日本も脱原発に向かう2011年7月8日 田中 宇FT紙が7月3日、菅直人首相の後がまを狙う前原誠司前外相が、同紙のインタビューに対し、新たな原発の建設を原則として中止し、今後10−20年かけて原発に対する依存を低下させ、段階的にすべての原発を廃止すべきだと述べたと報じた。次の首相の有力な候補である前原が原発廃止の立場に立ったことは、日本のエネルギー政策が全面転換していきそうなことを示しているとFTは書いている。 (Ditch nuclear power, says Japan PM contender) 前原は6月26日に神戸で講演した際にも、20年後までに原発をなくすことに賛成だと表明した。だが、日本のマスコミや市民運動家の多くは、前原の発言のこの点よりも、この日の講演で、脱原発に向かっている菅首相の政策を性急なポピュリズム(大衆迎合)だと批判した点だけを重視し、前原が脱原発を批判する原発推進派であると描いている。 (前原前外相「急激な脱原発はポピュリズム」 首相を批判) 前原は菅を追い出して自分が首相になりたいのだから、菅を批判するのは意外でない。経済への悪影響をなるべく少なくしつつ原発を全廃するなら、今から20年かかるのは当然だ。前原がFTに語った10−20年という期間は妥当であり、それよりも急いで脱原発をやるのは性急で無理がある。ドイツは10年後の2022年までに原発を全廃すると決めたが、ここまで来るのに脱原発を前提とした10年以上の議論があった。 「脱原発は首相になるために前原が放っているウソだ。実際に首相になったら自分の発言を反故にして脱原発などしないはずだ」などと考える人も多いだろう。しかし昨今の日本政界では、ほぼすべての政治勢力が何らかの脱原発を掲げている。自民党も民主党も、公式な党是では原発推進の看板を下ろしていないが、民意が固まってきたら脱原発を正式な方針にできるよう、多くの政治家が日々の発言を曖昧化している。佐賀県の玄海原発の再開には、自民党も猛反対した。 今の日本では、原発事故に対する国民の不安が煽られる構図ができあがっている。3月11日の福島事故直後、原子力安全委員会が事故を過小評価し、原発推進役の経済産業省の言いなりであることが国民の目に明らかになった。安全委に対する国民の信用はその後も崩壊したままだ。たとえば安全委は7月4日、福島原発周辺の子供たちの放射線被ばくについて調査したところ、45%が甲状腺に被ばくしていたことを明らかにしたが、同時に、精密検査が必要なほどの被ばくでないので、何も手を打たないと表明した。もし安全委が国民の信頼を得ているのなら、このような曖昧な言い方でも「安全委が言っているのだから大丈夫」とみんな思うが、安全委が信頼されていない現状では「安全委は被害隠しをしているに違いない」と、国民は逆に不安を煽られる。 マスコミは、安全委の姿勢を批判する反対論者の意見を記事の後ろの方に載せたりするが、これまた短いものなので、読者は全体像がつかめないまま、さらに不安を煽られる。不安扇動の構図が打開されるメドはなく、今後も国民の原発への不信や反感は増え続けるだろう。そうした流れが予測される以上、原発推進の立場を堅持する政治家は減る一方だ。誰が次の首相になろうが、原発推進の方に舵を戻すことは日に日に難しくなる。 前原を首相にしたい仙石由人官房副長官は、東京電力を発電部門と配電部門に分社化し、発電部門のうち原発は国有化して廃炉していく構想を出した。日本は戦前、発電会社と配電会社が分かれていた時期があり、その時代の体制に戻そうというものだ。これは「悪の権化である東電を救うことになる」などと批判されている。だが実際のところ、東電が分社化されると、日本の財界を支配してきた東電の権力も分割され、東電の政治力は大幅に落ちる(経済面では、すでに東電の格付けはジャンクに落とされている)。東電を分割すると、原発推進はますます困難になる。前原や仙石が原発推進派なら、東電の分割を提案しなかっただろう。 代替エネルギー案のない脱原発の動きは非現実的であり、話だけに終わるという説がある。しかし、原発の代わりに石油や天然ガスを高値であってもより多く輸入すればすむ。「地球温暖化人為説」は根拠が薄い話だ。