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日本の原発は再稼働しない

2012年4月5日   田中 宇

 関西電力の大飯原発3号機と4号機を再稼働するかどうかをめぐり、日本政府が迷走を続けている。大飯3号機は昨年3月から、4号機は昨年7月から定期検査に入っている。原発(軽水炉)はすべて1年から2年に一度、運転を止めて、燃料棒の交換と定期検査を行う。福島原発事故後、日本の原発は、定期検査に入ったものから順番に、事故に対する耐性検査(ストレス試験)を行い、政府(原子力安全保安院)やIAEAから安全と評価されてから再稼働することになっている。

 大飯3、4号機は昨秋、耐性検査の1次評価で合格し、政府内や財界から「早く再稼働せよ」という要求が強まる一方、地元や近隣の福井県や京都府、滋賀県、また政府内にも「急いで再稼働するな」「2次評価を待つべき」という慎重論があり、対立している。野田政権内では、野田首相が再稼働に前向きな半面、枝野経産相は再稼働に反対の姿勢を示していたのが、4月4日になって反対論を撤回した。だが同時に政府は4月5日、再稼働について新たに30項目の条件を発表し、再稼働に対するハードルを引き上げた。

 大飯など関西電力の原発は加圧水型で、福島など東京電力の沸騰水型の原発よりも格納容器が大きい。圧力容器が壊れて冷却水が減り、水素が発生しても、格納容器の容量が大きいので、福島事故の際に起きたような水素爆発まで至りにくい。福島事故の教訓を沸騰水型に全面適用しても、加圧水型にそのまま適用する必要がないという考え方もできるはずだが、そのような議論は政府内外で目立った形で起きていない。IAEAも大飯の安全性に疑問をつけていない。再稼働が技術的な問題でなく、政治的な問題であることがうかがえる。

 大飯3、4号機の再稼働問題が重要なのは、このまま今夏、日本の原発が全く再稼働せずに夏の電力ピーク時期を乗り越えられることがわかると、原発がなくてもやっていけることが国民にわかってしまい、原発の再稼働がますます困難になるからだ。大飯が再稼働しないと、5月以降、日本の54機の原発はすべて停止する。3月25日、東京電力の柏崎刈羽原発の6号機が定期検査のため停止し、5月5日には北海道電力の泊原発3号機も定期検査に入って止まる。そのまま夏を越すと、原発不要論が強まる。政府などが発表する日本の電力需給バランスには、かなりの供給余力が隠されており、原発がなくても日本はやっていける。それが暴露されてしまう。これまで原発を推進してきた勢力は、大飯を再稼働させようと躍起になっている。 (原発 全54基ストップ この夏、電力は大丈夫なのか

 このような時期に、野田政権は大飯の再稼働をめぐって迷走している。迷走するほど、地元の反対が強まり、再稼働が難しくなる。「常識」的なマスコミの論調は「野田政権は、またもや無能ぶりをさらけ出した」となるのだろう。だが実際には、そのような論調しか書けないマスコミの方が無能をさらけ出している。野田政権の迷走は、無能に起因せず、おそらく意図的なものだ。

 昨年7月、その半年前から定期検査をしていた九州電力の玄海原発2、3号機(加圧水型)の再稼働について、地元の佐賀県玄海町の岸本町長が了承した。するとその2日後、当時の菅政権は「原発の再稼働はストレス試験に合格してからとする」と、唐突に新たなルールを発表し、再稼働に向けた動きを潰した。玄海2、3号機は、今も停止したままだ。唐突に新たなルールを作って再稼働を潰す政府の手口は、1年経っても変わっていない。当時の官房長官だった枝野は今、経産相となり、迷走を引き起こして再稼働を隠然と阻止する役回りを演じ続けている。 (日本も脱原発に向かう

 菅前首相は、脱原発に賛成だと言い続け、それが日本政府が原発再稼働に慎重な原因とされた。だが野田現首相は脱原発派でない。私が見るところ、日本政府が311後に原発を全廃していく方向を進んでいるのは、日本側の意志でなく、米国のオバマ政権の意志だ。民主党の上層部で最も対米従属色が濃い前原誠司は昨年、早々と脱原発の方針を掲げた。 (日本は原子力を捨てさせられた?

