ロシア敵視が欧米日経済を自滅させ大不況に2022年7月12日 田中 宇ウクライナ戦争でのロシアと米国側との対立の一環として、ロシアがドイツなど欧州に天然ガスを送るのをやめる方向に動いている。ロシアから欧州へのガス輸出の最大のルートの一つである、ロシアとドイツをつなぐ海底パイプラインのノルドストリーム1が、7月11日から21日まで定例の年次メンテナンスに入って稼働を停止しているが、メンテナンス期間が終わってもロシア政府がガス送付を再開しない可能性が高まっている。ロシア側はメンテナンス前から、米国側からの経済制裁でパイプラインの修理部品が足りないことなどを理由に、ノルドストリーム1のガス送付量を往時の4割ぐらいに減らしていた。メンテナンス後、ロシアからの送付量がさらに減りそうで、送付がゼロになるかもしれない。7月10日にフランスの財務相が、今後最もありそうなことはロシアから欧州へのガス輸出の完全停止だと表明した。 (France prepares for total cutoff of Russian gas) (Russia is set to switch off the gas for work on a key pipeline — and Germany fears the worst) 欧州で最もロシアのガスに依存しているのはドイツで、消費するガスの4割がロシアからだ。ドイツはすでにロシアからの石油ガス輸入が減り、省エネも限界に来ており、電力やガスの配給制もありうる事態になり、経済活動への支障が拡大している。これ以上ロシアからの石油ガス送付が減ると、経済破綻や社会混乱がひどくなる。ドイツだけでなく欧州全体が、1970年代の石油危機時を上回る惨事になりつつある。フランスは、ロシアのガスへの依存度がドイツより低いが、原発の多くを定期点検などで運転停止しているので、ドイツ同様、エネルギー危機に瀕している。 (Germany braces for ‘nightmare’ of Russia turning off gas for good) (France issues new gloomy gas supplies prediction) 独仏など欧州がエネルギー危機を脱却・解決したければ、ロシア敵視をやめれば良い。これまでも書いてきたようにウクライナ戦争は、米英がウクライナを傀儡化してロシア側(ウクライナ国内の露系住民)を攻撃・殺戮させ、ロシアに脅威を感じさせて反撃を誘発したものであり「米英が悪い戦争」だ。ロシアは正当防衛として開戦し、その後米英から「虐殺」「大量破壊」など、実際にはやっていないいくつもの「戦争犯罪」の濡れ衣を着せられて「極悪」に仕立てられている。実のところロシアは悪くない。独仏など欧州の上層部は、米英による対露濡れ衣戦争の実態を知っているはずだ。だが欧州は、軍事的な安全を米国(NATO)に依存しているため、米英による善悪歪曲のロシア敵視に参加してロシアを経済制裁せざるを得ない。 (ウソだらけのウクライナ戦争) (French, German Leaders Warn Populations "Prepare For Total Cut-Off Of Russian Gas" As Social Unrest Looms) ロシアは、欧州に制裁されて輸出できなくなった分の石油ガスを中国やインドに輸出増加できるので困らない。ロシアと中国インドは、石油ガスを輸送するインフラを急いで拡充している。米英は、ロシアが勝っている限り対露経済制裁を続けると決めている。ロシアはウクライナの戦場で勝っており、優勢は今後もずっと続く(露政府は最近、ウクライナ人の希望者全員にロシア国籍を与えることにした。すごい余裕だ。ウクライナ国民の4-6割が「隠れ」も含めた親露派であり、彼らは露国籍の取得を検討しそうだ)。 (Russia offers fast-track citizenship to all Ukrainians) (Russian companies launch regular sea transportation to India, China) ウクライナでのロシアの勝利はずっと続くので、米英による対露経済制裁もずっと続く。独仏は、対米従属をやめられないのでロシアからの石油ガス輸入を永久にあきらめざるを得ない。ロシアは石油ガスを欧州に売るのをやめて、替わりに中印など非米諸国に売る体制を固めつつある。ロシアは、欧日に石油ガスを出さなくなると欧日が自滅することを知っているので、じわじわと輸出量を減らしていく。ロシアは欧州へのガスをすぐに止めなくても、いずれ止めていく。ロシアからのガスが完全に止まると言った仏蔵相の予測は正しい。米議会はロシアを「テロ支援国家」に指定する準備を開始している。