他の記事を読む

テロ戦争の終わり

2009年4月14日   田中 宇

 2001年9月11日に起きた米国の大規模テロ事件(911事件)で、ハイジャックされた2機の旅客機が突っ込んだ後に倒壊したニューヨークの世界貿易センタービルに関して、旅客機の衝突が原因でビルが倒壊したと考えるのは不自然だという主張が、事件の発生直後から存在していた。たとえば、私は2003年5月に書いた著書「アメリカ超帝国主義の正体」(小学館文庫)の中で、以下のような事例を紹介した(以下、自著からの引用)。

 2001年9月11日の朝、ワシントンDCの国防総省ビル(ペンタゴン)にハイジャックされた旅客機が突っ込んだとき、アメリカの軍事技術研究所の一つである「ニューメキシコ鉱業技術研究所」のバン・ロメロ副所長は、市内の地下鉄に乗っていた。この日、国防総省の関連機関との間で新しい国防関係の研究についての打ち合わせが予定されており、その会場であるペンタゴンの近くのビルに向かうところだった。

 この日、大規模テロ事件が発生して会議どころではなくなったロメロ副所長だったが、旅客機に突っ込まれたニューヨークの世界貿易センタービルが崩壊する映像をテレビで見たロメロ氏は、奇妙なことに気づいた。貿易センタービルは、外から旅客機に激突したことだけが原因で崩壊したと考えるには、崩壊の仕方が整然としすぎていたのである。

 ロメロ氏は鉱業技術研究所の中でも、建物や飛行機などが爆弾テロで破壊されるときの状態を専門的に研究する「活性材料研究実験センター」(Energetic Materials Research and Testing Center)の所長をつとめた人である。この研究所は、爆弾テロを捜査する当局からの依頼を受け、砂漠の中にテロで破壊された建物や飛行機と同じ材質や構造を持った構築物を作り、そこに爆弾を仕掛けて破壊することで、破壊が本当に爆弾によるものであることを立証するという仕事を手がけてきた。ロメロ氏は「ビル破壊の瞬間」に関するアメリカ有数の専門家だった。

 貿易センタービルが崩壊する瞬間をテレビで見てロメロ氏が感じたのは「ビルが崩壊した主因は飛行機の衝突ではなく、ビルにあらかじめ爆弾が仕掛けられていたからではないか」ということだった。高層ビルには、ビルの構造を支えている柱など、力学的な急所が何カ所かあり、その柱を爆破することで、少ない爆薬でビルを崩壊させることができる。この方法は、破壊された断片が飛び散ることなく、ビルを内側に向けて整然と崩壊させることができるため、古いビルを崩壊させて取り壊す際に使われる手法でもあるが、火薬が少なくてすむので、老練なテロリストもこの方法を使うことがある。

 貿易センタービルが崩壊する光景は、ビルの要所に爆弾を仕掛けた場合の崩壊のしかたにそっくりだった。ロメロ氏は、飛行機をハイジャックしたテロリストたちには別働隊がいて、彼らが事前に貿易センタービルの何カ所かの構造的要所に爆弾を仕掛け、遠隔制御もしくは時限発火装置によって飛行機が突っ込んだ後に爆弾を点火させ、ビルを倒壊させたのではないか、と考えた。テロの被害を大きくするため、テロリストがそのような作戦をとったのではないか、と推測したのである。実際、そのような陽動作戦は、テロリストがよく行うやり方だ、とロメロ氏は指摘した。

 以上のことは、ニューメキシコの新聞「アルバカーキ・ジャーナル」が、事件当日の9月11日に報じた記事をもとに書いたものである。アルバカーキ・ジャーナルの記者は、911事件の発生を見て、ビル爆破の専門家であるロメロ氏にコメントをとることを思いつき、ワシントンまで電話を入れたところ「ビルに仕掛けられた爆弾が倒壊の原因ではないか」という意外なコメントを聞き、他のマスコミは全くそんなことを報じていなかったので、これは大ニュースだと感じて記事を書いたのだろう。

 とはいえ、ロメロ氏のコメントの「寿命」は長くなかった。アルバカーキ・ジャーナルのサイトには、最初の記事が書かれてから10日後の2001年9月21日に、ロメロ氏が前言を撤回して「貿易センタービルの崩壊は、火災によるものだ」と発言した、という訂正版の記事が出た。インターネット上では、訂正記事を先に載せ、最初の記事をその後に載せている。

