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革命に向かうEU

2015年6月23日   田中 宇

 米国債を頂点とする国際金融システムが、QEなど前代未聞の金融緩和策によるバブル膨張で危機に瀕しているという指摘が出続けている。先日ロシアのサンクトペテルブルグで開かれた経済フォーラムに出席した著名投資家のジム・ロジャーズ(ジョージ・ソロスの元相棒)は、先進諸国ので中央銀行に対する信用が揺らいでおり、1−2年内に金融危機が起こる可能性を指摘した。同時に、当局がうまいことバブル崩壊を防げば2022年ごろまで大丈夫かもしれないとも述べた。また彼は、危機に際して当局が人々(投資家など)の資産を没収する(ベイルイン)傾向が強まる、中国のバブルが崩壊する、ロシア経済は回復する、金融危機が起きたら金地金が上昇する、といった予測を発した。 (Jim Rogers: Turmoil Is Coming

 英国の債券投資基金の運用家(Ian Spreadbury)は最近、金融危機によって銀行が破綻し、預金を引き出せなくなるかもしれないので、資産の一部を現金で持っておいた方が良いと指摘した。ゼロ金利の長期化で、先進諸国の銀行は赤字体質がひどくなっており、QEに扇動され膨張を続ける金融バブルが崩壊したら、銀行が連鎖破綻する可能性がある。預金保険など銀行破綻に備える資金は米欧日とも不足しており、次に大きな金融危機が起きたら、公金で救済する「ベイルアウト」でなく、銀行の債権者や預金者から資産を没収する「ベイルイン」の策が採られる。「現金で持て」という指摘の背景に、そうした米欧の状況がある。 ('It's time to hold physical cash,' says one of Britain's most senior fund managers) (Full-Blown Panic Coming As This Historic Market Bubble Implodes. Signs Of The Bubble's Last Days

 先週、米連銀が理事会(FOMC)を開き、利上げしないことを決めた。「米国の景気が回復基調なので、米連銀はそろそろ利上げする」と喧伝されているが、実のところ、利上げによって金利負担が増加すると、米政府も企業(債券発行者)も負担増に耐えられず、それが金融危機の引き金を引きかねない。米経済の延命には、ゼロ金利の維持が不可欠だ。米連銀は、景気の改善を粉飾するため、今にも利上げしそうな雰囲気を漂わせているだけで、実際の利上げが挙行される可能性は非常に低い。 ("Lift-Off" Lies And The Fed's Reputational Risk) (超金融緩和の長期化

 米国債とドルを頂点とする国際金融システムと、米国の金融覇権を守るために、米金融界とその傘下の人々は、世界経済の米国以外の領域を先に金融危機に陥らせることで、世界に散らばる巨額資金がリスク回避のため米国の金融市場に戻らざるを得なくなるよう仕向けている。最近、危機に陥らされている領域は、中国など新興市場諸国の株式や債券、それから欧州のギリシャ危機だ。先週、中国株は一週間で10%ほど急落した。 (Chinese shares suffer biggest weekly drop in 7 years) ("Calm Reigns" Everywhere As Greece Inches Closer To Default, China Crashes) (債券市場の不安定化

 中国株がバブル膨張してきたのは確かだが、中国は5−7%の経済成長を続けているという裏付けがある。実体経済がほとんど成長していない(実質的にマイナス成長)なのに、株価が急上昇している日本や米国の方が、株のバブルはひどい状態にある。それなのに、米日でなく中国の株が暴落するのは、実体経済の動きに連動したものでなく、投機筋による金融戦争の側面が強い。 (Signs Of Financial Turmoil Are Brewing In Europe, China And The United States) (出口なきQEで金融破綻に向かう日米) (アベノミクスの経済粉飾

 ギリシャでは6月に入り、ギリシャ政府がIMFへの債務を決められた期日に返済できずデフォルト(債務不履行)に陥らされる可能性が増した。ギリシャのチプラス政権は、債務の多い諸国を救済するといって逆に借金地獄に陥れて支配する以前からのIMFのやり方を非難し、ギリシャや南欧諸国の人々の支持をとりつけ、経済の問題を政治の問題に転換することで、劣勢を挽回しようとしている。 (Defiant Tsipras Warns European Leaders They Are "Making A Grave Mistake"

