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ちゃっかり繁栄する印度、しない日本
2024年3月6日
田中 宇
印度は、2年前のウクライナ開戦以来、米国側と非米側の両方の利権や協力関係に乗っかり、良いとこ取りしてちゃっかり独自の繁栄と台頭を続けている。昨秋には年率8%以上の経済成長をした。
(India ‘easily’ world’s fastest-growing economy – IMF)
印度は、昔から中国と国境紛争で対立・戦争しており中国敵視だ。その点で米国やG7、AUKUSから仲間と見なされ、クワッド(米日豪印)など米国側の中国包囲網に参加し、経済的・軍事外交的な利得を得ている。
また印度は昔から、イスラム主義のパキスタンと対立・戦争してきた。近年はヒンドゥ第一主義を掲げるモディ首相らBJPが権力を握り、イスラム敵視を国是に定め、アヨドヤのモスクをヒンドゥ寺院に作り替える案件や、国内ムスリムへの弾圧を続けている。
印度は、パレスチナ問題においてもイスラム敵視で親イスラエルだ。この点で、印度は米欧覇権を牛耳るシオニスト・ユダヤ人に好まれている。911から米諜報界が採った、裏でイスラムテロを支援してムスリムを敵に仕立てる「テロ戦争」の構図は近年すたれているが、この構図の中で、イスラム敵視の印度は欧米の仲間だ。
(Hamas to halal: How anti-Muslim hate speech is spreading in India)
(Modi Opens a Giant Temple, a Triumph Toward a Hindu-First India)
印度は、反中国と反イスラムな点で米欧から支持支援されている。だがその一方で印度はBRICSの一員であり、世界の非米化・多極化の策では中国と一緒に動き、台頭する非米側の有力な一員として利得を得ている。新たにBRICSに入ってきたUAEやサウジ、イランなどと、印度は良い関係を結んでいる。
印度はUAE、イスラエル、EUと組んで「I2U2グループ」という、インフラ整備やエネルギー食料安保などを進める国際機関(政府間組織)に参加している。これは、欧米が中国の主導の一帯一路に対抗するために作った組織だ。
ガザ開戦でイスラエルが人道犯罪国家になった後、アラブのムスリム国であるUAEが離脱すると思いきやそうでなく、UAEは依然としてI2U2にいて、イスラエルとの国交も保持している。
(The Gaza crisis and challenge to future-proof I2U2)
印度のモディは先日、UAEやカタールといったペルシャ湾岸アラブ諸国を回って投資契約などを結んだ。UAEは親イスラエル、カタールは親ハマスで、印度がラファ開放後のガザ戦争を仲介する構想すら感じられる。
イスラムのアラブの盟主であるサウジアラビアも、親イスラエルでイスラム敵視のモディの印度を嫌うと思いきや、全くそうでない。サウジの権力者MbSは昨秋モディと会い、石油や投資に関する協定を結んでいる。
(Saudi Arabia one of India's most important strategic partners: PM Modi)
(India, Saudi Arabia ink 8 pacts; PM Modi says ties between 2 nations crucial - India Today)
印度とサウジは合同軍事演習や、印度人の観光客をサウジに大量流入させる策もやっており、良い関係だ。ガザ戦争や、印度国内のムスリム弾圧露骨化(アヨドヤ寺院開帳)後、印度とサウジの関係はむしろ強まっている。
(India, UAE ink key deals to strengthen I2U2 bloc)
(Modi's Promised Ram Temple Is Set to Open and Resonate With Hindus Ahead of India's Election)
非米側では、敵対関係があっても具体的な敵対につながらず、柔軟な外交が展開されている。米国が同盟諸国に、敵性諸国に対する120%の敵視制裁を強制している(自滅的な)米国側とは全く違う。
