米連銀がQEやめないので実体経済が破綻してるのに株が上がる2022年3月25日 田中 宇
この記事は「米連銀はQEやめてない。それでもドル崩壊するのか?」の続きです 米連銀(FRB)が3月24日に発表した、前日時点の資産総額は9兆0120億ドルで、この1週間で82億ドル増えた。その前の1週間(3/9-3/16)は437億ドルの増加だったので、それよりはかなり増加幅が小さい。だが3週連続の増加であり、連銀がドルを過剰発行してその資金で債券などを買って金融相場をテコ入れするQE策をいまだにこっそりやっていることは確実になった。この1週間の連銀の資産増加の最大の要素は、不動産担保債券(MBS)の170億ドルの増加で、金融界が発行したMBSの購入は以前からの連銀QEの中核部分だ(これで得た資金で金融界が株を買ってつり上げる)。連銀は表向き3月9日にQEをやめたことになっている。だが連銀はその後も平然と、発表せずにQEを続けている。QEが続いているのは、連銀が毎週木曜日にウェブサイトで発表する数字を見れば明らかなのだが、マスコミも、ゼロヘッジなどのオルトメディアもこのことを報じていない。連銀にQE中止を言わせてきた米政界も見てみぬふりをしている。 (Release Date: Thursday, March 24, 2022) (Factors Affecting Reserve Balances - H.4.1) QEは、2008年のリーマン危機から現在までの金融相場の再上昇の最大要因だ。2020年春のコロナ危機発生で金融相場が暴落したときも、連銀がQEの額を急増して株や債券を買い支え、短期間で相場が再上昇した。このようにQEは、近年の株高・債券高の唯一の要因だ。だから今回、連銀が約束どおりにQEをやめたかどうかはとても重要なことだ。マスコミは連銀の利上げに対してだけ大騒ぎしているが、利上げよりQEの方がはるかに重要だ。今のように短期金利が2%以下の状態は、銀行業が利ざやを出せるので「健全」な状態であるとすらいえる。長期金利(10年もの米国債)が3%を大幅に越えて上昇すると利払いコストが増加して危険になるが、今のところ10年ものは2.3%だ。連銀の利上げ傾向を勘案して長期金利がどんどん上がっているので、どこで上昇が止まるのか懸念があるが、まだ大丈夫だ。 (すべてのツケはQEに) (No ‘soft landing’ likely for US economy – Fed chairman) 都市閉鎖などコロナの超愚策で打撃を受けた米欧経済は今、新たな超愚策であるロシアからの石油ガス鉱物穀物などの輸入停止により、追加の打撃を受けている。サウジアラビアなど他の産油国も、隠然とロシアの味方であり、欧米に追加の石油ガスを売ってくれない。これからの1-2か月で、米欧の経済はいまよりずっと悪化していく。インフレ、物不足、工場などの操業停止、食糧難などが顕在化する。 (Will Biden Sanction Half The World To Isolate Russia?) (German state agency reveals how gas shortage affects public life) ロシアをこっそり支援している中国も、米欧経済に追加の打撃を与えるため、製造業の世界的な生産拠点である華南の深センなどで大規模なコロナ感染発生を演出し、中国から米欧に製品を輸出する港湾の操業を止めたりしている。米欧経済はとても悪い状態だ。それなのに、米国などの株価はこの10日ほど急上昇を続けている。連銀がこっそり続けているQEが株価をつり上げているのは間違いない。他の大きな上昇要因は何もない。(連銀は情報を公開している。問題は、それが報道されないことにある) (Shenzhen Scrambles To Ease Lockdown As Port Congestion Persists) (Goldman Admits Saudi-China Oil-Trade Signals 'Erosion' Of Dollar Reserve Status) QEによって米ハイテク株のナスダック指数は14000を越える水準にまで再上昇した。ナスダックが14000を割るとハイテク株のバブル崩壊だと言われてきた。2月半ばから14000を割って下落していたが、この1週間で反騰して再び14000を越えた。連銀と金融界は、QE資金を注入してナスダックを14000以上に戻すことで、投資家に「まだ米国株はいけますよ。投資してください」と宣伝できるようにしたのだろう。しかし、実体経済はボロボロに崩壊している。ロシアからのコモディティ輸出の停止により、これから米欧経済がさらに崩壊するのは誰の目にも明らかだ。それなのに、これから株や債券を買う投資家なんているのか。結局、これからもQEが唯一絶対の相場テコ入れ要因であり、それを隠して他の要因で相場が上がっているかのようにマスコミがインチキ報道し続けるという、以前と変わらない状態が続きそうだ。QEは不正な株価操作だ。 (NASDAQ Composite Index closes above 14000) (ロシアは中国と結束して延命し、米欧はQE終了で金融破綻) 米連銀がQEをやめると言わされてきたのは、米政界の議員らが、ひどくなる一方のインフレの原因がQEにあると言って昨秋から連銀に加圧してきたからだ。昨年来のインフレの原因は、通貨発行と関係ない流通システムのボトルネック、それから対露関係など、いずれも供給側にあり、連銀がQEをやめてもインフレは止まらない。それを知りながら米政界は連銀に圧力を賭けてQEを3月初めにやめると言わせてきた。しかし実際には、連銀はQEをやめずに継続しており、米政界はそれに対して何も言っていない。米政界はQE継続了承へと翻身したことになるが、その理由も不明なままだ。 (WEF Issues Ominous Warning Over Coming Food Crisis, Recommends 'More Sustainable Diets') (ウクライナで妄想し負けていく米欧) 一つの可能性は、覇権的なシナリオの展開を時間調整するための一時的な延長・延期だ。ウクライナ戦争による強烈なロシア敵視の開始とともに、米政界が連銀にQEをやめさせるのをいったん棚上げしたのでないかということだ。連銀がQEを予定通り終了し、それとタイミングを合わせてプーチンがウクライナに侵攻し、米欧がロシアからコモディティを輸入しなくなって経済的に自滅し、QE終了の影響で米欧の金融が崩壊し、米覇権の崩壊と多極化が急進展し、それがプーチンのせいにされるというシナリオが3月初めに見えたのだが、それは連銀が政界の黙認を受けてこっそりQEを続けていることによって延期されている。ロシア側はウクライナで苦戦しておらず(苦戦報道は意図的な大間違い)、中国は親露的で、予定通りに多極化を進めている。 (ドルはプーチンに潰されたことになる) (China dumping US dollar in trade & investment in Asia) これからどうなるのか。連銀はQEをいつまで続けるのか。今のこっそりQEが、誰にも見咎められずに何か月も続けられるものなのか。そうでないなら、連銀は1-2か月以内にQEをやめる。ドル崩壊をプーチンのせいにする多極化のシナリオがまだ生きているのなら、これから自滅的な対露経済制裁のブローバックで米欧の実体経済の破綻がある程度進んだ時点で連銀がQEをやめて金融崩壊が始まり、プーチンのせいでドル崩壊、という見出しがつけられる状況が具現化する。これから毎週、日本時間の金曜日の朝に米連銀が発表する資産総額がどうなっているかが注目点になる。 (Factors Affecting Reserve Balances of Depository Institutions) (金融大崩壊への道)
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