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イラン戦争の長期化でサウジが財政破綻する

2026年8月15日   田中 宇

米イラン戦争は、少なくとも2029年1月のトランプ政権末まで続く可能性が高まっている。米国とイランの両方が、長期戦を示唆・覚悟している。イラン政府は長期戦を前提に、国内の有事体制を強化している。イラン上層部の最近の人事異動で、革命防衛隊の権力がお手盛りでますます強まっている。
Surprise strikes signal Iran is digging in for a long war

ヘグセス米戦争長官は、空母を定期的に交代させながら米軍によるイランの海上封鎖を永久に続けられると言っている。
米政府は、ホルムズ海峡の通行量が来年末まで減ったままだと予測している。当初は数週間で終わると言われていたイラン戦争が、今や2-3年かそれ以上続く状況になっている。
US can maintain naval blockade of Iran indefinitely, Pentagon says
US Now Expects Iran War Oil Supply Disruptions To Last Through End Of 2027

イランは、米軍がイランを海上封鎖する限りホルムズ閉鎖を解かないと言っている。米国は、イランがホルムズ閉鎖を続ける限り米軍のイラン封鎖を解かないと言っている。
加えてドナルド・トランプは、ホルムズ閉鎖が続いているのに「ホルムズは開いている」とうそぶいている。
和解しそうだけどしない。激戦になりそうだけどならない。とろ火の対立が延々と続き、アラブの石油ガスの大半が輸出されていたホルムズ海峡の閉鎖が今後ずっと続く可能性が増している。
US military pressure forcing Hormuz closure – Iran
イラン戦争の膠着化はイスラエル覇権の強化策

トランプとイスラエル(米諜報界を牛耳るリクード系)は、意図的にホルムズ閉鎖を長期化している。トランプ政権が終わり、JDバンスとか、次の政権になってもホルムズ閉鎖が続く。米イスラエルは、イランの防衛隊政権を延命させ、ホルムズ閉鎖を長期化している。それが私の見立てだ。
イランの兵器生産能力が意外に早く蘇生しているので、イスラエルは衝撃を受けている。そんな記事が出回っている。私から見ると、これは米諜報界が発する、イランを強く見せるための茶番な誇張だ。イスラム主義者やリベラル派など、イスラエル敵視者はこういう記事を簡単に軽信する。軽信したがる。
Israel shocked by pace of Iran’s military recovery – media

米イスラエルは、なぜホルムズ閉鎖を長期化するのか。イスラエルのライバルであるサウジアラビアなどアラブ産油国を弱体化するためだろう。どうやって弱体化するのか。
ホルムズ海峡とバブエルマンデブ海峡の閉鎖が続く限り、アラブ産油国が出せる石油は、開戦前の日産2000万バレルの半分以下だ。親イスラエルのUAEは好調なようだが、他はダメだ。各国の公表値は実際より多めだ。今の現実はアラブ全体(UAE以外)で日産300万バレルぐらいと推測できる(サウジも200万以下)。
だが、いずれ海峡の閉鎖が解除されて石油ガスの輸出が再開されると、今は閉鎖されている油田やガス田が半年ぐらいかけて再開され、アラブ産油国は再び大金持ちに戻っていく。
油井を閉鎖すると再開に時間がかかるし、古い油井は産油量が減ったまま元に戻らない。しかし、古い油井を見捨て、新しい未開発の油井からの産油を始めれば、いずれ全体の産油量が元に戻りうる。イスラエルは、アラブを恒久的に弱体化したいが、この方法だと難しい。ダメじゃん。
ホルムズ開閉繰り返しで中東の油井を破壊する?

これまでの私の思考は、そこで止まっていた。だが最近、別のことに気づいた。アラブ産油国はどこも、石油ガスの輸出代金が政府収入のほとんどだ。海峡の閉鎖で輸出できないと、政府収入がなくなってしまう。
アラブ産油国の中には、これまでの石油収入の余剰分を海外投資にあて続け、国家財政の20年分とかの金融資産を持つ金持ち国もある。カタールやクウェートがそうだ。
両国は今、石油ガスをほとんど出せていないので政府収入がほぼゼロだ。しかし、在外資産をうまく売っていけば国民を何年も食わせていける。
両国は、国民が100万人前後で、その他に外国人労働者が200万人以上いるが、イラン開戦後、外国人を帰国させ、経済規模を縮小する動きになっている。
Kuwait’s great reversal

何とかならないのは最大のアラブ産油国であるサウジアラビアだ。サウジは昨年まで日産1000万バレル以上出していたが、今はホルムズとバブエルマンデブの両方の海峡をイランとフーシ派に封鎖され、日産200万バレル前後に減っている。
Saudi Oil Fleet Increasingly Going 'Dark' Due To Houthi Blockade

サウジの石油収入は5分の1に減った。サウジ王政の収入は、石油輸出代金が60%で、残りは国内で徴税した付加価値税や法人税ということになっている。だが税収の多くも、元をたどれば民間の石油関連収入からの納税だ。
金融産業の拡大も、サウジが世界最大級の産油国であることに立脚している。石油輸出の停止が長期化すると、国内経済も止まり、税収が激減する。
サウジの権力者MbS皇太子は、自国の経済を脱石油して多角化する「ビジョン2030」の政策を進めてきたが、石油以外の産業の基盤づくりに巨額の初期投資がかかり、期待していた外国からの投資も少なく、政府財政を豊かにするどころか、金食い虫で財政赤字を増やしている。
Black gold meets green ambition in Saudi Arabia’s energy shift to China

