グルジア(ジョージア)反政府暴動の背景2023年3月10日 田中 宇ロシアの南に隣接するコーカサスの国グルジア(ジョージア)で、資金源の2割以上を外国からもらっている団体(NGO、市民運動など)に「外国の代理勢力」としての登録を義務づける法律案が可決されそうになり、法案に反対するNGOや市民運動の人々らが首都トビリシの議会前などで反政府デモを展開し、火炎瓶を投げたりパトカーをひっくり返すなどの暴動に発展した。2日間のデモと暴動の後、グルジア政府は3月9日に新法案を破棄したが、活動家たちは政府への敵視を続けている。 (As another ex-Soviet state is gripped by violent protests, is a Ukraine-style coup on the cards?) 米国やEUの政府は、活動家たちへの支持を表明し、グルジア政府を批判している。活動家たちは米欧から資金援助されており、まさに新法で登録(米傀儡であることの露呈)を迫られる売国的な勢力だ。今回の事態の本質は、親露的なグルジア政府と、反露で米傀儡なNGO市民運動との対立だ。ウクライナ戦争でロシアと米欧との対立が激しくなる中で、グルジア現政権は、中立を装いつつロシアと親しくしている。米傀儡な活動家たちは政権を転覆したい。 (Opposition besieges Georgian parliament) 冷戦後のグルジアは、親露と反露の間を行ったり来たりしている。米国にたぶらかされると反露になり、それで失敗すると親露に戻るという動きだ。ロシアの南隣の小国グルジアは昔からロシアの影響力が強く、米国に引っ張られる力が弱まると親露が強まる。グルジアは1990年のソ連崩壊で独立し、その直後は親露的だった。だが2001年の911事件から覇権運営を過激化・好戦化した米国は、グルジアの反露親米勢力をテコ入れして2003年にバラ革命を起こし、親露なシュワルナゼ政権を転覆して革命主導者で米傀儡のサーカシビリを大統領につけた。サーカシビリは、米国で台頭した自滅的好戦派のネオコンから影響されて2008年にロシアに無謀な戦争を仕掛けて惨敗した(サーカシビリは米軍が援軍を出してくれると期待して対露開戦したが、米軍は来てくれず裏切られた。EUもNATOも入れてくれなかった)。この失敗の反動で、2012-13年の選挙を経てグルジアの政権は、中立を装いつつ隠然親露な「グルジアの夢」党が取り、現在まで続いている。 (米に乗せられたグルジアの惨敗) 米国がもっと賢く覇権運営していたら、グルジア(など多くの国々)は、中立を装いつつ親米な姿勢をとり、隠然と米国に支援された諸国に対してロシアも手を出せなくなっていただろう。実際の米国は「米国に支援されたければロシア(や中国)を敵視して好戦的な態度を取れ」と諸国に加圧し、加圧をやんわり拒否して中立を貫くことを許さなかった。米国が過激になるほど、諸国は米国を敬遠し、中立を保ちたい諸国は隠然とロシアや中国に接近するしかなくなった。今のグルジアはその一例だ。グルジアは対露自立したかったが、米国を頼るとロシアとの戦争を強要されて自滅させられるので無理だった。欧州も米傀儡に過ぎなかった。(最近連続して書いたように、米国は覇権が嫌いなので、わざと賢くない覇権運営をしている) (さらに進む覇権の多極化) グルジア内政の対立構造は、10年前に隠然親露派が米傀儡反露派を下野させて以来あまり変わっていない。与党と政権は2013年から現在まで「グルジアの夢」が中心だ。政権を転覆してグルジアを親露から反露に引き戻そうとする野党や活動家たちは、サーカシビリを取り巻いていた勢力だ。サーカシビリ自身は、対露敗戦で信用失墜して選挙で敗けて大統領から下野した後、ウクライナに移り、2014年にウクライナ親露政権を倒したマイダン革命に参加し、ウクライナ政府の顧問になった。サーカシビリはその後ウクライナ内政に首を突っ込んで犯罪者扱いされたが、ゼレンスキーに拾われた。グルジアのロシア敵視派は、ゼレンスキーらウクライナ極右勢力とつながっている。両者は米国の好戦派(隠れ多極派)の傀儡として連携している。 2021年秋、ウクライナ軍が国内ロシア系住民を殺す内戦を米諜報界が激化させてロシアを挑発し、米国が2022年春のウクライナ開戦に至る流れを作り出した直後、サーカシビリは戦場になるウクライナから出た方が良いと言われたらしく、グルジアに帰国して現政権に逮捕され、それ以来グルジアの監獄にいる。ゼレンスキーや、グルジアの反政府NGOは、サーカシビリの釈放をグルジア政府に求めたが拒否された。米国側のマスコミは、グルジア当局がサーカシビリを拷問したと(歪曲)報道を流している。米好戦派と傀儡たちは、グルジア政府への敵視を強めている。 グルジア政府はウクライナ開戦後しばらく様子を見ていたが、経済を含めた複合戦争の全体でロシアが優勢になり、米ウクライナ側が不利になっていくのを見て、グルジア国内の敵である米傀儡のNGOに対する反撃を開始した。その一つが今回の、資金源の2割以上を外国からもらっているNGOなどに外国代理勢力としての登録を義務づける法律作りだった。親露なグルジア政府を敵視する米傀儡NGOの多くは、米欧から資金をもらっており、この法律ができると登録を義務づけられ、米国側のスパイ・売国奴であることを露呈させられる。米国は冷戦後の30年近くで総額10億ドルをグルジアのNGO群に支援してきた。当然ながら、グルジアの反政府NGOの活動家たちはこの法律に猛反対し、米欧諸国の政府もグルジア政府を批判し始めた。 (What is Behind the US-Backed Protests in Georgia?) 