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ホルムズ海峡の騙し

2026年8月30日   田中 宇

今年2月末のイラン開戦以来、ホルムズ海峡はイランと米国の両方によって封鎖され、ペルシャ湾からホルムズを通って輸出される石油の量は、開戦前の日産2000万バレル(1日100隻以上)から急落し、日産200万バレル以下を低迷してきた。
米軍はイランのタンカーや貨物船を見つけしだい帰港を命じ、従わない船を攻撃したり拿捕してきた。
一方、イランの革命防衛隊(国軍より強い軍隊)は、許可を取らずにホルムズを航行しようとする親米諸国系のタンカーや貨物船を、短距離ミサイルや無人機で攻撃してきた。
イランと、ホルムズ海峡の奥にあるペルシャ湾岸の親米系の産油諸国(クウェート、イラク、カタール、サウジアラビア)の両方が、開戦以来、ホルムズ経由で石油を出しにくい状況だ。
Iran’s Strait of Hormuz trump card is losing strategic value, expert tells 'Post'

親米系のタンカーは、イラン側に探知されないよう、AIS(船舶自動識別装置)の電源を切って「ダーク」な状態にしてホルムズを通過しようとする。
イランの防衛隊はレーダーを照射して、AISを切ったダーク船を探す。クウェートやイラクやカタールといった、ホルムズ海峡以外の輸出路がないペルシャ湾内の産油国は、イラン側に察知されずに海峡通過に成功したダーク船の石油だけが輸出量になる(イラクは細々と陸路でも出している)。
"Dark" Tanker Fleet Shatters Iran's Hormuz Stranglehold As Gulf Oil Exports Top Two-Thirds Of Pre-War Level

米軍は6月から、ホルムズ通過を試みる親米系のダーク船団がイランに攻撃されないよう護衛する作戦を始めた。
同時に米軍は、イラン側がダーク船団を探すため、トラックや高速艇に乗せた陸海の移動式レーダーからレーダー照射をすると、その照射源を突き止めてレーダー船を破壊する作戦も展開した。
イラン側は、レーダー照射をできるだけ短時間にして、照射後にすぐ移動して(陸上の場合はホルムズ沿岸の崖に掘られたトンネル網に隠れて)米軍の攻撃を逃れようとする。
だが、それでも米軍に攻撃され破壊されるレーダー船が増え、イラン側の探知能力は低下したとされる(米当局の発表)。
Hormuz And The Law Of Diminishing Returns: When Leverage Burns

8月に入り、ホルムズ海峡の北に位置するイランと、南に位置するオマーンが交渉し、海峡の航路の棲み分けが始まると、親米系のダーク船団は、米軍の護衛を受けながらオマーン側の航路を抜けることで安全性が高まった。
米当局は最近、このやり方で1日20隻前後のタンカーがホルムズを航行しているとか、開戦前の半分にあたる1日800万バレルの石油をホルムズ経由で出せているという話をメディアにリークして報道させている。
U.S. conducting stealth operation to transport oil through Hormuz

ホルムズ航行は高リスクなので、大手の海運会社は引き受けたがらない。代わりにクウェートやカタールの国営石油会社が、自社の大型タンカーを使い、ダーク状態で米軍に護衛されつつホルムズを航行し、ホルムズの外側のオマーン沖で、大手の海運会社などのタンカーに積み替えて目的地まで輸出するやり方をしている。
クウェートなどのタンカーは、最もリスクが高いホルムズ区間、つまりペルシャ湾の奥の自国の石油積み出し港と、ペルシャ湾の外の積み替え場所の間だけを往復している。このやり方で最近、クウェートは開戦前の7割の石油を輸出していると報じられている。
サウジの石油も、ペルシャ湾岸の油田から紅海側にパイプラインで迂回するルートのほかに、ホルムズをダーク方式で通過して輸出する方式が増えてきた。
Qatar And Kuwait Restore 70% Of Pre-War Oil Exports Through Hormuz

大手の海運会社の中でも、あえてリスクを取ってホルムズの奥まで大型タンカーで石油を取りに行くと、1隻で2000万ドルとか、開戦前の10倍とかの儲けを得られるので、そこに参入している会社もある。
このように、6月まで開戦前の2割以下しか石油を出せなかったホルムズ海峡が、今では開戦前の半分から7-8割の輸出量まで回復している。
米軍の海上封鎖を受けているイランは、依然としてほとんど石油(など輸出入全般)を出せていないが、対照的に親米系のアラブ諸国は輸出が復活したと喧伝されている。
そのため国際石油相場も、今年3-6月の1バレル100ドル超えの高値から、最近は80ドル前後まで下がってきたと説明されている。(天然ガスは、カタールの設備が破壊されたのでほとんど出せないままだ)
The Iran War Has Turned VLCCs Into $650,000-A-Day Assets

なるほど。米軍の協力によって、ホルムズの航路はけっこう復活しているんだ。米イスラエルが、アラブ産油国を潰して中共を凹ますため、意図的にホルムズ閉鎖を長引かせているという田中宇の見立ては間違っていたわけだな。誤りを認めろ! ・・・。
イラン戦争の膠着化はイスラエル覇権の強化策

はい。私は今回、自分の見立てが間違っていたと思い、何がどう間違えたのか、過去にさかのぼって米イスラエルの戦略を再検証せねばと考えた。だが、いろいろ調べていくと、上に書いたような報じられている筋書きが本当に正しいのかどうか、そっちを先に検証すべきだと気づいた。
イラン戦争の長期化でサウジが財政破綻する

米当局者(トランプ側近)は8月23日、1日で40隻のタンカーがホルムズを航行し、合計1600万バレルを出したという話を政治経済メディアのアクシオス(Axios)にリークして書かせた。だがこの日、船舶追跡機関(Kpler)が発表したホルムズ通過の航行隻数はゼロだった。
US Claimed 40 Tankers Exited Strait on Single Day, Tracking Agency Recorded Zero

アラブ産油諸国と石油消費諸国の両方から「早くホルムズを開けてくれ」と圧力をかけられているトランプ政権は、誇大妄想をメディアに書かせて世界を騙そうとしたんだと、トランプ嫌いなオルトメディアが批判記事を喧伝した。
アクシオスの記者も「トランプのウソを鵜呑みにしやがって」と批判された。
Barak Ravid :Around 40 tankers transited in and out of the Strait of Hormuz...

