金融大崩壊がおきる(3)2013年6月21日 田中 宇
この記事は「金融大崩壊がおきる」と「金融大崩壊がおきる(2)」の続きです。 6月19日、米連銀(FRB)のバーナンキ議長が理事会(FOMC)の後の定例記者会見で、今年中に量的緩和策(QE3)の縮小を開始し、来年半ばにQE3を終わらせる可能性があると表明した。バーナンキは、5月22日の米議会での証言で「米経済の景気回復が続いた場合、今後理事会を数回行う間にQE3を縮小する可能性がある」と発言し、今回は、QE3の縮小と終了について、さらに踏み込んで発言した。QE3縮小開始のタイミングは、記者会見がある9月17日からのFOMCになると予測されている(10月は記者会見がなく、12月だと遅すぎると分析されている)。 (After The Fed: The Battle Lines Have Been Drawn) (Bernanke sees 2014 end for QE3) 米国や日本の中央銀行がやっている、QE3やアベノミクスといった量的緩和策は、通貨を大量発行して債券を買い支え、金融市場を金あまり状態にして、資金が株や債券、不動産などに向かうようにして相場をつり上げる策だ。政策の目的は債券金融危機(リーマンショック)の再発防止だが、当局自らが金融バブルを煽る危険な策だ。アベノミクス(黒田日銀の量的緩和策)は、危険なQE3の綱渡りをやっている米国を助けるため、安倍政権が対米従属策の一環として開始したものだ。グリーンスパン連銀前議長は6月7日、QEの目的である景気が回復し切らなくても良いから、今すぐQEを縮小していくべきだと表明した。米連銀の内外で、QEを早くやめるべきだという意見が強まり、バーナンキは、QE縮小を表明せざるを得なくなった。 (財政破綻したがる日本) (Greenspan: Taper Now, Even If Economy Isn't Ready) 最近の金融市場は、世界的に、日米がやっている量的緩和策に頼っている。日米の量的緩和が、世界の相場上昇を煽っている。連銀がQE3を縮小・終了すると、世界中の金融市場の上昇を支えてきた資金が減る。米日だけでなく、新興市場を含む世界中でバブルが崩壊しかねない。ブラジルやメキシコ、オーストラリア、NZ、南アフリカ、インドなどの通貨が売られて為替安となり、インドネシアやフィリピンなどの株も危険視されている。 (Asia Currency Sell-Off Goes From Bad to Ugly) (Why the Fed may well be out to get you) (世界的バブル崩壊の懸念) ブラジルは、最近まで新興市場の成長株ともてはやされたが、今や通貨は急落、金融市場も乱高下し、危険な投資先に変身した。QE3の恩恵を最も受けてきたのは、米国でなく、アジアの新興市場だったと言われている。米国からアジア新興市場に、この3年間で4500億ドルの投資金が流入した。QE3縮小の流れで米国の金利が上がって資金調達コストが上がりそうなので、新興市場から資金が流出している。 (Central bank oracles must choose their words carefully) (Brazilian Real Falls as Tax Removal Not Enough; Swap Rates Jump) ドルや米国債は覇権的存在だけあって、崩壊する過程で世界を道連れにしている。金地金も4月以来、2度にわたって先物主導で暴落させられている。金地金は、現物が世界的に需要増だが、米金融界が先物で価格操作している。金地金は今春以降、相場が下落するたびに新興市場や発展途上諸国で売れ行きが増し、中国やインドなどでは、国際相場よりも高くプレミアムをつけて金地金が売られている。中国では、国際相場より10%近く高い金地金でも「安売り」になり、金屋に1万人の行列ができる騒ぎが起きている。 (Premiums Reflect Strong Global Demand For Physical Gold) (金店促銷黄金15分鐘引万人qiang購 場面堪比春運) 以前からドルと金地金の関係を鋭く見てきた米国のロンポール元議員は、連銀がドルを自滅させていき、いずれドルをいくら積んでも金地金を買えない事態になるかもしれないと言っている。逆の見方として、米国などの政府当局がいずれ保有者の金地金を没収するだろうとの予測もある。金地金とドルの関係は、先行きが不透明だ。 (Ron Paul: Gold Could Go to 'Infinity') (Don't Dismiss the Possibility of Gold Confiscation) 中国でも、短期金利が急上昇したり、国債の売れ行きが悪化したり、銀行が経営危機に陥ったりしている。しかし中国の場合、これらの危機的状況を中国政府が黙認している点が異例だ。中国政府はこれまで、金融市場や銀行の経営を上から操作し、自由な金融市場は限定的にしか存在していなかった。しかし今回、中国当局は、これまで操作の対象だった短期金融市場や国際入札、銀行経営について、事態が悪化しても放置している。習近平の新政権は、以前から問題になっている銀行を迂回した融資市場(中国版「影の銀行システム」)を縮小させたり、金融市場の見かけだけでない本質的な自由化を進めようと、意図的に事態悪化を看過しているようだと、米欧の経済メディアが指摘している。中国は、金融政策的に、かなり余裕がありそうだ。 (China cash crunch deepens as PBOC withholds funding) (Chinese Interbank Markets Having a Heart Attack, Repo and Shibor Skyrocket, Could Trigger Bigger Unraveling) 対照的に、米国の著名な投資家の中には、ジャンク債と日本国債を同列に並べ、いずれも債券市場の際物であり、崩れるときは際物から先に急落していくので、売っておいた方がよいと言っている者もいる。5月22日にバーナンキが米議会でQE3の縮小に言及したときは、日本で株が暴落し、国債利回りが1%まではね上がった。それ以来、日本株は下落傾向に転じ、乱高下している。 (Jim Rogers on bond bubbles, buying gold and the Japan disaster) (◆日米で金融バブル崩壊のおそれ) QE3は、米経済の景気が回復したらやめることになっている。