 政財官界には、原発推進の勢力が強い。だから政府は、米国の意を受けて国内原発の再稼働を潰すのに、正面から脱原発の政策を掲げず、無能ぶりをさらけ出して地元の反対を誘発する裏道の戦略をやっている。この私の分析が正しければ、今後も日本の原発は再稼働しないだろう。官邸周辺が演じる迷走劇がうまく機能せず、1機か2機が再稼働しても、それが他の原発へと広がらないだろう。

▼原発は沖縄基地問題と同じ構図

 オバマ政権の米国が、日本の原発を潰したい理由は、原発が軍産複合体の傘下にあって核兵器製造の分野とつながっているからだ。軍産複合体は、世界の反米諸国(北朝鮮など)に核兵器製造の技能を密かに流し、米国に脅威となる敵国に仕立て、米国内で軍産複合体が重視される状況を持続する「敵を作る作戦」を続けている。この戦略は、イスラム諸国の反米感情を煽ってアルカイダを強化して永く米国の敵として機能させる「テロ戦争」でも使われている。

 こうした敵を煽って大きくする軍産複合体の世界戦略は、この10年ほどの間に行われたが、やりすぎのために失敗した。テロ戦争は、イラクとアフガニスタンからの米軍撤退で終わりつつある。米国は、核兵器を開発した北朝鮮の面倒を中国に見させ、朝鮮半島に対する覇権を手放しつつある。核兵器開発の濡れ衣をかけたイランも、中露の支援を受け、米国は譲歩に転じようとしている。英国の植民地支配の置きみやげだったインドとパキスタンの対立と核武装も、中露など上海協力機構の仲裁で和解していく道筋で、米国の覇権から外れつつある。 (立ち上がる上海協力機構

 米国は、敵を煽って大きくする世界戦略に失敗し、財政再建や覇権の縮小(中露など新興諸国への覇権譲渡)をやろうとしている。その際に、軍産複合体が米政界で強い力を持ったままであることは、米国の建て直しの阻害要因となる。日本は1970年代以来、米国の軍産複合体のために挺身的な貢献をし続けてきた世界で唯一の国だ。複合体は共和党と結託しているので、民主党のオバマ政権は、複合体を弱体化させたい(クリントン政権もそうだった)。

 米国は、冷戦構造を脱却しようとし始めた70年前後に、日本に対米従属をやめさせて自立させようとした。米中が接近し、沖縄が返還された。だが、日本を支配する官僚機構は、対米従属をやめることを望まなかった。軍事面では、在日米軍に毎年巨額の「思いやり予算」を贈賄的に支払い、米軍の全世界の海外駐留費の半分近くを日本一国で出し続けた。贈賄構造のもう一つが、73年の石油危機後に加速した原発の建設だった。 (日本の官僚支配と沖縄米軍

 原子力発電が米国でさかんになったのは1950年代からで、それは原発(軽水炉)を稼働させることで核兵器の材料となるプルトニウムを作れるし、核燃料を作るウラン濃縮の工程は、核兵器を作る工程とほとんど同じで、濃縮度が違うだけだった。原子力発電の方法は軽水炉以外にも各種発明されたのに、軽水炉だけが世界で普及したのは、ウラン濃縮とプルトニウム生成があるからだった。

 50年代以降、日本にも原発が作られたが、ウラン濃縮はすべて米国で行われ、プルトニウムを含む使用済み核燃料も全量が米国に返還されていた。米国が日本に自立をうながし始めた1968年の日米協定で、日本国内でもウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理ができるようになったが、その後もウラン濃縮の7割は米国で行われており、日本政府が電力会社にそれを義務づけている。日本の原発はすべて米国の2社が開発したものだ。

 以前の記事に書いたように、米国ではイスラエル系の勢力(軍産複合体の一部)が、米国の戦略を中東に引きつけておくために、米国が中東の石油を必要とする構図を定着させる必要があり、1979年に起きたスリーマイル島原発事故で必要以上の大騒ぎを起こし、それ以降30年間、米国で原発が全く新設されないようにした。その穴を埋めるように、軍産複合体の傘下にある原子力産業が日本に原発を次々と作って儲けられるようにしたのが、日本の官僚機構による原発急増政策だった。 (日本も脱原発に向かう

 しかし、日本が軍産複合体を献身的に支えている構図は、米国でオバマ政権などが軍産複合体の力を弱めようとしている時に、阻害要因となっている。そのため米政府は、日本政府が思いやり予算やグアム移転費補助として出している在日米軍への贈賄的な支払いを振り切って、沖縄の海兵隊をグアム島や米本土などに移転させる話を進めている。それと同様の動きとして、米政府は、福島原発事故直後、事故の評価を世界最悪の「7」まで引き上げるよう、日本政府に圧力をかけたり、その後の原発の全停止、再稼働の事実上の禁止などの圧力をかけていると考えられる。 (日本は原子力を捨てさせられた?

