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仮想通貨とテロ戦争の親密性

2022年11月23日  田中 宇 

ビットコインやテザーといった仮想通貨のシステムは、米諜報界が、テロ戦争や反米非米諸国の政権転覆を進める策の一環として、テロ組織や反政府活動家に送金するために使っていたのでないか。だから、諜報界傘下のマスコミやネット大企業や金融筋は、仮想通貨を誇大称賛するプロパガンダを流し、軽信した投資家たちが資金をつぎ込んでバブルが膨張し、相場が高騰していたのでないか。私は最近、そんな風に思うようになっている。 (FTX: The Dominoes Of Financial Fraud Have Yet To Fall

いまだに「仮想通貨はすごいものなんだ」と思っている人は私の考えを攻撃してくるだろう。マスコミ情報しか信じない人は、米諜報界がテロ組織や反米非米諸国の政権転覆運動を資金援助してきたという見方すら認めないかもしれない。私からすると、それぐらい気づけよ、という感じだ。FTX倒産など、仮想通貨が崩壊していきそうな今になって仮想通貨の本質を考察しても無意味だとも言われかねないが、大がかりな詐欺やインチキの本質は、それが崩壊する時に見えてくるものでもある。 (Behind The Crypto Scam - "Complete Absence Of Trustworthy Financial Information"

仮想通貨は、ドルなど政府発行通貨に対抗するものと喧伝されていたが、実際の商品購入の支払いにほとんど使えず、結局最後まで通貨として使い物にならなかった。投資の対象としても、債券のように金利を生むものでなく、株式のように現実の事業に裏付けされてもいない。単に、金融界が債券発行やQEで作ったバブル資金で仮想通貨を買って高騰させただけだ。QEや債券の金融バブルが崩壊している今、仮想通貨の相場も下がっている。それらを見ると、仮想通貨に対する称賛が詐欺的な誇張プロパガンダだとわかる。マイニングは投資でなく作業による価値造成であり、その効率は低下し続けており相場高騰の説明にならない。(金鉱採掘を思わせるマイニングの機能が付加されたことからは、仮想通貨が金地金のライバルとして創設されたことが感じられる) (Crypto ‘totally corrupt’

マスコミ権威筋や金融界の専門家など、仮想通貨を称賛する勢力の多くは、異論をとなえる人々を説得するのでなく、攻撃・恫喝・誹謗して無力化しようとする。この手口は、地球温暖化問題や新型コロナ、ウクライナ戦争、テロ戦争と共通している。これらの諸問題は、いずれも脅威や善悪が諜報界によって誇張・歪曲されており、それを人々にさとられないよう、素朴な疑問や異論を持つ人々を攻撃して萎縮させ、黙らせる心理戦をやっている。学者など、権威を持つ人々がこれらの問題に関して素朴な疑問や異論を表明すると、権威を剥奪されて潰される。権威ある人々は、自らの政治生命維持のため、疑問や異論を表明せず、プロパガンダのシナリオに沿って語る(騙る)ようになる。「専門家の多くに支持されている」として歪曲話がますます権威を持ち、より多くの人を軽信させる(これはネズミ講の策略でもある)。温暖化もコロナもウクライナもテロ戦争も、誇張の裏に米諜報界がいる(それらをひとくくりにしたのがWEFの大リセット。つまりWEFは諜報界の一部である)。仮想通貨は、称賛の手口からみて、背後に米諜報界がいる。 (Crypto Fraud Exposes Woke Capitalism As A Scam

▼テロ戦争は覇権運営の裏の部分の代表格

米諜報界は米国覇権の運営を担当している。覇権運営の中心は「国際紛争の解決」と思いきや、そうではなく逆に「国際紛争の恒久化」が米諜報界の活動に中心だったりする。イスラム主義などのテロ組織に、こっそり活動資金を供給し、延々とテロをやらせ、テロをなくすためと称して米軍や米諜報界が世界に展開し、そこでまたテロを誘発する。それが「テロ戦争」であり、1990年代以来、米諜報界の活動の大きな柱になっている。テロ戦争の発祥は、1980年代にソ連がアフガニスタンに侵攻・占領した時、米諜報界がアフガンとパキスタンのイスラム主義者(聖戦士)たちに武器や資金を注入してソ連軍と戦わせたことだ。米国(米英)は戦後、ソ連の脅威を誇張し、ソ連を永久に敵視して世界を分割支配する冷戦体制を作っていた。だが、米諜報界が聖戦士を支援してソ連をアフガン占領の泥沼にはめたことで、ソ連は弱体化に拍車がかかって崩壊してしまった。これが米諜報界の「作戦ミス」「誤算」だったのか、それとも軍事覇権を金融覇権に転換するための策略だったのかはわからない。たぶん後者だ。

