まだまだ続くウクライナ戦争
2024年1月2日
田中 宇
私は以前から、ウクライナ戦争が長期化すると指摘してきた。この戦争は、米国側と非米側の世界的な強い分裂状態を作って固定化するために米中枢(諜報界の隠れ多極派。バイデンの大統領府はその配下)がロシアを挑発して起こしたものだ。分裂状態が長引くほど、非米側は露中主導で米覇権に頼らない新世界秩序を完成し、世界が多極化・非米化していく。
米中枢がそんな自滅的なことをするはずない(米中枢に多極派なんかいない)と思う人でも、この戦争が米国側と非米側の強い分裂を引き起こし、長引くほど非米側が強くなることは認めざるを得ない。
(ロシアでなく欧州を潰してる)
そして、この戦争の構図が長引きそうなのも動かぬ事実だ。プーチンが昨春、習近平に「ロシアはこの戦争を5年間以上続ける」と伝えていた、と報じられている。マスコミでは「プーチンは、この戦争で劣勢だけど5年は戦える国力があるから見捨てないでくれと習近平に懇願する意味でこんなことを言った」と解釈されている。
私はそう見ない。プーチンは習近平に「非米側が米国側から隔絶された状態を維持するこの戦争をあと5年以上続けるから、世界を非米化する時間はたくさんある。中露主導で非米化・多極化を思う存分進めて米覇権を潰そう」と持ちかけたのだろう。
(Putin Promised Xi That Russia Will Fight ‘5-Year War’ in Ukraine)
マスコミはロシアが劣勢だと喧伝し続けているが、それ自体が(意図的な)大誤報だ。露軍は楽勝し続けている。米中枢は、傀儡であるウクライナの軍隊に稚拙な戦略をとらせ、米欧が支援した武器弾薬を全力で浪費している。
武器弾薬の在庫一掃は、軍事産業(複合体・覇権維持派)の支持を得るのに好都合だったが、隠れ多極派はそれを稚拙に過剰にやることで、米欧の兵器不足と、ウクライナ敗北と支援の行き詰まりという難局・米覇権低下を生じさせた。。
ロシア軍は、ウクライナが米欧からもらって前線に送り込んだ兵器類を難なく破壊し続け、米欧の兵器庫は空っぽに近い。たとえばドイツには、数時間の戦闘で枯渇する量の武器弾薬しか残っていない。ウクライナ軍は30万人の戦死者を出し、うまく兵器を操れる兵士が急減した。ゼレンスキーは今年、激しい人権侵害の強制的な徴兵をやる気だが、この話も米国側では報じられない。
(Germany’s Bundeswehr not battleworthy beyond several hours’ fight - retired German officer)
(ウクライナで兵器を浪費し尽くし和平を余儀なくされる米国側)
米欧の政府や政界の覇権維持派(隠れ多極派の対極)は、ウクライナがもう勝てないこと、この戦争の構図が長引くと米覇権の衰退と非米化・多極化が加速することに気づいた。それで覇権維持派は、ゼレンスキーを加圧して停戦和平させようとしている。ゼレンスキーが停戦したがらない場合、ウクライナの政権再転覆も視野に入る。
だが、米中枢は隠れ多極派に握られている。ゼレンスキーは、停戦したくなった覇権維持派でなく、対立を恒久化したい多極派の傀儡だ。停戦和平するかも、ゼレンスキーが転覆されるかも、などと喧伝されつつ、それらは具現化しない。
覇権維持派は米国でも(民主党)、欧州でも(左右エリート)、すでに茶番しかやれない腑抜けだ。2024年末になっても、ウクライナ戦争は膠着状態で続いている可能性が高い。
(中露と米国の対立を長期化する)
ウクライナ戦争の構図が続くほど、欧州は、ロシアから石油ガス資源類を輸入しない状態が長くなり、経済の悪化とインフレがひどくなって衰退が進む。
最近はガザ戦争の余波で、イエメンのフーシ派(イラン傘下)が沖合の紅海を航行する米欧系の貨物船を攻撃するようになり、世界的な物流網の要衝である紅海が通行困難になっている。この状況も長引きそうで、この流通の詰まりが世界的なインフレをさらに悪化させる。
(Red Sea crisis runs risks of new inflation)
中露など非米側は、紅海に替わる流通路として、一帯一路やシベリア鉄道。ロシア印度回廊などユーラシア内陸の経路を持つが、中露を敵視する米国側は内陸の貿易路を使えない。フーシ派が起こす紅海危機は、ウクライナ戦争や地球温暖化問題と同様、欧米経済を大打撃する半面、非米側はむしろ結束強化や独自発展につながる。
欧州は経済が悪化し続け、ウクライナの敗北や、移民問題の悪化と相まって人々の不満がつのり、左右エリート(米傀儡)のエスタブ諸政党の人気が急落し、選挙のたびに反移民・非米的・親露的なポピュリスト右派(極右)政党が勢力を強め、政権交代に近づいていく。
(The EU's top diplomat fears right-wing wave)
ウクライナ戦争の構図が続くほど、欧州は反露・米傀儡なエリートの支配が弱まり、親露・非米的な右派の政権が増える。ロシアとしては、ウクライナの戦線を適当に膠着させつつ、ゼレンスキーを生かしておくだけで、欧州が反露から親露に転換していく。だから、ウクライナは停戦和平になりにくい。