 訂正版の記事によると、ロメロ氏はその後、構造工学の技術者と話したり、貿易センタービルが崩壊する瞬間の映像をもっと詳しく見たところ、ロメロ氏は第一印象とは異なる結論に達した。ロメロ氏は、他の専門家が言っているような「衝突した旅客機のジェット燃料の燃焼によって、高層ビルの構造を支える鉄骨の柱が溶けた結果、ビルが崩壊した」という説に同調するに至った。

 ロメロ氏は、飛行機の衝突そのものがビル崩壊を引き起こすとは考えられない、という以前の見方を崩しておらず、崩壊の原因はビル内部での爆発である可能性は大きい、としている。だが、ビル内の電力線の変圧器が焼ける際にパルスが発生し、それがビル内の配電線を伝ってまだ燃えていないジェット燃料に引火して爆破を起こしたといった可能性もあるため、ビル内に爆弾が仕掛けてあったとは必ずしもいえない、と考えているという。

 ロメロ氏が最初に行った発言は「貿易センタービル攻撃を引き起こした背後で、アメリカ政府が糸を引いているのではないか」などと主張する陰謀論者たちを勢いづかせることになり、ロメロ氏のもとには、陰謀論者たちからの無数の電子メールが届いたという。訂正版の記事は「私は何も断定的なことを言うつもりはなかったので、異常な反応にとても驚いている」という、ロメロ氏の発言で締めくくられている。

 もとの記事と訂正記事は、2002年後半まではアルバカーキ・ジャーナルのウェブサイトで見ることができたが、今は削除されている。ただ、すでに削除されたページのもとの姿を見ることができるサービス「Archive.org」には、かつての記事が残っている。 (Fire, Not Extra Explosives, Doomed Buildings, Expert Says

 10日の間を置いて掲載された2本の記事を読むと、ロメロ氏が勘違いしただけだった、と読み取ることができる。だが、アメリカには、この訂正記事そのものに対して懐疑の目を向ける分析者もいる。訂正記事には、ロメロ氏の最初のコメントにこだわる人々を「陰謀論者」と呼ぶという予防線が張られているが、陰謀論者扱いされた中の一人といえるジャーナリストのジョン・フラハーティ氏らは「行間を洞察しながら訂正記事を詳細に読むと、実はロメロ氏は『爆弾が貿易センタービルを倒壊させた可能性が大きい』という最初の主張を変えていないことが感じられる」と、国際情勢を分析する自分たちのウェブサイト「裸の王様」に書いている。 (BATTLE: AN EXPERT RECANTS ON WHY WTC TOWERS COLLAPSED

 そのことはまず、アルバカーキ・ジャーナルの2本の記事のトーンの違いから感じられる、とフラハーティ氏らは主張する。9月11日に出された最初の記事では、ロメロ氏はビル爆破テロ調査の専門家として、感じたことを自然に語っている。自分の発言が政治的にどのような意味を持つのかを考えず、専門家として貿易センタービルが崩壊する映像を見て「原因は爆弾だろう。テロリストはよくそういう手を使うんだ」と指摘していた。

 ところが、最初の記事を書いた記者とは別の記者が書いた訂正版の記事では、ロメロ氏自身の発言をそのままカギ括弧に入れて引用(クォート)している部分は2カ所しかない。残りの肝心の部分は、記者自身が書いた「地の文」となっている。

 ロメロ氏の発言は「確かに、ビルが崩壊した原因は火災に違いありません」("Certainly the fire is what caused the building to fail,")というのと「こんなことになって、とても驚いています。私は、何が起きたとか起きなかったとか、そんなことを言うつもりはないんですから」("I'm very upset about that, I'm not trying to say anything did or didn't happen.")という2つである。

 フラハーティ氏らは、この2つの発言のニュアンスから、訂正記事がいわんとしている方向とは逆に、ロメロ氏が前言を撤回する気がないことが感じられると主張している。最初の発言は、記者の念押しに対して「(原因が飛行機の燃料が燃えたことだったのか、それとも爆弾だったのか、どっちだったとしても)確かに火災が最終的なビル崩壊の原因となったことには違いない」という意味であり、次の発言の「こんなこと」というのは、陰謀論者からたくさんのメールを受信したことを指しているのではなく、前言を撤回するよう、仕事の発注元である国防総省から圧力がかかるといった大騒ぎになったことを指しているのではないか、とフラハーティ氏らは主張している。