その場合、米諜報界には軍事覇権派と金融覇権派との暗闘があり、金融覇権派がイスラム主義者を本気で支援してソ連を潰して冷戦を終わらせ、替わりに債券金融システムで米英が儲ける体制を作ったことになる。アフガニスタンのイスラム主義者たちは金融覇権派の肝いりでタリバンを作り、祖国を安定させて中央アジアからインド洋への石油ガスパイプラインを敷いてその使用料収入で食っていこうとしたが、そこで軍事覇権派が邪魔しに入り、子飼いのテロリストたちを動かして自作自演的な911テロ事件を起こし、テロ戦争の開始を宣言し、米軍がアフガニスタンに侵攻してタリバンを蹴散らして20年間占領した。こういう大きな策略には、巨額の裏金が必要だ。裏金を秘密裏に送金するシステムも必要だ。

裏金の原資はいくつかある。最も古くからあるのは、米国防総省の政府予算だ。国防総省は昔から毎年巨額の使途不明金(千ドルで作れる兵器の製造に百万ドルかかったことにするといった水増し金)があり、それらは諜報界の裏金に使われてきたと考えられる。国防総省は多数の企業やシンクタンクに、兵器開発や調査事業を発注しており、その発注金のかなりの部分も裏金に回っていると推測される。 (米軍の裏金と永遠のテロ戦争

裏金の2番目は、麻薬取引や難民(違法移民)の搬送など、中南米や中東アフリカなど世界各地で行われている違法な事業を米諜報界の傘下の人々が手がけ、それで作った資金をテロ戦争などの裏金に当てることだ。共和党から1989年に大統領になったテキサスのパパブッシュはCIAの人で、政界入りする前はCIAで中南米の麻薬取引の儲けを資金洗浄することも手がけていた。彼は、石油事業を手がけたことからサウジ王家と親しくなり、中南米の麻薬取引で得た資金をサウジ王家にわたし、米諜報界の依頼でサウジ王家が養っていたアフガンのイスラム聖戦士たちの活動資金にしてもらっていた。サウジ王家自身、石油取引で稼いだ巨額資金の一部で、アフガンやチェチェンのイスラム主義者たちを支援し、ソ連やその後のロシアでゲリラ戦やテロ活動をやらせる対米加担策をやっていた。 (麻薬戦争の終わりと米国の孤立主義) (欧州の難民危機を煽るNGO

中東ではこのほか、イスラム革命後のイランのイスラム主義政権を倒そうとする市民運動も、米諜報界から支援されてきた。米諜報界は「敵を作る作戦」としてイスラム革命自体を支援していた疑いもある(米当局は、フランスに亡命していたホメイニ師が権力者になるためにイランに帰国することを阻止できたはずなのにしなかった)。米諜報界は、イランやイラク、トルコを悩ませたクルド人の分離独立・建国運動も資金援助してきた。アジアでは、中国敵視策として、ウイグル人やチベット人の分離独立運動、香港の民主化運動、それからミャンマーのアウンサンスーチー(彼女自身、英諜報界の系統の人)らの運動などが、米諜報界から資金を注入されてきた。以前の記事に書いたように、アフリカで頻発するクーデターの多くも、米国からの支援を受けている。最近ではウクライナにも、表と裏の両方から巨額の米国の資金が入っている。 (アフリカのクーデター頻発の意味) (米政治家らに横領されるウクライナ支援金

米諜報界は世界中で地政学的な裏金を必要としている。資金がいくらあっても足りない。米諜報界は冷戦後、自由化された債券金融システム(金融覇権構造)を利用し、通信傍受などで諜報界に入ってくる金融関係のインサイダー情報を使って諜報界の関係者(テロ組織とか、政権転覆を狙う活動家などが)金融取引を行って儲けることで資金供給する新手の資金源が拡大した。儲けた資金は、表の当局の目が届かないオフショア市場やタックスヘイブンに貯蓄され、米諜報界が支援したい世界各地の勢力がそこから資金を得られるようにした。米国などの表の政府当局は、テロ組織が資金を得ることを防ごうとタックスヘイブンへの監視を強めたが、それは表向きだけの話だ。表の当局が、諜報界が支援する勢力をうっかり捜査しそうになると、諜報界が表の当局をやんわり制止し、そこで捜査が止まってしまう。 (タックスヘイブンを使った世界支配とその終焉) (タックスヘイブン潰しと多極化

地政学的な裏資金の構図は、ごくたまに暴露される。たとえば1991年にBCCI(国際商業信用銀行)が破綻した時だ。BCCIは、パキスタンの銀行家やアブダビの首長らが出資して1972年に作り、ルクセンブルグやケイマンといったタックスヘイブンを網羅して業容拡大し、米諜報界が麻薬取引の儲けを資金洗浄する際に活用するようになった。パパブッシュは1976年にCIA長官だった時にBCCIを積極的に活用した。だが米(英)覇権の中心が軍事から金融に転換し、用済みになった冷戦体制が1990年に終結した後、英当局がBCCIを破綻させ、諜報界の裏金を扱っていたことも露呈した。裏金を扱っている構図が暴露される時は、その構図が用済みになった時だ。

