コロナ対策やめて世界経済の中心になる中国2023年1月9日 田中 宇昨年末まで厳しい都市閉鎖や検疫体制など「ゼロコロナ」の超愚策を続けてきた中国が、年明けからコロナ対策を大幅に緩和している。中共は、それまで3年間続けてきた世界有数の厳格な隔離と抑止と検査の体制を一気に解除し、日本並みの緩やかな規制に引き下げた。デジタルIDと結びつけて全人民の健康状態や行動履歴を監視するスマホのシステムも、使われる場所を減らした。人々がコロナ検査を受けねばならない頻度も下げた。感染しても隔離センターに強制収容せず、自宅にいられるようにした。中国への入国時の検査も1月8日から大幅に緩和した。 (Point Of No Return: Beijing's Move To Covid Coexistence Is Here To Stay) 昨年末から、PCRなどの検査で陽性になっても、軽症ならそのまま出勤や外出を許されるようになった。軽症でも感染者がうろうろすると他人に感染し、全人民がコロナに感染してしまうと(過度に)心配する中国の人々は「政府はゼロコロナ策をやめて、代わりに『ゼロ非コロナ策』(コロナにかかってない人をゼロにする策)を始めた」と揶揄しているという。 (How China Changed Its Zero-COVID Policy To A 'Zero Non-COVID' Policy) 中共がゼロコロナ策の放棄を発表したのは12月7日だが、その直前の昨年11月後半に、中国各地でゼロコロナ策に反対する人々が抗議行動を展開した。中共は昨年、10月下旬に開いた共産党大会で習近平の独裁を強化することを決めたが、その重要な党大会の前に、習近平の独裁に反対する党内の勢力(トウ小平主義を信奉するリベラル派、親米派)の動きを抑止するため、コロナ感染者が増えたことにして、都市閉鎖など厳格なコロナ規制(超愚策)を強めた。この規制強化に反発した市民たちが共産党大会の後、反対運動を強めた。習近平の独裁を批判する動きに発展しそうな中で、中共はゼロコロナ策を緩和することを決めた。その流れを見ると「市民運動が習近平を譲歩させてゼロコロナ策をやめさせた」という「解説」ができあがる。 (Protests Are Spreading In China As Backlash Grows To The Communist Nation’s Lockdowns) (習近平独裁強化の背景) 実のところ、米国側(米欧日)のマスコミが好んだこの解説は間違いだ。中共は、共産党大会終了後、ゼロコロナ反対の市民運動が始まる前の11月2日に、コロナ対策の最適化と称して、ゼロコロナ策を緩和する方向性を打ち出している。中共はその後、その線に沿ってゼロコロナ策を緩和してきた。市民運動はむしろ、コロナ対策を緩和したい中共の意に沿うものとして煽動・展開され、中共は「コロナは引き続き大変な病気だが、人民が規制緩和を望むのなら仕方がない。緩和してあげよう」という政策転換の口実を得て、ゼロコロナ策をやめていった。 (Faced with a new wave of Covid, China is opening its borders – was Beijing left with no other choice?) 中共(やその他の国々)のゼロコロナ策は、新型コロナの感染拡大を止める政策でない。ゼロコロナは、感染拡大を止める効果がほとんどない「超愚策」である。すでにコロナは重篤性が低く、放置するのが得策な風邪の一種である。中共は、習近平の独裁強化に反対する党内の動きを潰すためにゼロコロナを展開してきた。そして、昨年10月の党大会で、習近平は独裁体制の強化に成功した。習近平の登場より前に中共の権力を握っていたトウ小平の弟子たちは権力を奪われ、習近平にとって脅威でなくなった。習近平はゼロコロナを続ける必要がなくなり、市民運動を適当に扇動してゼロコロナ反対をやらせ、それに呼応するかたちでゼロコロナ策をやめた。 (China Shifts Covid Policies As Previously Announced - NYT Falsely Claims Protesters' Victory) 習近平がコロナ対策を大幅に緩和したもう一つの(より大きな)理由は、中国経済の高度成長を再開するためだ。中国は今年から、コロナ対策を大幅に緩和して無規制に近づけていくので経済が再活性化する。