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イランは転覆されるのか?

2026年1月15日   田中 宇

以前から反政府運動が断続的に続いてきた中東のイランで、年末から反政府運動が急に強まり、今の政体(イスラム共和国)が作られた1978年イスラム革命以来の激しさになっている。
イラン当局は当初、今回の反政府運動に対してわりと寛容だったが、運動家たちが政府などの庁舎に押し入ろうとしたり、公共施設を放火したりするので、当局はこれを政治活動でなくテロ活動とみなして運動弾圧を強め、2週間で2千人が死んだと言われている。
イラン国内は年末以来インターネットの接続が遮断され、国内の状況がほとんど世界に漏れてこない。世界に流れている情報は不確実なものだ。
イランを政権転覆したいイスラエルと(傀儡の)米トランプ(合わせてリクード系)は、反政府運動を扇動鼓舞しており、流すイラン情報も歪曲している。いろいろ不確実だが、今回の反政府運動がイスラム革命以来の激しさであることは間違いなさそうだ。
Trump urges Iranians to ‘take over institutions’
Iran ‘prepared for war’

反政府運動や民主化要求はイランの文化・文明の一つで、近代初期から断続的にずっと続いてきた。それがイランを民主的な方向に押し出してきた。今の政体はイスラム聖職者の独裁(集団指導体制)のように見えるが、その下に民主主義がある。聖職者は選挙の候補者を、反イスラム的だと難癖つけて立候補を禁じる権限があるが、そこを通過すると、その先は選挙で決まる。
とはいえ、今の政体は(イスラエル傀儡の)米欧からずっと敵視制裁され、制裁を乗り越えるために権力が硬直化している。ソ連の末期と同様、根本的な改革は政体を破壊する。だから聖職者たちは、人気取りのため改革者の存在を認めつつ、抑圧し続けている。本格的な改革を望めないので、人々は選挙に行かなくなっている。その分、反政府運動や政権転覆への支持が強まっている。
Iran regime is brittle, but don't count out killer instinct to survive

イランの反政府運動は2019年以来強まり、今に続いている。しかしこれまで、反政府運動は政体を破壊するほど強くなかった。同時に、政体の方も(米欧からの制裁の成果である)信用低下を受け、反政府運動の蘇生力を破壊するほど強くはなくなっていた。
そのような結果の出ない均衡状態が、イスラエルとトランプに扇動された今回の反政府運動の激化によって崩れ、反政府運動が政権転覆までつながるかどうか。それが注目点だ。
Iran Shrugs Off Another Round Of U.S./Israel Sponsored Regime Change Riots
As Trump Threatens Iran, Most Of The US Navy Strike Group Remains In Caribbean

これまでイランの政権転覆というと、イスラム政体を完全に破壊して、イスラム革命前の国王(シャー)の息子(米国に亡命中)が復権するとか、そういう話だった。イスラエルは今回もその手のプロパガンダを流している。シャーの支持者はイランにいるが、それほど多くない。
しかも今回、シャーはイランの政権を取ったら自分と国家の宗教をイスラム教からゾロアスター教に戻したいと考えている、といった(与太)話も流布している。シャーの支持者を減らすための流布だろう。
Disorder instead of protest: Who tried to radicalize Iran’s streets - and why it failed

ドナルド・トランプは今回、ベネズエラの先例を作り、政権転覆の全く新しい形を提案している。ベネズエラで米国は、マドゥロ大統領を逮捕して政権転覆するかに見えたが、後任の権力者(大統領代行)にマドゥロと同じ左翼のロドリゲス副大統領を昇格させ、ロドリゲスが親米化したので左翼政権の維持を許している。
トランプは、マドゥロ逮捕という劇的でハードな見せかけの下で、ベネズエラの左翼政権を反米から親米(米傀儡)に転向させる「ソフトな政権転覆」を挙行した。
ベネズエラ支配 成功への道

