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トランプがウクライナ戦争を終わらせる?
2024年3月13日
田中 宇
米国の大統領選挙は、共和党の予備選挙でトランプ以外の候補が全員取り下げ、トランプの党内勝利が確定した。11月の本選はトランプ対バイデンの戦いになる。バイデンは不人気がどんどん増している。
ふつうに考えれば、トランプが勝って返り咲く。この四半世紀、米大統領選はずっと接戦だったが、今年は得票総数でトランプがバイデンより10-20%ぐらい多くなるのでないか。民主党が不正をしなければ、だが。
(Biden's Disapproval Rating Soars To 59%, Trump's Lead Biggest Yet)
(10% Of Biden 2020 Voters Say They're Switching To Trump)
民主党が与党である諸州の裁判所が、トランプの出馬を禁止する判決を相次いで出した(民主党側が「反乱」だと誇張する、2021年1月6日の共和党支持者らによる連邦議事堂占拠事件 J6 の首謀者がトランプであると決めつけて反乱罪を適用、など)。だが、連邦最高裁が上級審でそれらの判決をくつがえし、トランプの出馬を合法化した。
(House Dems Implode Over Supreme Court Decision; Raskin Crafting Legislation To Bar Trump From Ballot)
(Jan. 6 Committee Deleted Over 100 Encrypted Files Days Before GOP Took Majority)
民主党は、選挙でトランプに勝てないと予測しているので、選挙以外の(不正)手段でトランプを落とそうとしているが、成功していない。むしろ、これまで中立だった有権者が、裁判まで歪曲してトランプを阻止する民主党を憎み始め、トランプ支持になる流れを作ってしまっている。
(Bill Maher Warns Democrats: Trump’s Trials Will Make Him Look like a ‘Revolutionary Leader’)
(In Unanimous Decision, Supreme Court Rules Trump To Remain On Presidential Ballots)
民主党の重鎮やマスコミ権威筋は「トランプの再就任は米国と民主主義の終わりだから、どんな(極端な)手段を使っても阻止せねばならない」という趣旨のことを言い続けている。上記の歪曲的な裁判は、この理論で正当化されている。
(Trump ‘dangerous’ for women - Jill Biden)
("Media Class Will Ignore" New Poll That Shows Black Voter Support For Trump Rising)
この理論で正当化されている民主党の不正行為はほかにもある。2016年のトランプ当選と同時に出てきた、トランプにロシアのスパイの濡れ衣を着せる「ロシアゲート」もそうだ。ロシアゲートは無根拠なでっち上げだったことが確定している。
根拠になった「スティール報告書」は、無根拠なうわさを羅列した陰謀論集で、ヒラリー・クリントン陣営(民主党本部)が英諜報界に依頼して有償で作らせたものとわかった。報告書は、2016年末にネットに漏洩して公開された時点で、低級で無根拠だと一読してわかるものだったが、その後ずっとトランプへの攻撃材料に使われた(権威筋が超愚策に延々と拘泥する点で、温暖化やコロナや露敵視と同じだ)。
(ロシアゲートとともに終わる軍産複合体)
(Watch: Pelosi Goes On Unhinged Rant About Trump Being 'Blackmailed' By Putin)
トランプを落とす極端な(不正)手段の最たるものは、2020年大統領選挙や2022年中間選挙で、民主党側が、コロナ対策として広く導入された郵送投票制度で簡単に票を捏造できることを利用して、バイデンや民主党議員の得票を大幅に水増しして勝たせた、巨大な選挙不正だろう。
(Mail-In Ballot Fraud Study Finds Trump 'Almost Certainly' Won In 2020)
(トランプの返り咲き)
今では共和党支持者の大半が、2つの選挙でトランプや共和党議員が不正に落選させられたと思っている。全米のいくつもの激戦区で、選挙管理態勢が意図的にずさんにされ、事後に選挙の公正さの確認ができないようにした上で、優勢だった共和党側が負けている。
共和党の上層部も最近まで、トランプを敵視する古参の軍産系のエリート層(ブッシュ家が象徴的)が強く、彼らはトランプとその系列の共和党議員の落選を望み、民主党による選挙不正を看過・黙認ないし協力した。
(The Republican Plot Against Donald Trump)
("Nothing Will Make Sense To You Unless You Accept That The 2020 Election Was Stolen...")
