他の記事を読む

世界的バブル崩壊の懸念

2013年4月13日   田中 宇

 インドネシアのジャカルタで、不動産が高騰しすぎて、バブル崩壊の恐れが強まっているという。シンガポールやマレーシアでは債券市場が急拡大し、タイでは消費者金融の残高が急増している。いずれも、金融緩和によって拡大した資金が流入した結果であり、成長が急すぎるので近いうちに崩れる懸念があると、FT紙が書いている。 (Asean bubble fears emerge

 東南アジアでもうすぐバブル崩壊が起きるかもしれない。大変だ。しかし、そう思った次に私が考えたのは、金融緩和策によって金融市場が急拡大しているのが、東南アジアだけでなく、日本や米国など世界中だということだった。米国などの金融界では、ほかに有利な投資先がないので、リスクが高いジャンク債が買い進められ、史上最高水準まで高騰している。これはいずれ崩壊するバブル以外の何物でもない。東南アジアのバブルが崩壊するなら、世界中がバブル崩壊するだろう。大変なのは東南アジアでなく全世界だ。 (Junk bonds benefit from lack of options

 世界的なバブル拡大の最大の原因は、米国の連銀が、08年のリーマンショックで崩壊しかけた債券金融システムを再生延命するために、金融緩和策(QE3)を続けていることだ。債券金融システムは、世界の実体経済の何十倍もの規模にふくらんでいるので、その崩壊を防げないと、世界経済が壊滅し、大恐慌になってしまう。「世界経済が壊滅」は、未曾有の出来事であり、世の中できちんと論じられてもいない(マスコミはタブー視している)。そのため用語や概念が確立せず、私自身、壊滅とか崩壊とか大恐慌とか、言葉がすべってうまく説明できない。だがリーマン倒産後、用語や概念より先に現実が悪化し、世界経済は壊滅への道を感じさせる悪い状態に入り込み始めている。それがどういう状態か、私がうまく説明できなくても、多くの読者がすでにそれを実感的に知っているだろう。

 約30年間の金融自由化によってバブルが肥大した債券金融システムがリーマンショックで崩壊し始め、それを止めるために米連銀がドルを大量発行し、新たなバブルを創設することで、これまでのバブルの崩壊を防ごうとしてきた。連銀を助けるため、日銀など他の諸国の中央銀行も、円など自国の通貨を大増刷している。

 バブルを収縮させることで崩壊を防ぐのが対策の正攻法だが、債券バブルは巨大すぎて、収縮させると実体経済の減速(不況、恐慌)がひどくなり、人類にとって耐えられない。だから、バブルをさらに膨張させることによってしか、バブル崩壊を回避できない。これは対策でなく延命でしかないが、ほかに手がない。東南アジアやその他の国々での、最近のバブルの急拡大は、連銀や日銀による政策の必然的な結果である。

 世界最大のバブルは、米国のドル建ての債券金融システムである。だが世界には、すでに書いたような東南アジアのバブルや、米英投機筋らによる国債先物の売り攻撃を皮切りに崩壊した、ギリシャ・キプロスやイタリア、スペインなどユーロ圏の周縁諸国のように、金融システムが脆弱化している国々もある。東南アジアやユーロ圏が先に経済崩壊すれば、そこに投資されていた資金が、他の投資先に移動せざるを得ず、米国の債券金融システムに流れ込み、米国のバブル崩壊を先送りできる。米金融界の一部である米英投機筋は、米国のドルと債券金融システム、つまり米金融界(自分たち自身)を守るため、ユーロ諸国の国債を売り放って崩壊させ、ユーロの危機をあおっている。

 米国以外の投資先が隆々として繁盛していたら、米国から他の投資先に資金が流出し、債券金融バブルが崩壊しかねない事態になるが、他の投資先が次々と壊れていけば、少なくともその間、ドルは安泰だ。ユーロ危機など、米国以外の市場が崩壊するたびに「いちばん安全な投資先はやはり米国債だ」という話が喧伝され、投資金が米国債からジャンク債までの債券金融システムから資金が逃げず、ドルのバブル崩壊が防げる。米金融界は、ドルのバブル崩壊を先送りするため、米国以外の世界中のバブルを崩壊させようとしている。

 ドルと米金融界は、ドル以外の諸通貨を攻撃して壊すことで延命しようとしているが、攻撃されもしないのに、人身御供的に自分で自分を壊しているのが、わが日本だ。日本は対米従属なので、米国がやりたいことを先取りして、自国を犠牲にしてやってしまう。安倍政権は、ドル延命に協力するために日本国債を崩壊に近づけている黒田日銀の過激緩和策にせよ、米国の企業に日本の利権をできる限り渡し尽くそうとするTPPにせよ、米国のために全力で日本を自滅させている。感動的な見事さだ。

 ドルや債券のバブルが懸念されるほど、債券や紙幣が「紙切れ」であることが人々に強く感じられ、紙切れでない「物理的な富」である金地金が売れるようになる。従来、ドルや米国債を富の備蓄としてきた世界各国の中央銀行は、昨年から金地金を買いまくり、各地の中央銀行の金地金の備蓄が増加している。紙幣の発行者である中央銀行自身が、世界の紙幣の頂点にあるドルが近いうちに崩壊すると感じて、ドルの対極にある富の備蓄物である金地金を買い込んでいる。 (Why Are The Banksters Telling Us To Sell Our Gold When They Are Hoarding Gold Like Crazy?

 ドルが危なくなるほど金が上がり、ドルが隆々とするほど金が値下がりするのが、この50年の歴史だ。最近では、この歴史を逆手にとって、米金融界が、金の相場を引きずりおろすことで「金が下がっているのだからドルは隆々としている」というイメージを世界にふりまく戦略をとっている。金の取引は、現物の地金取引をともなわない先物取引が、現物取引の何百倍も行われており、米金融界が、債券金融システム内で紙切れ(多くは、銀行にある端末のキーボードでゼロを10個ぐらい打ち込めば何億ドルかの債券を発行したことになるペーパーレス方式なので、紙切れですらない)で作った何億ドルかを担保に、金先物の売りを入力するだけで、金の相場が簡単に下落する。

 その上で、金融界の傘下の経済マスコミや分析者がこぞって「金地金は下落方向だろう」と予測し続け、二度と金が値上がりしないかのような印象が席巻する。しかし、その後2週間ぐらいすると、金相場は、ほとんど報じられないまま、再びある程度のところまで上がる。下落だけ喧伝され、上昇は無視されている。

【続く】



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