▼地球温暖化を捏造し原発延命を図ったが

 すでに述べたように、原発(軽水炉)は、米ソが核兵器製造競争を展開した冷戦構造の遺物である。冷戦の終結とともに、軽水炉や核兵器の政治的な必要性が大幅に低下した。しかし、80年代末の冷戦終結時には、すでに世界に多数の軽水炉が存在し、世界の原子力産業は、政治的な後ろ盾なしに、経済的に自転していくことを模索した。これが90年代の「原子力のルネサンス」と呼ばれる動きで、原子力産業の民営化と再編、新興諸国での原発新設、核燃料サイクルの確立、事故に強い第3世代の原発の開発などが進められた(日本の原発のほとんどは第2世代)。この時期、米国では軍事産業の民営化、再編も進んだ。 (Nuclear renaissance From Wikipedia

 90年代に京都議定書が国際決議され、実は捏造にすぎない地球温暖化が喧伝され、温暖化対策が必須のものとされたのも、原子力のルネサンスと関係している。原子力発電はコストが安いという触れ込みで世界的に普及したが、使用済み核燃料の処分や、大事故が起きたときの被害を含めてコストを再計算すると、非常に割高になる。核兵器製造との関係で政治的な後ろ盾があった冷戦時代には、ゆがんだコスト計算でかまわなかったが、民営化するとなると、現実的な計算を余儀なくされる。 (地球温暖化問題の歪曲

 原子力のコストを下げるのが難しいので、軍産複合体お得意のマスコミを使った言論操作(戦時に行うものを平時に発動)の機能を使い、地球温暖化問題を世界的にでっち上げ、石化燃料の使用を制限する動きや、石化燃料の使用に炭素税を課してコスト高にするような工夫が行われ、原子力発電が割安になるような設定が試みられた。しかし結局、米議会が批准せず京都議定書の体制は瓦解し、その後は覇権多極化の一環として、温暖化問題の主導権が中国や途上諸国に乗っ取られ、温暖化対策費は、先進国が途上国への支援金として支払うものに変質した。温暖化問題で原発をテコ入れする策は失敗した。 (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘

 そこに至る過程の2006−07年に、米国の原発大手2社が、日本企業に買収されたり日米連合体になったりして、日本が米国の原子力産業を傘下に入れる状況になった。これを単体で見るとすごいことだが、裏を返せば、この時すでに米英の上層部の人々は、原子力のルネサンスが失敗して原発メーカーは儲からなくなると予測し、無知な日本企業に売りつけたことになる。

 原子力のルネサンスが失敗したもう一つの理由は、核燃料サイクルの確立が国際的に失敗したことだ。プルトニウムを燃やす高速増殖炉が日本やフランスなどで開発されたが、事故や不具合が相次ぎ、世界的に頓挫したままだ。日本の原発から出た使用済み核燃料は、英仏の再処理工場に再処理が委託されているが、そこで出たプルトニウムが増えて行き場に困っている。

 国際社会から核武装を疑われたくない日本政府は、プルトニウムを英仏に置いたままにしてきたが、ずっとそのままというわけにいかず、プルトニウムを混ぜた燃料を既存の原発で使うプルサーマルが、世論の反対を押し切って試みられている。日本でも青森県の六ヶ所村で核燃料の再処理を行う計画だが、大幅に遅れている。六ヶ所村は、各地の原発から出た使用済み核燃料の置き場としての意味しかない。核燃料サイクルの挫折は、原発のシステム的な破綻を意味するが、破綻状態は世界的に無視されている。 (衆議院議員・河野太郎――虚構の核燃料サイクルで日本の原子力政策は破綻

▼途上諸国で続く原子力ルネサンス

 米国の隠然とした圧力を受け、日本では原発が廃止されそうな状況だが、対照的に中国では、福島事故から1年間凍結されていた原発の新設計画の推進が再開されている。中国では既存の15機の原発に加え、26機が建設中、51機が計画中、120機が構想中となっている。福島事故後、中国政府は原発新設をいったん凍結しつつ、既存の原発に改良を加え、建設中や計画中の原発の一部を、日本と同じ第2世代の軽水炉から、安全性をより高めた第3世代の軽水炉に変更した。その上で、福島事故からちょうど1年すぎた今年の全人代(国会)で、原発建設の再開を宣言した。 (China nuclear protest builds steam