トランプ派は、草の根の支持者が急増したが、最近まで政界中枢での力が弱く、選挙制度の(不正)操作の方法を熟知する古参の共和党と民主党のエリート勢力にやられっ放しだった。
しかし、トランプ派は共和党内を席巻しつつある。最近のウクライナ支援法案への反応を見ても、共和党では、古参の軍産エリート系の議員たち(高齢者が多い)は追加支援に賛成なのに対し、最近議員になったトランプ派の議員たち(若手が多い)は支援に反対している。
(Foreign aid vote shows stark generational divide in GOP)
トランプ派は米政界でしだいに強くなり、選挙不正を防ぐ技能も増している。だが、不正をやる超党派エリート権威筋は郵送投票制度をどんどん拡大しており、バイデンの強烈な不人気を乗り越えて、今秋もまたトランプを不正に落選させようとしている。超不人気なのにバイデンが不正に再選されてしまう可能性がまだ残っている。
(The Establishment Still Doesn't Get Trump)
(Rise In Mail-In-Voting: A Convenience Or Pathway To Fraud?)
バイデンが続投すると、米国が欧州を道連れにして、ウクライナ戦争に負け続けてもロシア敵視をやめない今の流れが続く。米国側と非米側が断絶したまま、非米側が米国やドルに頼らない独自の経済システムを構築していく。プーチンは、バイデンが勝った方が良い、トランプが勝つと予測不能な事態になりうると言っている。
(I want Biden to win - Putin)
▼負け続ける長期戦を強いるバイデンより、戦争とNATOの両方を消すトランプの方がまし?
選挙不正を乗り越えてトランプが勝つと、どうなるか。トランプは、ウクライナを支援しないと言っている。就任直後にゼレンスキーとプーチンの停戦和解交渉を仲裁し、すぐに停戦を実現するとも言っている。NATOで軍事費をGDPの2%以上計上するとの約束を守れていない国には、有事になっても約束された米国の軍事支援をしないとも言っている。
(NATO should prepare for US to leave - reports)
トランプは、もし当選したらこれらの公約を守るのかどうか。米政界や諜報界のトランプ敵視派は、これらの公約の具現化を防げるのか。トランプは、公約を守れる。妨害は多分できない。
欧州では、トランプになったら米国がNATOをやめていくとの予測が強まっている。欧州諸国は、米国に頼らずにウクライナでロシアと戦争し続けねばならないので、欧州独自の軍事産業を急いで育てる必要があると議論している。急いで育てても、効果が出るまでに時間がかかる。全く間に合わない。
(EU Pushing Arms Industry To 'War Economy Mode' While Seeking To Trump-Proof Itself)
(Time Is Running Out in Ukraine)
欧州が米国に頼らずにウクライナで戦争し続けるという話から、フランスのマクロン大統領の観測気球的な、欧州諸国の軍隊をウクライナに派兵する可能性があるという発言になった。欧州諸国のほとんどは派兵に反対し、フランスとエストニアとポーランドだけが派兵に前向きな表明をした。
この3カ国では全く足りない。欧州は武器弾薬の余力もない。トランプが当選して軍事支援をやめたら、欧州はウクライナ戦争を続けられない。取り残された欧州は、ウクライナを巻き込むか棄てるかして、ロシアと和解するしかなくなる。
(France gathering alliance of countries capable to send troops to Ukraine)
(EU must develop ‘battle-winning’ weapons - Von der Leyen)
トランプは当選したら、米国のNATO撤退と、ウクライナ戦争の停戦和解を並行して開始しそうだ。欧州諸国、とくにドイツや北欧は、米国がNATOを率いてロシアに必勝すると言いながらウクライナを戦争に陥れ、勝っていると言いながら大負けしていることに大変迷惑し、困窮している。
ドイツは開戦前、ロシアと仲が良くてガスなど資源類を大量輸入して全面依存してきたのに、開戦後はロシア敵視を強要され、独経済を支えてきたロシアからの資源類の輸入も止まり、露独をつなぐノルドストリームのガスパイプラインも米国に壊されてしまった。
ドイツなど欧州の多くは、もうロシアに勝たなくて良いから早く和解して戦争をやめたいと思っている。そうしないと経済がどんどん破綻してしまう。だが、米国がバイデン続投で永久に戦うぞと言っている限り、欧州の方から和解停戦を切り出せない。
(France and Poland don’t speak for NATO, says Italy)
トランプが返り咲くと、これらの全てが大転換しうる。トランプは、ゼレンスキーとプーチンを仲裁して停戦させる。
ゼレンスキーには、対露和解停戦しても貴殿が政権から追い出されたり殺されたりしないよう守ってあげると約束する。ゼレンスキーはもう勝てないと昨年からわかっていたので、トランプが自分の政治生命を守ってくれるなら対露和解に賛成する。バイデン続投だと、ゼレンスキーを追放してもっと有能な戦略家と交代させて戦争継続しようという話になりかねない。
(Peaceful times are over - EU state’s PM)
