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エスタブ自滅策全体主義の実験場NZ

2024年1月19日   田中 宇

前からずっと紹介したいと思いつつ、他の事象にかまけてやれてなかったことに、ちょうど1年前にゼロヘッジが出した「ニュージーランドは、欧米諸国が庶民を細かく統制する(全体主義)体制作りの実験場なのか」と題する記事のことがある。以下は、要約というより、この記事をもとに私が考察したことだ。
Is New Zealand A Beta Test For Western Governments Micromanaging The Populace?

ニュージーランドは昨年10月の選挙で政権転換するまでリベラル派の労働党政権で、2017年から昨年始めまでジェシンダ・アーダンが首相をしていた。アーダンは就任後、他の欧米諸国のリベラル派の政権がやっている地球温暖化対策や新型コロナ対策、インターネット検閲強化など、リベラル主義のふりをした(実は頓珍漢・超愚策・トンデモな)全体主義の政策を、他の欧米諸国よりも強烈・過激に展開した。
New Zealand Prime Minister Calls For A Global Censorship System

新型コロナ対策では、効果がほとんどないし臨床試験もやってない副作用多発のmRNAワクチンの接種を国民に強要し、ワクチン接種しない人々を軍が管理する強制収容所に入れることをアーダン政権が検討した。このトンデモなワクチン接種を国民に強制した国は欧米に多いが、強制収容所を計画した国はNZ(と隣の豪州)ぐらいだ。
アーダンは2021年のダボス会議で、NZ社会を、接種者と非接種者の「2段階社会」にすることを宣言し、非接種者の人権を剥奪する策を用意した。より良い社会を自称するリベラルが、反対派を弾圧するため、北朝鮮や江戸幕府と変わらぬ被差別階級や村八分の制度を作ることにした。(もともとリベラルは、ウソが上手になった改訂版共産主義者=全体主義者、もしくは洗脳されてやってることの本質を理解してない軽信者だが)
NZ政府は、コロナワクチンが心筋症などの副作用を引き起こすことを知りながら、強権的な接種強要を公然と全力で展開した。しかしこれらの策は、国民からの反対が強くて限定的にしか行われず、都市閉鎖やマスク義務など他の超愚策も含め、2年後に撤回されていった。

アーダンは、無根拠な人為説に依拠した大間違いな地球温暖化対策も、2018年の海底油田開発禁止以来、他の欧米諸国より強烈に展開した。2022年末には、炭素排出が多い企業への投資・融資を規制する新法を作り、NZの基幹産業である牧畜業などに打撃を与える経済自滅策を展開した。
2000年からは、ネットコンテンツへの検閲を強化し、政府の策への反対論を「危険なコンテンツ」とレッテル貼りして禁止し始めた。これも国民の反対が多くて撤回したが、アーダン政権は、国民の間からどのくらいの反対が出るのか反応を見るために、意図的に人々の人権や自由言論を制限する全体主義的で露骨・強烈な統制策を連発してきた観がある。

一つの分野で超愚策な統制策を打ち出してみて、それが反対論に押し切られたり、超愚策性が露呈したら、次の分野で超愚策をやってみて、また様子を見るという感じだ。銃規制やタバコ禁止など、一部の人が猛烈に抵抗・反対する分野の禁止策を強烈にやって、反対論者をあぶり出して弾圧して全体主義っぽい体制を作ることも、アーダンのNZ政府は好んできた。

トンデモ全体主義は、全員を巻き込める分野の方が、反対論者を作り出して弾圧できるので好ましい。稚拙なインチキに依拠するほど、それに気づいた人が反発してくれるので好都合だ。
地球温暖化対策は、石油ガス田の開発禁止なら多くの人に遠い話だが、これが「石油ストーブの使用禁止。高くつく電気ストーブを使え」と言われると、全員を巻き込み、多くの人が反発し始める。
新型コロナは、無意味な外出禁止とか、ワクチン強要で人々の身体を壊そうとする策、マスク義務で子供の発育を破壊する策など、トンデモ策で全員の生活を抑圧し、気づいた人が激怒するとすかさず弾圧・人権剥奪される「インチキな理由に基づく実質的な全体主義策」の骨頂だった。
「鶏がかわいそうだから。または、鳥インフルエンザが怖いから。実のところ理由は何でも良いから」という養鶏禁止・鶏卵鶏肉高騰策なども、NZ(や他の欧米、最近は日本でも)が推進したインチキなトンデモ全体主義の一つだ。