印度は、I2U2やクワッドといった中国包囲網に参加する親米欧な国であると同時に、米国が強烈に敵視するロシアやイランと仲良くして旺盛に貿易し続けている。
米欧から批判されても無視して、印度は露イランと付き合い続けている。印度は、NATOや日米安保のような米国に縛られる同盟体に入っていないので、米国の脅しに屈する必要がない。だから米欧の無体な要求を無視して好きなようにやれる。
(Back to roots: India, the Arabian Gulf and the reemergence of West Asia)
印度はウクライナ開戦後、ロシアが欧州に売らなくなった大量の原油を買い込み、印度で精製して欧州に転売してボロ儲けしている。米国が欧州に強要した対露制裁は、ロシアから直接の輸入を禁じているだけで、印度など他国を経由して精油された製品の輸入を禁じていない。印度経由の輸入は、欧州にとってありがたい抜け道だ。
(The Trilateral Threat: India, Russia, And China)
ウクライナ開戦後、ドルやユーロやSWIFT経由でロシアと取引決済できなくなった。だが印度はBRICS加盟国であり、BRICSが露中主導で決めた非ドル決済の仕組み(相互自国通貨決済やSWIFTの露代替であるSPFSなど)を使って非米諸国と貿易できる。
印露貿易は急増した。非米側の非ドル決済システムは、まだバーター貿易に毛の生えた程度で原始的で、改良に時間がかかりそうだが、それでも非米側の貿易は全体的に急増している。
(India Set To Cement Role As New GDP Growth Champion)
欧米日の先進諸国は、米国の左翼リベラルが(隠れ多極派に入り込まれて)推進する自滅的な「リベラル全体主義」の政策の拡大を強要されている。リベラル全体主義(略称・リベ全)は、不必要な地球温暖化対策や、誇張されたパンデミック対策、間違ったロシア敵視策による資源輸入の停止、社会を意図的に不安定にする違法移民の積極流入策、性別意識を意図的に混乱させて子供や若者の頭をおかしくするジェンダー政治運動、人種差別撤廃のふりをして人種対立を扇動するDEIなど覚醒運動、その他WEFの大リセットなど多岐にわたっている。
(エスタブ自滅策全体主義の実験場NZ)
("The Western World Is In Danger": Milei Warns Of DEI Doom, As Dimon Touts Trump On 'Critical Issues')
リベ全は、先進諸国や米覇権を自滅させる目的で、米諜報界を握る隠れ多極派が、米国側の権力・権威を持つ左翼リベラルにやらせている策だ。
印度やBRICSなどの非米諸国は、リベ全を拒否するか(覚醒運動)、やるふりをしてやらないか(温暖化対策)、非米諸国の独裁強化に都合の良いように使う(パンデミ策)といった「いいとこ取り」をやっている。米国側諸国が、リベ全の全てを延々と強要され、自滅的だとわかっても加速せざるをえないのと正反対だ。
(Russia welcomes foreigners with ‘traditional views’: What we know so far)
印度など非米諸国は、温暖化対策をやっているふりをしつつ、石炭の消費量を急増している。温暖化人為説は無根拠なので、近年技術改良された石炭は、実のところとても効率的なエネルギー源だ。世界中がもっと石炭を使うべきだが、米国側諸国は大間違いな温暖化対策に縛られているため石炭を使えない。
(Coal Production Surges By 83% At India's Largest Power Firm)
(The World's Coal-Fired Power-Generation Hit A Record High In 2023)
印度の政治権力は以前、左翼リベラルな国民会議派が持っていた。あのままだったら、印度は今ごろリベ全を積極導入して欧日みたいに自滅の道を歩んでいたかもしれない。だが、印度の権力は1990年代から、BJPなど保守的なヒンドゥ第一主義の側に移っていった。
