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ビンラディン殺害の意味

2011年5月6日   田中 宇

 5月2日、米国のオバマ大統領は、米軍部隊がアルカイダのオサマ・ビンラディンを殺害したと発表した。このニュースを聞いたとき、私がまず思ったのは「これでオバマは、米政府がやらねばならない財政赤字削減の一環として、アフガニスタンからの米軍撤退を加速できる。来年の大統領選挙でオバマが再選できる可能性が、これで高まるかも」ということだった。米政府の高官は、ビンラディンの死がアフガン戦略の「すべてを変えた」と言っている。 (With bin Laden's death, U.S. sees a chance to hasten the end of the Afghan war

 オバマは12年間で4000億ドルの軍事費削減(今の年間軍事費は7000億ドル)を議会に求めている。削減を実施した場合、従来のように米軍が一度に2つの戦争を遂行する体制をとり続けることができなくなるとゲーツ国防長官が警告している。米軍は今、アフガニスタン、イラク、リビアという3つの戦争を遂行しているが、今後は2つ以上の戦争を同時遂行できなくなる。イラクは今年末に撤退を完了する予定で、リビアに関して米軍は英仏軍の支援をしているだけという建前になっている。残るはアフガンだ。 (Iraq's PM informs U.S. Chief of Staff necessity for withdrawal of U.S. troops by end of 2011.) (Bin Laden's Dead: Good Job, CIA! Now, Let's Get Out of Afghanistan

 オバマは今年7月以降、アフガンからの米軍撤退を加速する計画を進めている。だが米政界や国防総省には、撤退に対する慎重論も強い。しかし、今回のビンラディンの死によって、オバマはアフガンからの軍事撤退を早めることができる。米軍は余力を取り戻し、軍事戦略上のフリーハンドを再獲得できる。そういう面で、5月2日のビンラディン殺害は、オバマ政権にとって好都合なタイミング的で起きている。米政界では民主党を中心に「ビンラディンの死はアフガンやイラクに対する占領の目的が達せられたことを意味するのだから、米軍のアフガン撤退を前倒しすべきだ」という意見が出始めている。 (With Bin Laden Dead, Growing Calls for Afghanistan Pullout) (Calls for getting out of Afghanistan grow after bin Laden's death

 米政府(クリントン国務長官ら)は「ビンラディンの死は、米軍がアフガンから撤退することを意味しない。アフガン駐留は継続する」と表明している。しかし、アフガンやイラクの占領は、米国の国力(軍事力、財政力、国際信用力)を無意味に浪費するばかりだ。米政府は急いで財政緊縮をしないと、米国債が債務不履行に陥ってしまう。 (National Debt: Fix It or Face National Decline) (Clinton: Bin Laden's death doesn't end war on terror

 だからオバマ政権の本音は、米国の威信を崩さないようにしつつ、できるだけ早くアフガンやイラクから撤退することだろう。「アフガンから撤退しない」という米政府の発言は、米政界で強いタカ派(軍産複合体)に対する目くらましのように聞こえる。オバマ政権は、自らは「撤退しません」と言いつつ、米政界の多数派が撤退推進派に変わっていくことを誘導するため、ビンラディンの死を演出したと考えられる。ビンラディンの死を受け、アフガンのタリバンがアルカイダとの決別を検討し始めているという、米国にとって都合の良い報道も出ている。 (Afghan Taliban likely to rethink ties to al-Qaida

▼ビンラディンが死んだという新状況こそ重要

 ビンラディン殺害は、テロ戦争の終わりと米国の国家戦略の転換につながっていくだろう。国防総省では今年4月に「米国は世界戦略における優先順位の決定を間違っている。イスラム過激派に対して過剰反応してしまっているし、世界戦略が軍事面に偏りすぎている。米国は、自国の若者の教育に不熱心で、エネルギーなど経済態勢の強化も怠っており、国としての競争力を減退させている。軍事費を減らして社会や経済の国力増進に回すべきだ」とする、自己否定を含んだ国家戦略の草案「国家戦略談話」(National Strategic Narrative)がまとめられている。 (National Security Strategy

