モジタバ・ハメネイはすでに死んでいる
2026年8月5日
田中 宇
以下は、イランの反政府メディアであるイランインターナショナルが8月4日に報じた記事に、私の分析や解釈を加えたものだ。
(Iran's president met Mojtaba Khamenei in the back seat of a car)
2月末のイラン開戦以来、イランの権力を握る革命防衛隊は、行政府のトップであるペゼシュキアン大統領が何度要請しても、最高指導者のモジタバ・ハメネイに会わせてくれない。
イランの大統領は、最高指導者の指導を受けて動く職位だ。防衛隊はモジタバからの伝言として、ペゼシュキアンにいろいろ命じてくるが、それが本当にモジタバの意志なのかどうか。ペゼシュキアンは開戦以来ずっと疑問だった。
イラン開戦時、米軍の攻撃で先代の最高指導者だったアリ・ハメネイが殺され、息子のモジタバが後継者になった。父ハメネイは世襲を嫌っていたが、モジタバを擁立する防衛隊が、米イスラエルとの戦争という有事を理由に、後継者選定の評議会を威圧して決めてしまった。
しかも防衛隊はモジタバを、ペゼシュキアンらイラン政府の要人たちに会わせてくれない。
モジタバは姿を現さず、動画や録音も発表していない。部下である政府要人にも会わない。
開戦時の米軍の攻撃でモジタバが負傷したと言われている。だが、もう開戦から5か月だ。傷も治るはずだ。
会合を行ったり、動画や録音を発表すると、米イスラエルにモジタバの居場所がわかって攻撃されるので出さない、とも言われている。だが、イラン国家を回すために、最低限の会合は必要だ。
防衛隊は、モジタバの意志や命令と称する文書や伝言を政府に渡し、大統領らを動かしている。だが、それらは本当にモジタバの意志なのか。防衛隊がモジタバの意志を勝手に僭称しているのでないか。そもそも、モジタバは生きているのか。
ペゼシュキアンは何度も防衛隊に、モジタバと会わせてほしいと要請し、会えない場合、防衛隊が出してくる命令が最高指導者の意志かどうかわからないので大統領を辞めざるを得ない、と言い続けた。
(Iran leader remains unseen after bizarre meeting with president)
するとある時(日時は不明)、防衛隊が、モジタバに会わせてやると言ってきた。ペゼシュキアンは、モジタバの居宅での会合を希望したが断られた。
防衛隊が差し向けてきた車に乗って、ペゼシュキアンは、テヘラン市内のどこかわからない場所に連れて行かれた。そこには別の車(バン、小型バス)が止まっていて、そのバンの後部座席にモジタバがいた。
バンの車内は、窓に遮光シールが貼られて真っ暗だった。ペゼシュキアンは相手の顔もわからないまま、モジタバ(と称する人物)の隣に座った。握手を求めたが拒否された。
2人は、顔を確認できないまま数分話した(会話の内容は不明)。数分の会話の後、ペゼシュキアンは相手から、会合はこれで終わりだと言われ、バンを出て帰途についた。
(He Refused a Handshake and Hid His Face: Striking Details Emerge About the Meeting Between Mojtaba Khamenei and Pezeshkian)
ペゼシュキアンが会った相手は、本当にモジタバだったのか??。顔が確認できないのでわからない。なぜ真っ暗な中での会合だったのか。
もし、モジタバがすでに死んでいるのに防衛隊が権力を握るためにモジタバが生きていることにして、ペゼシュキアンを騙すために別人をモジタバとして出してきたのなら、真っ暗な中での数分間を設定しそうだ。
ペゼシュキアンは会合後、側近に、自分が会ったのが本当にモジタバだったのかどうかわからない、と言っている。
面会した相手は、モジタバとは別人、替え玉だった可能性が高い。私は7月28日の有料記事で、モジタバが死んだのに生きていることにして防衛隊が権力を握っていると推測し、それは米イスラエルにとっても好都合だと分析した。
(ホルムズ閉鎖を長期化し世界のエネルギーを支配)
