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分岐点にきたイラン
2026年3月5日
田中 宇
3月3日、英サウジ系のイラン向けメディア「イラン・インターナショナル」が、殺されたハメネイの後継の最高指導者としてハメネイの息子(次男)のモジタバ・ハメネイが選出されたと報道した。
イランの軍部(革命防衛隊)が、後継者を決める専門家会議に圧力をかけてモジタバに決めさせたのだという。モジタバは父ハメネイと一緒に殺害されたと思われたが、そうでなかった。
(Khamenei's son Mojtaba elected his successor, sources say)
(From shadow to power: who is Mojtaba Khamenei?)
当初、モジタバ選出の報道は世界的にあまり転電されず、ガセネタに見えた。イスラエルのワイネットニュースは一時トップニュースに掲げて速報したが、数時間以内にトップページからのリンクすら外された。
(Assembly of Experts' selection of Mojtaba Khamenei reportedly made under pressure from the Islamic Revolutionary Guard Corps)
だがその後、3月5日にかけて、後継者選びはモジタバが有力だという記事があちこちから出てきた。トランプ米大統領は、後継者選びの行方を見守っていると表明した。トランプが目指すソフト転覆は、ハメネイの後継者が米イスラエルの言いなりになる事が必要だ。
(White House eyes Iran’s future as Khamenei’s son seen as successor)
(A wartime succession in Iran: why the IRGC backed Mojtaba Khamenei)
革命防衛隊とモジタバは、米イスラエルを敵視し続けて、降参を拒否して戦争する。トランプのソフト転覆が成就しない。モジタバが後継者になると、米イスラエルは、モジタバを探し出してピンポイント攻撃して殺さねばならない。それができないなら、米イスラエルは延々とイランを攻撃する。泥沼化の危険が増す。
イランの上層部には、自国の政体を守るためソフト転覆に応じるべきだと考える穏健派もいる。穏健派は、防衛隊とモジタバが権力を握ることに抵抗し、上層部が暗闘になっている。
ハメネイの葬儀が終わったら、後継者を発表することになっている。専門家会議は後継者をモジタバに内定したが、まだ穏健派が反対し続けているので、3月4日に予定されていたハメネイの葬儀は延期された(一般参列者が多すぎると予測されたので、という目くらましな言い訳で)。イラン上層部の権力闘争が続いている
(Iran Signals 'Prolonged War' As US Strikes Go Deeper, Reports Of Kurdish Border Offensive)
米イスラエルは、後継者選びをめぐるイラン上層部の暗闘で穏健派(ソフト転覆受け入れ派)を優勢にするため「ソフト転覆に応じないなら、イラクのクルド軍をイランに侵攻させるぞ」と数日前から脅していた。
専門家会議がモジタバ選出に傾いたので、3月4日、イラクのクルド軍がイランに侵攻し始めた。イラクのクルド人は、サダム・フセイン政権時代からイスラエル(CIA含む)の傀儡だ。
(Israel could launch ground invasion of Iran with Kurdish support, sources say)
今回のクルド軍のイラン侵攻は、とりあえず国境線を越えて少し入っただけだ。米イスラエルは、クルド軍を使って「イランがソフト転覆に応じないなら、クルド軍がイランに侵攻してイランのクルド人の分離独立戦争を誘発し、イランを分割するぞ」と脅している。すでに防衛隊は、イラン国内のクルド地区を無人機攻撃している。
(Thousands of Kurds cross from Iraq into Iran, launch ground attack)
防衛隊を中心とするイランの軍事力は、米イスラエルに空爆され続け、かなり弱体化している。以前ならクルド人が決起しても防衛隊が簡単に潰せたが、今はもう違う。「イラン分割」は、脅し文句でなく、現実的な可能性になっている。
今後クルド人だけでなく、北方のアゼルバイジャン(昨年イスラエル傘下入りした国)が、イラン国内のアゼリ人をけしかけて分離独立・アゼルバイジャン編入を求める武装蜂起を起こすかもしれない。多民族国家のイランは分割されうる。
(What happens after Iran's sudden 'decapitation')
(イスラエル中東覇権の隠然性)
イランの上層部で「分割されるぐらいならソフト転覆を受け入れてイスラム共和国の政体を守った方が良い」という主張が強まる。防衛隊やモジタバは不利になる。それでも無視してモジタバが後継者になるのかどうか。この数日が山場だろう。
▼以下、詳述しつつ、繰り返し。
以下は、前のバージョンの記事の残滓だ。父親のハメネイは生前、最高指導者の世襲を嫌い、自分が殺された場合の後任の推薦リストに息子のモジタバを入れていなかった。モジタバは聖職者としての地位が低いし行政経験も少ないので選出は不可能という指摘もある。
それらの制約を破り、革命防衛隊と親しいモジタバが選出されたら、それは今後のイランで革命防衛隊が権力を握ることを意味する。ハメネイ殺害後、イランの上層部では、穏健派と強硬派が対立している観がある。革命防衛隊は強硬派だ。
(Ayatollah Ali Khamenei's Son Emerges as Leading Choice ...)