 この戦略案は、執筆者に対して「書き換えろ」とタカ派から圧力がかからぬよう、執筆者を「ミスターY」という仮名にして、米政府中枢で回覧されていた。そしてビンラディン殺害の直後、2人の筆者が実名で米マスコミの取材に応じ、正式な国家戦略案として世の中に出てきた。「ミスターY」という筆名は、冷戦の設計図と言われる1946年の「ミスターX」論文(筆者は米国務省のジョージ・ケナン)の向こうを張っており、テロ戦争の終わりが冷戦の開始に匹敵するぐらいの大きな影響を米国に与えることを示唆している。 (A National Security Strategy That Doesn't Focus on Threats

 ビンラディンの殺害は、ビンラディン自身がいなくなることよりも、ビンラディンが死んだという新状況が生まれることによって、米国がアフガン撤退と財政赤字の削減、軍事偏重の国家戦略からの離脱などが可能になるところに、大きな意味がある。 (Lawmakers Question Pakistan, Afghanistan Missions After Bin Laden's Death

 マスコミ的には、ビンラディンは911テロ事件の首謀者であり、世界各地でテロを行う危険な組織アルカイダを動かしていることになっている。だが実際のところ、米国の捜査当局(FBI)がビンラディンにかけている容疑の中に、2001年の911事件は入っていない。ビンラディンはFBIが探している「10大悪党」の一人だが、その容疑は、1998年のケニアとタンザニアの米大使館に対する同時多発テロとの関連であり、容疑の中に911のことは一言も出てこない。ビンラディンは「容疑者」だが、その容疑に911は入っていない。彼が「911の首謀者」だというのはイメージ的な話であり、法的な話でない。 (FBI Most Wanted - USAMA BIN LADEN

 ビンラディンと911事件の具体的なつながりは薄い。ビンラディンの側近とされるハリドシェイク・ムハンマドが、911実行犯のリーダーとされるモハメド・アッタに送金していたとされることぐらいしかない。米軍部隊がビンラディンを殺害せず、生け捕りにしていたら、米国内で裁判をせねばならなかったが、その場合、911事件の犯人として彼を有罪にできない可能性があった。アルカイダという組織自体、あやふやなものであり、米英イスラエルなどの諜報機関の支援なしには存在し得なかった。ビンラディン彼は、生け捕りでなく、殺されねばならなかった。 (政治の道具としてのテロ戦争

 米当局は当初、ビンラディンとその同居人たちは武装しており米軍部隊と銃撃戦になり、その末にビンラディンが射殺されたと発表した。しかしその後、隠れ家にいた人々の中で、米軍部隊に対して発砲したのは一人の警備担当だけで、ビンラディンは丸腰で米軍部隊につかまった後で射殺されたことを、米当局も認めている。米軍部隊は、ビンラディンを生きたまま逮捕し、米国に連行して裁判にかけることができたのに、それをせずに殺してしまった。最初から殺害だけが目標の作戦だったという指摘もある。 (How Osama bin Laden perverted US justice

 ビンラディンの重要性はイメージ的なものであり、本物の彼がテロの作戦を計画遂行してきたのではない。アルカイダのテロは、起こす側でなく、起こされる側(米英イスラエル)にとって、テロに対する反撃や対策と称して世界に軍事的影響力を行使し、米欧イスラエルの国内を長期に有事態勢にしておける(超法規的な政府の行為が許される)好都合なものだった。 (テロ戦争の終わり

 米軍部隊が殺したのが本物のビンラディンであろうがなかろうが、実は大した違いはない。米軍部隊が殺したのが人違いだったとして、それが世界的に暴露され、米政府の公式見解になると大変だが、現実的には、米政府が人違い殺人を認めることはなく、米欧日のマスコミは、米政府が認めない限り、本物のビンラディンが死んだと報じ続け、米欧日の国民の大半はそれを信じるだろう。今回の事件は、実際のビンラディンの生死でなく、米国とその同盟諸国が「ビンラディンは死んだ」という新たな「現実」を持つことに大きな意味がある。 (With raid, US avoids trial, tomb for bin Laden) (Why Bin Laden's Death No Longer Really Matters