印度は、左翼リベラルから保守派の国に大転換し、米欧系の覚醒運動を拒否する国になった。その結果、印度は自滅せずにすみ、世界的な非米化の流れにうまく乗って発展している。
(India rejects ‘imported ideologies’ - foreign minister)
(同盟諸国を自滅させる米国)
印度の政権転換は、選挙によって民主的に行われた。米国の民主党やリベラルなエスタブが、自分たちの権力を守るために2020年と2022年の選挙で、郵送投票制を悪用して大規模な選挙不正をやってトランプ共和党の台頭を阻止したのと対照的だ。その結果、リベ全がゴリゴリ行われて自滅している。
米国はすでに民主主義でない。西欧もそのうちAfDやルペンへの政権移行を防ぐために大規模な選挙不正をやり、民主主義でなくなる。米欧のマスコミ権威筋はグルだから、選挙不正がないかのような大誤報を続け、人々に信用されなくなっていく。欧米と対照的に、印度(やロシア)は、立派な民主主義国だ。
(ずっと続く米国の選挙不正)
(ロシアでなく欧州を潰してる)
印度はかつて英国の植民地だった。独立後も、英欧米の優位性を信奉するか、その逆に冷戦下でソ連を信奉して自滅策をやるかどちらかの左翼リベラルが印度の権力権威を握っていた。英国や欧州はずっと印度を見下していた。
だが今や、911以来の米国の隠れ多極派(ネオコンなど)のおかげで、米覇権や先進諸国はテロ戦争や金融バブルやリベ全やコロナやウクライナ戦争で自滅の道をたどり、世界は非米化と多極化が進んでいる。
(BRICS and Global South Challenge ‘Globalist Elites’ With Multipolar World)
印度は、中国やイスラムとの対立を利用して米国側から利得を得つつ、自国を非リベラル化させてリベ全の侵入を防ぎ、非米側を代表するBRICSの一員として経済発展と国際政治台頭を実現している。
中国とロシアはBRICS加盟国であると同時に国連安保理の常任理事国(P5)で、大国としての地位をすでに確保している。P5でない印度は、BRICSの国際政治面の恩恵を、中露よりも大きく受けている。
(The Axis of Asymmetry takes on the 'rules-based order')
(Multipolarity is a way out of the neocolonial system - African expert)
英国は以前、米国の覇権運営を牛耳っていたが、911後は米覇権運営を隠れ多極派に乗っ取られ、多極派による覇権自滅・多極化策に有効な対抗策を打てないまま、英国自身の国力も大幅に低下した。
EU離脱は英国を自滅させた。英国の一部(植民地)だった北アイルランドは、英国から分離独立してアイルランドと統合する道を歩み始めている。スコットランドもいずれ分離独立する。
印度は、米国側と非米側の両方に属しつつ良いとこ取りする、ちゃっかりな繁栄策で成功している。対照的に、英国は、米国の覇権運営権を奪われて世界を非米化されてしまい、破綻させられている。印度と英国の対照性は、この四半世紀の世界を象徴している。
英米の覇権は世界を悪くした。それがなくなり、世界は好転している。悪い英米覇権の一部である米国側マスコミは、この好転を無視歪曲して誤報している。
(Northern Ireland Has a Sinn Fein Leader. It’s a Landmark Moment)
(Most Brits regret Brexit – poll)
印度は、イスラム圏(中東など)と中華圏(東南アジア)にはさまれた独自の孤立文明だ。孤立文明という点では、中国の影響を受けつつ独自性が高い日本と同じだ。
同じような孤立文明の国なのに、印度はそれを利用してうまく繁栄し始めている。日本は、孤立文明のくせに無理やり欧米側に入りたがり続け、911以来の四半世紀ずっと対米従属だけに固執した挙げ句、米国からリベ全を強要され、米国と一緒に自滅しつつある。