トランプはプーチンに対して、米国がNATOから(事実上の)撤退してNATOを無力化し、欧州を反露から親露に戻るよう誘導するから、俺の仲裁を受けてゼレンスキーと和解停戦してくれと提案する。
プーチンは、すでに述べたように、ウクライナで米欧と決定的に対立する現状が続く方が、世界を非米化できるので好都合だと思っている。だが、NATOを潰して欧州を親露に戻してやるからウクライナ戦争を終わらせてくれとトランプから言われると、それも良いなと思うに違いない。
(まだまだ続くウクライナ戦争)
欧州はいったん自分たちの方からロシア敵視してしまった。これを親露に戻すには、以前のように欧州がロシア(や非米側)を見下したままでは許されない。すでに非米側に対する欧州の利権は大幅に縮小している。欧州は、ロシアや非米側に対して、以前より劣勢な状態で、対露和解していかざるを得ない。
ロシアや非米側から見て、今後の西欧は、かつての東欧ぐらいの地位に下がる。以前は大威張りだった西欧をずり下げたのはプーチンの功績になる。非米側でのプーチンとロシアの権威や信用が上がり、資源類の輸出交渉でもロシアは世界的に優勢になる。これらのおまけがついているので、プーチンはトランプの和解提案に乗る。
("Madness!": West Is Conducting "All-Out Militarization" To Defeat Russia, Serbian President Warns)
最近、ハンガリーのオルバン首相が訪米してトランプに会った。なぜわざわざ来たのか。オルバンはEUに属しつつ、親露派でプーチンとも親しく、欧米がウクライナを支援して戦争を長期化していることに反対している国家指導者だ。ハンガリーはウクライナとも国境を接している。
オルバンなら、トランプの意を受けて、プーチンやゼレンスキーや独仏など西欧首脳たちと、直接かつ秘密裏にやり取りできる。もしかするとオルバンは、これからトランプが当選して大統領に返り咲いていく中で、トランプが画策するウクライナ停戦和解策を具現化するための連絡役をかってでたのかもしれない。
すでにトランプが動き出しているのなら、最近欧州諸国が「ウクライナで欧米の敗色が濃厚だ」「おまけにトランプが勝ちそうだ」と騒ぎ出しているのも理解できる。
(Trump Meets With Hungarian Leader Viktor Orban, Discussions Focus On Border Security)
(Trump’s return would be better for the world - NATO state)
欧州諸国やEUの上層部は、米国がトランプになってNATOをやめていくことに猛反対だ。だが、米国がNATOをやめる代わりにウクライナが停戦和解して欧露の緊張が緩和され、欧州がロシアからの資源輸入を再開できるようになるトランプ案と、米国がNATOを率いて負け続けるウクライナ戦争が長期化し、欧露の戦争がエストニアやモルドバ、ポーランドに拡大していくバイデン案のどちらが良いかと問われたら、欧州はどう答えるか。
欧州が米国に洗脳されてウクライナ勝利を信じ込んでいた以前ならバイデン案だ。だが今後のバイデン案はウクライナ敗北と、対露戦線の拡大・西欧接近になる。米国はNATOを通じて欧州に、負ける戦争を強要し続ける。ならば、NATOとウクライナ戦争の両方がいっぺんになくなるトランプ案の方がましだ。
ドイツなど欧州のほとんどは、そう考えているはずだ。今はまだバイデン政権下なので、欧州エリートは表向き「必勝」を叫んでいるが、本音はすでに違う。早く戦争を終わらせたい。トランプはそれを知っている。
(We are witnessing the bittersweet birth of a new Russia)
トランプがウクライナ戦争を終わらせると、米国側と非米側の対立、世界の非米化や多極化が緩和され、米覇権体制が蘇生してしまうのでないか。トランプは覇権放棄屋・隠れ多極主義者でなかったのか。
その点についてトランプは、中国からの輸入品に60%の制裁関税をかける政策を推進している。軍事的にロシアと戦争する非米化策を棄てる替わりに、経済的に中国と断絶する非米化策を強化し、世界の非米化・多極化を進め続ける。
トランプは先日、電気自動車メーカー、テスラを経営するイーロン・マスクと会った。その時にトランプは、中国からの電気自動車の輸入に60%の制裁関税をかけて、米市場でテスラを有利にしてやると持ちかけている。
(Trump Meets Musk. The Stakes Are All About China.)
(The planning for potential Trump win, new China trade war and tariffs, has begun in the global supply chain)
トランプが返り咲いたらどんな政策を展開するかについては、さらなる分析が必要だ。ヘリテイジ財団のプロジェクト2025とか。中国が最大の脅威だと喧伝し、中国と戦うために欧州と中東からの米軍撤退が必要だと言いつつ、対中政策は経済主導だとか。今後さらに考える。
(トランプ主義を機関化しリベラルエリート支配と戦う米共和党)
(US Proxies Fear 'Afghanistan-Style' Withdrawal From Syria)
(Would Trump 2.0 be a hawk or a dove?)
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