 世界貿易センタービルが倒壊したのは、アメリカ政府が発表したような「激突した飛行機の燃料が一気に燃え、その熱がビルの鉄骨を弱体化させた結果」ではなく「ビルの内部に何らかの爆発物が仕掛けられていたからではないか」という疑惑は、他のところからも出ている。

 911事件に対する当局の真相究明があまりに貧弱なので、市民レベルで事件の真相究明を行い、その結果をインターネット上で公表するという動き「市民による911事件調査」(People's Investigation of 9/11 )があった( www.911pi.com すでに閉鎖されている)。そのサイトで、ハイジャックされた1機目のジェット機が世界貿易センタービルに突っ込み、燃料が爆発(燃焼)した際の熱量を計算し、それがビルの鉄骨の温度を何度まで上昇させることができたかを検証する文章が2003年2月末に掲載された。

 ハイジャックされた1機目の飛行機(アメリカン航空11便、ボーイング767型機)は、貿易センタービルに突っ込んだ際に1万ガロンの燃料を積んでいたと報じられている。この燃料が燃焼したときの熱量が、ビルの一つのフロアにだけこもり、他のフロアや外気に逃げていかなかったと仮定し、しかも燃焼のしかたが不完全燃焼ではなく、酸素が十分にあった場合の燃焼だったと仮定して計算したところ、鉄骨(1フロアあたり500トン)の温度は最高で280度まで上がるが、それ以上にはならないことが分かった。実際には、熱量の一部は他のフロアや外部に逃げ、その上ビル内での燃焼だったため、燃料は不完全燃焼に近かったと考えられ、実際の温度は280度以下だったと思われる。

 報道によると、ビルに使用された鉄骨は、600度まで熱せられた場合、強度が半分に落ちる。アメリカのマスコミの多くは、専門家の話として、貿易センタービルの鉄骨は1500度ぐらいまで熱せられたため強度がかなり落ち、ビルが崩壊したと解説していたが、この計算式では1500度どころか、600度の半分にしかならず、鉄骨はほとんど弱体化していなかったことが証明されている。

(自著「アメリカ超帝国主義の正体」からの引用はここまで。私はこの件について、本に書いたがウェブ上の記事として発表していなかったので、ここに引用した)

▼やはり貿易センタービル倒壊は爆破だった

 911事件で世界貿易センタービルが倒壊した理由は、米政府の公式見解である「ジェット燃料の爆破」なのか、それとも上で紹介したような「何者かが仕掛けた爆弾」によるものなのか。米政府は「ジェット燃料説」に固執し、爆弾説を全否定しているが、もし爆弾説の方が事実に近いとしたら、米政府が頑強に爆弾説を否定していることの方が問題になる。米政府が、テロリストがビルに爆弾を仕掛けるのを黙認した(もしくは政府要員自身が仕掛けた)という可能性が高くなるからだ。

 そして最近、爆弾説を補強する新たな研究が発表されている。それは、911事件直後の貿易センタービル周辺から採取された、ほこりやちりの4つのサンプルを分析したところ、そのうちのすべてから、国防総省から認可された業者しか扱えないはずの、特殊な爆弾の成分が見つかったという研究である。研究は、米国ユタ州のブリガム・ヤング大学の物理学者や、デンマークのコペンハーゲンの化学者ら数人の研究者がまとめ、最近、専門誌(Open Chemical Physics Journal)に発表した。 (Active Thermitic Material Discovered in Dust from the 9/11 World Trade Center Catastrophe

 研究者たちは、貿易センタービルの近くで、倒壊10分後、翌日、1週間後に採取された、合計4つのサンプルを検査したところ、酸化鉄とアルミニウム粉末の化合物である「サーマイト」の一種である「ナノ構造スーパーサーマイト」(nanostructured super-thermite)が、すべてのサンプルから検出された。 (Scientists find active 'super-thermite' in WTC dust

