入したため、2021年から再び横ばいになった。
2022年2月、米連銀がQEを終了し、同時期にウクライナが開戦した。2つとも金相場の上昇要因だったが、すぐには上昇に転じず、明確な上昇傾向になったのは2023年後半からだ。
(米英の金相場抑止とロシア)
2023年末から現在まで、金相場が急騰傾向になっているが、その主因は中国の影響力の拡大かもしれない。金相場は、米覇権の黒幕である英国の傘下にあるロンドンのLBMAが決めている。リーマン危機以降の金相場抑止は、主にLBMAで行われてきた。
中国の政権が習近平になって、上海金相場の整備や人民の金保有拡大、一帯一路や中露結束など独自の覇権策をやり出した。英国は、習近平の動きが金相場上昇・ドル基軸低下につながることを防ぐため、2015年に中国銀行など中国の銀行群を権威あるLBMAの会員に招き入れた。
(人民元、金地金と多極化)
中国勢は、世界の金相場を決める不透明な談合体制であるLBMAにとりあえず入ってみた。だが、そこは金相場を不自然・不正に抑制するための機関であり、中国勢は権威獲得と引き換えに、英米による不正な米覇権延命策に加担させられることになった。
ウクライナ開戦後、米国側と非米側の分裂が決定的になり、非米側の雄である中国(というより習近平個人)は、BRICS拡大や国際決済の非ドル化など、対米自立した覇権運営を強化し、米国側を棄てる傾向を強めた。米国側(G7など)も中国敵視を強めた。
そのような中で2023年10月、中国勢がLBMAを離脱した。その後、金相場の上昇が急激になった。
(金本位制の基軸通貨をめざす中国)
日々の世界の金価格を決定するのは引き続き英国・LBMAだ。中国に決定権はない。だが中国が率いる非米側は金地金の現物を猛然と備蓄増加しており、英国が中国を無視してLBMAで金相場の上昇を抑止し続けると、上海など他の市場での金価格にプレミアムがついて、ロンドンの金価格との乖離が激しくなる。
これを容認すると、ロンドン金市場・LBMAの権威と信用が低下し、金相場を決める世界の中心がロンドンから上海に移ってしまいかねない。英国は仕方なく、脱退した中国勢と再交渉し、LBMAの内部でなく外部で金価格決定の談合をやらざるを得なくなった。
(暴かれる金相場の不正操作)
中国勢はLBMAから離脱することで、英米の言いなりになって金相場の抑止に加担させられることをやめ、金価格の決定について英米と対等な発言力を持つようになった。これは、孫子の兵法を習得している中国の作戦勝ちだった。
LBMAは、中国の要求を受け入れるようになり、金相場の抑止力が低下し、上昇傾向が強まった。それが、昨年10月の1オンス1800ドルから現在の2700ドルへの上昇(SDR建てだと1400から2000へ)の裏にある要因だと思われる。
(Central Bank Gold Buying Expected To Remain Hot Over Next Several Years)
(Wall Street raised its gold price expectations one after another: Goldman Sachs 2700, Bank of America 3000, and UBS 4000!)
中共は、人民が不動産や株式でなく金地金で資産を備蓄することを望んでいる。不動産投資は人民の家賃負担を増加させ、貧富格差を広げる。株式は、いずれ米金融が崩壊する時に共倒れになる。金地金なら米金融の崩壊時に高騰する。
人民に地金を買わせるには、金相場が上昇傾向を維持する必要がある。ロンドンでのドル延命を目的にした金相場抑止を中国勢がやめさせるほど、金相場が上昇する。中国の銀行群がLBMAをやめた後、英米が中国に譲歩し、金相場が上昇している。
この分析が正しく、金相場抑止の新たな要因が出てこないなら、金相場は今後もずっと上昇傾向を続ける。
(The Gold Bull Cycle Has Just Begun)
(Gold used to be crushed by moves like this in the 10-year. Not anymore)
金相場はどこまで上がるのか。米銀行界は、今年末に2800-3000ドルになると予測している。そこまでは行きそうだが、その先はわからない。中共は今後の金相場のシナリオを考え、英米側と交渉していると考えられるが、習近平は超秘密主義であり、シナリオは見えてこない。
米国の「金の虫」たちは、5000ドルとか2万6千ドルとか言っているが、そういう威勢の良いことを軽々に言うべきでないと感じる(言うべきでないが、いずれ現実になるかも)。
10年米国債の金利が5%を大きく越えて上昇すると、ドルと債券金融システムの崩壊感が強まる。そうなると、習近平のシナリオに関係なく金相場が高騰する。
('Go For Gold' - Goldman Sachs Raises Precious Metal Price Forecast Amid "Secret Buyers")
(Peter Schiff Exclusive: Gold To $26,000?)
ドルに替わる基軸通貨として、BRICSが考えている共通通貨があり得るが、今後しばらくは単独の通貨でなく、BRICS加盟諸国がそれぞれの(CBDC化した)自国通貨を使って相互決済するシステムしかない。BRICS内部には貿易不均衡があり、多くの歪みが出続ける。使いにくい。
ユーロは、ウクライナ戦争が長引くと崩壊感が強まり、国際的に使い物にならなくなる。全体として、ドルが崩壊すると替わりの丈夫な基軸通貨がない。そうなると、金地金に注目が集まる。だから、いったん高騰した金価格は下がりにくい。
(BRICS共通通貨の遅延)
(GODL! Precious Metal Soars Above $2,400 After Sudden Gap Higher)
公的な金庫などに預けられている金地金の多くは、他に転貸されている。転貸された地金が戻ってこないことが危機時にありうる。今後のドル崩壊時に、預けた地金を返してもらおうとしたら存在してない、という事例が多発する。地金に刻印された番号が、いくつもの証券に印字されている重複も露呈する。地金がほしくなる危機時に限って、どこにも現物がない、という「金地金の売り切れ」が起こる。その分、買えた場合の金価格が高騰する。
(金地金の売り切れが起きる?)
(The Incoming Gold Shortage Nobody Is Talking About)
今回の記事は、私の推測・仮説・見立てがたくさん入っている。予測は外れるかもしれない。これに依存して投資しない方が良い。一応書いておく。
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