習近平の計画は、中国経済を再活性化するだけでなく、これまで経済的に対米従属してきた状態を離脱し、米国側に依存しない非米型の経済に転換しつつ高度成長を再開したい。 (In Huge Policy Reversal, China Will Ease "Three Red Lines" Rule To Kickstart World's Biggest Asset Bubble) トウ小平以来の中国は、米国側の製造業の下請けをして経済成長してきた。儲けた資金は米国の債券などに投資されて米国に還流し、人民元は為替がドルにペッグ(相場固定)していた。改革開放策の中国は、経済的に対米従属だった。中共上層部で権力を握るトウ小平の弟子たち(江沢民や胡錦涛)は、トウ小平の遺言に沿って経済の対米従属を守っていた。だがイラク戦争やリーマン危機の後、米国は政治経済両面で覇権が弱まり、いずれドルや債券金融システムがバブル崩壊することが不可避になった。中国がいくら経済成長しても、対米従属的な経済体制をとる限り、いずれ米国が金融崩壊する時に、中国も共倒れになる。それはまずい。 (中国の権力構造) 2013年に、トウ小平が遺言した後継者(江沢民と胡錦涛)でない初の権力者として就任した習近平は、中国経済を対米従属から離脱させるために、自分の独裁権力を強化し、共産党上層部の対米従属な先輩たちを無力化していった。先輩たちを無力化せずに習近平が経済の対米自立を強行したら、先輩たちと米当局のスパイが結託して中国を混乱させ、習近平を潰しただろう。2020年春からのコロナ危機で、中共は感染拡大防止策の口実で人々の行動が監視し、人の移動を制限したが、これらは習近平が党内の反対派や米国のスパイの動きを封じる策だった。これらが奏功して習近平は独裁を強化し、その過程は昨年10月の党大会で完了した。党大会の閉会日、習近平の隣りに座っていた胡錦涛が、習近平から密かに命じられた警備員たちによって議場外に連れ去られたのが象徴的だった。 (習近平独裁強化の背景) 習近平は、党大会で独裁を確立し、中国経済を対米自立させる策を自由にやれるようになった。1ヵ月後の12月初めに習近平はサウジアラビアを訪問し、OPECが石油ガスをドルでなく人民元で決済すること、OPECの主な売り先を米国側から中国側(非米諸国)に替えていくことに道を開いた。同時期に中共はゼロコロナ策を中止し、今年から中国経済は高度成長を再開し、サウジやロシア、イランなどから旺盛に石油ガスを買い集めて産油国を喜ばせ、非米諸国の結束を強化する過程に入る。習近平のサウジ訪問と、ゼロコロナ策の中止は連動した政策であり、だから同時に進められている。 (China Using ‘Petroyuan’ in Oil Imports May Lead to New World Energy Order) (多極化の決定打になる中国とサウジの結託) 中国は今年からゼロコロナ策を放棄して経済成長を再開し、消費市場もしだいに活況になるが、対照的に欧州など米国側の多くの地域はひどい不況とインフレ再燃・金利上昇による経済難が続く。中国は、世界で最も経済が再活性化していく地域になる。中国は世界の実体経済の中心になっていく。米国側の企業は、旺盛な消費を再開する中国に製品を売りたいと希望する。中国側は歓迎だ。しかし、一つだけ条件がある。それは「中国を敵視する国からは買いません」ということだ。そう。米英や独仏カナダ豪州など、米国側の多くの国は、米国(隠れ多極派)に扇動されて中国への敵視を強めている。米国側の覇権を守るため、中国の台頭を抑止せねばならならない。そのような姿勢をとる限り、米国側の諸国は中国(や、中国と結託する非米諸国)と取引できない。 (Refashioning a new East Asian order) 習近平は、中国人が米欧日のブランド品よりも国産品を好むよう、愛国心の煽動など再洗脳につとめている。中国はしだいに米国側から何も買わなくてもやっていけるようになっている。中国製品は品質が向上し、非米諸国で良く売れるようになった。中国は非米諸国から石油ガスなど資源類を買い、非米諸国に工業製品などを売る。中国が主導する非米諸国は、米国側の先進諸国を疎外しつつ、自分たちの側だけで経済を活性化していく。独裁を確立した習近平は、米国側と決定的に敵対して世界を見事に2分割したロシアのプーチンと協力し、世界を大転換していく。 (中露が誘う中東の非米化) (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア) 中共は今回、感染拡大防止を口実とした監視アプリを全人民のスマホにインストールさせて維持してきた監視システムの使用頻度を減らし、使わない傾向をとり始めている。コロナ危機開始後、このシステムは永久に稼働して人々を監視・管理し続けると予測されていた。中国だけでなく、米欧からインドまで世界中で、監視カメラ網や顔認識システムやワクチン旅券やCBDC(中銀デジタル通貨。現金廃止)など、人々の活動や状況を徹底的に監視する体制が、コロナ対策やテロ対策を口実に組まれている。中国は、監視体制が世界最強だった。習近平はそれを放棄するのか??。自分の独裁が確立し、党内に大きな敵がいなくなったから監視はもう要らないとか??。別の理由をつけて監視体制が継続するのか??。このあたり、今後の観察が必要だ。 (コロナ対策の国民監視システムを国際的につなぐ) (通貨デジタル化の国際政治) 中国ではしばらく前からCBDCのデジタル人民元の利用が拡大されてきたが、最近、中国人民銀行(中央銀行)の元幹部が、デジタル人民元の実験が失敗していると認める発言をしている。人々はデジタル人民元を使いたがらない。デジタル人民元は、人々がどこで何を買ったか全部把握できる最強の監視システムだ。中共は強権を発動できるのに、デジタル人民元の利用を人々に強要しないのか。カネの亡者である中国人にそれを強要すると共産党が潰されるとか??。毛沢東は人民の財産を好き放題に没収できたのに「あらゆる政策を毛沢東よりうまくやれる」と豪語する習近平が人々にCDBCを強要できない??。違うよね。 (Former Chinese Central Banker Admits Results Of Digital Yuan Experiment "Not Ideal") (Anything Mao Can Do I Can Do Better: Xi Jinping) もしかすると中共はむしろCBDCの実験を中止し、これまで続けてきたWEFとの結託、大リセットへの参加もやめてしまうつもりなのかもしれない。中共は今回、大リセットの大黒柱であるコロナの愚策も放棄した。WEFの大リセットは米国側を自滅させるのが目的であり、米国側の自滅がもう決定的なので、中共にとって大リセットやWEFそのものが用済みになっているとも思える。 (Why China Sucks: It's A Beta-Test For The New World Order) (米諜報界が中国のために作る世界政府) (世界の決済電子化と自由市場主義の衰退) 中国を敵視する国は、中国と貿易できなくなっていく。そんな中、日本では、岸田首相の訪米の露払いで米国に行った西村経産大臣が、覇権主義の民主党シンクタンクCSISでの講演で、G7を中国敵視のための機関にしたいという感じの話をした。経済を再活性化する中国で儲けたいと日本企業が思っている時に、日本企業のために動く大臣であるはずの西村が、日本企業を困らせる中国敵視の構想をぶち上げる。西村は、中国と仲良くして日本を米中両属のバランス戦略に導いた安倍晋三の親近者だったはず。安倍が死んで、裏切りを始めたか??。いやいや。 (Japan Minister Calls For New World Order) そうではなく、西村は米国に加圧されて中国敵視の構想を言わされたのだろう。あの発言を東京で発したら、中共が報復に動くかもしれないが、発言はワシントンDCで行われた。日本は対米従属せざるを得ない哀れな敗戦国なので、大臣の訪米時には、米当局が言わせたいことをそのまま言わなきゃならんのです。日本政府は、中共にそう釈明できる。あの発言はむしろ、安倍晋三の米中両属のバランス戦略に沿ったものといえる。両属政策に沿って、林外相は親中派として残しておきたいので、中国敵視発言をせねばならない露払いの訪米は西村が引き受けたとか。西村が米国で中国敵視の演説をしたので、岸田は訪米時に中国敵視の発言を言わなくても良くなった。西村は、岸田の露払いを見事に果たした。 (安倍元首相殺害の深層) (中国が好む多極・多重型覇権)
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