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言論統制強まる欧米

2024年1月21日   田中 宇

EUの大統領にあたる欧州委員長のフォンデアライエンが、先日行われたダボス会議の講演で「今後の2年間の最大の懸念事項は、戦争でも気候変動でもなく、ニセ情報(disinformation and misinformation)についてだ」と述べた。
私がこの発言に関して分析が必要だと思った点は、ウクライナ戦争や地球温暖化問題よりも「ニセ情報の取り締まり」が重要だと言っていることと、「今年」とか「いま」でなく「今後2年間」と言っていることだ。
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近年のニセ情報をめぐる話は、正邪や善悪が逆転していて説明が複雑になる。EU政府が「ニセ情報」と呼んできたものの多くは、実のところニセ情報でなく、それと正反対の「正しい情報」だ。真のニセ情報は、EU政府や欧米のエスタブ権威筋マスコミ、ネット大企業・左翼リベラルなどが「正しい情報」として発表・喧伝してきた情報の方だ。
オルタナティブメディアや、保守派の政治運動家たちの中には、権威筋側の発表・喧伝がウソや歪曲であると正しく指摘する勢力がいて、それはしだいに増えている。
欧米の政府やエスタブ権威筋は、自分たちのウソ・ニセ情報発信がバレないよう、オルタメディアや保守派が発した正しい情報に「ニセ情報」のレッテルを貼り、SNS登録抹消や刑事罰などの取り締まりや非難・懲罰を強めている。欧米のエリートは「ニセ情報」の濡れ衣で言論統制し、自分たちの支配を延命させている。
The Establishment Is Unmasking Itself

正邪反転のニセ情報による言論統制は、地球温暖化問題、ウクライナ戦争(ロシア敵視)、新型コロナ関連(ワクチンや都市閉鎖、マスク義務など)、欧米の違法移民受け入れの是非、欧米の左派リベラルと保守派の政治対立、その一環としての今秋の米大統領選挙(民主党側が再び選挙不正をやる可能性)、中国敵視や多極化無視、ガザ戦争(イスラエルとハマスのどちらが悪いか)、DEI(米国のジェンダーや人種をめぐる差別問題解消のふりをした政争、共和党支持者への弾圧)などで行われている。
Republicans Score Major Win Against DEI In A 'Purple' State

これらの分野では往々にして、欧米のエスタブ権威筋が「ニセ情報」と呼んで非難懲罰している情報の方が実は正しくて、政府や権威筋が「正しい情報」として発している情報の方が間違っていてニセである。
人々に間違ったことを信じさせ、信じない人を懲罰するのは全体主義や共産主義の手法だ。正邪反転のニセ情報は、前回のNZの記事で紹介したインチキ全体主義の策でもある。反転ニセ情報の言論統制(情報全体主義)が席巻する分野はしだいに拡大している。
エスタブ自滅策全体主義の実験場NZ

このほか、リーマン危機後の金融システムが崩壊したままで、米連銀がQEなどの資金を注入して金融が蘇生したかのように見せている件や、インフレと金利に関する話も、米国側の当局と金融界やマスコミが、統計や状況解説を歪曲するニセ情報を流布して崩壊を隠蔽している。だが金融の分野では、歪曲やニセ情報を指摘する勢力が少ない。
米国債の金利上昇

多くの人は「政府・権威筋やネット大企業が間違ったことを言うはずがない」と思い込み、右派やオルタの方が間違っており、処罰されて当然だと軽信してきた。だが最近、ウクライナの敗北と腐敗、コロナワクチンの粗悪さ、温暖化人為説の無根拠さ、自然エネルギー依存策の破綻とインフレなどが露呈し、これらの分野の政策の失敗が確定し始めた。しだいに多くの人が、エスタブ権威筋に騙されてきたことに気づいている。
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エスタブ権威筋は政治的に、米民主党、独仏などの既存の二大政党、フォンデアライエンのEU当局など、リベラルと中道派のエリート諸政党に依拠している(米共和党も以前はエリート政党だったがトランプに乗っ取られた)。
エリート諸政党は、温暖化やコロナやウクライナや違法移民や経済インフレなどに関する政策が失敗し、人々の生活や社会の安定を破壊している。人々はエリートに失望して見切りをつけ、トランプ共和党やハンガリーのオルバン、独AfD、仏ルペンなど、エリート支配を批判する右派勢力に投票する傾向を強めた。
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トランプは今秋の大統領選で、バイデンより大幅に優勢だ。欧州ではAfDやルペンへの支持が増えている。エスタブ権威筋は、トランプやAfDやルペンなどの右派に「独裁者」「極右」など間違ったレッテルを中傷的に貼り、右派を支持する人々、エリート支配に反対する言論をニセ情報と決めつけて抹消・処罰し始めている。
だが、反対派の主張にニセ情報の濡れ衣を着せて弾圧するインチキ全体主義の策略自体が、すでに人々の知るところとなっている。エリートたちが自分たちの支配を延命するために、反対する言論を弾圧するほど、さらに多くの人がエリート支配に反対するようになり、トランプやAfDやルペンなど右派への支持が増す。
"The Western World Is In Danger": Milei Warns Of DEI Doom, As Dimon Touts Trump On 'Critical Issues'