実のところ、テロ支援国家はウクライナの残虐な極右民兵団を支援している米英の方であり、ここでも善悪逆転のすごい濡れ衣・歪曲になっているが、欧州や日本は対米従属なので濡れ衣と知りつつロシアをテロ支援国家として制裁強化せざるを得ない。テロ支援国家に指定されたら、欧日はますますロシアと付き合えなくなる。欧日は、対露制裁を続けるほど経済が自滅していく。自滅が確定的になっても対露制裁をやめられない。 (US Senators Meet With Ukrainian President, Discuss Designating Russia As "State Sponsor Of Terrorism") (US Plans to Supply Ukrainians With Military Equipment in Months, Years Ahead -Official) 欧州は、ロシアからガスを止められたらひどい不況・経済難に陥り、ユーロの価値が下落して、対ドルの為替が史上初めてドルとの等価(1ドル=1ユーロ)を割ってユーロ安になると予測されている(今日明日にも等価を割りそう)。ドル(FRB)は利上げしているがユーロ(ECB)はまだなので、それもドル高ユーロ安の要素だが、ユーロの等価割れはウクライナ戦争で欧州がひどく弱体化したことを象徴している。 (The Fate Of The Euro After Parity Is In The Hands Of Putin) ("Social Peace Is In Great Danger": Germany Is Quietly Shutting Down As Energy Crunch Paralyzes Economy) 欧州はロシアでなく他の産出国から石油ガスを買えばいいじゃんと思うかもしれない。だがウクライナ開戦後、世界の石油ガス産出国の多くが、ロシアのように対米自立的にやれることを知り、それまで米欧の言いなりになっていたのをやめて非米側に転向している。非米側に転向したロシア以外の石油ガス産出国は、自分たちが欧日など米国側に石油ガスを売らなければ、米国側が経済的に自滅して覇権を喪失し、自分たち非米側の優勢が増すことを知っているので、色んな理由をつけて米国側に石油ガスを売らなくなっている。売っても高値をつけるようになっている。欧日は石油ガスの調達先がなくなって自滅が加速し、最終的に欧日も米国の言いなりになるのをやめざるを得なくなる。そこに近づくまでこれから2年ぐらいだろうか。 (West is struggling to compete with Asia and Africa – BRICS forum president to RT) (EU not winning in global battle of narratives on Ukraine, Borrell says) 世界最大級の産油国であるサウジアラビアはかつて対米従属だったが、今や非米諸国に仲間入りし、中国に招待されてBRICSに加盟する道を歩み始めている。BRICSは、これからの非米的な多極型世界体制を代表する国際組織だ。サウジが本当にBRICSに加盟したら、それはサウジが対米従属をやめて中露と組んで多極型世界の主導国のひとつになると決めたこと、世界が多極化したことを意味する。サウジのBRICS加盟の話が出るのと同時に、サウジ王室内で最も親米的な一人だったトルキー・アル・ファイサル元諜報長官は米国の独立記念日である7月4日に、世界が米単独覇権体制をやめて中露が望む多極型体制に転換すべきだと主張する論文を米マスコミ(シンジケート)に発表している。祝辞を言うべき米独立記念日に「米国覇権はもう終わりだよ」という趣旨の論文を発表するとは、とても皮肉的で、サウジの対米自立を象徴している。 (As NATO Grows, China and Russia Seek to Bring Iran, Saudi Arabia Into Fold) (Rethinking the Global Order -- Turki bin Faisal al-Saud) 米バイデン大統領は間もなく7月15日にサウジを訪問し、もっと米国側に石油を売ってくれと頼む。ファイサルの論文やBRICS加盟話は、バイデンの訪問に合わせたものでもあり、サウジが米国を嫌っていることを示唆している。サウジはバイデンに頼まれても米国側に売る石油を増やさない。欧日が対米従属を続けても、米国を頼ってサウジなど産油国に加圧してもらって欧日が輸入できる石油を増やすことができなくなっている。対米従属を続ける限り、欧日は非米側と直接交渉して石油を新たに売ってもらうこともできなくなっている。米国の覇権が低下した結果、欧日の対米従属は無意味、というより国益自滅のマイナスな策になっている。 (Biden Heads to the Mideast: Plans to Abase Himself Before Saudi Royals) 米連銀(FRB)は約束した分の半分の額のQTしかやっておらず、QTをやめてQEを再開していきそうな流れだ。