かつて人為的な二酸化炭素増による地球温暖化の予測を流し続け、太陽の活動の低下(太陽黒点の減少)によって今後むしろ地球の気候が寒冷化すると予測していた学者らをトンデモ扱いしていた英国BBCも、今では太陽活動の低下で寒冷化を予測する学説を真っ当なものとして紹介している。 (UK faces more harsh winters in solar activity dip) 石油やガス、石炭の燃焼は、気候変動に関係ないのだから、できるだけの節電をしつつ、原発より安全な火力発電を多用すればよい。石炭火力を多用するのも一計だ。自然エネルギーの開発は結構だが、それだけにこだわる必要はない。地球温暖化人為説のプロパガンダ性が世界的に確定しつつある中で、中国やロシア、米国は、モンゴルなどの石炭利権を買い漁っている。 (Chinese win bulk of Mongolia coal project) (地球温暖化めぐる歪曲と暗闘(1)) ▼日本を脱原発に追いやる米当局 話を元に戻す。前原が脱原発の姿勢を表明したことの重要性は、彼が有力な次期首相だからというだけでない。彼は、民主党諸派の主導役の中で最も積極的な対米従属を打ち出している人だ。前原は昨年9月、国交相から外相になる時期に起きた、尖閣諸島における日中衝突時、中国側の船長を起訴するように動き、日中間の緊張感を意図的に高めた。米国が日本を中国と戦争させたいなら、開戦につながる状況を積極的に作ることも辞さずという姿勢だ。 (日中対立の再燃) 前原は今年6月、米国の有力上院議員3人が、普天間基地の辺野古とグアムへの移転計画について、金がかかりすぎるのでやめるべきだと提案した時、急いで米国に行き、他の上院議員らと話をつけて、移転計画を表向きだけでも維持するようにした。米軍グアム移転費やその他の思いやり予算を賄賂に米軍を日本に駐留してもらうことは、日本の対米従属策の根幹だ。前原は、米国の軍産複合体の日本支部として機能しているともいえる積極的な対米従属派だ。そんな彼が、ここにきて脱原発の方向性を掲げた意味は大きい。 (日本が忘れた普天間問題に取り組む米議会) 米オバマ政権の原子力安全委員会(NRC)は、3月11日の事故発生の直後から、福島原発の事故は日本政府の発表よりもひどい状況だという方向性の示唆や発表を行い続けている。日本の安全委が20キロ圏内の避難指示を決めたのに対し、米国の安全委は20キロでなく80キロ圏内に非難指示を出すべきだと発表し(あとで米政府の主張には根拠がないとわかった)、日本の国民に自国の安全委を信用できないと思わせる一因を作った。日本政府が浜岡原発の停止を決めたのは、米政府筋から浜岡を止めろと圧力がかかったからだという話もある。米当局は、日本に脱原発せよと求めている感じだ。だから、積極対米従属派である前原が、脱原発の姿勢を打ち出すのは当然ともいえる。 (日本は原子力を捨てさせられた?) ▼米国の中東戦略の余波で日本が原発列島に 米政界では第二次大戦後、軍産複合体の力が強い。原子力発電のシステムは、軍産複合体が無数に作り続けた核兵器の製造工程が「発電にも使えますよ」という「核の平和利用」の象徴として生まれた。発電を口実として原発を動かし続けることで、核兵器の原料となるプルトニウムを作れるし、核兵器の製造工程として必須なウラン濃縮の技術も維持発展できる。ソ連を恒久的な敵として冷戦構造を確立し、核兵器の大量生産を開始した米国では、各地に原発が建設された。 この状況は、1970年代に一変した。67年に英国が中東(スエズ以東)から撤退した後、覇権国から取り残されることを恐れたイスラエルは、米政界を牛耳ることで米国がイスラエルに有利な中東戦略を採るように仕向けた。これに対する反動として73年にアラブ諸国が結束して石油危機を起こした。石油価格が高騰した米国では、石油火力発電の代わりに原発を多用する構想が出てきたが、米国の発電が原子力中心になって石油輸入に頼らなくなると、米政府は中東を重視しなくなって孤立主義に向かい、イスラエルは後ろ盾を失って取り残されてしまう。 (イスラエルの戦争と和平) それはまずいということで、79年に起きたスリーマイル島原発事故を機に、米国内で反原発運動の盛り上がりが誘発され、それ以来、今に至るまで米国では原発の新規着工がほとんど行われず、米国は原油の輸入に頼らざるを得ない状況が続いている。米国は放っておくと孤立主義の傾向が強くなる地政学的な特性を持っているが、エネルギー政策上、孤立主義を採れず、中東や中南米(ベネズエラ)など産油国を中心に世界に介入し続ける国際主義を採らざるを得ない態勢が作られ、イスラエルや軍産複合体を利している。 とはいえ、米国で原発が作られなくなったことで、軍産複合体の一部門だった原発産業は仕事を失った。代替策として考案されたのが、日本や西欧など対米従属の同盟諸国に米国の技術での原発増設を加速させ、原発産業が米国で儲からなくなった分を同盟諸国での商売で取り戻す策だった。対米従属が戦後の最重要の国是である日本では、米国からの依頼(命令)であれば、活断層などあらゆる危険性を軽視して原発が増設された。対米従属の国是を推進する右派(右翼)が原発を強く推進する構図ができた。 このような流れの結果として、日本は、地震大国であるのに原発大国となった。しかし、今回の震災後に米政府が日本に脱原発を押し売りしていることから考えて、すでに米国側は、同盟諸国に原発を売って自国の原発産業の儲けを確保する戦略をやめた可能性が高い。西欧諸国も次々と脱原発している。いまだに原発に強くこだわっているフランスは、米国と別の独自利権だ。フランスは、1960年代に対米従属をやめて自主独立の国是を開始して以来、米国から自立した独自の原発産業を持っている欧州で唯一の国だ。 (フランスの変身) 米国の原発産業の2大企業は、ゼネラル・エレクトリック(GEエナジー)とウェスティングハウス(WH)だが、いずれも2006−07年に日本企業に事実上身売りされている。WHは06年に東芝に売却された。GEエナジーは07年に日立との企業連合体(GE日立ニュークリア・エナジー)に変身した。東芝の買収額は、WHの企業価値をかなり上回る高値買いだったが、当時は、これから中国など新興市場諸国が原発をどんどん建設するはずなので、東芝のWH買収額は高くないと言われた。 しかし今になって考えてみると、新興諸国の原発建設が増えてWHが儲かるのなら、そもそもWHが身売りに出されることもなかったはずだ。WHは、00年に英国の国営核燃料会社(BNFL)に買収されたが、BNFLは6年後に東芝にWHを売却した。BNFLを所有する英国政府は、00年にWHを買ったときは新興諸国の原発が増えて儲かると考えたはずだ(BNFLはWHと同時にスイスのABBの原発部門を買収した)。だが、06年にWHを売却したとき、英政府は、もはや原発が儲かるとは考えていなかったことになる。 (Westinghouse Electric Company From Wikipedia) ▼覇権構造めぐる暗闘と核の関係 ここで注意すべきは、原発産業が軍産複合体(核兵器製造業)の傘下にあり、市場原理でなく政治原理で動く分野だという点だ。核兵器は究極の兵器として、第二次大戦後の世界体制(覇権構造)を形成する国際政治の道具である。戦後の世界体制は、米英覇権型のデザインを推進する勢力と、多極型のデザインを推進する勢力との暗闘的・諜報的なせめぎ合いの中で形成されてきた。核兵器は、米英同盟のマンハッタン計画によって戦時中に開発されたが、戦後、英国の要員がソ連に核兵器の技術を漏洩させてソ連を核武装させ、米英とソ連が核兵器で対立する冷戦構造が作られた。 半面、フランス(1960年)と中国(64年)に核兵器技術が漏洩され、米英仏露中という国連安保理の5大国が核武装して核の均衡状態を作る多極型の動きも起こった。5大国だけが核武装を許され、他の国々の核武装は許されない国際社会の規則が68年の核拡散防止体制(NPT)で作られた。核兵器は、表(国連などでの外交)と裏(米英露など各国機関による諜報)の国際政治活動の中で、米英覇権の維持を目指す勢力(冷戦派。軍産複合体)と、多極型への覇権転換を目指す勢力(キッシンジャー、CFRといったロックフェラー系が主力。多極派)の両方が違った方向に使う、世界体制のデザインの道具の一つだった。 