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五輪で和解する韓国北朝鮮、わざと孤立する米国

2018年2月15日   田中 宇

 韓国での平昌五輪をめぐる外交で、韓国と北朝鮮が急接近した。和解の象徴となった女子アイスホッケーの南北合同チームをノーベル平和賞の候補にすべきという意見が国際五輪委員会から出た。2月9日の開会式に、北から金正恩の妹である金与正が訪韓し、韓国の文在寅大統領に北朝鮮訪問を要請した。文在寅は昨年夏から「韓米が北敵視の合同軍事演習を凍結する見返りに、北は核ミサイル開発を凍結する」という「ダブル凍結」の交換条件による北核問題の解決を提唱してきた。(この案は、もともと中国やオバマ時代の米民主党の立案だ) (北朝鮮と日本の核武装) (北朝鮮に核保有を許す米中) (U.S. IOC member suggests joint Korean team for Nobel Peace Prize

 2月25日の五輪閉幕後しばらくすると文在寅は訪朝し、北との間で、ダブル凍結による核問題の解決で合意するだろう。韓米軍事演習は、韓国が棚上げすると決めれば、米国が不満でも棚上げになる。北に核を「廃棄」させず「開発凍結」させるだけの文在寅案は、北核問題の「解決」にならないので認めるべきでない、という批判も、米国や日本から出ている。だが、北朝鮮の核兵器よりも、米国が北を攻撃して朝鮮戦争の再発で韓国が潰れることの方をおそれる韓国の文在寅政権は、米国の批判を無視して南北対話を進め、ダブル凍結を北核問題の「解決」とみなすだろう。中国やロシアも、それに賛成する。 (北朝鮮の核保有を許容する南北対話) (北朝鮮問題の変質

 韓国側は、五輪で訪韓した北側に対し、核ミサイル開発を批判することを避けた。北を逆なでせず、対立的でない形で北に核ミサイル開発を凍結してもらいたい感じだ。対照的に米国は、五輪で訪韓したペンス副大統領が、韓国側の配慮で、開会式で北の代表の金与正らのすぐ近くの席だったのに、何も話さず、米朝対話を拒否した。米国は、訪韓予定でなかった日本の安倍首相に依頼して訪韓させ「日米が結束し、北に丸め込まれそうになっている韓国を引き戻す」策をやろうとしたが、全く効果がなかった。文在寅は、予定通り五輪後に北を訪問するだろう。 (Don't mention nukes: South Koreans learn how to talk to the enemy) (North Korea heading for diplomacy gold medal at Olympics) (White House: Lack of interaction between Pence and North Koreans was mutual

 マティス国防長官は、南北対話がうまくいくとは思えないと表明し、米マスコミも南北対話を嘲笑する傾向だが、このような米国の姿勢は、韓国と北朝鮮が対話し、中国やロシアがそれを支持して安定化につなげていく今後の流れの中で、米国自身を孤立化させることにつながる。五輪を機に韓国が北と和解しても米国がそれに乗らず、北に厳しい態度をとり続ける戦略は、トランプがペンスら側近にやらせていることだ。 (北朝鮮の脅威を煽って自らを後退させる米国) (Mattis says too early to tell if Olympic thaw between Koreas will lead to results

 米国が北との外交交渉を拒否し、今にも北を先制攻撃しそうな中で、文在寅が静かに米国に見切りをつけて北と和解し、ダブル凍結で核問題を解決し、米韓軍事演習も韓国による一方的な延期で凍結され、米国は嫌々ながらそれに従う、いずれ在韓米軍の縮小まで至るという筋書きは、私が昨夏から予測していたものだ。今回の五輪で、それが一気に進んでいる。(ずっと私の記事をよく読んでいる読者にとって、今回の記事は新味がないかも。過去の記事を読まない人が多そうなので何度も書く) (北朝鮮危機の解決のカギは韓国に) (北朝鮮問題の解決に本腰を入れる韓国

 韓国が対米従属から外れていくこの流れは、トランプの世界的な覇権放棄策の一環だ。南北対話ムードが広がる五輪の韓国で、北を敵視して好戦論に固執するペンスら米国は、韓国側から嫌われる存在になり、孤立しているが、この孤立はトランプが意図的にやらせているものだ。米国はわざと孤立している。しかもトランプは、側近たちに北との外交を拒絶させた後、北と交渉しても良いと言ったりして、朝令暮改的な感じを醸し出し、米国の外交的な信頼性を意図的に低めている。 (South Korea Says U.S. Has Indicated It Is Open to Talks With North) (Pence Scorns Olympic Diplomacy, Pushes North Korea’s Isolation

