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パレスチナを人権外交ごと潰すイスラエル
2023年12月24日
田中 宇
イスラエルは、パレスチナ人を大量虐殺しつつガザと西岸から追い出してパレスチナの存在そのものを潰そうとしている。それだけでなくイスラエルは、いくら大量虐殺しても米国から制裁されないことを世界に示すことで、米英覇権の基盤の一つだった「人権外交体制」(敵性国に人権侵害の濡れ衣をかけて潰す策)を破壊しつつ、それを「持参金」として米国側から非米側に転向しようとしているように見える。
(Israel Plans For Long War And The Expulsion Of People From Gaza)
(イスラエルの戦争犯罪)
イスラエルをいずれ受け入れる非米諸国は、どこも「口だけ」以上のイスラエル制裁をしたがらず、イスラエルの戦争犯罪を看過黙認している。イスラム世界の「人々」は激怒しているが、「政府」の多くは動きが鈍い。非難はほとんど口だけだ。イランでさえ。
非米側は、イスラエルが人権外交体制=米英覇権を潰している点を隠然と評価しているのでないか(非米側は一枚岩でなく、意思統一してないが)。「人々」はイスラエルに激怒しているが、数年も経てば怒りを忘れる。パレスチナ人は、エジプトやヨルダン(川東岸)に移住したらアラブ人になってしまう。もしくは、ヨルダン川東岸(やシナイ半島?)が新たなパレスチナになる。
(New Jerusalem: US and Israeli solution to the Palestine problem risks a new major war in the region)
これまで中東を不安定にし続ける策略をやり続けてきた英米が衰退するのだから、その後の覇権を握る非米側は、中東を安定させたい。アラブ諸国やイラン、トルコがイスラエルと和解もしくは「冷たい和平」をしないと、中東は安定しない。
ハマスは、イランやトルコと親密だが、同時にこっそりイスラエルとも親密だ。イスラエルは、かつて強かったPLO(アラファト、パレスチナ自治政府)のライバルを作るため、ハマスをテコ入れし続けてきた。
エジプトとヨルダンは、既存の米英傀儡の政権(軍部のシシと、ハーシム家の王政)が続くより、イランやイスラエルが動かせるハマスの政権になった方が、たぶん非米側にとって良いだろう。イスラエルが今後数年がかりでパレスチナ人をエジプトとヨルダンに追い出すと、エジプトもヨルダンも「アラブの春」が再来してハマスの国に転換していく。
(Where did Hamas come from and what does it want?)
ハマスは、ガザの何十倍も広い国土を、エジプトと東岸に得る。イスラエルは、パレスチナ人を西岸ガザから追い出し、ユダヤ人だけの国を作ってシオニズムを完遂できる。非米側は、米英が露イランなどに人権侵害や戦争犯罪の濡れ衣をかけて制裁してきた人権外交体制の終焉を見ることができる。
露中はイスラエルに恩を売ることで、今後の多極型世界に対するユダヤ人の協力を得られる。米諜報界を牛耳った隠れ多極主義者は、ガザ戦争の体制を維持することで、念願の米英覇権自滅と多極化を推進できる。習近平が好きな「ウィンウィンウィン」の状況になっている。
(In midst of Gaza carnage, could outside solidarity spur Hamas to go global?)
ウィンウィン作戦の犠牲者は、イスラエルに空爆されて殺されていく無数のパレスチナ人だ。開戦以来殺されたガザ市民の数は2万人とされているが、そんなわけない。瓦礫の下に10万人ぐらい埋もれている。
もう一つのウィンウィン作戦(露中と米諜報界がこっそり協力して世界を多極化)であるウクライナ戦争でも、30万-40万人のウクライナ男性が米傀儡ゼレンスキーによって徴兵されてロシア軍が簡単に撃ち殺せる前線に配置されて戦死した(兵士以外の市民の死者は数万人か?)。
欧州諸国は、自国に避難・亡命してきたウクライナ人の男たちをウクライナに強制送還し、死地に追いやっている。ウクライナ軍は兵士に自爆攻撃もやらせているが、全く勝てない。ウクライナ軍の作戦を決めているのは米国であり、これは米国の超愚策である。米国側のマスコミ権威筋は、この状況を無視している。
(400,000 Ukrainians Killed In Action Explains A Whole Lot)
(Ukrainian soldiers ordered into ‘suicide missions’ - NYT)