ニクソンやレーガン時代の多極派の画策が功を奏して冷戦体制が崩れた70−90年代にかけて、冷戦派は、5大国以外の国々がどんどん核兵器を持つように仕向け、その結果、イスラエル、インドとパキスタン、北朝鮮などが核兵器を持つに至り、イラクやリビア、韓国、台湾なども一時は核武装を目指した。米ソ冷戦が終わっても、印パや朝鮮半島、中国台湾、中東(イスラエル対アラブ)などで、冷戦型の恒久分断が続くようにする画策が行われた。対立する双方の国々が究極の軍事力である核兵器を持てば、双方は和解を拒否して譲らなくなり、国際社会が両国に核を破棄させるのが至難の業となり、事態は恒久分断に近づく。 01年の911以後、冷戦派は「テロ戦争」の構図を世界的に作って米英覇権を維持する策を開始した。だが、米中枢に潜り込んだ多極派のスパイたるネオコンなどによるイラク戦争など過剰で自滅的なな軍事戦略の結果、テロ戦争は05年ごろから崩壊の様相を示した。08年のリーマンショック以後、米英の経済力の源泉だった債権金融システムが崩壊し、米英覇権は経済面でも崩れだした。同時に、BRICや上海協力機構など、中露主導の多極型の新世界秩序が静かにユーラシアの内側から立ち上がり、世界体制が多極化していく傾向が続いている。 このような米英覇権派と多極派との世界体制をめぐる暗闘、米英覇権の崩壊傾向、多極派の優勢などの状況と、核兵器という道具のあり方を合わせて考えると、核兵器をめぐる将来像が見えてくる。それは、オバマが核兵器の廃絶を目標として掲げていることにも関係しているのだが、この先、米英覇権が不可逆的に崩れて多極型の世界体制が確立した場合、大国だけが核兵器保有を許されるかたちの、以前に模索された多極型世界ではなく、大国も含めて核兵器の全廃が模索されるのではないかということだ。 (オバマの核軍縮) 一部の国だけが核兵器保有を許されると、英国あたりの諜報機関の地下化して生き残った勢力が、核技術を他の国々に漏洩させて多極型の世界秩序を壊そうとするだろう。だからすべての核技術を規制しないと意味がない。核兵器の全廃には、核技術の全廃が必須だ。ウラン濃縮やプルトニウム製造といった、核兵器製造と同じ工程を持つ原発産業は、世界的に終了させていく必要がある。 欧州ではフランスがまだ原発を積極推進しているが、フランスは今後EUとして、脱原発を決めたドイツやイタリアなどと国家連合を強化していかねばならない。フランス以外のEU加盟国の多くが脱原発の方針になると、フランスもいずれ原発をやめる方向に転換せざるを得ない。中国は福島事故後、来年まで原発建設の凍結を決めたが、その後どうするかが注目される。原発を世界的に全廃すると、より困窮するのは、低成長に入った先進国よりも、これから電力需要が増える新興諸国だ。しかし石油ガスの世界的な利権の大半は、すでに新興諸国の国営企業が持っている。 (反米諸国に移る石油利権) こうした歴史の流れと、英政府の核燃料会社(BNFL)が米国の原発会社WHを00年に買収して06年に売却したことを重ね合わせると、一つの推測が浮かび上がる。BNFLがWHを買収した00年は、テロ戦争の開始によって軍産複合体が再拡大していきそうな(テロ戦争の原型は米国がタリバン敵視に転じた98年ごろに始まった)時期であり、WHを東芝に売却した06年は、イラク戦争の失敗が確定して軍産複合体が崩壊し始めた時期だった。覇権暗闘の当事者でもある英政府は、多極派が勝つと原発産業が潰されていくことを知っており、裏の事態を何も知らない日本の東芝にうまいこと言って、潜在価値の減ったWHを高値買いさせたのではないか。 日本政府(外務省など)は、米英に対する「覇権を二度と追い求めません」という誓いの意味で、戦後一貫して諜報的な活動を自粛している。国際野心を再燃させて米英に潰されるより、騙されても米英の言いなりになった方が日本国にとって良いという敗戦の教訓からだ。だから、東芝が英政府の売却の意図など全く知らずWHを高値買収してババをつかまされたのは、仕方ないことだった。 東芝のWH買収から5年後の今年、福島原発事故が起こり、それを引き金(トリガー)として、米当局が日本に対し「こんなひどい事故が起きたのだから日本は原発を全廃した方が良い」と圧力をかけ始めた。