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米覇権ゆらぎの加速

2021年8月26日  田中 宇 

米国の覇権体制が崩壊していきそうな覇権のゆらぎが、いくつかの分野で加速している。来年にかけて米覇権の崩壊と多極化が進みそうだ。新たに顕著になってきた1つ目の分野は、米国のアフガニスタン撤退の失敗による軍事外交的な信用低下、ユーラシア地政学やNATOなど米国主導の安全保障、同盟関係に関することだ。アフガニスタンの首都カブールにはまだ欧米人が残っているが、彼らの国外脱出を助けるために先週カブールに派兵された6000人の米軍はタリバンとの約束を守って8月末に撤退する。脱出できない欧米人や、欧米機関で働いていた反タリバンのアフガン人が多数取り残される可能性がある。これが現実になると、早々に米軍を撤収して取り残された人々を見捨てたバイデン政権は非難され、国際的・米国内的な信用失墜が加速する。 (Biden Decides Against Extending Evacuation Timeline After Taliban Threatens) (Jen Psaki Claims There Are No Americans Stranded In Kabul During Testy Exchange With Reporter) (米欧アフガン撤退の失敗

覇権崩壊の2つ目の分野は、変異株などを口実にした新型コロナウイルス蔓延の誇張が、米国覇権の仲間であるアングロサクソン諸国(米英豪NZ加)やNATO(独仏)で特にひどく、異様に厳しい都市閉鎖やワクチン接種の強要によって、国内の政治対立や経済の自滅的な減速が強まっていることだ。コロナ危機は、米国側の欧米諸国に大打撃を与えて経済覇権をこわす働きをする半面、中国を筆頭とする非米側の対米自立方向の発展を加速する。今から2-3年後にコロナ危機が終わるころには欧米が衰退し、中国が世界最大の経済圏を擁するようになる。コロナ危機で国際的な人的移動がほとんど禁止されて世界の様子がわからなくなっている間に多極化が進み、米覇権体制が失われていく。 (Professor Reveals Horror Of Australia’s Tyrannical COVID Lockdowns) (Fear Porn Inc.) (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機

覇権崩壊が加速しそうな3つ目の分野は、米国中心の金融システムのバブル膨張が激しくなり、巨大な金融危機やドル崩壊の発生を警告する声が強まっていることだ。米欧経済はコロナ長期化による不況の二番底に向かっており、過剰なQEと財政支出によるインフレと相まって、米国はスタグフレーションになっている。株や債券の相場は、中銀群によるQE資金の注入によって不況を無視して上がり続けているが、現実のスタグフレーションとの矛盾がひどくなっている。今後どこかの時点で行き詰まり、金融危機とドル崩壊を引き起こす。米覇権崩壊後の多極型の世界政府的な役割を担いそうなG20は、国際的な政府デジタル通貨(CBDC)を発行する準備を加速しており、これがドル崩壊後の国際基軸通貨になるシナリオかもしれない。 (For The First Time Ever, The FOMC Minutes Discussed Cryptocurrencies) (A Global Liquidity Crisis Is Underway

全人類にスマホを持たせ、そこにマイナンバーなど国民背番号で管理した政府デジタル通貨とワクチン旅券を入れさせ、社会通信簿システム(拡大前科制度)もくっつけ、GPSで移動を監視すれば、完璧な全人類管理体制ができあがる。これが大リセットの主眼だが、問題はそれを誰が監督するのかだ。米国覇権が崩壊し中共が台頭する中で、中国の人民管理システムを全人類に拡大する形で大リセットが進んでいる。国連もG20も、コロナ危機を扇動し長期化しているWHOも、中国の発言力が強い。対米従属だった日本の権威筋が、しだいに対中従属に転向していくのは当然だ。 (Physical Cash Stops Digital Theft) (地政学の逆転と日本

上記の3つの分野を一つずつ詳述していく。8月16日にタリバンがカブールに無血入城し、アフガニスタンの政権を20年ぶりに奪回して以来、カブールにいた欧米人とその傘下のアフガン人たちが国外に脱出しようとカブール空港に殺到し、大きな混乱が続いている。すでにアフガニスタンから撤退していた米軍部隊の一部が8月18日から混乱を収拾するためにカブール空港に戻った。しかし混乱の収拾はなかなか進まず、まだかなりの数の出国希望者がカブールの空港や市街地に残っている。 (Aftermath Of An Afghanistan Debacle) (タリバンの復権

米国防総省は、記者団から尋ねられても、出国希望者の総数や、これまでに出国できた人数を言いたがらない。これは、米軍がカブール空港にいても出国がなかなか進まず、まだかなりの数の出国希望者が残っており、それらの人々を残したまま米軍が8月31日にカブールを撤収する予定であることを示唆している。国防総省が残っている人々や出国できた人々の数を記者団に発表してしまうと、そんなに残っているのになぜ予定通り撤収するのかと、世論や議会や同盟諸国から米政府への批判が強まる。だから国防総省は人数を教えたくない。(「まだ米国民が何千人も取り残されている」と喧伝され出したので、国務省は1500人しか残っていないと8月25日に発表したが「何千人でなくて1500人だ」と混ぜ返した観があり、数字が事実かどうかわからない) (CNN’s Barbara Starr Challenges Pentagon Spox John Kirby on His Refusal to Provide Specific Total of Evacuees) (Blinken says up to 1,500 Americans may still need evacuation from Afghanistan) (Media Turns On Biden: "Why Do You Continue To Trust The Taliban Mr. President?"