ガザ戦争とウクライナ戦争は、いずれも多極化を進めるために長期化しており、いずれも20万人以上が死に、今後さらに死ぬ。ガザでは市民が殺されており、イスラエルによる戦争犯罪だ。ウクライナで死んでいるのはウクライナ兵士であり、露軍が殺さなければ、ウクライナ軍が露兵士を殺す。
いま起きていることは「大戦代替」だ。以前の覇権転換、つまり2度の世界大戦では、もっと多くの人が死んだ。日本人もたくさん死んだ。80年後の今回の覇権転換は、前回の50-100分の1ぐらいの死者だ。「100分の1でも殺すのはダメなんだよ」とか言ってくる人がいるが、米覇権が凶暴化して覇権転換が必要で、転換には戦争が不可避であるなら、死者は少ない方が良い。
(米露の国際経済システム間の長い対決になる)
イスラエルは、いくらガザ市民を大量殺害しても戦争犯罪に問われない(イランが訴追を提起したが無視されている)。対照的にウクライナ戦争では、ブチャやクラマトルスクなどで、ウクライナ政府が(米英の差し金で)ロシア軍に市民虐殺の濡れ衣をかけ、米国側マスコミが鵜呑み喧伝した。ロシアはやってない戦争犯罪で非難制裁されている。
(市民虐殺の濡れ衣をかけられるロシア)
(濡れ衣をかけられ続けるロシア)
ガザとウクライナの対照性が、米覇権末期の現状を象徴している。無視や歪曲や捏造がひどくなり、人権問題を使って善悪を決めて他国を裁いて覇権を維持する米英のやり方が無効になっていく。
ホロコーストを大量虐殺として誇張捏造して自らの立場を強めたイスラエルが、80年後の今、ホロコースト(誇張捏造)に匹敵する大規模な真の大量虐殺をガザで展開し、それを米欧に無視させている点が、またすごい。ホロコーストやブチャ虐殺を軽信している人々には全く理解不能だろうが。
(ホロコーストをめぐる戦い)
(Russian diplomat points to evidence of Bucha incident being staged)
イスラエルの目的は、西岸とガザからパレスチナ人を追い出してシオニズム(とナクバ)を完遂することだ。西岸とガザ以外は関係ない。私の見立てでは、イスラエルはイランやヒズボラと戦争する気がない。シリアとも、いずれゴラン高原を返還して関係を安定させたい。
イスラエルとヒズボラの本格戦争が間もなく始まる、すでに隠然と始まっているという「予測記事」がイスラエル周辺から繰り返し出てくるが、それらはイスラエルの目的を「米国の敵を全部潰すことだ」と偽装する目くらましだ。
(Officials Say Israel Nearing Full-Scale War Against Hezbollah)
「人権重視・人権外交は、米英覇権の策略などでなく『絶対的な良いこと』だ。中露イランなど非米側が人権外交の体制を潰したいのは、彼らが人権を侵害する悪党だから。多極化や非米化は、人類の悪化や退化だ」と考える人も多いだろう。
そういう人は、この四半世紀の米英の人権外交(や地球環境外交、感染症外交)の大半が、誇張や濡れ衣であることを見落としている。米国側のマスコミは、誇張や濡れ衣に積極的に加担してきた。マスコミ報道だけ見ている人は、延々とプロパガンダを軽信してしまう。
権威や地位がある人ほど、歪曲誇張されたウソを軽信しないと権威や地位を喪失する。社員が軽信を拒否する上場企業は株が下落する。ウソを勘づいてしまうと人生を棒に振る。だれも勘づきたくない。みんな鈍感を強要され、敏感さを自主規制している。日本も欧米も、ソ連や北朝鮮よりひどい事態だが、そのように思うことすら許されてない。現実は、オーウェル1984よりさらにすごい。
(Why You Should Read 1984 (Again))
(ウソや歪曲話を濫造して米欧を自滅させるAI)
米覇権は誇張や濡れ衣ばかりやるようになったから、覇権の多極化が必要になっている。地球温暖化人為説も、コロナの都市閉鎖やワクチンも、ウクライナ戦争のロシア極悪説も、米金融システムの健全性も、すべて誇張と歪曲の産物だ。
もう一段掘り下げると、米覇権が誇張や濡れ衣ばかりやるようになったのは、覇権運営体である米諜報界をネオコンなどの隠れ多極派が牛耳り、覇権自滅策として誇張濡れ衣を多発させたからだ。多極派は、米覇権(米英欧)が世界の経済利権を握り続けているのを壊し、経済成長を抑止され続けてきた途上諸国や新興諸国を抑止から解放して成長させ、世界経済の発展を取り戻すために多極化を推進して成功しつつある、というのが私の見立てだ。
(ニセ現実だらけになった世界)
(どっちが妄想なのか?)