日本は、自滅した後は中国の言いなりになって「小琉球」的な対中隷属をやりかねない力量低下だ。日本ではすでに中国人が急増して我が物顔で闊歩し、日本人は追従笑いしながら小さくなっている。独自文明を放棄し、最終的に中華文明圏の弱小国になっていく間抜け。印度人は元気だが、日本人はどんどん弱くなる。
(日米欧の負けが込むロシア敵視)
ハンチントンが1990年代に「文明の衝突」で日本を欧米と異なる独自の孤立文明に区分したとき、日本の権威筋は、米国から独自文明と認められたことを喜ぶどころか逆に、戦後ずっと欧米の仲間入りしたくて頑張ってきたのに欧米に入れてくれず孤立を強要するのか、何とか欧米に入れてくれと、ハンチントンに懇願したが、苦笑され、なだめられつつ断られた。
日本の権威筋(だけでなく、国民のほとんど)は、今も当時と同様の気持ち・精神構造だ。日本は非米的な「グローバルイースト」になれるのに、自らその道を放棄している。
(Russia builds equality-based cooperation with partners, unlike West)
日本の左翼やリベラルは「対米自立」を掲げるが、その一方でリベ全に完全洗脳されて積極推進している。リベ全は新手の、より悪質で根深い対米従属の構図で、しかも経済と社会を自滅に向かわせる構造を内包している。
リベ全はこれまで米欧で洗脳を広げて自滅させてきたが、日本への影響は少なかった。だが最近はしだいに日本もリベ全に乗っ取られている。地球温暖化や外国人定住推奨、ジェンダーなどの分野でそれが感じられる。
(Europe is losing dignity by obediently submitting to US)
非米側は、各国の指導者どうしが集まってサミットや2国間会談で国際決定する態勢が強い。国家首脳が強い権力を持つ国ほど、非米世界の恩恵を受けやすい。印度も中国もロシアも、国家首脳が強い権力を持っている。エルドアンが強権を持つトルコも、NATOに加盟しつつ、非米側の国としてロシアやイランと仲良くする両属策でうまくやっている。
これらと反対に日本は、首相の力が大きくない。首相が独自に動こうとすると、すぐ官僚機構に情報が漏れ、官僚機構は対米従属だから米国に話が伝わり、妨害が入る。日本は、非米側と仲良くしていく道を塞がれている。
(民主化するタイ、しない日本)
印度は非米側だが親日だ。印度と日本はクワッドの仲間だ。しかし、クワッドは中国敵視網であり、BRICSが重要になるほど、印度の中国敵視は名目だけになり、クワッドは雲散霧消していく。
印度(やその他の非米諸国)が親日なのは、日本が欧米でないからだ。非米側は、日本が非欧米な独自の孤立文明だから、日本に期待している。だが、日本人自身がそれをわかっておらず、日本は独自文明じゃありません、欧米の一員ですと言い切ってしまう。自らをおとしめている。大馬鹿だ。
世界は、欧米化する前の日本人が好きなのに、日本人自身が、欧米(傀儡)化する前(戦前もしくは明治維新前)の自分たちの本質を忘れてしまっている。本質の蘇生はかなり難しい。
(印度は意外と居心地良い)
日本では首相辞任後の安倍晋三が、自民党内で院政を敷くことで印度やエルドアンの方式をやろうとした。首相でなく院政なら、独自に動いても官僚に話が漏れにくい。だが、それをやりだした後、安倍は暗殺された。
真犯人が隠されたまま、マスコミはすぐに統一教会の話にすり替え、安倍派や自身党全体がスキャンダルで潰されていく流れが作られた。マスコミ権威筋と左翼リベラルが寄ってたかって日本にリベ全を注入して自滅させている。
みんな「自民党は最悪だ」と言う。だが、そうなのか。最悪なのは自民党よりも、マスコミ権威筋や日本外務省、リベ全に洗脳された左翼リベラル、黒幕の米諜報界の方でないか。
(安倍元首相殺害の深層 その2)
今秋の米選挙でトランプが選挙不正を乗り越えて勝って大統領に返り咲くと、米政府からリベ全を一掃してくれて、対米従属の日本はトランプに従属して難を逃れられるのか??。日本独自の転換でなくトランプに頼るのはとても他力本願だが、トランプが日本にとってのカミカゼになってくれる可能性がある。これについては、あらためて考える。
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