 途上諸国の中では、ベトナム、バングラディシュ、アラブ首長国連邦、トルコ、南アフリカなどが、初めての原発を建設する計画を進めている。韓国では2月に2機の原発が完成し、発電を開始した(韓国の原発は23機になった)。途上諸国では、日米、フランス、中国、ロシアのほか、韓国の原子力企業も建設の受注に動いている。途上諸国は福島事故の影響を1年で脱却し、原発建設を再開している。原子力のルネサンスは、途上諸国に場を限定して続いている。 (SA called for France-China nuclear bid) (Nuclear power back from the grave

 途上諸国と対照的に、先進諸国では原発の新設が頓挫する傾向だ。欧州ではドイツ、イタリア、スイス、オランダなど大陸諸国の多くが原発廃止を決めている。英国は8機の原発の新設を計画しているが、2機を担当するドイツの2社の合弁企業が、ドイツ本国の原発廃止を受けた財務状況の悪化から撤退することになった。英政府が財政難で、原発の新設はフランス、スペインなどの大企業に任されているが、この国際民営化方式自体の継続が危ぶまれている。 (Could China run Britain's next nuclear reactor?

 英政府は、ドイツが抜けた分の穴埋めを、ロシアや中国の政府系原子力企業に頼むことすら検討している。新興国が、先進国の原発を作ってやるという、従来の常識をくつがえす新たな展開だ。新聞は「チェルノブイリを英国に作ってもらいたいのか?」と批判記事を出している。 (Would you buy a reactor from the firm that gave you this?

 米国では数年前まで15社の電力会社が29機の原発建設を計画していたが、そのうち建設が進んでいるのは2機だけで、残りは棚上げの状態だ。米国では、これまで掘っていなかった地層から天然ガス(シェールガス)を掘る技術が進み、天然ガスの供給が増えて価格が大幅に下がった。原発は1キロワット当たり5339ドルのコストがかかるが、ガス火力なら978ドルですむ。発電所の建設工期もガス火力の方がかなり短い。棚上げされた原発建設に代わり、米国では2015年までに258カ所のガス火力発電所が作られる予定だ。 (Cheap Natural Gas Unplugs U.S. Nuclear-Power Revival

 日本の原子力産業は米国と合体して日米連合になっている。日米連合は米国の軍産複合体の傘下だが、フランス、ロシア、中国など、その他の政府系原発メーカーは、むしろ軍産複合体と対立する存在だ。日本は、世界で最も軍産複合体に貢献している国だ。英国やイスラエルは、軍産複合体に貢献するのでなく、複合体を自国に都合の良いように使おうとしてきた。日本だけが、対米従属の国是を満たすため、複合体に片務的、献身的に貢献している(韓国の李明博政権も日本と似た戦略だったが、失敗して政治力が低下した)。複合体を弱体化させたいオバマ政権は、表向き日米同盟を重視していると言いながら、在日米軍撤退や原発廃止へと事態を動かし、日本と複合体の関係を切ろうとしている。

▼多極型世界に必要な軽水炉廃止

 今後、世界の覇権体制が多極型に転換し、従来の国連安保理常任理事国5カ国体制(P5)に代わり、BRIC+EU+米国という新体制になっていきそうなことを考えると、今までP5諸国だけが核武装を許された状況を変える必要がある。歴史を見ると、米国がフランスに、英国がロシアに、ロシアが中国に核兵器技術をこっそり譲渡しており、P5だけが核武装する世界体制を意図的に作った観がある。 (US secretly helped France develop nuclear weapons, documents reveal

 今後、インドとブラジルと南アフリカに核武装を許せば、BRIC+EU+米国が核武装するので、それで良いじゃないかという見方もできる。しかし、大国が談合して世界を運営する「世界政府」的な体制は非公式なものだ。国際社会の建前は「すべての国家が対等であり、国家を超える権力は存在しない」というものであり、インドやブラジル、南アの核武装が許されて、パキスタンや北朝鮮やイスラエルの核武装が許されないのは理屈が通らない。5大国だけが核武装を許される今のNPTの体制自体が、すでに破綻している。 (核の新世界秩序

