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911とコロナは似ている

2020年5月29日   田中 宇

そろそろこれを書いても「叱られない」と思うので書くが、今回の新型コロナの危機は、01年の911事件で始まった「テロ戦争」と本質的に似ていると思う。両者が似ている点はいくつかある。ひとつは、両者とも「脅威」とされた対象が、よく見ると「闇夜の枯れすすき」であることだ。当局やマスコミが脅威を誇張し、人々が枯れすすきを化け物だと信じ込む状態を作った。 (COVID-19 Has Replaced Osama Bin Laden As The Fall Guy For Lost Liberties

911テロ事件の犯人とされるアルカイダは、放置すると米欧の全体を破壊しかねない、とても恐ろしいテロ組織だと喧伝された。だが実のところアルカイダは弱く、米欧当局のスパイにたくさん入り込まれ、資金や武器まで当局からもらって「敵」を演じさせられていた。911は、アルカイダがやったかのように米当局が演出した自作自演的な事件だった。当局やマスコミは、自作自演性が指摘されることを事実上禁止し、アルカイダが世界的な大きな脅威であると誇張し続け、米国による軍事侵攻や政権転覆を正当化した。911事件は、犯罪捜査によって解決すべき問題だった(徹底捜査したら当局の自作自演性が露呈してしまうが)。それなのに米政府は、911を「恒久戦争」によって解決(というより報復)するという、トンデモな道に入ってしまった。 (田中宇911事件関係の記事

新型コロナウイルスは、感染力がものすごく強いが発症性が低く、感染者のほとんどは無発症か軽症だ。死者の98%はもともとの持病があり、真の死因がコロナでなく持病なのにコロナで死んだことにされている。多くの国の政府が、死因をごまかすことでコロナの死者数を水増ししている。無発症や軽症の感染者数の統計を実際より大幅に低く見積もることで当初、コロナの致死率は3%だと喧伝されたが、最近わかった本当の致死率は0.3%とか0.08%とか、そういった水準だ。コロナは、世界中で都市閉鎖や経済停止をやる必要がある病気でない。それなのに、各国の政府やマスコミはコロナの脅威を誇張しまくり、都市閉鎖や経済停止を長期化している。新型コロナは、集団免疫策で解決すべきだったのに、各国政府はとても愚策(一時しのぎでしかないのに悪影響が巨大)である都市閉鎖の道に入ってしまった。 (都市閉鎖の愚策にはめられた人類) (The CDC Slashed the COVID-19 Fatality Rate to a Fraction of Earlier Estimate Used to Justify Lockdowns

911とコロナが似ている点の2つ目は、ほとんどの人々が政府マスコミの「闇夜の枯れすすき」的な誇張に見事に騙されて本気で恐怖のどん底に陥れられ、政府の大間違いな政策に反対するどころか積極的に賛成したことだ。人々は、集団免疫を得る前に集団心理に陥らされている。911事件は数時間の出来事だったが、衝撃的なテレビ映像が奏功し、その後何年にもわたって人々、特に米国民のトラウマになった。当時、事件から2か月後に米国に行った私は、多くの市民が報道や当局発表を丸ごと信じて(騙されて)イスラムやテロに対する強い恐怖と不安感を植え付けられていることに驚いた記憶がある。恐怖心を植え付けられた人々は、米軍によるアフガニスタンやイラクへの侵攻を積極的に支持した。イラクの世俗派のサダムフセインと、サウジ系の宗教主義のアルカイダは敵どうしなのに、そんなのどうでも良いから早くサダムをやっつけろという話が勃興した。人々がテロ戦争の愚策性に気づいたのは、10年後のオバマのイラク撤兵のころだった。 (コロナ危機に関する私の認識のまとめ) (静かに世界から手を引く米国

