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目くらましでヒズボラと戦争するイスラエル
2024年6月26日
田中 宇
イスラエルは昨秋から「パレスチナ抹消」を隠れた目的としてガザで戦争し、ガザの街区を徹底破壊して居住不能にし、地下に海水を注入して地盤を崩して再建不能にしている。
エジプト国境沿いのラファに150万人以上のガザ市民を追い詰め、ガザ市民の大半が、すでに(イスラエルが、エジプトの容認のもとに作った抜け穴を経由して?)エジプト側に追い出され、それ以外の人々の多くが殺されたと推測できる。
(ガザ市民の行方)
イスラエルは半年以上、ガザへの食糧など支援物資搬入をほとんど止めている。国連機関などが食糧を入れても大半が略奪されてしまう。150万人の継続居住はできない。全員が殺害されたか餓死したと考えるよりも、多くが報じられないままエジプトに流入したと考えるのが妥当だ。
('Total Lawlessness' & Looting Has Made Gaza Aid Delivery Nearly Impossible: UN Chief)
イスラエルは、ヨルダン川西岸でもパレスチナ人を追い出す軍事作戦・破壊行為を加速している。西岸の動きは、ガザに比べ、欧米マスコミもイスラエルのマスコミも報道の量が少ない。
西岸には、ガザより多い300万人のパレスチナ人が住んでいる(ユダヤ人入植者が80万人)。イスラエルは西岸のパレスチナ人も全員追い出す(か殺す)のが目標だが、その民族浄化(ナクバ)をどのように進めるつもりなのか不明だ。
西岸市民をヨルダンに追い出すことを、ヨルダンが非公式に認めているのかどうか。認めないなら、認めるまでイスラエルが西岸で破壊や殺戮を続ける。パレスチナを消し去り、イスラエルをユダヤ人だけの国にするために、ガザと西岸でものすごい人道犯罪が続けられている。
(Israel Is Dangerously Close to a Three-front War: Gaza, Lebanon and the West Bank)
ガザの破壊は大体終わり、これからはガザの再建や市民の帰還を防ぐために戦争状態が恒久化される。
イスラエルは建国時の中東戦争で域内のアラブ人を全て追い出そうとしたが、覇権国である英米(を仕切るユダヤ人など)が、強いイスラエルの出現を懸念し、アラブ人にパレスチナ国家を作らせる2国式を国連で決議してイスラエルに強要した。
イスラエルは一時期、2国式でも良いかと考えて左派がオスロ合意を結んだが、その後、やっぱりダメだと右派主導で転換した。米英が自滅的に弱体化して覇権が多極化しつつある近年、イスラエルは2国式への拒絶を強め、中東戦争で完遂できなかったアラブ人の完全追い出し・パレスチナ抹消を進めている。
(英ユダヤ3重暗闘としてのパレスチナ)
そしてイスラエルは最近、レバノンのヒズボラとの戦争も開始しようとしている。ガザと西岸は、イスラエルがパレスチナを追い出して完全な自国領にしようとしている地域だが、レバノンは違う。イスラエルはレバノン南部の大規模な併合を考えていない。ヒズボラとの戦争は、パレスチナ人の追い出しと直結しない。
イスラエルがヒズボラと戦争する主な理由は、米国(米欧)からの支持・支援を継続するためだ。パレスチナ抹消から世界の目をそらす目くらまし策でもある。米欧は2国式のパレスチナ国家創設を支持しており、イスラエルによるパレスチナ抹消に賛成できない。だが、ヒズボラとの戦争なら米欧に支持される。
(Israel’s main goal is the extermination of Palestinians - retired NATO colonel)
イスラエルは、パレスチナ抹消の目標を隠し、米欧もテロリストとみなしているハマスが攻撃してきたので退治して人質を奪還するという建前で昨秋ガザ戦争を始めた。
しかしガザ戦争が長引くほど、イスラエルがハマスを退治する気がなく、二国式と正反対のパレスチナ抹消がイスラエルの真の目的であることが見え隠れするようになり、米欧からの支持支援を受けにくくなってきた。
米国からの兵器供給が止まるとイスラエルは弱くなる。それを防ぐため、イスラエルはヒズボラとの開戦へと進んでいる。
(Why Israel is Unprepared for War With Hezbollah)
ヒズボラは、米欧が敵視するイランの傘下にある(レバノン国軍よりずっと強い)民兵団だ。米国は、ヒズボラを勝たせるわけにいかない。米政府は、ヒズボラとの戦争が始まったら、イスラエルへの軍事支援を渋るのをやめて無条件で全面支援すると表明してきた。イスラエルは、ヒズボラと戦争している限り、米欧の支持・支援を得られる。
(Israel Says It's On "Brink" Of Wider War With Hezbollah)
ヒズボラは、ハマスよりもかなり強い。イスラエルは、自分からヒズボラとの戦争に突入しているが、進め方を間違えると消耗戦で弱体化して負けかねない。イスラエルは、レバノン、ガザ、西岸の3正面の戦争を抱えることになる。大丈夫なのか。パレスチナ支持のオルトメディアは、ヒズボラがイスラエルを滅ぼすシナリオを描いている。