 となれば今後、いずれかの時期に米国で金融危機が再燃するなどして、米国の覇権体制が崩壊して多極型の体制へと移行するなら、それを機に、世界のすべての核兵器保有が悪である新しい世界体制を作り、NPTを廃止せねばならない。これは「あるべきだ論」でなく「分析」ないし「予測」である。オバマが以前に進めていた米露核軍縮などの世界的核廃絶の政策は、この転換の先駆けとなることを目指したのだろう。 (中国が核廃絶する日

 核不拡散を徹底するには、核兵器転用が比較的容易な第2世代と第3世代の原発システムを、ウラン濃縮や核燃料再処理を含め、廃止していく必要がある。第2世代が52機、第3世代が2機ある日本の原発が今後、全廃されるとしたら、それは期せずして世界の流れを先取りしている。どうせいずれ軽水炉が全廃されるなら、今年日本が全廃しても良いと考えることもできる。 (オバマの核軍縮

 オバマの核廃絶策は、ノーベル平和賞を受けたものの米政界の共和党右派から受けが悪く、共和党との協調を重視するオバマはその後、核廃絶策を棚上げしている。だが、今秋の大統領選で再選されるであろうオバマは、2期目に再び米露核軍縮などの核廃絶策を進めようとするだろう。オバマが先日ロシアのメドベージェフと会ったとき「再選されたら自由度が高まるので、それまで待ってくれ」と述べた声が意図せずマイクに拾われ、世界に報じられた。 (Obama Set for 2nd Term Spouting `This is My Last Election, After My Election I Have More Flexibility'

 こうした政治的な面だけでなく、技術的にも、核燃料サイクルが確立できないため、今の原発(軽水炉)のシステムはいずれ行き詰まる。軽水炉の大量新設を目論む途上諸国でも、反原発運動が強まっている。中国では、初の内陸部の原発建設に関し、直接の地元である江西省が建設を認めたものの、隣接する安徽省で、原発建設の利権的な恩恵を受けず風評被害や事故の不安だけを負わされるため反対論が強まり、北京の中央政府に建設中止を正式に要請した。インド西部では、フランスに発注した原発建設に対し、地元の人々が強く反対している。中国もインドも、福島事故の影響で人々が原発への懸念を強めている。 (China nuclear protest builds steam

 人為的な地球温暖化が起きておらず、シェールガスなども見つかっているので、人類が今後もエネルギーを化石燃料に頼り続けるのは可能だ。しかしそれと別に、軽水炉の核燃料を作る際に大量に排出されるし、使用済み核燃料の中身の9割以上を占めて、世界的に蓄積されて行き場がない劣化ウラン(ウラン238)を燃料に使える進行波炉(TWR)や、プルトニウムを燃やせるトリウム炉などの「第4世代」の原発を世界各地に建設することも「軽水炉後」の人類のあり方として可能だ。軽水炉は毎年燃料棒の交換が必要だが、進行波炉などは百年ぐらい燃料棒の交換なしに運転し続けられるとされる。 (Traveling wave reactor From Wikipedia

 第2世代と、その改良型である第3世代の原発は、ウラン濃縮とプルトニウム生成をともなう核兵器時代のシステムだが、第4世代の原発だと、ウラン濃縮を必要とせず、プルトニウムも減らせるので、核兵器禁止後の世界に向いている。進行波炉は、マイクロソフトのビルゲイツを会長に招いた米国のテラパワー社が開発している。同社は、米国で進行波炉が認可されることはないと判断し、中国やインドなど新興諸国に売り込んでおり、多極化を見据えた事業展開をしている。 (Bill Gates, China jointly developing nuclear reactor

 同社は311より前、日本にも売り込みにきた。日本は、使用済み核燃料として劣化ウランを持て余しているのでちょうど良いはずだが、軍産複合体の傘下で対米従属の維持をめざす日本では軽水炉しか眼中になく、見向きもしなかった。 (TerraPower - with the backing of Bill Gates - has a radical vision for the reactors of tomorrow

 進行波炉は、使用済み核燃料というゴミを燃料に使えるものの、この炉自体も運転後は使用済み核燃料を排出する。その点についての突っ込んだ説明を探したが見つからない。曖昧にされている感じだ。原子力の先行きは不透明であり「燃やしてゴミを減らす」なとどいうことすら考えず、医療用以外のすべての原子力利用を禁止・廃止した方が良いという考え方もできるが、そうした全廃論もまた、どこからか扇動された軽信という感じもする。



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