米共和党系のオルトメディアの一つである「レボルバー」は最近、仮想通貨の大手取引所だったFTXの倒産が、かつてのBCCIの破綻と同様に、諜報界が裏金作りや送金のシステムとして仮想通貨を使っていた構図が用済みになったために起きたのでないかと思わせる記事を出した。レボルバーの記事は、米ドルと等価であり続けることを約束したステーブルコインであるテザーが、米諜報界やテロ組織や麻薬組織が裏金を送金する際に好まれる仮想通貨だと書いている。テザーは、流動性が高いビットコインを経由して為替変動リスクなしに米ドルに換金できる。テザーの最大の大口取引者の一つが、FTXの親会社であるアラメダリサーチだった。アラメダ社は、仮想通貨を使ったデリバティブ取引などで利益を出していた投資会社だ。 (FTX on Steroids: Is "Tether" the Biden World's Crypto BCCI?

FTXやアラメダリサーチを創設・経営していたサム・バンクマンフリード(SBF)は米民主党とつながりが深いので、諜報界と親密だったと思われる。諜報界がもたらすインサイダーの金融情報に基づいてアラメダ社が投資し、儲けたカネの一部を諜報界に戻すとか、アラメダ社が発案した金融商品を諜報界のプロパガンダ機能が称賛喧伝して儲けさすとか、相互扶助的な動きがあったのでないか。資金の保有や送金を匿名でやれる仮想通貨は、諜報界の裏金システムとしてうってつけだ。最近は表の政府当局が仮想通貨に対する監視を強めているが、すでに述べたように表の当局は、諜報界にやんわり制止されたら、その部分をそれ以上監視しない。 (Is there a link between 'Aid to Ukraine,' the US Democratic Party and the suspicious collapse of the FTX Crypto exchange?

仮想通貨がもてはやされるようになったのは2011-13年からで、テロ戦争の50年史の中で最近のことだ。アルカイダはすでに下火で、替わりにISISが出てきたころだ。ISISは、アルカイダに比べて米諜報界とのつながりが深く、広報(プロパガンダ)やイメージ作りの技能がアルカイダより洗練されている。アルカイダの時代は既存の銀行システムしかなかったのでBCCI利用だったが、ISISの時代は仮想通貨やデリバティブが裏金作りや送金に利用されるようになったともいえる。 (JPMorgan warns of Bitcoin crash

FTXの破綻が、BCCIの破綻と同様の意味を持つなら、米諜報界が仮想通貨を使って裏金作りや送金を行ってきた構図の破綻がこれから顕在化することになる。そういう動きがあるのか??。そう思って見ていくと、確かにある。たとえば、米諜報界やイスラエルに支援されてきたイラクやシリアのクルド人は最近、イランやトルコから攻撃されてへこまされる傾向にある。イランやトルコは、米イスラエルからクルド人への支援が減っているのを見て、これまで控えてきたクルドに対する攻撃を最近強めている。トルコはかつて内戦下のシリアで米軍を助けていたが、最近のトルコは米国の中東覇権の低下に呼応してロシアに接近し、アサド政権とも隠然と仲直りして、シリアからの米軍追い出しに協力している。ネタニヤフに戻ったイスラエルも、米国よりロシアを重視している。イランでは反政府運動が炎上しているが、これはイランが中露との結びつきを強め、米諜報界に支援されてきた反政府運動が断末魔的な最期の盛り上がりを見せている、という意味だ。中長期的に、イランの反政府運動は下火になる。 (Protesters Set Fire To Iconic Home Of Islamic Republic Founder Ayatollah Khomeini) (Turkey strikes near US base in Syria after Pentagon calls for de-escalation

BCCI破綻は、金融覇権体制が軍事覇権体制を押しのけて時代遅れにした時に起きた。今のFTX破綻は、リーマン危機以来のバブル崩壊とQEによる延命策の終了によって、金融覇権体制が終わりつつある時に起きている。今年からのウクライナ戦争によって、世界経済の「現物部門」の大半が非米側に行ってしまい、米国側が持っているのは崩壊寸前の金融バブルだけになっている。金融バブルが崩壊したら、そこから資金注入を受けて膨張していた仮想通貨の全体も崩壊する。米諜報界は金融バブルという大きな資金源を失い、覇権運営の裏金が枯渇して活動が縮小していく。その流れの一つとして起きたのが今回のFTX破綻だと考えられる。



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