政権を取ったタリバンは米国に対し、約束通り8月末に撤兵しないと容赦しないぞと伝えている。米議会やマスコミの強硬派は、タリバンなんか怖くないんだから撤退期限なんか無視して希望者全員が出国できるまで米軍をカブール空港に駐留すべきだと言っている。だがバイデンは予定通りの撤兵完了を言い続けている。米軍は、これ以上アフガニスタンでの戦闘に巻き込まれたくないし、ISIS-Kなどのテロ組織がカブール空港をテロ攻撃してきそうだから、などと言って駐留延長をいやがっている(ISISなどは、米軍自身が敵捏造のために涵養した組織なのだが)。タリバンは8月24日、アフガン人の出国を当面禁止すると発表した。技師や医師など、今後のアフガニスタンの発展に必要な人々が欧米人と一緒に出国していく頭脳流出が起きているので、それを止めたがっている。 (Pentagon pressed on why British paratroopers leaving Kabul airport to rescue citizens but Americans aren't) (Has Kabul debacle opened a rift between Boris and 'doolally' Biden?

米軍のほかに英軍なども混乱収拾のためにカブールに戻ってきた。米軍はタリバンとの協定を守ってカブール空港から市街地に出ていかないが、英軍は空港に来れない欧米人を助けに行くために空港から市街地に出ていっている。英政府は、米軍も必要に応じて市街地に出てほしいと米政府に要請したが無視されている。米英の現場司令官どうしがこの件で口喧嘩した。英国のジョンソン首相がバイデンに電話し続けたが出てもらえなかった。英議員たちが、米英同盟は終わったと嘆いている。カナダのトルドー首相は、バイデンやハリス副大統領に電話しまくったが全くつながらなず、仕方がないのでヒラリー・クリントン元国務長官に電話して愚痴を言い合った。バイデンの米政府は頓珍漢さがひどくなっている。国内支持率も低下し続けている。アフガニスタンの状況は、米国の覇権衰退と中露の台頭を加速している。 (British And US Troops Reportedly At Odds In Afghanistan As UK Engages Rescue Missions) (Canadian PM Spoke With Hillary Clinton About Afghanistan Because Biden And Harris Were AWOL) (タリバンの訪中

2つ目のコロナ危機について。米当局のFDAが、ファイザーのコロナワクチンを正式承認した。このワクチンはまだ実験的な究段階で、それは2023年5月まで続くはずだったが、それを2年近くも前倒しして正式承認した。米政府は、これを機に未接種の人々に接種を受け入れさせようとしている。正式承認したのだから安全なワクチンであり、打たない方が良いと思っている人は間違っていると米政府は主張している。だが実際は、再来年まで安全かどうか調べている段階であり、それを無理やり2年近く前倒しして安全だと正式承認してしまったのだから、前倒し承認は『不正』であり、危険なワクチンかもしれないと疑う方が正常だ。 (FDA officially approves Pfizer “vaccine”… to encourage people to get vaccinated) (Polls Shows Almost Half Of Americans Favor Government Censoring "Misinformation" 【老人より若者が腐ってる】) ("The Scientific Process Is Short-Circuited By Politics"

各種のコロナワクチンはいずれも、効果のほどや副作用についてまだ良くわかっていない実験段階なのに、全員が接種せねばならないものに指定され、まだ接種していない人々に接種を強要するために、今回のファイザーの正式承認や、EUなどで導入されたワクチン旅券の制度が始まっている。ワクチンを接種しても「感染」しなくなるわけではなく、マスク義務や外出禁止も免除されない。しばらくすると効果が落ちるので、半年ごとに接種し続けねばならない。接種すると重症化しにくいという話が喧伝されているが、これも確実でなく、人々に接種を受け入れさせるためのプロパガンダである。多くの人が接種したくないと思うのは当然だが、接種しないとワクチン旅券をもらえず、欧米では行動の自由を大幅に制限される。できそこないのワクチンを強制するとんでもない悪政が欧米全体で進行しており、当然ながら、欧米や豪州などでしだいに多くの人がワクチン義務化に反対するようになっている。 (Australian Truck Drivers Vow To Block Every Major Highway In Radical Anti-Lockdown Strike) (Demonstrators Occupy London News Headquarters Over Pandemic Coverage

