アジアを非米化するトランプの2期目2020年10月6日 田中 宇来月の米大統領選はいまだにバイデンが優勢だと報じられている。だが私が見るところ、報道と裏腹に、トランプの優勢が拡大している。マスコミの世論調査は民主党支持者を過剰にサンプリングする(先日のNBC-WSJでは民主党45%、共和党36%)ことでバイデン優勢の結論を捏造している。バイデンが優勢だと思っているのはマスコミだけで、米国民はトランプが優勢だと思っている(トランプ56%、バイデン40%)。 (Biden surges to 14-point lead over Trump after caustic first debate, poll finds) (56% expect Trump will win the election; 40% think Biden will) トランプは選挙に際してかなり余裕がある。対抗馬のバイデンにはウクライナ疑惑(以前のウクライナ政府がバイデンの息子を厚遇)があり、当時バイデンが息子のためにウクライナ政府に不正な圧力をかけていた事実がある。トランプがその気になれば、配下の当局にこの件を捜査させられるが、トランプはそれをやってない。やらずに勝てると予測しているのだろう。トランプに対する濡れ衣だったロシアゲートも、実は民主党本部の不正行為であり、トランプは配下の捜査当局にこの件もやらせられるが、これまたトランプは何もやってない。トランプは余裕がある。トランプはすでに諜報界を握っている。諜報界は以前、トランプの敵であり、軍産や民主党主流派とグルだったが、トランプはロシアゲートをめぐる軍産側との暗闘に勝ち、今では諜報界を牛耳っている。この牛耳りにより、トランプの諜報界を使って選挙での優勢を増大できる状態だ。 (トランプを強化する弾劾騒ぎ) (A False Flag Is Biden’s Only Chance to Win) トランプが新型コロナに感染したことについて、マスコミなど民主党系の勢力の中には、映画監督のマイケルムーアなど「トランプは有権者の同情をかって得票を増やそうと仮病を使った」と考える人々がいる。たしかに、トランプ政権が検査結果を歪曲して「大統領府でクラスター発生」とぶち上げるのは難しくない。今年3月に発症した英国のジョンソンも今回のトランプも(その他多くの各国首脳らも)政治理由での仮病だった可能性はある。しかし、トランプがコロナの仮病を使ったのは、選挙で負けそうなのを挽回するためでない。トランプは、コロナのインチキな体制に、世界の人々がしだいに気づくように演出しており、自身の仮病もその演出の一つだろう。科学や学界、報道の権威を自滅させることも、トランプら多極主義者たちの目的である20世紀初頭以来の米英覇権体制の崩壊につながる。 (Trump Faking Covid? Michael Moore, Other Leftists Peddle New Conspiracy Theory) ("In Short Trump Is Really Sick; Or Trump Is Faking; Or Trump Is Recovering But Not Out Of The Woods Yet") トランプは、来年からの2期目の任期で何をするか。私は、欧州とアジアの同盟諸国の非米化が覇権面での最重要な動きになる、と予測している。米国自身の覇権低下も、ドルの基軸性の低下や、米国内の実体経済難や暴動・社会不安拡大によって進む。世界各地のうち、中東はブッシュ政権時代から米国覇権を自滅する動きがあり、イラクからもアフガニスタンからも米軍撤退が進み、イランは完全に中露の側に入るなど、転換がほとんど完成している。ロシアと中国の非米的な結束も、2000年の上海協力機構の開始以来の20年で大きく進んだ。中国の地域覇権戦略である一帯一路も進んでいる。東南アジアは中国の影響圏になっている。アフリカや中南米は、中国の影響力拡大に加え、そもそも世界的な覇権体制を左右する地域でないという要素もある。 (近づく世界の大リセット) 今年始まったコロナ危機は来年も続く。覇権運営体でもある諜報界を乗っ取ったトランプは、コロナを使って、米国と同盟諸国にも経済的に自滅的で病理的に無意味な都市閉鎖を強要し、これまで世界の中心だった米欧経済を潰していく。米国は来月の選挙がこじれて暴動がひどくなるだろうし、コロナ不況も加速する。郵送投票による意図的な混乱などで、トランプの再選は何週間も公式に認められないかもしれない。米国の覇権国としての当事者能力が失われる。 (MSM Stokes Violence, Dem Voter Fraud, Economy Still Weak) トランプらはコロナで、欧米を自滅させると同時に、中国とその傘下の諸国には、非公開で経済成長を再開する自由をこっそり与えている。