 ギリシャ政府は金欠で、6月に入り、IMFやECB(欧州中央銀行)、EUという3つの債権者(トロイカ)に対する債務を返済できない状態になった。ギリシャ政府は6月5日、IMFに対する3億ユーロの債務返済期限に、返済を行わなかった。代わりに同日、ギリシャがトロイカから借りた資金の中に返済すべきでない違法なもの(ギリシャ前政権とトロイカが違法に決めた債権債務)がないか調べる「真相究明委員会」を与党シリザ内に4月に創設して調査中なので、委員会の結論が出るまで債務を返済しないと発表した。 (Greek 'truth' committee probes legality ofEU bailouts) (Greece Abandons "Red Lines" As Troika Meets In Berlin To Craft "Deal"

 IMFの債務を返済しないと国家として「債務不履行」(デフォルト)になるが、IMFには「月末一括払い」の制度があり、ギリシャ政府は月末払いへの変更を申請することで、6月5日が期限だった債務の期限を6月30日まで延長することで、この日のデフォルト発生を避けた。 (Greece to delay IMF repayment as Tsipras faces backlash

 その後6月17日に、与党シリザの「真相究明委員会」が、IMFなどトロイカがギリシャに貸した資金の「すべて」が、ギリシャを救済するふりをして借金地獄におとしいれるためにトロイカが仕掛け、金融界の傀儡だったギリシャの前政権がそれを鵜呑みにした結果の違法なものであるという結論を発表した。ギリシャが02年にユーロに加盟した後、欧州から大量の資金がギリシャ市場に流入してバブルが扇動され、その後11年に投機筋が先物取引でギリシャ国債市場を崩壊させてバブルを潰し、IMFなどトロイカがギリシャを救済するといって借金漬けにした。そうした経緯が、この報告書に書かれている。 (Executive Summary of the report from the Debt Truth Committee) (Greek Debt Committee Just Declared All Debt To The Troika "Illegal, Illegitimate, And Odious"

 ギリシャのチプラス首相は、真相究明委員会の調査結果を全面的に受け入れ「IMFは犯罪者だ。ギリシャの債務危機を起こした責任はIMFにある」と議会で演説した。この前後から、ギリシャ政府はトロイカとの交渉で態度を硬化させ、トロイカが要求する、公的年金の支給開始年齢の引き上げや、消費増税などの財政再建策を拒否し、逆にトロイカの借金取り戦略を強く非難するようになった。交渉は決裂状態となり、6月30日にギリシャがIMFに債務を返さずデフォルトする可能性が高まった。 (IMF bears criminal responsibility for Greece economic crisis: Tsipras) (Tsipras Hardens Greek Stance After Collapse of Talks

 マスコミや金融「専門家」たちの多くは「極左」政党のシリザと、40歳の「若造」チプラス首相が、借金を返せなくなった挙げ句、大間抜けにも、格好よさげにふるまうためだけに、IMFを犯罪者呼ばわりして6月末のデフォルトを確定させる自滅策をやった、ギリシャはデフォルト間違いなしで、ユーロから離脱するだろうという論調だ。しかし、IMFが1980年代から世界のあちこちの国に対して行ってきた借金地獄戦略を、ギリシャのシリザやチプラスが、正面から痛烈に非難して債務の返済を拒否した後、IMFやトロイカの態度が微妙に変質し始めた。たとえば、IMFのラガルド専務理事の周辺が、ギリシャが6月末に債務を返済しなくても、返済期限を1カ月もしくはもっと長く延長する選択肢を示し始めた。 (Europe Warns Of "State Of Emergency" As Greek Stalemate Drags On

 ギリシャの中央銀行総裁(Yannis Stournaras)は、前政権で財務相をやっていた人で、IMFや金融界、トロイカと仲が良い。シリザ政権が、IMFの借金取り戦略を「犯罪」だと断罪し、トロイカと対決する姿勢を強めた後、ギリシャ中銀は「トロイカの要求に従って金融支援をとりつけない限り、ギリシャの金融が破壊される」とする報告書を作成し、ギリシャ議会に提出しようとした。議会の議長(Zoi Konstantopoulou)は、中銀報告書の受け取りを拒否し、逆に議会の真相究明委員会の報告書を引用して「犯罪者のIMFと交渉するのは間違いだ」と表明した。 (Greece's Ruling Party Goes to War With Its Own Central Bank) (House speaker and SYRIZA in attack on Bank of Greece governor