ペゼシュキアンは防衛隊に対し、あの会合はひどすぎたので再度モジタバに会わせてくれと頼んだが断られた。
ペゼシュキアンは7月10日、自分は開戦以来モジタバに何度か会っていると、公式な場で表明した。5月には、モジタバと2時間半会ったとも言っていた。
だが、それらはイラン上層部の対立を隠すためのウソだった可能性が強い。実のところ、開戦後にペゼシュキアンがモジタバ(と称する人物)に会えたのは、真っ暗な車内の数分間だけだったようだ。
暗闇会合の件を報じているのはイランインターだけだ。ロンドンに本拠を置く英国系メディアなので、イランを悪く描く歪曲報道の傾向がありうる。
だがイランインターは、父ハメネイの殺害後、モジタバが後継の最高指導者になることを事前に報じていた唯一のメディアでもある。
ペゼシュキアンの側近など、イラン上層部で防衛隊と政争している現実派を情報源としているようで、今回の記事も歪曲と一蹴できるものではない。
(Report: Khamenei’s son chosen as Iran’s new supreme leader)
(A wartime succession in Iran: why the IRGC backed Mojtaba Khamenei | Iran International)
8月4日のイランインターの記事からうかがえるのは、以下の流れだ。モジタバが2月末の米軍の空爆で父ハメネイと同時期にすでに死んでいて、防衛隊がそれを隠しつつ戦時体制を悪用し、後継の最高指導者を決める専門家会議を加圧し、モジタバが生きていることにして後継の最高指導者に就け、その後ずっと、防衛隊がモジタバのふりをしてイランを動かしている・・・。
米イスラエルは2月末、隠れ回っていた父ハメネイの居場所を突き止めてピンポイント殺害できたのだから、イラン上層部の動きをかなりつかんでいる。モジタバが死んだことも、それを防衛隊が隠していることも知っているはずだ。
だが米イスラエルは、モジタバが生きていて実際に政策を出しているという見方を崩していない。米諜報界が動かしているマスコミ権威筋、ネットのAIなども、モジタバは負傷したかもしれないが生きており、実際に政策を出していると言い続けている。
「まともな人々(笑)」は誰もモジタバの生存を疑わない。モジタバ死亡説は、911自作自演説や温暖化人為説否定論などと同様に、ニセニュースや陰謀論として扱われ、タブーとか「裸の王様」状態になっている。
今回、ペゼシュキアンがモジタバ死亡説の信憑性を高めてしまったが、世界のマスコミ権威筋は無視するだろう。
米イスラエルの目的は、最終的にイランの政権転覆だろうが、その前にホルムズ閉鎖を長期化し、イスラエルのライバルであるアラブ諸国(親イスラエルなUAE以外)の産油能力を破壊して弱体化するとともに、世界のエネルギー需給を牛耳ってイスラエル覇権を強化したい。
親イスラエルな諸国は石油ガスを輸入できるが、イスラエル敵視な諸国は輸入できないようにして、世界からイスラエル敵視を一掃していく。市民運動などはイスラエルを敵視し続けるが、彼らは「テロリスト」のレッテルを貼られ、取り締まられていく。
このイスラエル覇権体制を作るために、イランの政権を防衛隊が奪取したままにしておくのが良い。いずれモジタバの死がバレたら、防衛隊政権は転覆される。それは、世界がすっかりイスラエル覇権体制に移行した後になる。
(Trump’s war on far-left terrorism goes global)
米イスラエルは、防衛隊に協力してモジタバの死を隠し続ける。だが、トランプはおしゃべりで「言いたがり屋」だ。彼は7月13日のインタビューで「モジタバは90%の確率ですでに死んでいる」と言ってしまった。
幸いなことに、というか、世界がすでに「裸の王様」なので、トランプの発言はあまり報道されなかった。
(Trump claims Iran's Supreme Leader Mojtaba Khamenei '90% gone')
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