経済的に、欧米が低下し、中国が台頭する。これが地政学的なコロナの本質だ。コロナは、トランプの覇権放棄・多極化を加速する要素だ(だから意図的な策と感じる)。2期目のトランプは、コロナの後押しを利用し、米中分離をさらに強硬に進め、中国を台頭させていく。米同盟諸国の中で日本や韓国や東南アジアは、中国の傘下として振る舞うことを米国から黙認されている。だから日本はやんわりとした都市閉鎖しかやらなくてすみ、欧米よりも経済が活性を保っている。コロナは中国圏を拡大・強化する。日本は、国民が何と感じようが、すでに静かに中国圏の中にいる。 (コロナの歪曲とトランプvs軍産の関係) (安倍から菅への交代の意味) 西アジアではアルメニアとアゼルバイジャンの戦争が再発しているが、これはコーカサス地域の覇権を握るのが米国からロシア・トルコに移転することに伴う動きだ。ソ連崩壊後、米国とイスラエルが在米アルメニア人ロビー団体に入れ知恵してアルメニアを軍事強化し、ナゴルノカラバフをアゼルバイジャンから剥奪・占領した。ロシアの下腹部に恒久内戦地域を作るのが米イスラエルの目的(米覇権戦略)だった。今回、この地域の覇権が米国から露トルコに移るにあたり、露トルコの肝いりでナゴルノ紛争がいったん再燃し、今後いずれかの状態で停戦・安定化していく。トルコは、同じトルコ系のアゼルバイジャンを支援している。ロシアは仲裁役だ。この再燃と再和解を通じて、米イスラエル系の勢力が追い出されていく。今回のナゴルノ紛争は米覇権低下・多極化に伴う動きだ。 (Armenian envoy expects Israel will halt arms sales to Azerbaijan amid conflict) などなど、一つずつ書いていくときりがない。世界の中で、欧州と東アジア、EUと日韓豪印以外の地域は、ブッシュからトランプ1期目までの20年で、米覇権低下と多極化への道筋が見えてきている。だから2期目のトランプは、まだあまり手がつけられていない欧州と東アジアの非米化にいよいよ着手するのでないか、というのが私の予測だ。 (安倍辞任は日本転換の好機) いまだに「米国が自国の覇権体制を壊したいはずがない。多極化は意図的なものでなく、米国の覇権戦略の偶然の失敗の結果にすぎない」と思う人がいるかもしれないが、それはマスコミ・権威筋を軽信している人の思い込みだ。911以来20年間、稚拙で過激で自滅的な「失策」が繰り返され、トランプはそれを加速した。この20年、共和党=隠れ多極主義、民主党=米覇権主義になり、暗闘している。オバマは米覇権をまともな方向に戻そうとしたがほとんど成功しなかった。多極の側がオバマを邪魔したからだろう。オバマの成果の一つだったイラン核協定は、トランプによって非米方向に換骨奪胎された。この20年、覇権戦略をめぐる米中枢の暗闘と多極化の流れが、報じられないまま進行している。報じられないのは、マスコミもこの暗闘の当事者だからだ。 (世界のデザインをめぐる200年の暗闘) それで、トランプは欧州と東アジアに対して何をどうするつもりなのだろうか。結論から書くと、まだよくわからない。しかし推測はできる。欧州については、30年かけて失敗した地政学大事業であるEUの国家統合を立て直す必要がある。EUの統合はもともと米国の多極側(レーガン)が、欧州を強化して対米自立させ、世界の極の一つに仕立てる構想だった。これに対して、米覇権側の英国がEUに入り込み、加盟国を増やしすぎるなどの愚策を展開してEUやユーロを失敗させ、独仏など欧州諸国が対米従属を続けねばならない状態を作った。 (Former Central Banker: "The World Is Heading Towards A New Monetary System That Incorporates Gold") 数年前から、英国がEUを離脱する動きを続けている。これは、米国の覇権が低下してEU(独仏)が自らを再強化しつつ非米化していくので、英国がEUに残っていると従来の主導権を失い、国家主権を失うからだろう。今後、EUやユーロ圏は加盟国を減らして再出発することが必要だ。独仏と北欧とベネルクスぐらいで「強いEU・新ユーロ圏」を構成し、東欧や南欧がそこに準加盟するとか、その手の出直しが模索されるだろう。それがうまくいくと、その過程でEUはロシアと和解し、NATOは消えるか欧米間の親睦団体に格下げされる。 (NATO Continues Forever As ‘North America And The Others’) 東アジアでは今後のトランプ2期目に、台湾と北朝鮮で動きがありそうだ。