 ギリシャ中銀はシリザ政権を敵視する方向に態度を硬化し、6月18日には「週明けまでにギリシャ政府がトロイカと金融支援で合意できない場合、ギリシャの銀行が連鎖破綻しかねない」と発表した。中央銀行が自国の銀行界の破綻を「予告」するのは前代未聞だ。ギリシャ中銀総裁は、自国の銀行を破壊し、それをシリザ政権のせいにすることで一矢報いようとした。 (Greek Central Bank Issues Dire Warning on Bailout Talks) (Greek central bank warns of "uncontrollable crisis"

 ギリシャの銀行界の崩壊を「予告」したギリシャ中銀の行為は、経済情勢を冷静に客観的に見て判断したものでなく、IMFに味方してシリザ政権を潰そうと危機を扇動する政治的な行為だった。しかし(IMFなど米金融界の傘下にいる)米欧の金融マスコミは「もうギリシャはダメだ」「ユーロ離脱が100%決まりだ」と大騒ぎした。ギリシャの市民が銀行の破綻を恐れ、銀行のATMに行列を作って預金を引き出すパニックが起きているとマスコミで報じられたが、市民メディアは、アテネ市内のATMに行列ができていないことを指摘している。 (Inciting Bank Runs As A Negotiating Tactic) (World Calm in Greece Despite IMF Debt Storm) (Bank of Greece warned bankers of 'difficult' day if no debt deal

 ギリシャのシリザ政権は、自国をユーロ圏内にとどめたまま、IMFなどから強制される緊縮策をせずに自国を金融財政危機から離脱させる策をめざしている。IMFの借金取り戦略を「常識」とみなす権威筋の言い分にだけ接している人々は、自分たちが読んでいるものがプロパガンダとも気づかず「緊縮策をやらずに金融財政危機を乗り越えられるはずがない」と思い込んでいる。しかしIMFの緊縮策が事態を悪化させる借金取り策でしかない以上、実は正反対の「緊縮策をやって金融財政危機を乗り越えられるはずがない」というのが正しい。緊縮でなく、経済成長によって財政を再建する方が現実的だ。 (アメリカによる世界経済支配の終焉

「ギリシャ人がIMFの緊縮策に反対するのは理解できるが、ユーロ圏内にとどまることと両立しようとするのは矛盾だ。ギリシャ人は自分たちが何を求めているかわかっていない。間抜けだ」と、ゼロヘッジは揶揄している。しかし「わかっていない間抜け」は、実のところゼロヘッジ自身の方だ。ギリシャのシリザ政権は、ユーロ圏にとどまることで、スペインやイタリア、ポルトガル、フランス、東欧諸国などを巻き込んで、IMFや米金融界の借金取り策(と、その裏返しであるQE)に牛耳られているEU(ユーロ圏)の戦略を、下から(欧州議会などで、民主的に数の力で)乗っ取り、ドル延命のためにユーロやEU統合を破壊しようとする米国の覇権策から欧州を自立させることを目標にしている。 (The Sheer Absurdity Of Greek "Demands" As Summarized In One Protest Banner

 IMFの借金取り政策の悪辣さは、新興諸国の多くも経験している。ギリシャは、IMFや米金融界主導の金融財政戦略が間違ったものであることを、延々と続く自国の危機のドタバタ劇を通じて、欧州全体(と、他の新興諸国)の人々に理解させようとしている。ギリシャ危機は、経済でなく政治の戦いだ。それを純粋な経済問題として見てしまうと、間抜けな勘違いが起きる(ゼロヘッジは別の記事で、これは政治の問題だと書いているが)。 (Greece Capitulates: Tsipras Crosses "Red Line", Will Accept Bailout Extension) (ギリシャから欧州新革命が始まる?