穏健派は、聖職者集団の一部で、トランプが好むソフト転覆策を受け入れ、イランの政体(イスラム共和国体制)を延命させてもらう代わりに今後のイランを米イスラエルに楯突かないものにして、米イスラエルの傀儡国としてイランを持続し安定化したい。
対照的に、革命防衛隊など強硬派は、米イスラエルと徹底的に戦う姿勢だ。勝算はかなり低い。しかし、穏健派が望むようにイランを米イスラエルの傀儡国にしてしまうと、革命防衛隊は間違いなく解体され、その幹部たちは投獄殺害される。
これまでのイランで、革命防衛隊は傘下に多くの組織や企業を持ち、軍事力と権力だけでなく、経済的に巨大な利権を持っていた。イランで防衛隊につながる人々は、防衛隊の解体を受け入れられず、徹底的に拒否抵抗しそうだ。
イランではハメネイが殺される前から、トランプが提案するソフト転覆に乗るのかどうかをめぐり、乗りたい穏健派と戦いたい強硬派が対立していた。ハメネイ殺害後、対立が激化している。
(イランは転覆されるのか?)
(防衛隊は、1979年のイスラム革命で作られ、革命前から存在していたイラン国軍を押しのけて軍部になった。国軍はその後も存在しているが弱く、国内防衛の任務に限定されている。防衛隊はイランだけでなく、中東全域のシーア派居住地域に影響力を持っている。戦前の日本の関東軍のような感じもする。ヒズボラもアサドもイラク民兵団も防衛隊に依存していた)
(イスラエルが対立構造から解放される日)
中南米のベネズエラではトランプのソフト転覆が成功したが、イランではどうなるかまだわからない。中南米のラティノは(楽しく)生きることを直視する現実主義なので、政体が維持されるソフト転覆を受け入れた。
対照的に、イラン人とかシーア派は、信仰や文明や筋道のために決死で戦い、殉教の精神で死を直視するので、ソフト転覆を受け入れず、死んでも戦う気なのかもしれない。ソフト転覆策の有効性はイランで決まる。
とはいえ、イラン人やシーア派と似たところがある日本人は、先の大戦で決死で戦おうとしたが、本当に壊滅に直面すると、本土決戦の前に米英提案のソフト転覆を受け入れて降伏した。
戦後の日本はヘラヘラと英米傀儡になったが、明治維新以来の長州政権と田布施南朝系の天皇制からなる政体は、現在まで維持されている。「決死の覚悟」は実のところ意外とショボいことをユダヤ人は知っている。
▼これまでのあらすじ
話を戻し、これまでのあらすじを少々書く。イスラエルとトランプは、以前から防衛隊を敵視して攻撃してきた。トランプは1期目の2020年1月に、米軍に命じて革命防衛隊の英雄的な総司令官だったガセム・スレイマニをイラク訪問中にピンポイント攻撃して殺害した。
イスラエル(リクード系)は、ブッシュ政権時代の911事件を機に米諜報界に入り込んだ。次のオバマ政権は、リクード系がアラブの春などを起こして中東諸国の政権を潰して支配を拡大し始めたのを阻止するため、防衛隊などイラン(とロシア)がヒズボラやアサド政権を支援するように誘導した。
オバマは、核交渉(JCPOA)をまとめてイランと和解して強化した。イランを強化し、米国や中東を乗っ取ろうとするイスラエルと対立させ、イスラエルを弱体化するのがオバマの目的だった。
(イランを健闘させたトランプ)
オバマ政権が終わるとともに、イスラエル(リクード系)がトランプを擁立して米政権を握った。
トランプ1期目と、間合いのバイデン(リクード系が民主党に選挙不正をやらせて作った、失敗させるためのピエロ政権)は、リクード系が既存覇権の英国系を潰すための準備期間で、ウクライナ戦争を起こして英欧など英国系の自滅を決定的にした。
今の2期目のトランプが本番で、トランプ返り咲きの前から、ガザ戦争やヒズボラ潰し、アサド転覆(シリアのイスラエル傀儡化)、今回のイラン攻撃など、英国系の中東覇権(パレスチナ国家を強要していた)とイランを潰す策を繰り返している。
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