私から見るとこの件は、ホルムズ海峡の現状を象徴している。現在、ホルムズを通過するタンカーはすべてAISを切ったダーク状態だ。
船舶追跡機関は、公開されているAIS情報をもとに船舶を追跡している。ダークな船しかいないホルムズの通行量がゼロなのは当然だ。追跡機関は、ダークな船の通行量を把握できない。
(ほかに船舶の無線通信を傍受する手法もあるが、ホルムズ通行中のタンカーは、イランによる傍受を恐れ、無線通信もしないだろう)
+OIL2 ,India's Crude Import Bill Surges As Hormuz Shipping Rates Soar

ならば、トランプ政権の「1日40隻」が正しいかといえば、そうでもない。ダークな船が何隻ホルムズを通過したか、護衛する米軍(トランプ)は把握しているだろうが、それ以外の勢力は通行量を検証できない。
通行できた船はイラン側に察知されなかったのだから、イラン側もホルムズの通行量を把握できていない。

トランプは誇張発言で有名だ。トランプが40隻と言ったら、実際は10隻とか?。もっと少ないかも。ほとんどゼロとか。当事者の米軍以外、誰も検証できない数字だ。実際に何隻がこの日ホルムズを通過したのか、確定することは不可能だ。
クウェートの政府などが何か発表しても、それもまた誇張だ。クウェートなどアラブ産油諸国は昔から、OPECで自国の産出上限を高めに維持するため、石油輸出量を多めに言いたがる。
Six months ago, Iran was supposed to collapse. Here’s what happened instead

イラン政府で米国との交渉を担当するガリバフ議長は最近「(ホルムズ経由で)アラブが石油を出せるのに、イランだけ(米軍に海上封鎖されて)出せないのはおかしい。米軍は撤退しろ。イランが出せないままなら(イランによる石油施設空爆で)アラブも出せないようにしてやる」という趣旨を表明した。
ガリバフの発言は、アラブがダーク方式と米軍警護によって大量の石油を出し始めていることを追認しているかのようだ。
Iran's Ghalibaf Declares Persian Gulf Oil Flows For 'All Or None'

それはそうなのだが、ならばガリバフはどんな情報に基づいてアラブが大量の石油を出し始めたと思っているかといえば、イランが独自に得た情報でなく、トランプ政権の「1日40隻」に行き着く。すでに書いたとおり、イランの目を盗んでダーク方式のホルムズ通過に成功した船の隻数を、イラン当局は把握できないと考えられるからだ。
Trump says Iran is 'in deep trouble' as US maintains blockade of Strait of Hormuz

これらの考察を経た後、改めてホルムズの実際の通行量を推測してみると、6月ごろの「開戦前の2割以下」と、あまり変わらないのでないかと思える。
トランプ(米イスラエル)は、ホルムズ開放の努力をしているふりをして、実のところ、サウジなどアラブ産油諸国を経済破綻させ弱体化する意図でホルムズ閉鎖を長引かせている。私は結局、この自分の見立てを変える必要がないという結論に達した。
米軍は、ダーク方式でホルムズを航行する親米系のタンカーを護衛することもあるだろうが、表向き大々的にやって成功しているかのように喧伝しつつ、実際はトランプの意図に沿って、あまり積極的でない。
Oil Extends Decline As Rubio Rules Out New Strikes, Iran-Oman Transit Deal Nears Finalization

だけど、石油相場が下がってるじゃないですか?。アラブの石油輸出が復活したからですよ。そう言いたい人がいるだろう。
違います。石油相場は、現物の需給だけでなく、信用取引など金融的な手法によって動かせる。
イラン開戦後、1バレル200ドルになると言われていたのに120ドルぐらいまでしかいかなかったのも、その後100ドルを割って反落したのも、金融的な上昇抑止によるところが大きいと推測される。イラン開戦前の金相場の暴落も同様だ。
What Operation Economic Outcast means for Iran, and for everyone trading with

ホルムズ航行の実体は、今後もずっと不透明なままだろう。アラブの石油輸出が復活しているという話は、無根拠なまま修正されず、イラン戦争が下火になった感じを演出し続ける。
実際のアラブの石油輸出は復活せず、静かにサウジなどが財政破綻に向かっていく。米軍によるイランの海上封鎖はずっと続けられ、イランが復活してイスラエルの脅威に戻ることを防ぐ。
モジタバ・ハメネイはすでに死んでいる

サウジの財政破綻が具現化した後(今から数年後とか)、アラブ産油諸国は弱体化してイスラエルの言いなりになる。イランの防衛隊政権は「用済み」となり、モジタバ・ハメネイの不在がバレていき、政権転覆されて米イスラエルの傀儡になっていく。
こうした以前からの私の見立ては(今のところ)まだ生きている。



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