コロナ危機でも、人々の多くは報道を丸ごと信じ、すでにコロナに無発症感染して免疫を持っていると期待される人々ですら、心底恐れている。身体は無発症で元気でも、頭は「コロナマスゴミ」にひどく感染して重症化している。恐怖心を植え付けられた人々は、外出禁止令や非常事態宣言が解除された後も外出したがらない。人々の多くは洗脳され、愚策の都市閉鎖を早くやめてくれと思わないどころか、もっと長く都市閉鎖をやってくれと政府に希望する人が多くなっている。都市閉鎖が政府にとって素晴らしい策である点は、閉鎖をやめると感染が少し再拡大し、それだけで人々の恐怖心がぶり返して政府の言いなりに戻るので、自動運転的に危機を長期化できることだ。人々は、政策の良し悪しなどどうでも良いから、都市閉鎖を続けろ、早くイラクに侵攻しろ、と思ってしまう。テロのトラウマが何年も続いたように、感染のトラウマもこれから何年も続く。 (都市閉鎖 vs 集団免疫) (ウイルス統計の国際歪曲

911とコロナが似ている点の3つ目は、911事件やコロナ感染による犠牲者の人数よりも、テロやコロナへの「対策」と称して行われた戦争や都市閉鎖による犠牲者の人数の方が、最終的にはるかに多くなることだ。911事件で死んだのは約3000人だが、911への報復として行われた03年からのイラクへの侵攻と占領では、イラクの人口の3-5%にあたる50万-100万人が死んだ。アフガニスタンやシリアでも、米国が起こした長期の戦争で数十万人ずつの市民が死んでいる。コロナが主因で死ぬ人類の最終的な総数より、世界的な都市閉鎖で病気が悪化して死ぬ人類の総数、経済停止の大恐慌で中産階級から貧困層に突き落とされ困窮して死ぬ人の総数の方が、たぶん何十倍も多くなる。テロ戦争もコロナ対策も、愚策とわかっていることが意図的に何年も続けられる。 (米軍撤退を前にイラク人を怒らせる

事件の真相が闇の中である点も、911とコロナで似ている。911事件の真相は、事件から20年たった今でもほとんど露呈していない。新型コロナのウイルスが、武漢ラボ(ウイルス研究所)から間違って漏洩したものなのか、米諜報界のスパイが誘発した漏洩なのか、それともラボは無関係で武漢の野生動物市場で動物からヒトに感染したのか、ウイルス発祥の真相もたぶん永遠に闇の中だ。そして、テロやコロナへの対策として行われたとんでもない愚策が、テロやコロナの真相と直接関係ないので、真相がどうであるかは最重要でない、という点も911とコロナで似ている。911事件が自作自演でなくアルカイダが自立的に計画実行したテロだったとしても、その後の米政府のテロ戦争の壮大な失策に対する評価が変わるものではない。新型コロナの発祥ルートが何であれ、コロナ対策として行われている都市閉鎖が頓珍漢な愚策であることに変わりはない。コロナの発祥ルートをめぐる論争は、米中対立の火種の一つとして政治的に使われ続ける。政治化するので、真相はずっと確定しない。 (武漢コロナウイルスの周辺

田中宇史観的には、911もコロナも、最終的な米国覇権の低下と多極化につながる点で似ている。911後、米国は単独覇権主義を表明・標榜したが、これは全く不必要で自滅的な表明だった。冷戦終結後、米国は誰が見ても単独覇権国であり、それをわざわざ911後に表明したことで米国は世界に多くの敵を作って憎まれる覇権国となり、覇権運営に協力してくれる人が減り、覇権が低下した。5年ほど前から、米国は中東からの撤退の傾向を強め、米国が抜けた後の中東はロシア中国イランの影響圏となり、世界の覇権の多極化を強めた。コロナは都市閉鎖で世界経済を長い大恐慌に陥らせたが、米連銀のQE(造幣による資金注入)によって巨大なバブルである米国金融の相場の下落が抑えられている。トランプは、ドルの潜在力を弱めるQEの急拡大と、中国敵視を同時にやっており、いずれ中国など非米諸国の側が、QEで弱体化したドルを基軸通貨として使わなくなり、QEとドルの破綻が米国覇権の低下と多極化につながる。 (コロナ大恐慌を長引かせる意味) (米国を中東から追い出すイラン中露



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