２つの世界秩序

2月7日、国連のグテレス事務総長が演説で「今の世界は冷戦時代よりもひどく分裂しており、混沌の時代になっている」と述べた。分裂の象徴は、覇権国の米国側と、米覇権に従わなくなった露中など非米側が安保理で対立し続けていることだ。とくに、米国の拒否権発動によってガザ戦争を停戦できないことが、危険で最悪の分裂だとグテレスは表明した。
（UN chief warns of ‘age of chaos’ as Security Council stays divided on Gaza）

確かに、ウクライナ開戦以来、世界は米国側と非米側に深く分裂しており、多分この状態は今後何年も続く。だがこの分裂は、人類の大半である非米側にとって悪いものでない。
非米側は、米国側（米欧）から支配・ピンはねされてきた状態から脱し、ピンはねされない非米側独自の世界経済を構築し始めている。この非米的な新秩序は、非米側の人々の生活を良くしていく。
米国側とくに米欧は経済政治の両面で自滅していくが、いずれ米覇権が失われた後、米欧は世界を支配しない形である程度復活していく。日本や韓国は米国側だが、うまくいけば「いないふり」をしつつ巻きぞえの自滅を免れ、非米型の世界になじんでいく。

グテレスは、安保理が分裂してガザ停戦案を可決できず、ガザ市民の虐殺を止められないことを嘆いている。だが実のところ、これは分裂の結果でない。
前回記事に書いたように、米国だけでなく露中アラブイランなど非米側も、イスラエルによる虐殺を本気で止めようとしていない。イスラエルの行動が米覇権を自滅させてくれるからだろう。
（イスラエルでなく米覇権を潰すガザ戦争）

米国がイスラエルの傀儡になって停戦案を拒否権発動で潰してくれるので、露中やイスラム諸国は安心して大声で「停戦が必要なのに米国のせいで実現できない」と米欧非難を叫ぶ演技を続けられる。
イスラエルは戦争を絶対やめないと言っており、停戦は困難だ。ガザ市民の生命を救いたければ、停戦よりもラファの検問所を開けてエジプトに出してやるのが早道だ。
だが、偉い人々は誰もそんなことを言わない。眉をひそめ、停戦が必要なのに、世界は分裂しているとか、米国が悪いとか、嘆く演技をするだけだ。混沌は、権威筋の頓珍漢によって起きている。
（イスラエルの虐殺戦略）

世界が米国側と非米側に分裂（分立）した状態は、多分これから何年も続く。なぜって、非米側が米国に頼らない世界システムを作って安定させるまで、何年もかかるからだ。途中で分裂を終わらせたら、非米側の中で米覇権への依存体制に戻るところが出てきて、非米システムが完成しない。
米覇権を自滅させ、世界を非米化している原動力は、非米側の意志でなく、米国側の隠れ多極主義的な戦略にある。
（Here’s why Russia and the US are set for a long confrontation）

米国の上層部（表の政府でなく裏の諜報界）に、おそらく世界経済の長期的な安定成長を実現するため、金融バブルしか産まなくなった米覇権体制でなく、貧しい人々が豊かになっていく実体経済の繁栄を実現できる非米・多極型の世界体制への転換を望む隠れ多極主義者がいて、彼らが世界の分裂と米欧の自滅、非米側の発展を、ウクライナ戦争などによって誘発してきた。
この私の隠れ多極主義の仮説は2005年ぐらいからのもので、20年近く私の中の検証を経てきた。多分現実であり、無根拠な妄想ではない。
（BRICS and Global South Challenge ‘Globalist Elites’ With Multipolar World - Analyst）

「米国側だって経済発展している。非米側の発展に頼る必要などない」と言って私の分析を否定する人は、金融バブルと実体経済成長との区別がついていない。米国側の成長の多くは、実体経済の何倍にも膨らんだ金融バブルの膨張であり、膨張は永続できない。対照的に、貧しい非米側が成長する過程は、これから百年ぐらい続けられる。
（China's Coal Production Hit A New Record High In 2023）

70億人ぐらいいる非米側の人々が豊かになっていくと、エネルギー消費の総量がものすごいものになり、環境破壊がひどくなりすぎて地球が破綻する、などと米欧日のリベラル派がしたり顔で言いそうだ。
そんなことはない。70億人が豊かになってもうまく回る経済システムを作ることも成長の一つだ。温暖化人為説は無根拠なウソだから、化石燃料の効率的な利用が良い。米欧のマスコミ権威筋を席巻するリベラル派（人権派）は実のところ、非米側が豊かになるのを阻止する人権侵害者である。
（"The Western World Is In Danger": Milei Warns Of DEI Doom, As Dimon Touts Trump On 'Critical Issues'）