イスラエルはかつてバルフォア宣言で、パレスチナ全体(ヨルダン川の東岸と西岸)にユダヤ人国家を作ることを許された。だが英国は、強大なユダヤ人国家ができると脅威になるので、東岸をハーシム家に渡して(トランス)ヨルダンを建国させ、さらに西岸の西半分にパレスチナ人の新国家を作る「2国式」を国連決議して、イスラエルの国土を4分の1に封じ込めた。
「2国式」は、イスラエルを抑制するための英国の策略だ。「パレスチナ人」という民族的な概念自体が、2国式のイデオロギーの一部だ。2国式を推進する活動家は世界的に反米左翼が多いが、彼らは米英のうっかり傀儡である(誰も気づいていないが。私自身ずっと気づかなかった)。
(イスラエルとロスチャイルドの百年戦争)
(西岸を併合するイスラエル)
イスラエルは、繰り返された中東戦争(イスラエル独立戦争)において、西岸とガザからパレスチナ人を追い出すナクバを完遂してイスラエル建国を完成させたかったが、米英に加圧されてやり切れなかった。その後のオスロ合意で、イスラエル内部の2国式推進者は、英米との対立を避けるために譲歩していったん2国式を受け入れた。だが、それはやっぱりダメだという話になって今がある。
2国式は、ユダヤ人と米英(もしくは、シオニストと反シオニストのユダヤ人どうし)の暗闘だ。中露サウジイランなどの非米諸国は本来、2国式の相克の枠外にいる。アラブ諸国は、もともと英国がアラブ人の土地にするはすだったパレスチナがイスラエル(ユダヤ人)に取られたので怒っていた。
(Israel Found the Hamas Money Machine Years Ago. Nobody Turned It Off)
だが今や、中東の各地を誰のものにするかを決めた英国(英仏)自身が、米国とともに覇権を喪失し、覇権は非米諸国に移ってきている。多極型の極の一つになって自決権を得るアラブ諸国は、2国式に拘泥するかどうか、イスラエルを敵視し続けるかどうかも含め、中東の今後を自由に決められる状況にある。
アラブ諸国が持つ広大な土地からすると、パレスチナ国家(西岸とガザ)はごくわずかだ。その土地にこだわってイスラエルとの対立を続け、中東を不安定なままにするのか。いやむしろ2国式へのこだわりを棄てるか・・。などと思案しているうちに、イスラエルはハマスと組んで勝手にガザ戦争を起こし、ガザを居住不能にしてパレスチナ人をエジプトに追い出し始めている。
(Israel Knew Hamas’s Attack Plan More Than a Year Ago)
アラブの支配層は「しょうがない、イスラエルが2国式を潰して、パレスチナ人がエジプトとヨルダンに追い出されてハマスの国を作るのを看過して、一段落したらイスラエルと和解するしかないな」という話になっている。
中国は昔から2国式にこだわる表明をし続け、今もそれを続けているが、それは米欧がイスラエル支持・ハマス敵視に偏重していてイスラム世界で嫌われているので、それと違う態度をとるという演出だ。プーチンは以前から親イスラエルだ。
米国も、トランプは親イスラエルだ。バイデンの民主党は左派に引きずられて反イスラエルになっている。ユダヤ人は民主党を棄ててトランプに乗り換える傾向が増す。米民主党がひどい選挙不正を繰り返してもトランプが勝ちそうだ。
(How Starbucks fell from favor with pro-Israel and pro-Palestinian activists)
イスラエルを本気で制裁しようとする大きな国がないので、イスラエルはやり放題でずっとガザ戦争を続ける。いずれ西岸でも追い出しを強化し、シオニズムを完遂する。これには10年ぐらいかかる。
途中でドルが崩壊して米覇権が衰退しても、イスラエルはすでに非米側に片足を突っ込んでいるので崩れない。10年間ずっとパレスチナ人が殺され、死にたくない人々が強制移住させられる戦争犯罪が、ナクバの完遂まで続く。大国はどこもこれを止めない。
ここからは落ち穂拾い。10月7日の開戦直前、何者かがイスラエルの株や債券の売り先物を巨額に契約し、開戦直後の株や債券の暴落で大儲けした。ハマスだけでなくイスラエル(や米諜報界)の上層部も、事前にガザ開戦を知っていたはずだから、先物売りが誰の仕業であっても不思議でない。911テロ事件の直前に、米国で株などの売り先物を契約して大儲けした者がいたのと同じ仕掛けだ。
(Right Before Hamas Attacked Someone Shorted Israeli Stocks And Funds)
イスラエルはガザ市街の地下にあるハマスのトンネル網に海水を注入して潰す作戦をやっているが、これはガザ市街の地盤の安定性を損ない、住宅などビル群の再建をますます難しくする。
トンネルに海水を注入されてもハマスは勢力を減退していない。ガザ市街の居住性だけが減退した。ガザ北部の市街地はすでに瓦礫の山で再建は困難だ。ガザ市民はエジプトに移るしかない。
(Pumping Seawater Into Gaza Tunnels Proves 'Successful' But Majority Of Hamas Still Intact: Report)
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