反政府NGOの背後にいる米諜報界は、2003年にグルジアでシュワルナゼからサーカシビリへの政権転覆を成功させ、2014年にはウクライナで親露から反露への政権転覆も成功させた「実績」がある(米国は、セルビアのミロシェヴィッチも潰したが、ベラルーシのルカシェンコやロシアのプーチンを潰すのは失敗し、広い目で見ると転覆の打率は高くない)。グルジア政府は、油断していると米国とその傀儡たちに政権を転覆されかねないので、とりあえず米傀儡の要求を受け入れて新法を廃案にした。 (ウクライナ民主主義の戦いのウソ) 米傀儡の反政府勢力は、グルジア政府の新法が2012年にロシアが制定した法律と良く似ているので、新法はグルジアをロシアみたいなひどい国にするものだと言って反対している。グルジアの新法がロシアの法律と似ていることは露系メディアも認めている。だが実のところ、そのロシアの法律は、米国が1938年に作った法律をモデルにしている。グルジアの新法のもともとの規範が米国であるなら、新法を「ロシア型の法律だから許されない」と反対することが妥当でなくなり、グルジアのNGOは自分たちが外国の傀儡・売国奴であることを露呈したくないので反対しているだけになる。 (Georgians riot over ‘foreign agent’ law) 米国側のマスコミ権威筋は「グルジア人は皆ロシアが嫌いなので、ロシアの傀儡であるグルジア政府に対する反対運動が強まっている」「グルジア人は、ウクライナの人々が極悪なロシアと果敢に戦い続けるのを見て励まされている」などと喧伝している。そうなのか??。サーカシビリら米傀儡派が、グルジア人のロシア嫌いを悪用して無謀な対露戦争を2008年に起こし、期待した米軍の支援は来ず、EUやNATOもグルジアを入れてあげると言いつつ口だけだった。この時の教訓から、グルジアの有権者たちはロシアの隠然傀儡である「グルジアの夢」党を選挙で勝たせ、サーカシビリを追放して今に至っているのではなかったか。米国側の報道の方が歪曲でないのか。 ウクライナ開戦後「ウクライナ人は皆ロシアが嫌いなので、ゼレンスキー政権のもとで団結してロシアと戦っている」と米国側で喧伝されたが、実のところ、ウクライナ社会は開戦前から親露派と反露派が半々ぐらいずつで、ロシアに近い東部は親露派が多く、ポーランドに近い西部は反露派が多かった。現実策としてロシアとの戦争は馬鹿げていると思う人が大半だった。だから、ウクライナの若者は徴兵を嫌って欧州に逃げていた。米国側マスコミは米諜報界が発信する歪曲情報を鵜呑みにして報道し、欧米市民の大半が歪曲を軽信して経済自滅の馬鹿を見ている。そんな状態なのに、グルジアに関しては米国側の報道を信じるのが正しいのか??。そんなはずはない。 (Ukraine war unleashed similar West-Russia divide in Georgia) 米国側が起こしたウクライナ戦争は、ロシアを優勢にして、米国側を自滅させている。グルジア人が米国側の言いなりになって政権を再転覆してロシア敵視を再開したら、ウクライナのように自滅させられる。大きな流れを見れば、今のグルジア政府の隠然親露策は正しい。現実的な最善策だ。グルジアの人々は、それを知っている。グルジア政府は人々に支持されている。とりあえず米傀儡の反政府運動に譲歩して新法を撤回したが、そのうち折を見て反撃を再開し、米傀儡の売国奴たちを駆逐していくだろう。 穿った見方をすれば、今回の事態は、米国の隠れ多極派が、グルジア政府の親露姿勢を強めさせる目的で、米傀儡勢力を動かして馬鹿な反政府運動を起こさせたのかもしれない。昨年1月、中央アジアのロシアに隣接するカザフスタンで、米諜報界が黒幕な感じの反政府暴動が唐突に発生し、カザフのトカエフ現政権はロシアの助けを借りて鎮圧に成功し、結局それまで対露自立・親米路線の方をうろうろしていたカザフが、ロシアの傘下にがっつり組み込まれることになった。あのカザフの事態と、今回のグルジアの事態は、米国側が画策した政権転覆がロシアの影響力拡大につながりそうな点で似ている。この私の仮説が正しいかどうか、これからのグルジアの展開を見ていくことにする。 (カザフスタン暴動の深層) 今はグルジアだけでなく、ウクライナの南西に隣接するモルドバとの狭間にある沿ドニエストルでも、ウクライナとモルドバ・ルーマニア系が寄ってたかってロシア系が多く親ロシアな沿ドニエストルを潰そうと動き出し、ロシアが沿ドニエストルへの軍事支援を加速しそうな感じになっている。モルドバ(ソ連領モルダビア)の一部だった沿ドニエストルはソ連崩壊後、独立したモルドバ(ルーマニア系が多数派)の一部になることに反対してロシアの一部になりたがり、モルドバから分離独立した。その後、紛争再発防止のため1500人のロシア軍が駐留している。 (A looming crisis in Moldova’s breakaway state) (ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?) ウクライナ開戦後、モルドバはロシア敵視を強め、沿ドニエストルの露軍に撤退を求めて、昨年から駐留露軍の要員交代(ローテーション)を阻止している。これはロシアにとって宣戦布告に近い。先日、沿ドニエストル当局内のモルドバのスパイが沿ドニエストル政府首脳を暗殺しようとして未遂に終わる事件があり、事態が不安定化している。グルジアの事態や中露の結束強化、サウジ外相の露ウクライナ訪問などと合わせ、ロシア側と米国側の複合戦争が新たな展開に入っている観がある。 (Details reported so far about foiled attack on top Transnistria officials)
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