 ギリシャが金融危機の末にユーロから離脱すると、同様に金融危機に陥っているスペインやポルトガル、イタリアなども連鎖的にユーロから離脱させる方向で米金融界(投機筋)が攻撃を仕掛け、最終的にユーロの通貨統合の全体が破綻することになりかねない。ドイツなどEUの上層部は、それを避けたいはずだ。だから、ギリシャ側がいったんトロイカの要求を突っぱねた後、6月22日に公的年金の支給開始時期の引き上げや消費税(VAT)増税を一部受け入れてトロイカに譲歩してみせると、トロイカ側で一気に「ギリシャが譲歩したのだからデフォルトを回避できる支援金を出そう」と主張する流れが強まった。 (Greece offers new proposals to avert default, creditors see hope

 そもそも、ユーロの規約は「加盟条項」だけあって「離脱条項」がない。ギリシャがユーロから離脱するには、まずEUで、誰が離脱の決定権を持つか、離脱の手続きをどうするかなど、基本的なことを決めねばならない。たとえギリシャ自身が離脱を希望しても、その実現までに何年もかかる。実際には、ギリシャ自身が離脱しないことを強く希望しているので、EUは強制離脱の手続きを考えねばならない。EUサミットは、重要事項の決定が全会一致の原則だ。欧州議会では、南欧や東欧から選出された左派の議員がギリシャに味方する傾向を強めている。ギリシャを強制的にユーロから離脱させることは、政治的、手続き的にまず無理だ。手続きや政治を無視して「ギリシャのユーロ離脱は確定的」などとプロパガンダを書いている「金融専門家」(や経済新聞)を信用してはならない(プロパガンダのかたまりが必読新聞である日本のサラリーマンは努力しても世界を理解できない)。ギリシャがユーロから離脱する可能性はゼロに近い。 (ギリシャはユーロを離脱しない

 欧州をIMFや米金融界の傀儡から離脱させるため、ギリシャ危機を逆手にとってEUを政治的に乗っ取ろうとする策略が、ギリシャの左翼と若造首相だけの行為であるなら、実現性は低い。しかし、私が見るところ、左翼と若造の冒険行為をひそかに支援し、成功させようとしている勢力が、EUの最上層部にいる。EUの最高位である大統領(欧州委員会委員長)の地位にいるジャン・クロード・ユンケルがその一人だし、ドイツのメルケル首相もたぶんその一味だ。彼らは、EU統合の加速(経済から政治の統合へ)を最重要課題としている。 (茶番な好戦策で欧露を結束させる米国

 統合を進めたEUは、ユーラシア西部の地域覇権機構となり、米国の覇権の傘下から離脱し、NATOも無意味になる。ユーロはドルと並ぶ国際通貨となる。だから、米国の金融界や軍産複合体は、EU統合の推進を何とか阻もうとしている。米国務省筋(ビクトリア・ヌーランド国務次官補)などがウクライナ危機を誘発してロシアとの敵対を強め、欧州を米国の傘下にとどめる米露冷戦構造の復活をもくろむ目的の一つは、EUの統合と対米自立を阻止することだ。そして経済的には、ギリシャを延々と危機に陥らせてユーロを弱体化することが、米国系勢力によるEU統合阻止策になっている。 (ユーロ危機はギリシャでなくドイツの問題) (米国の新冷戦につき合えなくなる欧州) (ユーラシアは独露中の主導になる?

 冷戦終結時、欧州に経済政治統合を強く勧めたのはレーガンやパパブッシュの米国(隠れ多極主義者)で、その気にさせられた欧州は頑張ってEUやユーロを作って統合を進めた。しかしその後、米国の金融界や軍産がEU統合阻止策を強めると、EU内で統合推進派を押しのけて旧来の対米従属派が盛り返し、EU自身が統合推進よりNATOや冷戦構造の復活をもくろみだした。独仏上層部は、目立たないようにEU統合を進めようとしており、今週のEUサミットで政治財政統合の加速が決まりそうだが、実体面がなかなか進まない。 (多極化の本質を考える

 昨秋にEU大統領となったユンケルは、EU統合の加速を最重要課題としている(だからユンケルの就任に英国が猛反対した)。今後EUが統合を進めていくには、EUの上層部から対米従属派を一掃する必要があるが、容易でない。そこでユンケルらが考えたのが、ギリシャで今年初めに左翼政党シリザが政権を取ったことを機に、IMFや米金融界(とその傀儡たるECBなど)による「金融支援」のふりをした破壊策にギリシャの人々が激怒してIMFを拒絶し、その運動が同様の破壊策の被害者である南欧や東欧諸国に拡大し、それが欧州議会やEUの意志決定機構の上層部まで波及して、EUが対米従属から離脱する「革命」を起こすことだったと考えられる。 (EU統合加速の発火点になるギリシャ