だから最近の米国や世界では、米国の景気や雇用を示す経済指標が予測より悪く出ると株式相場が上がり、米経済の好転が示されると株が下がる。株は本来、経済が好転すると上昇するものであることを考えると、これは正反対の異常な事態だ。QE3やアベノミクスによって金融市場が大きく歪曲され、不健全になっている。投資をやっている人は「健全とか不健全など関係ない。儲かれば良いんだ」と言うだろうが、不健全な状態は最終的に相場の崩壊をもたらす。現状は、FT紙が「金融システムは次の危機を待っている状態だ」と題する記事を出すほどだ。 (Learn A Post-Collapse Trade Before It's Too Late) (Financial system `waiting for next crisis') バーナンキがQE3の縮小に初めて言及してから約1カ月たち、この間に金融市場は世界的に不安定さを増した。米国では、ジャンク債を中心に、債券市場が下落している。ジャンク債は、連銀のQE資金以外、ほとんど買い手がいない状態だ。6月19日にバーナンキが記者会見した後には、米国の社債が格付けに関係なく広範に売られた。米国債10年ものの利回りも2・7%台まではね上がった。バーナンキがQE3について話をするほど、株や債券が下がる構図になっている。 (Bond sales dry up as interest rates rise_vv_) (The more Bernanke talked, the more stocks fell and Treasury yields rose) QEの効果がないとすると、10年もの米国債の利回りは、今の2%台前半から、4-5%まで上がると考えられている。今後、QE3の終わりを市場が織り込んでいくだろうから、米国債利回りが倍増(国債相場が大幅下落)しても不思議でない。分析者の間では「QEの縮小によって、1980年代からの金利低下の傾向が終わり、世界的な金利上昇の流れが始まる」との見方が広がっている。 (Is this the "big one" for global bonds?) (End of Cheap Money: Can the World Handle Higher Interest Rates?) (In a Shift, Interest Rates Are Rising) 金融バブルは、これ以上拡大する余地が少なくなっている。リーマンショック前、大量の不動産担保融資の債権を束ね、返済優先度ごとに輪切りにして債券化した「人造CDO」(synthetic collateralised debt obligations)が大量発行され、それがバブル崩壊をひどくした一因となった。今またバブルが再拡大し、JPモルガンなどは、人造CDOが再び売れるのでないかと考えて発行を画策したが、買い手が少なく、発行を見送った。人々は、金融界による詐欺にだまされにくくなっている。 (Bid to relaunch synthetic CDO unravels) バーナンキはQE3を終わらせる道筋をつけたが、彼自身が連銀議長としてQE3の終わりを見届けることは、多分ない。バーナンキの任期は来年1月末までだ。再任は可能性としてあるものの、オバマ大統領は先日「バーナンキは連銀議長を十分に長くやった」と述べ、バーナンキに再任を求めず辞めさせることを示唆した。後任には、イエレン副議長の昇格説のほか、サマーズやガイトナー、フィッシャーなどの名前が取りざたされている。バーナンキは、世界的な金融崩壊につながりかねないQE3の終了を、自分でやる見通しもないのに、勝手に「来年半ばにQEをやめる」と表明してしまった。 (Ex-Fed Governor Meyer: Obama has fired Bernanke) (Barack Obama hints at move for Ben Bernanke) 6月10日、3大債券格付け機関の一つS&Pが、米国債の格付けを「ネガティブ(下がる傾向)」から「ステイブル(安定的)」に格上げした。S&Pは11年夏に米国債を格下げし、3大格付け機関の中で唯一、米国債に最優良格を与えず、一格下のAA+にしている。11年夏のS&Pの米国債格下げは、米国債とドルがリーマン危機から立ち直れず再崩壊に向かっている状況を示した。それだけに、日米などの経済マスコミは今回の格上げについて、米国債とドルの状況が改善していることが示されたと喧伝した。 (Treasuries Fall After S&P Boosts U.S. Outlook to Stable) (格下げされても減価しない米国債) ところが、格上げされたにもかかわらず、その直後に米国債相場は下落した。「せっかくS&Pが米国債を格上げしたのに、投資家はあくびをしている」と皮肉る記事も出た。米国債は、連銀のQE3によって買い支えられてきた。QE3は今後縮小するのだから、米国債は買い手が減り、信用を失っていく可能性が増した。格上げでなく、格下げされるべき状況だ。S&Pは、米当局もしくは米金融界の有力筋から、崩れそうな米国債を救えと圧力をかけられ、いやいやながら格上げを発表したのだろう。 (S&P Upgrades U.S. Outlook, but Investors Yawn) 投資家の多くは、格上げが不自然だと感じ取り、S&Pが経済の実態を無視して政治的に米国債を格上げしたと感じ、米国債の売りが加速した。大手格付け機関の信用が下落し、債券の価値について誰を信じて良いかわからない事態になっている。この状況は、次にバブルが崩壊したときの被害を拡大する。リーマンショックの時は、まだ格付け機関や経済マスコミや米政府や連銀が、今よりずっと信用されていた。格付け機関もマスコミも連銀も信用が崩れている中で、次に危機が再発したら、その悪影響は前回よりずっと大きくなる。「米国債は世界最大のネズミ講と化している」と表明する著名投資家も現れた。やはり、世界は金融大崩壊に向かっている感じがする。新たな事態が出現したら、また続報を書く。 (S&P's Lack of Sway on Display in U.S. Move) (Guggenheim Partners: Treasurys Are a `Ponzi Market')
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