(Hizbullah Ready To Defeat Israel)
(Tipping point: Israel’s military peak has come and gone)
私は、イスラエル滅亡でなく、決着がつかない(意図的につけない)まま、レバノン南部の戦争が長期化すると予測している。
イスラエルは、ハマスともヒズボラとも長い間、関係を微調整しつつ、戦争と停戦との間を行ったり来たりしてきた。イスラエルは今回、米国に軍事支援を継続させるため、ヒズボラとの戦争の火力を強めている。
火力調整が失敗してイスラエルが亡国する可能性もゼロではないが、ヒズボラの親分であるイランとイスラエルは、今年4月の攻撃の応酬を経て「冷たい和平」の状態を確立している。イランとイスラエルが関係の微調整に成功しているのだから、イランの傘下にいるヒズボラも、イスラエルとの関係の微調整をうまくやり続けると考えられる。
(イランとイスラエルの冷たい和平)
(Hezbollah, Israel not seeking full-blown war but risk of miscalculation at peak)
いま展開されている戦争で、イスラエルはパレスチナ抹消という80年間の懸案事項を実現する。ハマスは、パレスチナから追い出されるが、エジプトとヨルダンで台頭して政権をとっていく。パレスチナ人は、エジプト人やヨルダン人として生活を立て直す。
エジプト軍内では、親イスラエルなシシ政権への不満が強まっている。シシ政権は弱体化している。ヨルダンの方は、まだ表面化していない。
(Anger & Signs Of Rebellion Among Egyptian Troops As Sisi Remains Silent On Gaza)
ヒズボラやイランは、イスラエルと火力調整付きの長期戦によって何を得るのか??。イスラエルと互角に戦うことによる中東における権威の上昇、でないか。イラク戦争後、米国に制裁されて潰されかけていたイランは、その後20年かけて大幅に強くなった。負けているのは米国の方だ。
イランは、イスラエルと勢力が均衡するところまで強くなった。シリアもイランの傘下に入った。イランの台頭は今後も続く。
(Netanyahu Ready To Wind Down Gaza Operations To Battle Hezbollah In North)
ネタニヤフ内閣は、閣内で離反者が相次いでいる。戦争内閣が持続できなくなり解散した。イスラエル軍も「ハマスを潰すと言っていネタニヤフは、できないことをできると言っている」と、報道官が軍を代表して公式にネタニヤフを非難した。首相と軍が露骨に喧嘩しているのに、うまく戦争を継続できるのか??。
(IDF Spokesman Says Israel Cannot Defeat Hamas, So What Are They Doing?)
この状況も、実態よりも深刻に見せるための演技や脚色が入っている気がする。軍と首相が対立しても、ふつうは表面化しない。表面化は意図的なものだ。マスコミへのリークでなく、軍の報道官が首相を正式に非難する。これはすごい。演技に決まっている。
ハマスを潰す気がないのは、ネタニヤフも軍も同じだ。それなのに、対立を演じている。イスラエルは、無茶な3正面戦争を展開し、政府内の対立もひどく大混乱で、今にも負けそうだが、おそらく今後ずっと混乱したまま3正面戦争が続く。
イスラエルは、前からそんな状態だった。ネタニヤフは政権崩壊寸前なはずなのに、米国にもっと武器をよこせと横柄に要求している。
(White House Fuming, Cancels Meeting With Israelis, After Netanyahu's Public Scolding)
(Netanyahu Accuses Security Minister Ben-Gvir of Leaking State Secrets, Government in Crisis)
ネタニヤフは、失脚寸前の状態で、ずっと政権を維持してきた。今回は、ICCで人道犯罪者にまで仕立てられた。これらは意図的な感じがする。
なぜイスラエルは、内紛が延々と続く設定になっているのか??。政府より一段高いところにいる黒幕たち(米諜報界?)が、イスラエルを操作するために作った構造なのか。世界最深奥のユダヤ人の業界だけに、確たることはわからない。イスラエルは、今後も内紛が延々と続けつつ、ヒズボラやハマスとの戦争を長期化し、その中でパレスチナの抹消を進めていくのでないか。
(Israel's Gantz Quits Coalition Government, Charges Netanyahu With Making "Total Victory Impossible")
(The BRICS weigh in on Palestine)
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