サウジ政府の財政状況は、イラン開戦前から悪化していた。サウジの人口は3500万人(3割が外国人)で、アラブ産油国の中でダントツに大きい。サウジ政府(投資庁)の在外資産は、政府財政の約3-4年分しかない。カタールやクウェートのように、何十年も国民を食わせていけない。
イラン戦争はこれから3年以上続く。サウジの石油輸出もずっと少ないままだろう。サウジ王政はイラン開戦後、ビジョン2030を縮小して事実上終わらせた。だが、その縮小だけで足りるはずがない。サウジは、すでに財政破綻への道が見えてきている観がある。

財政破綻したら、次の懸念は政権転覆だ。国民の不満が増え、王政の統制力が落ち、混乱がひどくなる。イランより先にサウジが政権転覆されうる。政権転覆されると、リビアのような長期分裂状態になるかもしれない。ハマスやISISみたいな勢力が政権をとるかもしれない。テロリスト国家に転落し、石油輸出どころでなくなる。イスラエルのライバルが消える。

今のところ世の中では、サウジが財政破綻しそうだという話になっていない。サウジ投資庁は開戦後の5月に、ドル建ての長期債券を発行できている。サウジはまだ信用低下せず、借金できている。
世界はまだ、近いうちにイラン戦争が終わってホルムズ海峡が再開され、アラブから世界への石油ガス輸出が再開されると思っている。だから、サウジの長期債も売れている。
しかし現実は厳しい。イラン戦争は終わらない。延々と続く。それがトランプとイスラエルの意図だ。いずれ、サウジなどアラブ産油諸国の経済信用が失墜していく。
Saudi wealth fund to issue dollar bonds for first time since Iran conflict

サウジなどアラブ産油諸国の信用低下は、世界的な金融危機の引き金を引きかねない。米国の金融システムはバブルまみれだ。
財源なき消費減税に踏み切る高市の日本も、国債利回りがピクピク上昇して危険を知らせている。アラブの財政危機が表面化すると、米国や日本、世界の金融崩壊につながりかねない。
世界金融の崩壊はドル崩壊であり、米国の覇権失墜、米諜報界の機能不全などを引き起こす。それは、米諜報界に依存しているイスラエルの覇権戦略と、その傘下にいるトランプをも失敗させる。自滅じゃん。トランプやイスラエルは、それで良いのか??
Another Earthshaking Financial Collapse Like 2000 and 2008 is Underway

この矛盾を解く私の分析は「トランプは、米国の金融バブルを維持するのと同様な手法で、サウジなどアラブ産油諸国の財政破綻を寸止めし、金融財政の危機になりそうでならない状態に置くことで、アラブをトランプやリクード系の傀儡にしたいのでないか」というものだ。
これは、最近の有料記事「金融危機になりそうでならない日本」に書いたことでもある。
金融危機になりそうでならない日本

トランプやリクード系は、FRBの裏QE(簿外資金の造幣?)の機能などを使って金融バブル膨張を維持する技能を持っている(英国系からの居抜きの継承)。
リクード系は、人類に歪曲情報やウソを信じ込ませるプロパガンダ技能も持っている。金融バブルが崩壊寸前なのに、マスコミや金融界は何も言わず、人々は大丈夫だと軽信し続ける。
実際に崩壊し始めたら、裏資金を注入して崩壊を止める。これらの手法で、金融崩壊が半永久的に先送りされる。
(最近、長期米国債の金利がじわじわ上昇しており、これがどうなっていくのか気になる。私の見立てが正しいなら、金利はまた下がる。金相場の反騰も終わる)
このままだと金融危機になる

イラン開戦後、中東から世界への石油ガス供給が激減したが、それでも国際石油市場は大して高騰しなかった。石油や金地金などコモディティの相場は、信用取引を使って実需と無関係に金融面から操作できる。
米諜報界傘下の金融界が動き、信用取引で石油相場の上昇を抑止したのだろう。アラブ産油国は、ホルムズ閉鎖で石油の輸出量が減っても、石油価格が高騰すれば単価が上がり、輸出量の減少による収入減を少しは穴埋めできる。
だが、リクード系が金融技能によって価格の上昇を抑止したので、アラブ産油国は輸出の減少による収入減をまともに被ることになった。

今後、サウジなどアラブ産油国が財政赤字を穴埋めするため在外金融資産を売り続けるようになっても、リクード系は金融とプロパガンダの技能を使って、金融危機が世界に波及しないようにできる。
現時点でも、すでにホルムズ閉鎖が長期化する可能性が日に日に高まっており、サウジの財政破綻は不可避だと予測する分析者があちこちから出てきて信用不安が起きても不思議でないのに、そうなっていない。リクード系のプロパガンダ戦略が発動されている観がある。(モジタバ・ハメネイの死を誰も疑わないのも同様)
モジタバ・ハメネイはすでに死んでいる

アラブ産油国の中では、イラク政府がすでに財政破綻している。イラクは政府収入の90%前後が石油輸出代金で、石油輸出の95%がホルムズ経由だ(残りはトルコなどへのパイプラインとタンクローリー輸送)。イラン開戦後、石油収入は7分の1に減った。
イラクの労働人口の7割が公務員で、その給与支払いが政府支出の多くを占める。開戦後、公務員への給料の遅配がひどくなっている。イラク政府は外国からの借入金などで給料を払っているが、それもしだいに難しくなっている。
Hormuz Chokes the Iraqi Economy

イラクは米国に破壊された国であり、政府の在外資産もない(石油代金は米NY連銀が管理)。イラクは事実上すでに財政破綻している。だが、この件はあまり報道されず、静かに発生している。この静けさも、リクード系のプロパガンダ策かもしれない。
今後、アラブ産油国が次々に財政破綻したとしてもあまり騒がれず、イスラエルにとってのアラブの脅威が制御崩壊的に消失していくのかもしれない。
Iran war leaves Iraq running out of money




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