他の記事を読む

石破でどこまでやれるか

2024年9月28日  田中 宇 

岸田から石破への日本の首相の交代で、2022年7月の安倍晋三殺害以来、日本が縮こまっていないふりをしていた時期が終わるかもしれない。
2020年初めからコロナが始まり、世界の覇権と関係なかったWHOなど国連機関が、世界各国に政府より強い権限を持つ「コロナ皇帝(ツァー)」を置くことを強要するなど、覇権を行使し始めた。WHOは中国の影響下にあり、世界の政治(覇権)体制が、米国単独から、米中共同体制に隠然と転換し始めた(武漢研究所と米国側をつないでいたのがMI6・CIA要員の動物学者ピーター・ダザックだったことが象徴するように、コロナの体制は米諜報界と中共・習近平の共同覇権)。
"A CIA Front Organization": Revisiting EcoHealth COVID-19 Claims After Fauci 'Influence' Campaign Bombshell

安倍晋三は、当時のトランプ米大統領と良い関係を構築できたが、米諜報界によるトランプ潰しも兼ねたコロナ後の世界覇権の米中共同化を好まず、新体制が定着し始めた2020年8月に政権を放棄して辞任した。それ以来、日本の首相は、安倍の腹心だった菅義偉や、子分の岸田文雄が担当してきた。
日本政府は、WHOなどの命令に従いつつも、都市閉鎖やワクチン強制をやらない消極的な姿勢をとり、覇権の米中化から距離を置こうとした。コロナ対策(超愚策)を積極的にやった西欧などは経済がひどく自滅した。日本の消極性は正しかった。
安倍から菅への交代の意味

2022年2月のウクライナ戦争が始まり、日本を含むG7やNATOの欧日諸国は米国からロシア敵視を強要された。安倍はこれにも消極的だったようで、自民党の黒幕として対策を練っているうちに2022年7月、米諜報界に銃殺されてしまった(殺したのは山上の弾でなく、同時に撃った米諜報系のプロの弾)。
ウクライナ戦争の構図は、米国側のが露中を敵視して非米側と関係断絶するほど、世界の資源類が非米側のものになり、米国側が自滅する仕掛けになっている。消極性は正しかったが、その代償として安倍は殺された。
米中覇権のうっかり傀儡になってコロナ対策や露敵視を推進したマスコミや左派は、安倍が殺されたのは自民党が統一教会と癒着していたからだという話のすり替えをやって本質を隠匿した。
残された岸田政権は、米諜報界から追加の懲罰を受けぬよう、本質の隠匿を容認し、できるだけおとなしくしているしかなかった。そのまま2年が過ぎ、岸田の人気が低下し、交代が必要になった。
安倍元首相殺害の深層

コロナ以来の4年間で、世界の状況は大きく変わった。4年前はまだ米国が経済政治軍事の全面で世界最強だったが、今は米国と中国の強さが均衡する様相になっている。4年前はまだBRICSなど非米側のまとまりが弱く、世界は米覇権一色の傾向だったが、今は非米側が結束し、米国側をしのぐ勢いになっている。米覇権は、世界の全部から一部へと、大きく縮小している。
日本や西欧は、対米従属一本槍である。米覇権が世界の全部だった4年前は、対米従属一本槍であまり問題がなかった。だが今は、米覇権が世界の半分から3割ぐらいへと低下していく流れの中にある。対米従属一本槍は、世界の3割しかない勢力への無条件従属になりつつある。
中国(やロシア)は、米国と対等な存在になっている(しかも米国が低下傾向)。日本やドイツは、中露から見て、自国と対等な米国に従属する、明らかに劣位な国になり下がっている。
世界は意外に早く多極型になる

