英ジョンソン首相辞任の意味2022年7月8日 田中 宇7月7日、英国のジョンソン首相が辞意を表明した。彼が率いてきた与党の保守党が新しい党首・首相を決めるまでは暫定的に留任する。保守党内では、5月ごろからジョンソンを支持しない議員が増え、6月初めには議会に不信任案が提出されたが僅差で否決された。その後も保守党内のジョンソン不支持は拡大し、閣僚の辞任が相次いだため、ジョンソン自身が辞任を決めた。保守党の議員団がジョンソンを支持しなくなった理由は、周辺の性的スキャンダルや宴会騒動など倫理的な不祥事の連続だとされている。だが私が見るところ、真の理由はそうでない。保守党がジョンソンを辞任させねばならなかった真の最大の理由は、ジョンソンが米国と結託し、G7を率いてロシアや中国を敵視している戦略の大失敗が確定し、このままだとロシアなど非米諸国から米国側への経済的な報復によって、英国を含む米国側の全体が、エネルギー穀物など資源類の高騰と不足によって経済破綻しかねないからだ。 (BoJo Urges Allies to ‘Steel’ Themselves For 'Long' Ukraine Conflict, Offers Plan to ‘Recruit Time’) (‘The clown is leaving’ – top Putin ally on PM Johnson) ジョンソンの英国は、米諜報界のネオコン勢力と結託し、ウクライナの反露な極右政権をテコ入れし、露中を敵視し、NATOやG7の諸国を引きつれて新冷戦の世界体制を作ろうと画策してきた。これは、英国の最上層部に当たる諜報界の世界戦略だ。ジョンソンは、それを遂行するために首相をしていた。米諜報界が英諜報界を乗っ取って、ジョンソンに露中敵視策をやらせていたと言っても良い。英国の自滅策となったEU離脱も、米諜報界が英国を乗っ取ってやらせたことだ。ジョンソンは、EU離脱を強硬に進めてきた政治家でもある。英保守党には、英国が米諜報界に乗っ取られて自滅させられていくことを阻止したいナショナリストがけっこういて、彼らは以前からジョンソンを敵視していた。 ('Her Majesty's Russia Unit': How British spies have launched a full-scale propaganda war to demonize Moscow) (新型コロナでリベラル資本主義の世界体制を壊す) EU離脱、新型コロナ対策、露中敵視と、米諜報界が英国を自滅させようとする動きが重なっていき、保守党内のナショナリストとジョンソンの対立も激化し、最終的に最近のロシア敵視の失敗の確定を受け、保守党内でナショナリストの力が強まり、ジョンソンを辞任に追い込んだ。諜報界の戦略は非公式なものなので、その失敗を理由に首相に辞任を迫ることはできない。だから代わりに宴会ゲートなど倫理的な不祥事をあげつらってジョンソンを辞めさせようとしてきた。 (UK’s Boris Johnson Urges Ukraine Not to Negotiate With Russia) (英国のEU離脱という国家自滅) ウクライナ戦争はロシアの勝ちで決着がついている(ポーランドがベラルーシを攻撃して戦線が拡大する可能性はある)。ゼレンスキー政権のロシア敵視策の黒幕をやっていた英国は敗北が確定している。米英はG7を率いて、ロシアが米国側に輸出する石油価格を1バレル60ドルぐらいまで引き下げる策略を決めつつある(日本はG7でこの策のお先棒担ぎを率先してやっている)。 (Belarus Threatens To Strike Poland If Cross-Border "Provocations" Launched) (プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類) だが、これは逆に石油価格を高騰させてしまう。G7の石油引き下げ策への報復としてロシアは今後、サウジアラビアなど非米側の産油諸国と結託して米国側に輸出する石油を止めたり値上げしたりする動きを誘発するので、石油は逆に1バレル200-400ドルに高騰してしまうと予測されている。今後の石油高騰は不可避だ。ロシアなど金資源本位制の非米側が台頭し、英国など金融バブル(ドル)本位制の米国側が弱体化していく。これまで率先してロシア(露中)を敵視してきたジョンソンの英国は今後、露中など非米側から報復されて経済的に困窮がひどくなる。そうした英国失敗の流れが確定したので、ジョンソンは辞めさせられる。 (Make NATO a Pacific Power? British Government Comes Up With Another Dumb Idea) ジョンソンは辞任を表明したが、これで英国が立ち直っていくわけではない。英保守党のナショナリストたちは米ネオコンの傀儡だったジョンソンを辞めさせたものの、次の一手がない。