米国では、今年11月の大統領選挙で不正がなければトランプが勝つ。だがトランプが勝って来年1月に大統領に返り咲くと、欧州との同盟関係の解消に動く。これは欧州でエリート支配の維持をさらに困難にする。独仏の政権が反エリートの右派に乗っ取られ、EUは内部がエリートと反エリートに分裂して意思決定できなくなり、崩壊感が増す。
欧州のエリートを率いるEUのフォンデアライエンとしては、欧州のエリート支配の崩壊を防いで延命させねばならない。支配延命策として、これからの2年間、反転ニセ情報策を使った言論統制を強化しますよ、とフォンデアライエンは講演で表明したことになる。

今秋の米大統領選でトランプが勝つと、米国と欧州の両方でエスタブ権威筋の支配が崩れる。民主党のバイデンは、全く無能で不人気なのに、再選出馬に固執している。オバマとか、民主党の重鎮たちがバイデンを説得しても全く聞き入れない。
このまま普通に公正な選挙をしたら、トランプの完勝になる。米民主党などエスタブ権威筋は、普通に公正な選挙をやるわけにいかない。自分たちの支配を維持するため、米選挙で思い切り不正をやり、トランプを不正に落選させ、バイデンを不正に続投させようとする。
Watch: "You Are The Problem" - Conservative Speaker Slams Davos Globalists To Their Faces

米民主党はすでに2020年の大統領選と、2022年の中間選挙で、コロナ対策を口実に、不正の温床である郵送投票の制度を大胆に取り入れて、選挙不正をやっている。同じように策が今秋も採られそうだ。
私はこれまで、不正によって歪曲できる得票率には限度があり、トランプが大幅に優勢なので、不正できる限界を超えており、民主党側が不正をやってもトランプが勝ってしまうのでないかと考えてきた。だが、トランプを勝たせたら米欧全体のエスタブ支配が崩れる。延命のため、とんでもない不正をやってバイデンを勝たせるかもしれないと、私は考え始めている。
トランプ復権と多極化

フォンデアライエンなど欧州のエスタブは、米国のエスタブがとんでもない不正をやってトランプ再選を阻止することに大賛成だ。自分たちの延命には、それしかないからだ。
とんでもない不正をやると隠蔽しきれなくなり、これまで騙されてきた世界中の多くの人々が、米国の選挙不正に気づいてしまう。人々に感づかれると、米国の信用と覇権の失墜に拍車がかかる。しかし、大胆な不正をやらなければトランプが返り咲いてエスタブ支配が崩れ、米国の覇権が崩壊する。どちらにしても覇権崩壊だ。

ならば、欧米のエスタブが一丸となって米国の選挙不正を指摘する人々にニセ情報の濡れ衣をかけて徹底弾圧し、世界の人々が感づかないようにする策を最大限やりつつ、米選挙で大胆な不正をやるしかない。だから、これからはニセ情報の問題が何より大事だ、という話になる。
不正をやってもトランプが勝ってしまうかもしれない。その場合、欧米のエスタブは来年、大統領に返り咲いたトランプと共和党にニセ情報発信者の濡れ衣をかけ、トランプの政治力を最大限に削ぐ策を採る。その策をやる時間も含めて「2年間」なのでないか。