BRICSなど非米側は参加国が対等な関係にある。中国とロシアと印度は対等だ。だが米国側は、同盟諸国が米国に対して一方的に従属することを強く義務づけられている(米政界を裏から牛耳る英国やイスラエルを除く)。非米側の方が合理的で、米国側は不合理だ。
米国がダントツで世界最強だった従来は、耐え難きを耐えて従属するのも得策だったが、今はもう違う。米国は崩壊過程にある。
隠れ多極主義(自滅主義)的な米諜報界の傀儡である米国側のマスコミ権威筋や左派は、こうした世界の転換を無視するように仕込まれている。中露の台頭に直面して「何とか逆転して中露を潰さねばならない」という言説ばかりがあふれ「ならば敵視をやめて中露と和解しよう」という合理論はタブーになっている。これは諜報界の策略の成果であり、変えることがほぼできない。
ロシア敵視が欧米日経済を自滅させ大不況に

安倍晋三は、思い切り対米従属や米国言いなりの中国敵視の姿勢を表向きとりながら、中国やロシアとの実質的な協調を強めていた。トランプは安倍のやり方に賛同し、米日豪印が中国を包囲する「インド太平洋」の体制を作り、安倍を提唱者にして主導させていた。
覇権放棄屋のトランプは、米日豪印のクワッドで中国包囲網を作り、安定してきたら米国が「同盟国にぶら下がられるのは嫌だ」と言って離脱し、残った日豪印が現実策重視に転換して中国敵視をやめていき、中国も入れた集団安保体制に変質する流れを作ろうとした。
安倍に中国包囲網を主導させ対米自立に導くトランプ

安倍はプーチンとも仲が良く、ロシアとの間でも同様の路線を維持しようとして、ウクライナ開戦後に許されなくなって殺された。
日本の安倍は殺されたが、トルコのエルドアン大統領は、露敵視機関であるNATOに加盟したまま、ロシアと仲良くし続けている。エルドアンは殺されないどころか、好き放題にEUなどを非難し続けている。
印度のモディ首相は、米日豪との中国包囲網に参加する一方で、BRICSに加盟して中国と協調している。モディはプーチンと仲良くし続けているが、米国は印度への好評価をやめていない。
ちゃっかり繁栄する印度、しない日本
Turkiye’s BRICS bid: Strategic shift or diplomatic leverage?

エルドアンやモディは、親米を維持したまま中露と仲良くすることを許されているが、安倍が同じことをやっていたら殺された。何が違うのか。米諜報界が判断して安倍を殺したのでなく、日本の官僚機構が米諜報界に頼んで安倍を殺させたというシナリオも考えたが、私の見立てだと、日本の官僚機構は米国に対してもっと小役人的だ。
かつて田中角栄はニクソンに頼まれて日中友好を推進し、ロッキード事件を起こされて潰されたが、あの事件は米国側(諜報界)からの誘導によって起きている。日本のマスコミや当局は、米傀儡として動いただけだ。
印度やトルコは、日本よりはるかに対米従属色が薄い。日本も、指導者が対米自立の試みを繰り返せば、印度やトルコのような自由度を得られる。だが今のところ、安倍晋三が殺された後、自民党は萎縮して何もしなくなっている。
中露の仲間入りするトルコ

今回、石破茂が首相になって、安倍晋三を継承する、目くらましをたくさん入れた対中和解策を進めていくのかどうか。
安倍はプーチンと親しかったが、石破はロシアから入国禁止の制裁を受けており、対露和解は(少なくとも当面)手掛けない。西欧が対露和解してないのに、日本が先にやることはない。石破が和解策をやるとしたら、相手はロシアでなく中国だ。
石破は中国敵視派として知られている。以前から提唱している「アジア版NATO」は対米従属の中国包囲網だ。一見、石破が中国と和解するはずがない感じがする。だが、安倍が提唱して作ったインド太平洋も、対米従属の中国包囲網だった。
US rejects ‘Asian NATO’ proposal