 ユンケルらEU上層部は最近、借金を返さないギリシャをさかんに非難している。しかし非難するほど、ギリシャの民意はシリザとチプラスを支持し、チプラスは民意を背景にIMFの不当性を声高に指摘し、南欧や東欧の人々がそのとおりだと思う傾向を強める。チプラスはプーチンのロシアに接近する演技も盛んに行い、EUがギリシャを財政破綻させるつもりなら、ギリシャはユーロもEUもNATOもやめてロシアの傘下に転じる地政学大転換をやってやる、といった勢いだ。ギリシャをロシアに取られては困るので、若造チプラスがいくら生意気で反抗的でも、IMFやトロイカはギリシャに金を貸さざるを得ない。 (Greek PM tears into lenders as euro zone prepares for 'Grexit'

 実際のところチプラスのギリシャは、ユーロ圏とEUの内部に居残り、欧州の対米従属のエリート層の権力を転覆してEUを乗っ取る策略をやっているのであり、ユーロやEUを離脱してロシアの傘下に入ることはありえない。プーチンも、ギリシャがロシアの傘下に入るのでなく、EUを乗っ取って非米・親露的な方向に欧州全体を転換させることの方を望んでいるはずだ。チプラスは、大芝居を打っている。プーチンもこの芝居に友情出演している(プーチンは、EUの対露制裁ですら、制裁が続いた方がロシアが中国との戦略関係を強化できるので好都合と思っているのでないか。だから昨日、ギリシャも反対せずに、EU外相会議が対露制裁の半年延長を議論なしに決定した)。 (EU extends economic sanctions against Russia for 6 months

 ギリシャのロシア接近はチプラスとプーチンの芝居であり、ドイツのメルケル首相もそれを良く知っているはずだ。しかしメルケルは「ギリシャに厳しくしすぎるとロシアの傘下に入る地政学的転換を起こしかねない」と心配するそぶりを行い、ギリシャへの金融支援を続行した方が良いと主張する。ギリシャに寛容な態度が強すぎると、対米従属派がいまだに強いドイツで、マスコミによる政府批判や、与党内での突き上げが強まりかねない。そのためメルケル政権内では、メルケル自身が親ギリシャで、ショイブレ財務相が反ギリシャの役割を演じ、政権中枢で2人が対立して見せることで、対米従属派からの突き上げをかわしている。 (Greek showdown widens Merkel's rift with Schauble) (Greece Refuses To Blink; EU Says Noncompliance "Not An Option"

 このようにEUの上層部でギリシャに寛容な勢力と敵視する勢力が右往左往を続けている間に、EUの周縁部でギリシャの肩を持つ勢力が拡大している。フランスでは与党の社会党内で、オランド大統領に対しギリシャに味方すべきだと求める左翼からの声が強まっている。フランスでは、左翼と対称的な位置にいるはずの右翼のマリーヌ・ルペン(次期大統領候補)も、EUの旧来のエリート権力を転覆しようと動いている。彼女は最近、欧州議会で全欧の右翼を結束する新会派の結成にようやく乗り出し、全欧的な政治力拡大に動いている。ルペンは右翼、ギリシャのチプラスは左翼だが、両者ともプーチンと親しく、ロシアの力を借りてEUの上層部を乗っ取ろうとする策略が共通している。両者の共闘がありうる。 (French assembly in dramatic appeal for Hollande to "stand at the side of the Greeks") (Far-right parties form group in EU parliament

 オーストリアでは中央銀行総裁がギリシャ支持の姿勢を公式に打ち出し、注目を集めている。今後、欧州内の対米従属派エリート層に対する乗っ取り作戦が、どの程度強まるかはわからない。ギリシャの危機も、まだまだ続くだろう。しかし数年の時間軸で見ると、欧州で対米従属派が弱くなり、その分EU統合と対米自立、ロシア敵視解消が進んでいくと考えられる。 (Austrian chancellor sides with Greece in debt row



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