イランで、トランプが斬新なベネズエラ方式をやるとしたら、たとえば、最高指導者のハメネイ師がモスクワ(シリアのアサドの亡命先居宅の隣家とか。笑)などに亡命して引責辞任する。後継の最高指導者を聖職者の中から互選で選ぶが、改革派を選出する。
新たな権力者は、選挙への介入を減らしたり、核兵器開発しないと(改めて)誓約したり、イスラエルと和解してアブラハム合意に加盟するとか、イランの石油ガス開発を米国企業に任せるとか、米国の希望に沿って中露との関係を切る(ふりをする)。トランプは、これらを評価してイラン制裁を解除していく。とか。
ベネズエラが驚きの展開(ソフト転覆)になっている今、イランで同じことが起きても不思議でない。もし実現したら、中東最大の対立構造が解消する。
ベネズエラでは、米傀儡な野党党首マリアコリナ・マチャドが、ノーベル平和賞を受賞したりして、トランプによる政権転覆の策略の目くらまし的な当て馬として使われてきたが、イランではその役割をシャーにやらせている感じもする。
Israeli, Arab officials suggest Trump 'hold off' on Iran strikes until regime weakens

イランに対するトランプとイスラエルの目標は政権転覆だろうが、それをどのように実現するのか不明確だ。今のイスラム共和国の政体を潰してシャーと入れ替えるのか(笑だけど)、ベネズエラ方式のソフト転覆を試みているのか。軍事的な空爆を再開するのか(空爆は現政権への支持を強めかねないが)、反政府運動を扇動し続ければいずれ政権転覆までいくのか。不確定だ。
米軍が24時間以内にイランを空爆するとイスラエルのマスコミが報じた。その一方で、トランプは空爆を躊躇しているという報道も流布している。アラブ諸国がトランプに空爆するなと説得しているとか。米軍はまだ南米に注力しておりイラン攻撃できないとか。いろいろ流布して意図的に情報を混乱させている感じで、いかにもリクード系だ。
US military intervention in Iran may begin within 24 hours, European officials say
As Trump Threatens Iran, Most Of The US Navy Strike Group Remains In Caribbean

何が本当かわからない。しかし、イランと親しかった中国政府(中共)が今回ほとんどイランを支援していないことを見ると、これからイランで何らかの政権転覆がありそうだとが感じられる。
中共は今回、イランに介入する米国に対し、通りいっぺんの批判をするばかりだ。反政府運動やリクード系が頑張ってもイランの現政権が揺るがないなら、中共はもっとイランを支援するはずだ。
リクード系は2024年から、シリア、レバノン、パレスチナ、ベネズエラ、コーカサスなどで、政治体制を転覆させる「実績」を次々とあげており、とても強い。習近平は、リクード系の恐ろしさを感じている。
下手に対抗すると、リクード系が中共内部にいる傀儡を使って習近平の独裁体制を転覆する報復をやりかねない。だから習近平は、イランがリクード系にやられていくのを黙認している。手を出せない。
An Isolated Iran Finds China’s Friendship Has Limits

いずれイランがベネズエラみいたに親米(米傀儡)の国に転向し、米国企業が入ってきて石油ガス開発やパイプライン建設を手掛けるようになると、アゼルバイジャンからイランやシリアを通って直接パイプラインでイスラエルに石油ガスを送れるようになる。
今はイランを通れないので、アゼルバイジャンからトルコを通り、ジェイハン港からタンカーでイスラエルに石油を運んでいる。だからイスラエルとトルコは表向き敵対しても、裏では仲良しだった。
イランが転覆されると、それが変わる。パイプライン通過国としてのトルコは「用済み」になり、リクード系がエルドアン転覆の画策を強めるかもしれない。
リクード系の覇権拡大

イランの次はトルコか??。違うかも。リクード系は、傀儡であるクルド人(PKKとか)をけしかけてトルコを不安定化してきたが、最近はその策をやめて、リクード系がクルドをトルコに降参させている。それを見ると、イスラエルがトルコを潰すことはなさそうだとも感じられる。
どちらの見立てが正しいのかまだ不明だが、どちらにせよ、中東におけるイスラエルの覇権が今後さらに急拡大することはほぼ確実だ。
コーカサスをトルコに与える



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