アジア版NATOもインド太平洋も、これまで日米、米豪、米韓、米比など、米国と同盟諸国の2国間の対米従属同盟が別々に存在して米国中心のハブ&スポーク型になっていたのを、日豪韓比などの同盟諸国間の横のつながりを追加して変えていく動きだ。
これから米国の覇権が低下すると、日豪韓比は米国に頼りにくくなり、横のつながりが重要になる。米国は、同盟諸国に中国敵視を強要するが、同盟諸国の自主的な意思としては中国と仲良くする方が合理的だ。
米国の覇権が低下すると、同盟諸国だけで中国を敵視し続けることをしなくなる。アジア版NATOもインド太平洋も、長期的に見ると、中国包囲網でなく米覇権低下対策として存在している。
米国の中国敵視に追随せず対中和解した安倍の日本

ロシア敵視の包囲網として存在してきた本家のNATOは、ウクライナ戦争で加盟諸国が疲弊し、機能が大幅に低下している。本来は、米国が同盟諸国をロシアの脅威から守ってくれる機構のはずだったが、覇権が低下して米国が同盟諸国を守れなくなっている。NATOは、疲弊してロシアを敵視したくない加盟諸国にロシア敵視を強要する、国際政治の収容所になっている。
そんなNATOをコピーした組織をアジアに作り、中国敵視の包囲網を強化する。石破のアジア版NATOは、表向きそのような組織に見える。これは、うまくいかない。中国は、経済面を含めると、ロシアよりはるかに強い。日豪韓比は、中国との経済関係なしに自国を回せない。
中国包囲網はもう不可能

コロナ以降、国際政治における中国の支配力が強くなり、中国は配下のWHOやIPCCを通じて米国側の諸国に都市閉鎖や石油ガス不使用など、自滅的な超愚策を強要して潰している。米国側の諸国は、これらの案件で中国に騙されていることにすら気づいてない。
中国包囲網は、全く噴飯物の「ごっこ」でしかない。安倍のころからそうだった。石破は安倍の戦略を継承するだろうから、アジア版NATOも、中国包囲網のふりをした、米覇権低下への対応策である。
石破茂は2020年に安倍が辞めた後にも首相候補になったが落選している。私は当時、石破を安倍戦略の後継者として期待する記事を書いた。
安倍辞任は日本転換の好機

トランプはNATOが嫌いだ。トランプが米大統領に返り咲く場合、NATO嫌いの彼に「アジア版NATO」を提唱しても無駄だ。トランプは安倍と仲良くしたように、石破とも仲良くするだろう。石破が提唱するアジア版NATOは、別の名前をつけられて、安倍の戦略の継承としてトランプから歓迎されるのでないか。
安倍のころは、中国が今より弱かった。そのため私は、米国の覇権が退潮して世界が多極型になった後、太平洋西部に、日本からフィリピンなど東南アジアを経由して豪州までの「日豪亜」の海洋アジア圏が、中国とは別の「極」として出現するのでないか、それがインド太平洋の最終的な姿でないかと考えた。
中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本

だがその後、日本は結局、地域覇権の希求を一切しない戦後の国是を堅持することに決め、日豪亜は実現しないことになった。今では中国が強くなり、東南アジアはすっかり中国に取り込まれた。豪州も中国寄りに政権交代した。歪曲報道でなく実質として、日豪亜の可能性はもうない。
Aussie PM says no Japan as AUKUS member, but Pillar II on table
潜水艦とともに消えた日豪亜同盟

日本にとっては、ハリスよりトランプが米大統領になるのが良い。ハリスだと、日本など同盟諸国を、衰退していく米覇権下に押し込め続けようとする。
トランプは逆に、NATOやG7を軽視・敵視し、同盟諸国との関係を切り捨てていこうとする。NATOやG7は同盟国を衰退する米覇権下に押し込める監獄になっている。トランプがG7を軽視して離脱傾向をとったら、日本も屁理屈的な対米従属性を発揮して米国と一緒にG7から離脱していける。監獄から出ていける。



田中宇の国際ニュース解説・メインページへ