トランプは今夏以来、中国を怒らせるため、台湾との関係を強化している。ポンペオ国務長官の台湾訪問なども俎上に上っている。トランプは、日本や豪州などアジアの同盟諸国に「お前らも台湾との関係を強化しろ」と求めるかもしれない。すでに昨年来、日米の交流協会と台湾政府の3者交流体制が新設されている。だが同盟諸国は、米国が覇権を喪失しつつあり、米覇権低下後の東アジアの支配者は中国であると知っている。米国自身は台湾と国交回復しない。同盟諸国が米国の圧力に従属して台湾に接近すると、中国からさまざまな制裁を受けて窮乏する。そのころには米国が助けてくれなくなる。 (Formal Ties With U.S.? Not For Now, Says Taiwan Foreign Minister) 日本など同盟諸国は、米国からの圧力を無視して台湾に接近せず、そのぶん中国に非公式に媚を売る動きをするのでないか。トランプが扇動していく台湾問題は、米国の覇権低下を示すものになる。そのうちに、米国自身の覇権が低下する。台湾は米国を後ろ盾にできなくなって弱くなり、中国に譲歩していく外交交渉を余儀なくされる。米国の台湾接近は、台湾自身のためにならない。この手のシナリオがトランプの目的だろうから、米国は中国との戦争を避ける。中国も、台湾を軍事攻撃せず無傷のまま傘下に入れたいだろうから、米中台は一触即発が演じ続けられるものの戦争になりにくい。「米中台は戦争にならない」と言い切っても良い。 (US presidential election: China, Donald Trump and red lines on Taiwan) 台湾と同様、尖閣諸島も日中間の交戦にはなりにくい。尖閣の海域で、中国は軍事的にかなり強硬だが、中国が日本と交戦してしまうと日本の中国嫌いが大膨張する。それは中共の望むところでない。日本は、せっかく安倍政権時代に対中従属への道を静かに歩んできたのだから、今後もそのまま親中方向に歩ませるのが良いと中共は思っている。日中も戦争にならない。 北朝鮮について、トランプの目標は、韓国を対米自立させ、在韓米軍を撤収することだ。対米自立は、韓国を中国の傘下に押しやる。米国は、ブッシュ政権の失敗した6か国協議以来の17年間、北朝鮮問題の解決の主導役を中国に押し付けようとしてきた。ブッシュ政権当時は、中国が覇権拡大に消極的だった胡錦涛(トウ小平傘下)だったので6か国協議が失敗した。だが今の中国は、覇権拡大に積極的な習近平だ。今後の4年間に、北朝鮮の問題解決の主導役が米国から中国に移る可能性は十分にある。 (北朝鮮の政権維持と核廃棄) 2期目のトランプは平壌を訪問するかもしれない。だが、今後4年間の北問題の要諦は、そういった目立つ事象でない。トランプが金正恩と仲良くするのは、米韓と北朝鮮の間の緊張を引き下げ続ける時間稼ぎのためだ。そうしないとトランプの仇敵である軍産(諜報界の反トランプ派)がどこからともなく出てきて、ゲリラ的に朝鮮半島の緊張を引き上げてしまう。それを防ぎ、いずれ中国が十分に台頭して北問題の解決役を引き受けてくれるまでの前座として、トランプは金正恩と仲良くしている。 (Yes, Donald Trump Could Pull U.S. Troops Out of South Korea If Reelected) (Predicting Donald Trump’s Strategy Towards North Korea in a Second Term) すでに国連は、米国でなく中国が握っている。米国が国連を握っている限り、軍産が作った厳しい(というか履行不能な)北核問題の解決の定義(核兵器が存在しないことを証明せねばならないCVIDなど)が存在し続け、問題解決を妨害する。中国が国連を動かし、北核問題を解決可能な話として定義しなおし(というか北が核をこっそり持ち続けて良いという話にして)、北問題を解決していくことが必要だ。 (How China Is Taking Over International Organizations, One Vote at a Time) (朝鮮戦争が終わる) 北問題が解決し始めると、日韓と米国との安保関係が大きく変わる。日本だけが対米従属を許されることはない。在日米軍の撤退や日米安保の解消が起きる。トランプは、自分の2期目の任期中にそこまでやりたいはずだ。最大の妨害要因だった米国の軍産・諜報界は弱体化しており、トランプが多極化に成功する可能性が高まっている。そこまで、どのような道をたどっていくのか、見えてきたらその都度書いていく。
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