▼パキスタン軍とテロ組織の長い関係

 とはいえ多くの読者にとって、今回殺されたのが本物のビンラディンなのかどうかは、非常に関心があるところだろう。私も確たる答えを持っていないが、わかっている情報をもとに推測することはできる。殺されたのが本物のビンラディンだと確信できる材料が何も出てきていない。米政府は、殺された男の死んだ顔の写真を発表しない方針を表明したし、DNA鑑定も詳細について発表されていない。遺体はそそくさと空母から海に沈められた。人違いの殺人だった可能性は十分ある。 (White House calls halt to bin Laden disclosures

 報道によると、隠れ家には、ビンラディンの妻や子供たちも住んでいた。ビンラディンの息子は米軍部隊に射殺されたが、妻は怪我をしただけで、娘は無傷だった。米軍部隊は、妻をヘリに乗せて連行したかったが、2機のヘリのうちの1機が着陸時に尾翼を隠れ家の塀に引っかけて横転し、飛べなくなったため、2機分の米軍兵士が1機のヘリで帰らねばならず、ビンラディンの妻を乗せる場所がなかった。その結果、妻と娘はその場に残り、30分後に現場に到着したパキスタン当局に保護された。ビンラディンが丸腰で殺されたことは、娘の証言としてパキスタン当局からマスコミにリークされ、米当局も認めざるを得なくなった。 (Shot dead 'with money sewn into his clothes': Bin Laden was captured alive and then executed, 'claims daughter, 12'

 もし今後、この妻や娘が、地元マスコミの取材に応じ、自分たちが本当にビンラディンの家族であると証言すれば、殺されたのが本物のビンラディンだった可能性がかなり高くなる。しかし、パキスタン当局がそれを許すかどうかわからない。米政府は、パキスタン政府に事前に全く知らせず作戦を挙行したため、パキスタン政府は怒っている。もし殺害が人違いだったのなら、パキスタン当局は、遺族に証言させるぞと米政府を脅し、何らかの譲歩を米国から引き出そうとしているかもしれない。 (Daughter, 12, saw killing of unarmed bin Laden

 殺された人々が住んでいた家は、パキスタン軍の諜報機関ISI(統合情報局)が運営(もしくは黙認)する、ISIと関係があるテロ組織の要人をかくまっておく隠れ家(safe house)の一つだったと疑われる。その家はパキスタンの首都イスラマバードから北に70キロほど行ったアボッタバードの町の郊外にある。家から700メートルほど離れた場所には、パキスタン軍の士官学校があり、その周辺は、多くのパキスタン軍の将校や定年退職後の元将校が住む、やや高級な住宅街だった。隠れ家から70メートルのところに住んでいる将校もいる。アボッタバードは軍の町であり、そこにアルカイダの幹部が住んでいるとしたら、それは軍(ISI)の認知のもとであると考えられる。 (Osama bin Laden dead: bin Laden lived next door to senior Pakistan Army major

 パキスタンは独立直後から、カシミールなどにおいて、自国よりずっと国力が強いインドとの長い戦いを強いられている。パキスタン軍は、正攻法で戦ってもインドに勝てないので、1950年代から、カシミールなどのテロ組織やゲリラ組織を支援してインド側と戦わせる非正規戦に注力した。今回の隠れ家があるアボッタバードは、首都イスラマバードからカシミールに向かう国道に沿った町だ。 (Abbottabad From Wikipedia

 80年代になると、ソ連軍がアフガニスタンを侵攻・占領し、米国はパキスタンに逃げてきたアフガン難民にゲリラやテロの組織を作らせて支援し、ソ連を占領の泥沼に追い込んだが、この際、パキスタン軍(ISI)がインドとの戦いでつちかったテロ・ゲリラ組織の強化策のノウハウが使われた。アルカイダ(アラブ人でアフガンゲリラを支援する聖戦士群)もタリバンも、ISIと親しい存在だった。911以後、ISIは米国の圧力を受け、アラブ聖戦士群(アルカイダ)やタリバンなど、いくつもあるイスラム主義の武装集団との関係を断絶したことになっているが、ひそかに関係を続けている。パキスタン軍にとって、インドの脅威がある限り、イスラム主義組織は大事な戦友である。 (Pakistan: Caught off-guard

