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トランプ復権と多極化
2023年7月15日
田中 宇
来年の米大統領選挙は、トランプが勝って返り咲くか、民主党がまたぞろ選挙不正をやってトランプ勝利を阻止するかの2つの可能性に絞られた観がある。
共和党の候補はトランプで決まりだろう。デサンティスはトランプよりかなり劣勢だ。彼はトランプの副大統領候補になることも否定しており、フロリダ州知事を続けて「次の次」に備える。
共和党は、8月23日にウィスコンシン州で統一候補決定に向けた立候補者どうしの討論会を行うが、ここで明確にトランプをしのぐ議論をする候補が出てこない限り、共和党候補はトランプで決まりだと言われている。トランプは、自分が不利になりそうなら討論会に出ずに優勢を維持する気だ。
(DeSantis Says He Wouldn’t Run as Trump’s Vice President)
(No Matter Who Shows, The Debates Will Bolster Trump)
民主党ではバイデンが続投する意志を変えていない。バイデンは全く不人気だ。党上層部では、別の有力な候補を立てた上でバイデンに再出馬をやめてもらおうとする画策があるそうだ。だが、党上層部が満足できる「他の候補」なんかいない。それに多分バイデンは出馬の意志を変えない。
民主党で最も有力な他の候補はケネディ(RFKジュニア)だ。RFKは、民主党が手がけるウクライナ戦争やコロナワクチンや温暖化対策などの極悪インチキ政策の数々を、インチキだときちんと指摘する人だ。それだけに、党上層部から敵視されている。
(Top Democrats Know Biden Is Not Running For 2nd Term; Report)
近年の民主党の大間違いに失望している支持者が増えており、彼らはRFKを支持していく。RFKは党内の予備選挙で落とされるだろうが、怒ったRFK支持者の何割かは最終的な大統領選でトランプに入れかねない。民主党側がよっぽどの選挙不正をやっても、トランプ勝利を阻止するのは難しくなる。
民主党の草の根に人気なのに党上層部から拒否されたRFKを、トランプが自陣営の副大統領候補として呼び入れる可能性がある。セイモア・ハーシュもそれを指摘している。そうなると、民主党の2割前後がトランプRFK陣営に入れてしまう。民主党が選挙不正をやって勝つ可能性はさらに低くなる。
(National Poll Shows RFK Jr. Tops All Other Politicians In Net Approval-Rating)
(Seymour Hersh Cites Top Party Source Who Suggests Trump COULD SELECT RFK JR. As His RUNNING MATE)
最近バイデン政権の腐敗ぶりがどんどん露呈している。大統領府の中でコカインが発見され、ハンター・バイデンが持ち込んで吸っていた可能性が指摘されているが、FBIの捜査は途中で打ち切られた。
バイデンは、副大統領時代に息子のハンター経由で中国政府筋から選挙資金をこっそり受け取っていた。2016年の大統領選でヒラリー・クリントンがウソのスティール報告書をでっち上げてトランプにロシアのスパイの濡れ衣をかけていたロシアゲートの本質も露呈した。
民主党の上層部はとても腐っている。だが米日のマスコミはほとんど報じない。マスコミも一味だからだ。腐っているのだから、民主党が大規模な選挙不正をやり、報道もされないのは不思議でない。
(Secret Service orders DNA and fingerprint analysis of 'dime-sized' cocaine baggie found in the West Wing)
(Biden Whistleblower Gal Luft: 'I May Have To Live On The Run For the Rest of My Life')
トランプが米大統領に復権した場合、どんな世界戦略を採るのか。彼が繰り返し表明してきたことの一つは、ウクライナ戦争を終わらせることだ。米国がウクライナに兵器や軍資金を送るのをやめたら、ウクライナは戦闘を続けられなくなり、ロシアとの和解を余儀なくされる。
欧州は米国に加圧されて嫌々ながらにウクライナ支援を続けているだけなので、米国が支援をやめたら欧州もやめる。
(Zelensky Slams Trump for Saying He Would End the War in Ukraine)
トランプは一期目の時から、NATOやG7といった米国と同盟諸国が相互に縛り合いつつ覇権を握る、軍産エスタブDS覇権主義的な機構を敵視していた。NATOやG7は、米国が同盟諸国を縛っているように見せて、実は旧覇権国の英国の系統を引く軍産エスタブが独日など同盟諸国を引き連れて新覇権国の米国を縛るための機構だ。
トランプは、米国をこの縛りから解放しようと試み、軍産エスタブと激しい政争になった。ウソで固めたロシアゲートなどが出てきて、最後は選挙不正でトランプが追い出され、軍産エスタブ傀儡のバイデンになった。
(Trump's plan to starve the Deep State is simple: Just stop spending)
トランプは勝ったら、ウクライナ支援をやめるだけでなく、一期目からやりたいと言っていたプーチンとの首脳会談をやるだろう。米露は、敵対関係を解消して和解する。
トランプは1期目の初期に習近平を米国に招待して仲良くしたが、任期の後半には米中の経済分離を強行する中国敵視に変わった。共和党は全体的に中国敵視の傾向だ。
2期目のトランプは、ロシアと和解しつつ中国敵視を続けるのだろうか。それは困難だ。ウクライナ開戦後、ロシアと中国は世界を非米化していく動きで強く結束している。トランプがプーチンに接近したら歓迎されるが、同時にプーチンはトランプに、習近平とも仲良くしてくれと頼む。
(Republican Senators Introduce 'End Endless Wars Act')
トランプは断れない。トランプや共和党の草の根勢力は、戦争を終わらせたい平和主義だ。孤立主義やMAGAは、他人の大陸を攻撃するのを嫌がる平和主義である。他国の悪を退治したがるリベラル派の方が戦争を起こす。
日本でも米国でも、左翼リベラルやマスコミがこぞってウクライナの戦争を称賛し、悪くないロシアを極悪扱いして、謝罪もしないで偉そうにしている。インチキなワクチンを国民に連打させ、ウソの温暖化人為説を強要するのも彼らだ。
(Why Is The Establishment So Scared Of RFK Jr.?)
