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金相場の主導権も中共に移っている?

2024年11月21日  田中 宇 

米大統領選挙前の11月1日から2週間急落した金相場(ドル建て、円建て)は、今週に入って急反発している。急上昇は11月18日、月曜日に中国の市場が開いた日本時間の朝10時から始まっている。中国勢が中共の指示のもとで買いを入れ、それまでの2週間の下落傾向を反転させた観がある。
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午前10時の上昇は、11月18日と19日に起きたが、その後は起きていない。中国勢が今週の金相場反騰の黒幕であるという証拠は薄い。
だが、これまで金相場を引き下げてきた主導役は、金地金の究極のライバルであるドルや米国債を擁立する米金融界であり、非米側を率いる中国は、引き下げられた金相場を反騰させることでドルや米国債、米覇権を無力化し、非米側を世界経済の中心に据えていける。
私が10月下旬に紹介したエルサレムポストの記事も、中国が金相場を引き上げて米金融覇権を潰そうとする策をやっていると書いている。大きな視点で見ると、今週の金相場の反騰を起こした黒幕が中共である可能性は十分にある。
中露が金地金で米覇権を倒す

米金融界は、ドル防衛策(ライバルの地金を潰す策)として、信用取引を使って金相場の上昇を抑止してきた。だがウクライナ開戦後、金地金を信奉する非米側が結束を強め、米国側による抑止力を超えて金相場が上昇する傾向になった。
エルサレム・ポストの記事は、金相場が1オンス2600ドル以上になると、米金融界が立てた売り玉が含み損を抱えると書いている。10月末にかけて金相場は1オンス2800ドルまで上がり、金融界は含み損が肥大化した。
トランプは強いドルが好きで、米金融界に好き放題にやらせて金融バブルを延命し、ドルや債券の崩壊を先送りしようとしている。金融界は、11月に入ってトランプ当選の可能性が強まったことを受け、ドル防衛策としての金抑止策を強化し、金相場を暴落させた。
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だが、金相場の下落傾向は2週間しか続かず、11月3週目の今週は反騰している。なぜなのか??。一つの可能性は、相場を引き上げたい中国側(非米側)が2週間の様子見姿勢から脱して買い攻勢の威力を強化し、米国側の売り攻勢を乗り越えたという見方。
この場合、来週や再来週に米国側が呼応して売り攻勢を強め、第二波の下落局面がやってくるかもしれない。トランプが金融界をけしかけて中共のドル潰し策に徹底抗戦させているならそうなる。
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もう一つの可能性は、もっと矮小なシナリオ。米国側はすでに金融覇権の低下とともに金相場の上昇抑止をあきらめ、株や債券(金利)を防衛することに専念している。投資の神様ウォーレン・バフェットが逃げ出すぐらいの崩壊寸前な状態だから、それだけで手一杯。
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今回の2週間の急落は、金相場を2600ドル以下に引き下げ、金融界が金取引の含み損を解消した状態で反対売買して損を出さずに手仕舞うためのものだった。事前に中共に連絡し、2週間の下落を黙認してもらった。とか。
トランプの目標は金融バブル延命・ドル崩壊の隠蔽であり、金相場が上がっても株や債券の暴落につながらなければかまわない。
再来週ぐらいになると、どちらのシナリオに近いか見えてくる。
金地金高騰の背景

トランプは選挙戦で仮想通貨業界と結託し、当選とともにビットコインなど仮想通貨が急騰している。トランプは、仮想通貨の業界人であるハワード・ラトニックを商務長官に指名した(彼は財務長官にも推されていたが実現せず)。
ドルとの戦いにおいて、仮想通貨は金地金の「当て馬」だ(ドルの究極のライバルは地金でなく仮想通貨だ、と喧伝して地金の地位を引き下げる役)。トランプ当選後の、仮想通貨の高騰と金地金の暴落が連動しているように、当初は見えた。
だが今週に入ると地金が反騰し、地金と仮想通貨の両方が上昇している。話が違う。しかもこの2週間、ドルのライバルは地金でなく仮想通貨だ、という指摘が意外に出てこない。
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仮想通貨を信奉する共和党議員らは、米連銀(FRB)が資産として持っている金地金の一部を売却して、その資金でビットコインを買って国家的な準備金に組み込むべきだと言っている。これが実現すると金相場の下落要因になる。
だが、ビットコインの大半は民間人が持っており、準備金に組み入れると、国家がごく一部の民間人に振り回されることになり、国家の安全保障上よろしくない。政治腐敗の臭いがする。大半を中銀群など国家が所有している金地金の方が安全だ。
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金相場は、地政学的な動きや、中銀群の買い漁りによって動いていると報じられている。だが実際の日々の相場は、それらの要因がほとんど関係ない。
先週、バイデン政権がウクライナに渡したATACMSミサイルでロシアを攻撃させることを決め、事態が世界大戦の瀬戸際になっても、金相場は暴落していた。今週、イスラエルとレバノンが停戦しそうでも金相場は反騰している。
中銀群はずっと前から地金を買い漁っているが、ずっと相場は横ばいや下落傾向だった。短期的な相場は、地政学や中銀群と無関係に、信用取引や先物市場における攻防で決まっている。
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その攻防における主導役は、下落側が米金融界であるのは確定的だ。上昇側は、私の見立てだと中国(人民に株や不動産でなく地金で資産形成させたい習近平の中共)だが、公的にはそうでなく、不明なままになっている。
このまま金相場の反騰が続けば、金相場を上昇させる主導役が中共である可能性が強まる。非米側の台頭と、米国側(米欧日)の弱体化が顕在化する中で、中国(習近平)は非米側の雄として、すでに国際政治面で米国をしのぐ覇権を持ち始めている。金の高騰は、経済面の主導権も中共に移っていることを示している。



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