欧米の多くの国では、すでに7割以上の人がワクチンを接種しており、ワクチンが効くものであるなら、集団免疫に達して「感染者」が減るはずだ。だが現実は逆で、ワクチン接種率が高い多くの国で「感染者」(実は偽陽性者)が増えている。ワクチンが効くものでないか、偽陽性者を増やす新手の裏技が行われているか、その両方であるかのいずれかだ。ワクチンの強制と同時に(偽)陽性者の増加への対応策として外出制限など都市閉鎖(ロックダウン)の強化が行われている。しかし、偽陽性の増加は感染拡大と関係ないので、いくら都市閉鎖を強化しても偽陽性は減らない。こうした流れを見て、しだいに多くの人が「何かおかしい」と思うようになっている。インチキなワクチン強制策と合わせ、欧米でコロナ政策に反対する市民運動は今後さらに強まる。米英などのオルトメディアでは、7月下旬ごろからコロナ政策への反対運動の激化が頻繁に伝えられるようになった。マスコミは矮小にしか報じていない。 ('All But One Turned Out To Be Negative': Rice University Retests Dozens Of Students After COVID False-Positives) (ワクチン強制も超愚策

もともとコロナウイルスの感染は、人類が生来持っている自然免疫で乗り越える病気であり、ワクチンを開発してもあまり効くものにならない。ワクチンを何度も打つと体内に抗体として定着する度合いが増すが、半面、その人がもともと持っていた自然免疫に悪い影響が出て、むしろコロナウイルス全般に対する自然免疫が低下し、感染しやすくなる可能性がある。そういった副作用が今後露呈した場合、巨大な薬害問題になる。当然ながら、欧米の各国政府やマスコミ権威筋は全力でこの薬害を隠蔽しようとする。だが、被害が拡大して隠蔽しきれなくなると、それは欧米の政府やマスコミ権威筋に対する信用低下になり、混乱が長期化する。都市閉鎖の経済自滅と相まって、欧米の覇権低下が長く続く。中国やロシアもコロナワクチンを国民に接種しているが、それらは欧米のものと異なっている。コロナ危機が隠れ多極主義の謀略であるとしたら、ワクチンの薬害は欧米側だけで発生する。 (Australia is going full Fascist …but resistance is growing) (PCR検査をやめ、より巧妙な誇張へ?

コロナ問題だけでなく、政治的な言論の全体に関して、欧米では政府やネット大企業による言論統制が激しくなっている。これまで、欧米が中露など非米側よりも「すぐれている」とされているものとして言論の自由があったが、言論統制の強化により、欧米での言論の自由は急速に失われている。いまや欧米の言論状況は、中露とさして変わらない悪い状況」になっている。中露の人々がうらやんでいた欧米の言論の自由は失われている。中露の人々は、欧米をうらやましく思わなくなり、むしろコロナや(同様にインチキな)地球温暖化問題によって経済を自滅させていく欧米をあわれみ、さげすむ傾向になっていく。この面でも、欧米の覇権や優位が失われ、中露側が台頭して多極化が進んでいる。 (Conspiracy theories aside, there is something fishy about the Great Reset) (コロナの次は温暖化ディストピア

3つ目のQEなど金融バブルに関しては、まだバブル崩壊が起きておらず、株価は相変わらずQE資金の流入により最高値を更新している。だが最近、崩壊が近いという見方が、オルトメディアで頻出しており、時にはマスコミ権威筋でさえ「(ドルでなく)人民元がアジアの基軸通貨になっていく」といった言説を流している。崩壊が近いという見方は前からオルトメディアに載っていたので、こちらも「頻度が少し上がった」ぐらいな感じだ。これからの秋に金融危機が表面化する可能性がある一方、まだQEの神通力に余力があって危機っぽい感じがすぐに上書きされてバブルが延命し続ける可能性もある。バーゼル3の先物規制が始まっている金相場も、規制開始を来年まで遅延したロンドンで信用取引による売り注入があるのか、まだ急落する局面がある上げ渋りの状態だ。 (U.S. dollar potentially losing its sole reserve currency status) (Central Banks Are Now in the Endgame) (金融の大リセット、バーゼル3

しかし、米国の民間銀行は機能不全がひどくなり、延命措置として連銀(FRB)から受け取るレポ資金がどんどん増えている。すでに書いたようにG20は、ドルが崩壊した後の基軸通貨体制として何らかの政府発行のデジタル通貨(CBDC)を用意する方向であり、通貨がデジタル化されて現金が廃止されると、ドルの現金管理のために存在していた民間銀行の全体が不要になる。米国のレポ資金枠の拡大は、米国の民間銀行界の「終わりへの道」を示している。(米国では民間銀行界が連銀に対して大きな発言力を持っているので、民間銀行界を廃業させる通貨=ドルのデジタル化が米国では進んでいない。通貨のデジタル化が最も進んでいるのは銀行界も共産党の独裁下にある中国だ) (The G20 Officially Approved The Digital Economy Working Group As Permanent) (Fed Says May Have To Raise Reverse Repo Limits) (消えゆく米銀行界

これから米国でインフレが激化し、コロナ不況の再来と相まってスタグフレーションが進むと、QEの継続が難しくなる。アフガニスタンでの失策による軍事外交分野の米国覇権の低下も、ドルの信用低下につながる。全体的に見ると、米国の金融バブルの延命は、先があまり長くない感じがする。 (Very Soon Our Comfortable Market Narrative Will Collapse Like A House Of Cards



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