▼・・・だがビンラディンとは限らない

 この歴史から推測できるのは、ISIが今もイスラム主義武装組織を支援する態勢をひそかに保持し、いくつも隠れ家を持ち、その一つが今回米軍の襲撃を受けた隠れ家だったのではないかということだ。報道によると、隠れ家はパシュトン系(アフガンのタリバンと同じ民族)のパキスタン人の兄弟(Arshad Khan と Bashir Khan)が所有者で、05年に建設された。だが、この兄弟の身分証明書は偽造で、本人たちの行方はパキスタン当局もわかっていない。 (Pakistan army probes bin Laden case

 アボッタバードのような軍による監督が厳しい町で、偽造の身分証明書を使って市の当局から建築許可を得ることはまず無理だ。偽造証明書で家を建てられたのなら、それは軍(ISI)の息がかかった人が、軍の黙認のもとに建築許可を得た可能性が高い。 (Brothers listed as owners of Osama compound

 内外の一部の記者が事件後、隠れ家に入ることを許された。3階建ての隠れ家には13の部屋があり、台所や浴室トイレがいくつもあり、複数の家族が別々に住めるようになっている。1階には管理人の2家族が住み、買い物や近所の人々との交流は管理人だけが行っていた(管理人たちは米軍に射殺された)。屋敷の庭では野菜が栽培され、3頭の牛と150羽の鶏が飼われ、牛乳や卵を供給していた。家に固定電話はなく、ゴミは庭で焼却し、家の外にゴミを出さなかった。高さ3-5メートルの壁で外部と隔てられたその家は、隠れ家として十分な機能を持っていた。 (No bin Laden, but photos of raid's carnage surface

 この家が、かつてISIの隠れ家として使われていた(最近はそうでなかった)とパキスタン当局者が言っているという報道もある。問題の隠れ家がISIの運営である可能性が高いということは、米軍はISIがかくまっていたイスラム武装組織の幹部を殺した可能性が高いということだ。ただし、それがアルカイダのビンラディンであるとは限らない。 (Osama bin Laden's hideout compound From Wikipedia

▼なぜか大事な25分間だけ途切れた映像

 もし本物のビンラディンであるなら、丸腰の彼に向かって米軍部隊が顔面に銃弾を撃ち込んだのはおかしい。相手が丸腰なのだから米軍側に余裕があり、殺すにしても心臓などを狙うはずだ。顔面がきれいな方が、遺体の写真を世界に公開し、本当にビンラディンを殺したことを証明できる。顔を撃った(ことにして遺体の写真を公開しない)のは、人違いであると疑われることを強めてしまった。襲撃計画は何カ月もかけて練られ、海兵隊の特殊部隊は本物そっくりな隠れ家を作ってそこで襲撃の練習を繰り返したと報じられている。米当局は、ビンラディンのどこに銃弾を撃ち込むか十分検討したはずだ。 (Death of Osama bin Laden From Wikipedia

 オバマ大統領は、本物のビンラディンを殺す計画を立てたのだろう(法律家である彼は、ビンラディンを米国で裁いて有罪にすることの困難さを知っていたはず)。人違いでもいいから殺せとは考えないだろう(ばれたら米国の権威が失墜する)。昨夏、グアンタナモ軍事監獄での尋問(拷問)によって、ビンラディンの連絡係(隠れ家の管理人)の存在がわかり、隠れ家の場所を特定し、3月以来、オバマも参加する作戦会議を3度開いて襲撃実施を決定したと報じられている。しかし、隠れ家の管理人はビンラディンの連絡係ではなく、人違いの殺害だったのではないか。 (Security chiefs must end Pakistan's duplicity