最近、プーチン露大統領が、自国の選挙の公正さを言う際に「米国では2020年の大統領選で、コロナ対策を口実に郵送投票を使った選挙不正をやってトランプを負けさせた。ロシアの選挙は郵送でなく直接投票なので不正がない」と述べている。
プーチンは、以前より明確に米国の選挙不正を指摘し始めた感じだ。プーチンは、今秋の米大統領選でさらに大胆な不正が行われ、世界の人々にバレていくことを予測して、米国の選挙不正を指摘し始めた可能性がある。
プーチンも、欧米エスタブによる反転ニセ情報策の標的にされている。米国側の人々の多くが、プーチンの言うことなんか信用できないという考えに洗脳されている。軽信者には何を言ってもムダ(むしろ逆効果)、ピンときてる人にだけビンビン響く状況になっている。多くの軽信者が騙しに気づいてピンとくるとしたら、それは今後の2年間ぐらいであり、だから今後の2年間が大事だともいえる。
US elections falsified - Putin

今後の2年間に、欧州でもいくつか選挙がある。それらの選挙で、AfDやルペンなどの右派に政権を奪われず、エリート支配を維持できれば、その後もエリートは欧州の支配を維持できる。欧州政界も、これからの2年間が正念場なのだろう。米国だけでなく欧州でも、右派の当選を阻止するための選挙不正が遂行・活発化するかもしれない。中露など非米側が、民主主義を誇らしげに語る米欧を嘲笑する傾向が強まる。多極化と非米化が進む。
BRICS and Global South Challenge ‘Globalist Elites’ With Multipolar World - Analyst

フォンデアライエンが、反転ニセ情報を使ったインチキな言論統制策を上位に置き、ウクライナ戦争や温暖化問題を下位に置いた理由はほかにもある。
ウクライナは敗北と腐敗が露呈し、欧州エスタブが対露戦争を全面支援し続けると、欧州人がエスタブを嫌悪し支持しなくなる傾向に拍車をかける。温暖化問題も、排出規制で欧州人の生活悪化やインフレと不況がひどくなっており、温暖化対策を減退しないとエスタブの支持が低下する。
フォンデアライエンら欧州エスタブは、支配力維持のため、ウクライナ支援や温暖化対策の優先度を下げ、失敗している政策を縮小せねばならない。縮小すれば、右からの反対論や、エスタブが作ったウソ構造を指摘する声も減り、強く言論統制しなくてもエスタブ支配を延命できる。これらの軟着陸も2年ぐらいかかりそうだ。
Seeking Green Utopia, The US And EU Are Quietly Killing Vital Industries

欧州エスタブは失策を縮小して軟着陸させたい。だが、それを阻止する勢力もいる。ウクライナではゼレンスキー大統領が必死の延命策をやっており、欧州の足抜けを妨害している。温暖化に関しても過激な運動家たちが欧州を徘徊し、これまたエスタブたちの足抜けを許さない姿勢を貫いている。
ゼレンスキーや温暖化問題の活動家の黒幕には、隠れ多極派に乗っ取られた米諜報界がいて、欧州の失策の縮小を阻止して自滅に引きずり込もうと策略を練っている。
Lavrov Says West Is Aware Zelensky Getting 'Out Of Control'

エスタブ支配を維持するには、次のパンデミックを起こしてインチキ全体主義を一気に強化するのも手っ取り早い。次のパンデミが起きたら自動的に世界を全体主義の体制に転換するWHOのパンデミ条約も用意されている。
しかし、この策にも落とし穴がある。それは、WHOを支配してパンデミ全体主義を隠然と率いるのが中国共産党であることだ。欧米エスタブが、自分たちの支配を維持するために次のパンデミックの発動に賛成すると、それは中共の世界支配につながってしまい、欧米エスタブが中共に覇権を奪われる結果になる。
全体主義化した欧米エスタブは、すでに、中国共産党とさして変わらぬ独裁者ではあるのだが。
WHO Head: 'Global Compliance' Needed For Next Pandemic

さらに深く考えると、WHOのパンデミ条約に象徴される、出口のない暗澹とした構図(幻影?)を人々に見せるオーウェル1984の真似事も、米国側の人々を自暴自棄にして過激化して米欧覇権の自滅を加速させる隠れ多極派の策なのかもしれない。
暗澹とした構図を真に受けず、馬鹿野郎と一蹴し、思考を放り投げて飲みに行ってしまうのが良いともいえる(今の若い人は飲みに行かないんだっけ。暗澹。笑)。
Escobar: How The West Was Defeated



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