 サーマイトはマグネシウムで点火すると劇的に反応して高温となり、溶解した鉄となるもので、溶接や手榴弾、焼夷弾、古いビルを倒壊させるときの爆薬などとして使われている。それを強化したものがスーパーサーマイトで、爆弾として使われるため、国防総省によって輸出入や扱い業者が限定されている。スーパーサーマイトがすべてのサンプルから見つかったことからは、やはり貿易センタービルは爆弾によって爆破倒壊した可能性が高いと考えられる。 今回の記事の冒頭で紹介した「貿易センタービルの倒壊は爆弾によるものだろう」という、ビル爆破倒壊の専門家であるバン・ロメロの最初の指摘は正しかったことになる。

 バン・ロメロに、指摘を撤回するよう圧力がかかったように、今回の研究に対しても、以前から政治的な圧力がかかっていた。今回の研究の中心人物である物理学者のスティーブン・ジョーンズ(Steven E. Jones)は、ブリガム・ヤング大学の教授をしていた2005年に、今回の研究の元となる研究を発表した。しかし彼は翌年、大学から早期定年退職に追い込まれ、大学から追い出された。それでも大学内には、彼を支持する学者が多かったようで、彼は退官後も同大学の施設を使い、大学に残った後輩研究者たちと研究を続けることを許され、今回の研究成果となった。 (Small chips in World Trade Center dust identified as undetonated explosive

 今回の研究に参加した学者の中では、ほかにもケビン・ライアン(Kevin R. Ryan)という学者が、2004年に米政府発表のジェット燃料説に異議を唱えたがゆえに、勤めていた研究所を失職している。 (Ryan's Hometown Paper Reports on Letter and Firing

▼あちこちで指摘される自作自演性

 911事件に対する米当局の自作自演性については、公式見解が覆ることはないものの、事件から8年以上たった今でも、ときどき公式見解を覆すような指摘が出てくる。最近ではブッシュ政権が終わった10日後の今年1月末、カーター元大統領が、911の真相究明のやり直しを求める発言を行った。カーターは以前から「ブッシュは911を使って自分の権力を増強し、戦争した」と批判していた。 (Former President Jimmy Carter Supports Call for New 911 Investigation

 2005年のロンドンでのテロ事件の直後には、英国のロビン・クック元外相が「アルカイダはもともとCIAがロシアと戦わせるために訓練したイスラム・ゲリラ(ムジャヘディン)を列挙したコンピューターのデータベースのことだ」と書いている。 (The struggle against terrorism cannot be won by military means

 米国の諜報機関CIAの幹部の中からも「アルカイダという組織は一度も存在したことがない。全くの作り物だ」とか「アルカイダとは組織名ではなく、テロリストの行動様式に対してつけられた呼び名だ」といった指摘が出ている。 (Top Ranking CIA Operatives Admit Al-qaeda Is a Complete Fabrication

 昨年末には、911事件の日、米政府高官は、ハイジャックされた旅客機が国防総省のビルに突っ込みそうなことを約20分前に知っていたのに、国防総省の職員に危険を知らせず、避難させなかったとして、当時のラムズフェルド国防長官らが同省職員から提訴されている。 (Career Army Specialist sues Rumsfeld, Cheney, saying no evacuation order given on 9/11

▼目立たずテロ戦争を終わらせるオバマ

 米政府は、政権がブッシュからオバマに代わっても、911事件に対する公式見解は変えていない。しかしその一方で、ブッシュが911事件を口実として開始した「テロ戦争」を、オバマは、目立たないかたちで終わらせていこうとする動きを続けている。

(日本のマスコミは「戦争」という言葉を使うと平和主義の国民の反米感情を煽ってしまい、対米従属の国是に反するため「テロ戦争」のことを「テロとの戦い」という婉曲表現で呼ぶようになった。この事例は、日本でもマスコミは政府から独立した機関ではないことの象徴である)

 オバマは大統領就任以来「テロ戦争」という言葉を使わないようにしている。代わりに「過激派との長い戦い」(enduring struggle against terrorism and extremism)とか、単に「今続いている戦い」という言い方をしている。ブッシュ政権は「テロ戦争」という言葉を、イスラム世界に対して米国が介入するあらゆる軍事行動や外交的脅しについて使ったため、イスラム世界は「テロ戦争」という言葉に対して非常に悪い印象を持っている。そのため、イスラム世界との再協調を方針に掲げるオバマは、テロ戦争という言葉を使わないようにした。 ('War on Terror' Catchphrase Fading, but Policies Continue