「トランプは好戦的だ」というのは、彼を敵視する軍産マスコミの歪曲話だ。トランプは軍産マスコミに対して好戦的に喧嘩をするが、それは戦争でなく政治の話だ。
軍産マスコミは戦争を拡大したいのでトランプを敵視してきた。トランプは軍産に加圧されて米軍をシリアに派兵したが、派兵が「極悪」であることを偽悪的に示すために、シリアの油田を占領して石油を盗み出す行為を米軍にやらせた。
トランプが復権して公約どおりウクライナ戦争を終わらせ、ロシアと和解したら、それは米中和解につながり、米中露で世界を支配する「ヤルタ体制」の復活になる。一期目から、その傾向はあった。
(トランプが勝ち「新ヤルタ体制」に)
「米中露で(英欧を外して)世界支配」は、ロックフェラーなど米国の多極主義勢力の「夢の実現」だが、タイミングを合わせてうまくやらないと、78年前の前回のように短命に終わる。
最近の有料記事に書いたように、中露が非米・多極型の世界体制の構築を完成させる前に米英が仲直りしようと言って入ってくると、米英の中にいる軍産エスタブが中露の世界システム作りに協力するふりをして内部から破壊する謀略をやるからだ。
(ドル崩壊しそうでしないのはなぜ?)
78年前のヤルタ体制は、英独が戦争して旧覇権勢力の欧州が徹底的に自滅した状況下で、米国が中露(中ソ)を誘って米中露で世界支配する体制を作ろううとした。それでも英国が冷戦を起こして米国と中ソを仲違いさせた。
今回ヤルタ体制を復活したいのであれば、その前に米国覇権の基盤にあるドルや債券金融システムが崩壊することが必要だろう。それが起こらないまま、ウクライナ戦争を終わりにして米国が中露と和解すると、中露が作りかけている非米側の資源本位制の世界経済システムが、構築途上で米英勢力に侵入されて壊されかねない。
不可逆的なドル崩壊が先に起きるなら、米英のちからが格段に落ちるので、その後で米国が中露と仲直りしても中露の新システムが壊されにくい。中露の新システムの構築にどのくらいの時間がかかるのかも不透明だ。
(Sen. Rand Paul: My colleagues are ‘beating the drums’ for ‘war with China’)
タイミングが悪いと、トランプは中露にとって非米型世界の構築を邪魔するありがた迷惑な存在になりかねない。
米国の上層部には、米英覇権体制を維持したい勢力(英国系・帝国の論理)と、世界を多極化したい勢力(資本の論理)がいて、戦後ずっと暗闘している。バイデンは前者の代理人、トランプは後者の代理人だ。
軍産やネオコンも前者だが、そこに後者のスパイが入り込んで稚拙で過激な好戦策をやって戦争をわざと失敗させることで覇権を自滅させて多極化を推進するという、手の込んだ策略が展開されてきた。
バイデン政権も多極派のスパイにすっかり入り込まれ、ウクライナ戦争をやればやるほど多極化が進んでいる。米上層部の暗闘は多極派が優勢だと推測できる。
(資本の論理と帝国の論理)
(世界帝国から多極化へ)
多極派が優勢なら、トランプの再登場が中露の非米世界構築を邪魔する結果にはしたくない。トランプが再登場するなら、その前に中露の新世界構築が完了するか、ドル崩壊で米英の弱体化が格段に進むか、その両方が起きる。
それらの準備が整っていないなら、民主党がまたぞろ不正をやってトランプの返り咲きを阻止し、バイデンが続投し、米国側と非米側の敵対と、非米側の新世界構築が続く・・・??。いや、トランプが優勢すぎると、民主党が不正をやっても勝てなくなりそうだが・・・。
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