昨年8月の南アBRICSサミット後ぐらいまで、非米側の世界システムをどんなものにするか、BRICS内の議論が表出していたが、その後は出てこなくなっている。今年のBRICS議長国は、非米側システムの案について能弁なロシアなので、春からまた出てくるのか。それともロシアももう議論を公表せず、中共のような秘密主義に転換するのか。
（多極型世界システムを考案するロシア）

非米側の世界システム構築や発展の度合いについては米国側マスコミも報じず、隠れ多極派の影響なのか無視する傾向だ（悪い話だけ誇張したがる）。非米側の成功や経済発展は、今後も伏せられたままになる。
米国側は、自分らの自滅や覇権崩壊も隠して報道・指摘させない傾向なので、米覇権崩壊と非米化・多極化は隠然と展開していく。
（China Poised To Take Further Control Of Iraq's Key Southern Oil Assets）

ウクライナとガザの戦争はしばらく続く。ウクライナ戦争の構図が続く限り、米国側と非米側が決定的に分立し続ける。ロシアは非米世界システムの案を出し続け、分立が長引くほど、時間をかけて良好な非米システムが作られる。
分立が長引くほど、資源類を非米側に取られた米国側の衰退がひどくなる。米国側ではWEF（ダボス会議）など隠れ多極派が、大リセットなど全体主義構造を強化し、民衆がエリートを敵視する分裂傾向が増し、自滅が加速する。
（EU living standards depend on Russia – deputy PM）

欧州で、政府の温暖化対策など大リセット策でひどい目にあっている農民たちが決起し始めているのが一つの象徴だ。米国側と非米側の分裂よりも、米国側内部のエリートと民衆との分裂の方がひどくなる。欧州は、馬鹿げた温暖化対策で自滅する傾向が続く。
今秋の米大統領選でトランプが勝つと、米国が欧州を切り捨てる傾向にもなる。
（Trump won’t change anything - Lavrov）

ウクライナのゼレンスキーは、負けたのになかなか辞めない。米欧と非米側との対立を長引かせるため、ゼレンスキーが失脚せずに醜悪な独裁体制を敷くシナリオが用意されているのでないか。
最近、ロシアと親しいトルコやハンガリーが、これまで反対してきたスウェーデンのNATO加盟に賛成し始めた。これはもしかすると、敗色と厭戦機運が広がってウクライナ戦争の構図を放棄しかねない欧州をテコ入れして対立構造を長期化させるためのプーチンの策略かもしれない。
（Turkey Approves Sweden's Accession To NATO After 20 Month Delay）

ガザ戦争は中東人の反米感情を扇動しており、地元政府が駐留米軍に撤退を求める動きが、イラクやシリアで強まっている。背後にはイランがいる。
紅海に面したイエメンでは、地元のフーシ派が紅海を航行する米欧の貨物船やタンカーを攻撃して通行止めにし、米欧の海運業の運賃を高騰させ、インフレを悪化させている。こちらの背後もイランだ。
（Red Sea Blockage Leads To "Out Of Control" Shipping Rates; Charters Hits $100,000 Per Day）

この紅海危機も長期化し、インフレがおさまらないので米連銀が利下げできず、ドル崩壊に拍車がかかる。フーシ派は、非米側の船には航行を許している。紅海危機は、米国側の経済だけ打撃する。
ガザ戦争は、米国の中東覇権を破壊する効果を持っている。
（Houthis Declare Safe Passage For All Russian, Chinese Ships In Red Sea）

国連安保理の機能不全は今後も続く。無数の途上諸国が発言力を持つ国連は、非米側にとって重要な国際機関だ。それなのに機能不全を長期化させるのは不可解だ。
これは単なる機能不全でなく、いずれ米覇権がもっと弱まったら、機能不全を脱却する改革として、安保理の再編など非米側に有利な転換が行われるのでないか。
（Here’s why the signs of a new world order are becoming increasingly obvious）

今の常任理事国（P5）は5分の3（米英仏）が米国側だ。人類の15%しかいない米国側が、世界安保の意思決定の6割を占めているのは不当だ。14億人いる印度や、これから30億人に増えるアフリカ、中東や中南米や東南アジアをP5に入れるべきだろう。
だが、米覇権の崩壊後まで待たないと適切な安保理改革をやれない。それまでの間、非米側はBRICSで意思決定していく。
将来的にBRICSは、非米側主導になる国連と統合するかもしれない。世界政府という言葉は実のところ非米側のためにある。
（UN Security Council currently paralyzed - African Deputy Prime Minister）

米国側の支配が終わり、非米側が世界の主導役になると、世界は今よりかなり安定する。非米化すると世界は混乱すると日本のマスコミも書いているが、軍産傀儡な彼らの妄想を軽信してはいけない。経済新聞とるのやめた方が良い。
（Global South on the rise but likely to make world order unpredictable）