テロ戦争のトリガーとなった911事件は、数々の怪しげな点があり、米当局の自作自演くさいが、いくら世界最先端の米軍でも、大地震や大津波を思ったように起こせる技術があるとは考えられない(米軍地震発生説をいくつか読んだが信憑性が薄いと感じる)ので、自然災害として起きた311の大震災を待ってましたという感じで、米政府が日本に圧力をかけ始めたのだろう。 ▼誰がストレス試験をやれと言ったか 7月4日、全国各地の原発立地の市町村長に先駆けて、佐賀県の玄海町の岸本町長が、地元の九州電力・玄海原発の再稼働を了承した。その直後の7月6日、日本政府は、すべての原発のストレス試験(耐性テスト)を実施すると唐突に宣言した。前週に海江田経産相が現地を訪問し、ストレス試験などせず原発を再稼働しても安全だと太鼓判を押して町長や知事を説得したばかりだった。町長は、いったん了承した原発再稼働を撤回せざるを得なくなるとともに、面子を潰され、今後ストレス試験で玄海原発の安全性が認められても、簡単に再稼働を了承することはできなくなった。同じ日には、九電が子会社の社員らに原発推進のやらせ投稿を要請していたメールが暴露された。九電の権威は失墜し、原発の再稼働を地元に強く求めることができなくなった。 一週間前に現地を説得した海江田経産相も面子を潰された。ストレス試験は、政府の中で経産省よりもさらに上層部の意志決定ということになる。以前IAEAが日本に原発のストレス試験を提案した時、日本政府は断わっていたが、今回は一転して急にやることになった。誰の意志決定なのか。菅首相が独断で決めたと考えるより、これまでの経緯から考えて、また米政府の原子力安全委員会(NRC)あたりが画策し、絶妙のタイミングでオバマが菅首相に電話して、ストレス試験をしろと要求した可能性がある(米NRCは、自国の原発についてのストレス試験について、やる必要はないと言っている)。 今回のドタバタ劇は、全国の他の原発立地の市町村長たちに、地元の原発の再稼働を簡単に承認しない方が良いと考えさせ、日本の脱原発を上から促進する効果がある。福島原発事故を受けて、日本人の多くは原発に対する懸念を一気に強めたが、それが反原発の市民運動の大きな高まりにつながる流れはあまり起きていない。我慢を美徳とする日本人の習性があるためか、日本では草の根からの脱原発が進まない。その分、日本を脱原発させたい米当局は、上からの謀略的な動きをせざるを得ない。 米当局が日本に脱原発させたがっている前提で考えると納得できる動きのもう一つは、ソフトバンクの孫正義社長が、資金を投じ、脱原発としての自然エネルギー開発を猛然と開始したことだ。孫は、事故後の福島を訪問して衝撃を受け、脱原発に目覚め、自然エネルギー財団を設立することにしたと説明している。その説明自体は、それなりに納得できるとも感じる。 だが「米当局が日本に脱原発をさせようとしている」という前提で孫の動きを見ると、もしかして孫は米国中枢の誰かから「米国は日本に脱原発をさせたい。日本は脱原発せざるを得なくなる」と聞かされ、これをビジネスチャンスと考えて、脱原発的なエネルギー開発に取り組むことにしたのではないかとも思える。米国側としては、日本の財界人の中に脱原発の旗振り役や出資者がいれば、日本の脱原発の動きが加速されて好都合だ。しかし、旧財閥や大手メーカーなど「財界村」で生きている企業の経営者がやると、東京電力から抑止や嫌がらせを受けるかもしれない。その点、孫のような財界村の外にいる新興勢力なら自由に動ける。楽天の三木谷浩史会長も、福島事故への対応を批判して経団連を退会したが、この動きも、孫と同じような背景かもしれない。 日本人の多くは、社会で起きている出来事の裏読みや、いわゆる謀略の存在(諜報的観点)に慣れていない。謀略はイスラエルやロシアの話で、日本は無縁だと思っている。しかし今、日本のいろいろな政治的出来事が、確度の高いことしか言わない優等生的なマスコミの説明で納得できない事態になっている。これはおそらく戦後日本にとっての「お上」である米国の覇権体制の崩壊が進んでいることと関係している。この状態は、今後さらにひどくなるだろう。
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