 オバマは「言葉を慎重に選んで使えば、イスラム世界の穏健派をもういちど親米の側に取り込むことができる。だからテロ戦争という言葉を使わないのだ」と言っている。オバマは大統領就任の2日後に、アフガンなどから捕まえてきたイスラム教徒を、犯罪者とも捕虜(兵士)とも認定しない宙ぶらりんの状態で無期限に勾留し、世界から人権侵害を非難されているグアンタナモ米軍基地の収容所を閉鎖することを発表したが、これが事実上の「テロ戦争の終結宣言」だったと指摘するコラムニストもいる。 (Obama: US Choosing Words Carefully in Terror War) (Obama 'declared end' to war on terror

 またオバマは、大統領就任の直前に「もはやアルカイダは逃げ回っているだけの弱体化した組織なので、オサマ・ビンラディンを殺したり捕まえたりすることを最重要の目標にしておく必要はない」と表明している。 (Obama: No Longer Essential to Kill bin Laden

 米国のオサマ・ビンラディン研究者(Bruce Lawrence)は、ビンラディンはすでに死んでいるだろうと、07年の時点で言っている。911後に発表されたビンラディンのものとされるビデオ映像は偽物だとも言っている。 (Top Bin Laden Expert: Confession Fake

 ビンラディンはすでに死んでいる可能性が高まっているのに、オバマが「ビンラディンは死んだ」と言わず「ビンラディンを捕まえなくてもよい」と言っている理由は、米国の「軍産複合体」が「テロ産複合体」に発展し、一大産業と化しているからだろう。大学教員、マスコミ、政治家から、マッチポンプ式で儲けるコンピューター・セキュリティ会社、ガードマンまで「テロ戦争」で食っている米国人は多く、大きな政治勢力となっている。彼らは、ビンラディンやアルカイダの脅威を過大に扇動することで食っており、彼らに敵視されることは危険だとオバマは思っているのだろう。(日本にも同種のものとして、北朝鮮や中国、ロシアの脅威を煽るマスコミ、学者、政治家、活動家などの一大産業がある) (Declare an End to the 'War on Terror' by Robert Dreyfuss

▼英国はすでに「テロ対策より温暖化対策」

 すでに英国政府は06年から、テロ戦争という言葉を使うことをやめる政策を強めてきた。「イスラム・テロリスト」という言葉も使っていない。もともとテロ戦争は、英米協調でイスラム世界との対立を扇動する戦略だったが、英国はすでに、この戦略はマイナスが大きすぎると判断している。 (Britain Drops 'War on Terror' Label) (Term `war on terror' damaging: UK official

 英政府幹部の中には「アルカイダの脅威は誇張されている。テロ対策より、地球温暖化対策をやった方がいい」と言う者もいる。以前の英国は、米国を動かして世界を牛耳り続けるために、テロの脅威を誇張していたが、それはブッシュのやりすぎで失敗したので止めて、代わりに別の誇張戦略である地球温暖化対策(中印など発展途上国からのピンハネ)を強化した方が良いという、英国ならではの謀略の転換である。 (Ex-Aide to British PM: Al-Qaeda Threat Exaggerated

 米国はブッシュからオバマになって、ようやく英国の忠告に従うようになった。英国が米国を牛耳り直すようになったのか、とも思えるが、オバマは英国に対してかなり意地悪であり、むしろ英国はブッシュの時よりも冷や飯を食わされている。このあたりのことは、テロ戦争の本質と関わる話である。 (American Rome Is Burning - So Let's Attack Iran

 そもそもテロ戦争とは何だったのか。そして、それを終わらせることは何を意味するのか。そういったことが、今回の記事を書こうと思った動機であるが、その本質論に入る前に、すでにかなりの分量を書いてしまった。

 前段で長い引用をしてしまったことも一因だが、テロ戦争とは裏読みの必須な謀略の積み重ねであり、マスコミを軽信しがちな人々に納得してもらうには説明が長くなる。しかも規模が世界的で、イスラエルやイラク、アフガン、英米関係など、それだけで長い記事になるいくつものテーマが絡み合っており、話が長大になる。テロ戦争の本質論については、次回に書きたい。



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