北欧のフィンランドは、ロシアとの国境線に8つの出入国地点があるが、昨秋以降、ロシアからフィンランドに入国して亡命申請しようとする中東アフリカ諸国(ケニヤ、モロッコ、パキスタン、ソマリア、シリア、イエメンなど)からの(経済)難民(違法移民)が増え、昨年11月から国境を閉め始め、12月からすべて閉鎖した。
(Finland Will Again Shut Russian Border Over Asylum Seekers)
フィンランド政府によると、難民流入はロシア当局による謀略で、ロシアがフィンランドや欧州の難民危機を悪化させる目的で、自国にいる中東アフリカ系の経済(偽装)難民たちをフィンランド国境に誘導している。露政府は謀略を否定しているが、欧州の難民危機が悪化するとロシアに好都合なのは事実だ。
ロシアとフィンランドとの国境閉鎖は、ウクライナ戦争とは別の、米側と非米側の断絶長期化を象徴する出来事であり、プーチンが狙う非米側の結束や多極化に沿った展開になっている。ロシアの諜報機関が、中央アジアやコーカサス経由で南からロシアに入ってきた経済難民たちをフィンランド国境に誘導した可能性が高い。
(Finland to close all checkpoints along border with Russia Friday - interior minister)
最近の欧州では、米諜報界やジョージ・ソロスに支援されたセルビアの反政府市民運動が、セルビアの親露なブチッチ政権を転覆しようとする騒動も起きている。セルビア人は、民族的にロシア人と近いスラブ系で、多くが親露派だ。セルビアの反政府運動は昔から米傀儡で、ウクライナやグルジアの露敵視・米傀儡の反政府運動とも連動してきた。
(Soros-style “color revolution” attempt in Belgrade falls flat…)
セルビアの動きは一見、欧州でのロシアの影響力を削ごうとする米国側の「合理的」な策略に見える。だが、米欧が素晴らしいものに見えた冷戦直後と異なり、今やセルビア人のほとんどは米国やEUが大嫌いだ。米欧は、東欧やロシア周辺で政権転覆の試みを続け、セルビアに人権侵害の濡れ衣を着せて攻撃してきた。
セルビアの反政府運動は、1990年代にわりと支持されていたが、今ではほとんど支持されていない。活動家の多くは、米国側から資金援助されている「サクラ」だ。そんな状況なのに、米国側はセルビアで反政府運動を起こしている。これはセルビア人の反米親露感情を強めるだけの不合理策だ。ネオコンなど、米中枢の隠れ多極派が扇動している観が強い。ウクライナのマイダン革命もネオコン(ヌーランドら)の仕業だった。
(グルジア(ジョージア)反政府暴動の背景)
今年は米大統領選挙がある。米諜報界・エスタブにけんかを売った覇権放棄屋のトランプが当選し、来年大統領に返り咲いて、エスタブや民主党の覇権維持派との果たし合いを再開する可能性がある(隠れ多極派はトランプを稚拙に過激に敵視してこっそり強化)。
トランプは「大統領に再就任したら24時間以内にウクライナ戦争を終わらせる」と言っている。就任日にプーチンとゼレンスキーに電話し、ウクライナ停戦と和解を目標にした三者会談の枠組みを作る計画らしい。
(What Donald Trump's Ukraine Strategy Could Look Like)
トランプ仲裁の枠組みが成立したら、ウクライナの停戦が実現するかもしれない。だが、そこから米側の対露制裁の解除や、米側と非米側の対立解消までは、さらに距離がある。
トランプがプーチンと和解するとともに、欧州を見捨ててNATOから脱退するなら、それは「米国の非米化」であり、世界は一気に多極型に転換し、米国が極の一つになる「上がり」になりうる。だが、たとえトランプがそれらを決定しても、米国内の覇権維持派はそれを無視した上でトランプに反撃するだろう。激しい政争が続く。
トランプは1期目、プーチンとの劇的な和解を狙ったが、米諜報界・エスタブ側にロシアゲートの濡れ衣を着せられて妨害された。2期目があるなら、再びエスタブ側との熾烈な戦いになる。
(トランプ復権と多極化)
(トランプの返り咲き)
エスタブ側が民主党と協力し、2020、24年に続いて再び猛烈な選挙不正をやってトランプの当選を阻止し、バイデンを(前回同様)不正に再選させる可能性も大きい。トランプは猛烈な人気、バイデンは猛烈な不人気なので、2人の得票差が選挙不正できる範囲を超えて大きくなるとも予測できる。だが民主党側は、そのような予測をさらに超えた猛烈な選挙不正をやってトランプの当選を阻止するかもしれない。
これまでは、エスタブ側がトランプ阻止のために選挙不正を続発しても隠蔽され、米国を破壊するほどの混乱につながらなかった。だが今秋の選挙でさらに猛烈な選挙不正が行われ、不正が露呈して、米国を政治的社会的に破壊・分裂させる流れになるなら、米諜報界の隠れ多極派も不正に協力して米国の自滅を加速したがる。
トランプ当選を前提とした分析を広げるのは、トランプが無事に当選してからにした方が良さそうだ。
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