この手のトンデモ全体主義は、コロナあたりから、米国側(欧米日)の全体で強化された。NZは、その過激版を試してみる、もしくは先駆的にやってみる実験場でないか、というのがゼロヘッジの記事の題名の意味だ。記事は、アーダンのNZが手を替え品を替えてトンデモ全体主義の実験をやり、何とかしてNZを全体主義の体制に転換させようとしているという解釈だ。
コロナや温暖化の対策が、科学的・合理的かどうかなどどうでも良く、がむしゃらに全体主義を目指さないと、欧米エスタブは自分たちの支配を維持できないので、その尖兵となる実験をアーダンのNZがやっている、というわけだ。

アーダンのNZがトンデモ全体主義の実験場をやってきた感じは強い。私は、この記事の題名を見た時に、そのとおりだと思った。
NZは(リベラル策を多用しマオリを騙って本性をごまかしつつ)アングロサクソンで、事実上英国の一部だから、実験の結論を欧米に適用できる(異質で独特な日本で実験しても欧米の参考にならないのと対照的)。しかも欧州から遠く離れているので、実験の影響が欧州に直結しない(豪州も欧米から遠いが国土の広さが異質)。

欧米の全体主義の実験場としてNZが好都合なのは確かだ。だが私からみると、トンデモな不合理に基づくものでかまわない何とかして全体主義に転換しないと欧米の支配体制が守れないという見方は、違うと思う。
近現代の200年間、欧米は、合理性を重視していたがゆえに発展し、世界を支配し続けてきた。合理性や科学的な正しさが欧米の強さであり、アジアなど他の地域は不合理で非科学的だから発展できず、欧米に支配される弱者に成り下がった。
事実を報じるマスコミと、言論の自由の保障も欧米の強さの原動力だった。実際は、往々にして欧米マスコミも支配と覇権の維持のためにウソや歪曲を報じるが、従来は、大半の内容が事実で、その中に時々ウソが混じるとか、事実性は保っているが解説が歪曲というぐらいだった。だからマスコミは、人々におおむね信用されてきた。

ところが911以降、マスコミは国際政治について歪曲がひどくなり、リーマン危機以降は経済についても歪曲が増し、コロナ以降はウソだらけになった。ウソや歪曲を察知する人が増え、ネット上などで言論の自由を許していたらインチキがバレてマスコミの信用が低下するので言論統制が必須になった。
こんな流れなのに、インチキを加速して不合理な根拠で欧米を全体主義に転換しようとしても、うまくいくはずがない。むしろ逆に、インチキに気がついた人々の怒りを扇動してしまい、欧米のエスタブ支配を自滅させる。
実際、アーダンが連発したインチキ全体主義化策は、NZ労働党政権に対する人々の信用を失墜させ、昨年10月の選挙で労働党は敗北して下野し、政権を保守党に奪われた。それより9か月前の昨年2月、アーダンは自分の政策の失敗に気づいたのか、突然に首相を辞任した。

欧米のエスタブ権威筋が自分たちの支配を維持したかったのなら、この四半世紀の諸策は大間違いだらけだった。
米当局は自作自演の911事件など起こすべきでなかったし、911後のテロ戦争も逆にテロを誘発する超愚策だった。米国はイラクに侵攻すべきでなく、逆にサダム・フセイン政権をイランのライバルと認めてゆっくり国際社会に戻すべきだった。
リーマン危機を起こしたくなかったのなら、2000年以降のバブル膨張を止める予防策をやるべきだった。新型コロナは、他のコロナウイルスと同様、人々の自然免疫で乗り越えればよかった(実際、採られた対策のほとんどは効かず、結局自然免疫と変異による脅威低下で終わった)。
気候変動は自然現象なので、地球温暖化への対策は何も採る必要がなかった。人為説は無根拠だと正しくレッテル貼りされるべきだった。
テロ戦争も、イラク侵攻も、リーマン危機も、新型コロナも、温暖化問題も、ウクライナ戦争も、欧米の世界支配を自滅させる方向に働いている。アーダンのNZ政府の諸策は、この自滅方向を加速する実験を重ねた。

アーダンやNZ労働党が、インチキ全体主義策を自分たちで考えて遂行したとは考えにくい。理性で考えれば、あれらの策が自らを自滅・下野に追い込む超愚策だとすぐわかる。
インチキ全体主義は、ダボス会議を主催するWEF(世界経済フォーラム)など、米欧エスタブ権威筋を統率する米覇権運営体(米諜報界、DS)が考案し、NZが実験場としてちょうど良いのでアーダンをたらし込んでやらせたのだろう。事実上英国の一部であるNZの政治家は、米覇権からの誘いに乗った方が栄達につながる。