連銀はQE再開によって作られる資金で、株や債券の相場の下落を防止するだけでなく、石油や金地金などコモディティの信用売りをやり、ウクライナ戦争で高騰する傾向のコモディティの相場の上昇抑止をやっている。ロシア敵視が米国側の石油ガス不足を招き、米連銀のQE資金がなかったら、石油は1バレル200ドルに向かって上がるだろう。QE資金により、石油は100ドルぐらいに抑圧されている。しかし、QE資金による信用売りで米国側の石油相場が急落した後の7月5日、サウジアラビアは逆に、アジア向けの石油輸出価格をつり上げた。 (Saudi Arabia Hikes Oil Prices To Asia Once Again) (Oil Dumped By Hedge Funds On Soaring Recession Risk) QE資金による信用売りで不正(金融的)に引き下げられる米国側の「国際」石油相場と、サウジなど非米化した産油国が米国側に売る実際の石油価格との間に格差(プレミアム)が広がっている。以前なら、米政府がサウジなど米傀儡産油諸国に石油価格の引き下げを命じ、金融的に引き下げられた石油相場に合わせた額で実際の石油が売られるように事態が修正されていたが、サウジなど多くの産油国が米国に見切りをつけて非米側に転向し、米国側の言うことを聞かなくなって石油価格を実需に合わせて勝手に決めるようになった結果、米国(米英)が金融的に設定する石油相場と、実際の石油販売価格との乖離がひどくなっている。乖離は今後も続き、米英の市場が出す石油相場が頓珍漢なものになり、信用と権威を失っていく。これも、米英覇権の崩壊と多極化・金資源本位制への移行の表れのひとつだ。 (Explaining The Disconnect Between Physical And Paper Oil Markets) 欧日など米国側の諸国は、ロシア以外の諸国から買う石油ガスを増やせなくなっている。欧日の経済は自滅を免れない。米国(隠れ多極派が牛耳る諜報界)は、欧日を自滅に追い込み、いずれ欧日が対米従属をやめて米覇権の維持に協力しなくなるよう仕向けている。日本はこれまで、対米従属を続けつつ中露とも目立たないように仲良くする影の権力者だった安倍晋三の「米中両属策」を採っていたが、安倍は7月8日に殺されしまった。安倍殺害の黒幕と推察される米諜報界は、巧みな米中両属策を実現していた安倍を殺し、その後の日本に「中露を敵視しろ」と強く加圧することで、日本がやむを得ず対米従属の維持のためにロシアや中国への敵視を強めるように仕向け、ロシアからの石油ガス輸出の停止や、中国との経済関係の断絶によって日本を経済的な自滅に直面させるだろう。 (安倍元首相殺害の深層) とはいえ私の見立てでは、安倍を殺した米諜報界多極派の目的は日本の自滅でない。日本に自滅的な中露敵視をやらせ続けると、日本の上層部はこのまま自滅を加速していくか、それとも対米従属をやめて中露と和解するかの二者択一を迫られる。以前なら安倍晋三の米中両属策があって二者択一が避けられていたが、もう安倍はおらず、今後の米国は日本に二者択一を迫る傾向を増していく。日本が対米従属を選び取っている限り、経済の自滅が加速していく(これは欧州と同じだ)。日本も欧州も、いずれ対米従属の愚鈍さを痛感し、米国の言うことを聞かなくなって中露と和解し、経済を立て直す。安倍を殺した米諜報界多極派の目的は、日本に対米自立を選び取らせ、米国覇権を支えていた日欧同盟諸国を離反させて米国覇権を壊していくことだと考えられる(彼らの目標が多極化であることは2003年のイラク戦争から変わっていない)。5年ぐらい経つと、新たな流れが具現化するのでないか。とりあえず今後1-2年は、日欧ともに自滅が加速する。 (US to Ask India, Japan to Back Plan to Cap Russian Oil Price) 欧州と対照的に、米国自身は、ロシアからの石油ガスの輸入が少ない。だがその分、米国は昨年から輸入や国内の物資の流通網が(諜報界によって)崩壊させられており、それによって経済の破綻が加速している。欧米日ともに、これからの1年間ぐらいで経済の破綻がひどくなる。最近はマスコミも、来年にかけて不況になることが不可避だと言い出している。 (There's Still Over $40BN In Cargo On Container Ships Waiting Offshore) (No more whispers: Recession talk surges in Washington) (This Won't Be A Short Shallow Recession)
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