 今回の襲撃作戦では、海兵隊員のヘルメットにつけたビデオカメラの映像を無線でホワイトハウスの作戦室まで送り、オバマや閣僚たちが、襲撃現場の映像を見ながら指示を出せる態勢だった。当初の米政府の発表では、オバマが現場の映像を見ながら、ビンラディンの殺害を決定したことになっていた。しかしその後、発表が訂正された。肝心のビンラディンを殺す前後の25分間だけは、無線で送られてくる映像が途切れてしまい、殺害の決定は、現場の海兵隊員が行ったことになった。人違いが確定したので、大統領の責任を軽減するために発表を訂正した感じだ。 (Obama watched Bin Laden die on live video as shoot-out beamed to White House) (Osama bin Laden dead: Blackout during raid on bin Laden compound

 オバマは事前に、国防総省の今回の襲撃の責任者(Navy Vice Adm. William McRaven)やCIAの担当者などに、何度も「襲撃対象がビンラディン本人だという確証があるのだな」と尋ね、確証があるという回答を得ていたのだろう(そうでなければ挙行しない)。しかし実際に現場に行ってみたら人違いで、現場責任者が「人違いですけどどうしますか」と大統領に尋ねたら「殺さずに戻ってこい」という話になり、作戦は失敗し、国防総省の責任者がオバマから叱られて降格されることになる。それを避けるため、国防総省の責任者に近い誰かが、人違いらしいとわかった時にビデオ映像を切ってしまい、オバマに知られないようにした上で、現場の海兵隊員に、ビンラディンの人違いの顔面に銃弾を撃ち込んで殺害しろと命じた・・・。たとえばそんな流れが推測できる。 (Who's the man behind the Osama bin Laden raid?

(こうした推測は、現時点でわかっていることをもとに考えたものであり、今後新たな事実が出てきたら、考えうる流れが変わるかもしれない)

▼アフガンとパキスタンは中国の傘下に入る

 米国は昨年ぐらいから、パキスタンともアフガニスタンとも、政府間の関係が非常に悪くなっている。米軍は、アフガニスタンからパキスタン領内にタリバンが逃げ込んでいるとして、パキスタン側の国境地帯を何度も無許可で無人戦闘機で空爆し、パキスタンの政府や世論を激怒させている。アフガニスタンのカルザイ大統領に対しては、米政府の高官が「あいつは腐敗している」と毛嫌いし、両国関係を悪化させた。 (カルザイとオバマ

 今回の「ビンラディン殺害」を機に、米国はアフガンからの軍事撤退の動きを加速するだろう。パキスタンとアフガンの政府は、米国からの自立を加速するだろう。パキスタンのギラニ首相は、4月16日にアフガンの首都カブールを訪問し、カルザイ大統領に対し「米国は、アフガンの経済再建にも、タリバンとの和解にも失敗しているので、もう縁を切った方が良い。代わりに、アフガンの経済再建は中国がやりたいと言っている。タリバンとの和解は(タリバンの生みの親である)パキスタン(ISI)がやりますよ」と提案している。 (Pakistan Urges Afghanistan to Ally With Islamabad, Beijing

 米国が撤退した後のアフガンとパキスタンの空白は、中国が埋めそうな流れとなっている。中国は、パキスタンの側に立ち、米軍による襲撃を「パキスタンの主権を侵害している」と批判したり、パキスタンのマスコミが流した「実はビンラディンを殺したのはパキスタン軍で、米軍は後からヘリで遺体を引き取りにきただけだ」といったシナリオをそのまま報じたりしている。 (China slams US bin Laden operation) (Osama Bin Laden killed in Abbotabad near Islamabad of Pakistan

 イランやロシアも、米国が去った後のアフガンの利権を狙っており、中露やイラン、中央アジア諸国といった上海協力機構の勢力が、集団的にアフガンとパキスタンの面倒を見ることになりそうだ。 (アフガン撤退に向かうNATO

 米国がそんなことを了承するはずがないと思う読者が多いかもしれない。しかし、米国はすでに財政破綻の際にある。ドルや米国債に対する信頼が揺らぎ、その表れとして、金や原油など国際商品の価格が乱高下している。今の米政府は、自分たちが出ていった後のアフガンやパキスタンがどこの国の影響下に入るかを気にしている余裕が少ない。オバマは、米軍がうまくアフガンから撤退することを最大の目標としている。米政府は、中国やロシアがアフガンの面倒を見ることを、口では文句を言いつつも、黙認するだろう。



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