覇権運営体は、イラク戦争あたりからネオコンなど隠れ多極派に乗っ取られていき、今ではほぼ完全に多極派に牛耳られている。彼らが、米覇権を自滅させる多極化策の一つとして、アーダンにインチキ全体主義の実験をやらせたと考えられる。
NZ労働党を含む欧米のエスタブ権威筋の中には、インチキ全体主義策が自滅策だと見破って反対する人々もいた。彼らの反対を乗り越えるため「これは実験であり、うまくいかなければすぐやめられる」という言い訳が作られた(最初は共産主義も全体主義も「実験」だった)。コロナの緊急性の扇動も人々を思考停止させ、どさくさ紛れに全体主義が推進された。

「実験」の手口は、かつて米政権中枢に入り込んだネオコンが、イラク侵攻の時に使った策だ。当時まだ多極派に乗っ取られていなかった米エスタブや諜報界に、イラク政権転覆後の用意を何もしないまま侵攻することに反対する声が強く、反論として「これは強制民主化の実験だからいつでもやめられる」という言い訳が用意された。
実のところ政権転覆は不可逆で、米国はイラク占領に大失敗して覇権を浪費した(しかし欧日など同盟国が米国の超愚策に見てみぬふりをしたので、覇権自滅目的のネオコン策は失敗した)。

「実験」のもう一つの側面は、コロナや温暖化など見え見えのインチキで、人々が嫌がる全体主義化の策をやっても、ほとんどの人々がインチキを深く軽信し続けてしまい、全体主義でもかまわないと思ってしまったことだ。これは、イラク侵攻の上記の「失敗」と同根だ。
こうした人々の極度な間抜けさを「意外」とみるか「当然」とみるか判断が分かれるが、グロテスクな策をどこまで強くやれば人々が気づくのか試してみる実験をやることで、後々の支配に役立つ情報が得られる。こうした「人体実験」の意味も、多極派がNZアーダンにインチキ策をやらせた背景にありそうだ。ガザ侵攻の虐殺も同じ趣旨の実験だ。

多極派は近年、NZだけでなく、米民主党左派など、欧米のリベラル派や左翼の全体に入り込んで各種の自滅策をやらせている。違法移民を積極流入させて自国を潰すのも、多極派が欧米リベラル派にやらせている得意策だ。化石燃料禁止と原発廃止を同時にやらせる超間抜けも。非米側は原発をがんがん増設し、石油ガス利権の大半も非米側に取られたのに。自然エネルギー発電のショボさが最近露呈した後も変わらぬ欧米日の大馬鹿。
日本の左翼も、温暖化やコロナなどの超愚策にどっぷりはまり込む大馬鹿をやっている。中露台頭の確定後に中露敵視に転じる愚策も。左翼に政権とらせたら日本もインチキ全体主義になるが、日本では「幸い」なことに左翼が不人気で政権をとれないので、彼ら自身の自滅加速にとどまっている。
The Valorization Of The Tyrants

NZのアーダンは首相を辞めた後、WEFや国連、米国側のマスコミや大学などで、インチキ全体主義に反対する人々をニセ情報発信の危険勢力と呼び「言論の自由を守るためニセ情報の発信者を処罰しよう」と呼びかけ、絶賛されている。
アーダンは、NZでの実験の功績を讃えられ、米側リベラル(インチキ)知性の大本営であるハーバード大のフェローシップを2つもらい、NZ政治家から、全盛期のグレタトゥンベリ級の国際権威・WEFの寵児に昇格した。
Former NZ PM Ardern Urges United Nations To 'Crack Down On Free Speech As A Weapon Of War'

インチキ全体主義は全盛期を迎えた。いまや米覇権の運営は、インチキ全体主義を強く信奉するリベラル権威筋のエスタブに委ねられている。NZアーダンはこの構図の象徴だが、この構図そのものが米覇権の自滅を加速している。米諜報界=DSが隠れ多極派に乗っ取られ、この構図を推進している。プーチンや習近平に漁夫の利を与えている。
先日開かれた今年のダボス会議でも、欧米各国のエリートたちが、各種のインチキ全体主義策をとうとうと語っている。しかしこの構図自体が、エリートたちを米覇権ごと自滅させていく。それについてはあらためて書く。



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