▼今は朝鮮嫌いの日本も転換して下手に出る

 文在寅は、平昌五輪の終了後、五輪で延期されていた今年の米韓軍事演習が行われる予定の4月下旬までの間に、平壌を訪問するだろう。そこで南北は、ダブル凍結による解決策に合意する可能性が高い。韓国は、米韓軍事演習の凍結を米国に通告するだろう。今年の軍事演習は中止される。米国側では、韓国がやった外交は北の核を廃棄させられず無意味なので、北核問題の「解決策」は米国が北を先制攻撃するしかないという主張が強まるだろう。マスコミ(=軍産)が、今にも米国が北を攻撃しそうな感じを醸成する。トランプと親しいキッシンジャー元国務長官が最近、米軍による北への先制攻撃が十分あり得ると(演技的に)発言している。 (Kissinger Warns "Pre-Emptive Attack" Against North Korea "Is Strong" Possibility) (Pence: US Will Take ‘Whatever Action Is Necessary’ Against North Korea

 韓国の文在寅は、米国が北を先制攻撃することに反対する。文在寅は昨年から、韓国の許可なしに米国が北を先制攻撃することは許されない、と何度も宣言している。文在寅の反対を受けて米国では「韓国の反対など無視して北を先制攻撃すべき」という意見と「もはや韓国も米国の同盟国と言えないので、むしろ米国は韓半島に関与することを丸ごとやめてしまい、北への先制攻撃をやらないだけでなく、在韓米軍も撤退してしまう方が良い」という意見の両極が出そうだ。トランプは両方の間を行き来しつつ、最終的に後者が米国の戦略となるだろう。 (White House Wants More Options for Attacking North Korea) (Enjoy the OIympics but Talks with North Korea will Fail

 南北がダブル凍結を決めて核問題が「解決」し、中露も協力して、国連での北制裁が解除されていくだろう。米国が拒否権を発動しても、それを迂回するかたちで制裁が実質的に解除される。米国は意図的に孤立していき、米国抜きで、南北と中露によって、朝鮮半島の今後の安定が実現し、北朝鮮を含む極東の経済開発が進められていく。昨年9月にプーチンが提案したとおりの展開になる。 (プーチンが北朝鮮問題を解決する) (US launches full-scale confrontation with China: Scholar

 ここまでの話で抜けているのが、わが日本だ。安倍首相は今回トランプに頼まれ、北に擦り寄っている韓国を日米が牽制するために五輪の開会式に出た。日本政府はダブル凍結による「解決」など解決でないと批判しているし、日本のマスコミや軍産傀儡ネトウヨは南北対話を嘲笑している。対米従属一辺倒をつらぬき、南北中露の結束を敵視している感じだ。韓国北朝鮮側も、統一旗に巨大な竹島・独島を描き入れたりして、日本への敵愾心を煽って南北結束の道具に使っている。 (Japan protests unified Korean flag's inclusion of disputed islets Dokdo/Takeshima) (Abe Vows to Achieve Major Improvement in Sino-Japan Relations in 2018

 だが、昨年からの安倍政権の基本姿勢は、南北中露を敵視しておらず、むしろ逆に、南北中露と和解協力していきたい動きを続けている。安倍は去年から、できるだけ早く日中韓の外相鼎談・サミットをやり、習近平の訪日まで実現したいと表明し続けている。安倍は、近いうちに米国が日本や韓国を安保面で従属させてくれなくなり、在韓・在日米軍も出て行く方向であると知っている。経済面では米国抜きのTPP11の創設が、米国覇権消失後の新時代の到来を象徴している。 (中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本) (Will 2018 Really Be a Breakthrough Year in Japan-Russia ties?) (Why Australia and Asian allies are turning away from US to China

 だから、内外の障害(内なる障害の一つは日本外務省)を乗り越えて、中国や韓国、ロシアと良い関係を保ちたいと考えている。安倍は、南北が和解したら自分も平壌を訪問したいと思っているし、自分が首相の間にロシアとの和解・北方領土問題の「解決」もやりたいと思っている。日本は最近、中国との防衛交流の再開を決めたし、台湾の震災に対する慰問に関しても中国の苦情を受け入れた。日本が示唆し始めた「日本版一帯一路」も、中国と張り合うのでなく協力しあう性質だ。国民の多く(とくに左翼リベラル)が気づかぬ間に、日本も方向転換やり始めている。 (Japan, China plan to resume defence exchanges) (Japan denies bowing to China pressure over Taiwan quake condolences message) (Is Japan Trying to Counter China’s Belt and Road With Its Own Development Plans?



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