英国は誰が次期首相になろうが、米国との同盟関係をやめられず、米諜報界が英国を乗っ取って過激な露中敵視などの自滅策をやらせる状態から離脱することもできない。米国との関係を切れないので、英国は露中敵視もやめられず、自滅していく傾向が続く。ジョンソンの後継者として強い次期首相が出てくる可能性は低い。英保守党内は、ナショナリストと、ジョンソンのような米諜報界(ネオコン)の傀儡が戦う状態が続き、次期政権は弱く、短命に終わって、再びジョンソンが首相に返り咲く可能性すらある。 (英国をEU離脱で弱めて世界を多極化する) 英国の中央政府が弱体化(自滅)するほど、北アイルランドやスコットランドは英国から離脱してEU側に入りたがる。英国領である北アイルランドと、EU加盟の独立国であるアイルランドでは、両者を統合しようとするシン・フェイン党が優勢になっている。英政府は、EU離脱時のEUとの交渉で、北アイルランドは英国領だがアイルランドとの間に国境管理施設を作らず、物流・関税的にEUの一部であり続けることを了承した。だが実際のEU離脱後、ジョンソンの英政府はこの約束(議定書)を守っておらず、それが北アイルランドの人々の英国からの分離独立運動に火をつけてしまっている。この問題は、英国の首相がジョンソンでなかったとしても起きたと考えられるが、ジョンソンの時代に北アイルランドと英政府の関係が悪化した。今後の英政府を誰が運営しようが、英国の弱体化の加速や国家分解の動きを止めるのは難しい。 (UK Tells EU: Without Flexibility, We Will Act on N.Ireland) (Scotland Set to Hold 2nd Independence Referendum As Sturgeon Prepares To Fight Johnson Veto) ジョンソンの英国と、バイデンとネオコンの米国は、とくに2月のウクライナ開戦後、日独などG7やNATOの諸国を引っ張り込んでロシア敵視・ウクライナ支援をやらせてきた。英米がG7を率いてロシア敵視・対露制裁を強めるほど、ロシアは石油ガスなど資源類を米国側に売らず中印など非米側に売り、米国側は資源類の高騰と不足に悩み、経済が崩壊する傾向になった。ドイツなどEU諸国は、ロシアから資源類を輸入したくてもできない状態が強まり、経済崩壊が加速している。英国では、こんな状態を続けることはできないと考えた保守党のナショナリストたちがジョンソンを追い出した。だが逆に日本の政府は、これからロシアの報復で資源類が不足高騰することが確実になった今ごろになって、ロシアの石油輸出価格を強制的に下げようとする失敗必至の超愚策をG7で急に進め出したりして、最悪のタイミングで自滅策をやり出している。 (Kremlin Slams Japan's 'Unfriendly' Stance Amid G7 Oil Price Cap Talk) (Russia responds to Japanese threat) これはおそらく米諜報界の隠れ多極派からの差し金だろう。日本外務省は丸ごと米英傀儡だし、自民党にも米傀儡が多い。ロシア政府は、日本がG7で急にロシア敵視を強め始めたので怒っている。その怒りの発露のひとつが、先日プーチンがサハリン2のガス田の日本などの利権を剥奪していくことを決めたことだ。日本は今後、サハリンからガスを輸入できなくなり、輸入する石油の価格も高騰させられる。日本国民の生活は窮地に陥る。プーチンと親しい自民党の安倍晋三・元首相がロシアに行ってプーチンと話をして和解していくしかない。私は最近の記事でそう書いた。 (日米欧の負けが込むロシア敵視) そういう流れで、もしかすると安倍晋三は動き出そうとしていたのかもしれない。その安倍の動きを阻止するため、米諜報界が死客を奈良に放ち、7月8日に演説中の安倍を銃撃したのでないか。日本がロシアと話をつけて石油ガスを輸入し続ける道は絶たれつつある。田中角栄も、小沢一郎も、そして今回の安倍晋三も、米国(軍産、ネオコン)の無茶苦茶な戦略から日本を守ろうとした政治家はみんなやられる。残された自民党の岸田や林は、ますます米ネオコンの言いなりになってロシア敵視を強め、非米側から日本への石油ガスの安定的な供給が失われていく。日本のマスコミや権威筋は、安倍が撃たれた理由についての深いことすら国民に伝えないだろう。左翼リベラルの野党や知識人たちの間抜けなロシア中国敵視も続く。日本の人々は、わけもわからず生活苦に陥れられる。ボリス・ジョンソンは辞めてもピンピンしているが、安倍晋三は撃たれてしまった。これでいいのか??。馬鹿げている。 (The World's Third-Largest Economy Is Facing A Looming Energy Crisis)
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