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世界からの撤兵に拍車をかけるトランプの米国

2019年3月10日   田中 宇

トランプ大統領の米政府が、日本、ドイツ、韓国など、米軍を恒久駐留させている同盟諸国に対し、駐留費の全額負担に加え、米軍がいるおかげで小さな自国軍で防衛できることなど米軍駐留の恩恵に対する報酬として駐留費の50%を上乗せして払う(合計で駐留費の150%を米国に払う)ことを求める「費用プラス50」の政策を出してきた。トランプは以前から、米軍を駐留させている諸国は恩恵を受けているのだからもっと駐留費を負担すべきだと言い続けてきた。トランプは、米軍駐留で損をしないだけでなく「利益率50%」のビジネスにしようとしている。現在、米軍を駐留させている国々の駐留費の負担率は、日本75-80%、サウジアラビア65%、韓国50%、ドイツ28%となっている。これらを150%に引き上げるには、日本が2倍、韓国が3倍、ドイツは5倍の財政支出をせねばならない。 (Trump May Charge Allies Up To 600% More For Hosting US Troops) (South Korea, US Sign Deal on Increased Payment for US Troops

今回のトランプの政策が実行された場合、日本はおそらく唯一、言われるままに払う国だ。韓国は、北朝鮮と和解していくので米軍に駐留し続けてもらう必要が減り、長い目で見て、増額に応じるのでなく、米軍に出て行ってもらう方向になる。トランプは2月末、米朝会談を破談にして北朝鮮問題の解決を「寸止め」し、韓国や中国が、米国に頼らず北朝鮮問題を解決していこうとするように仕向けている。韓国は先日、米国から求められ、とりあえず駐留費の負担率を従来の50%から80%に増やすことに同意した。だが今後、北朝鮮問題が解決していくと、しだいに韓国は増額に応じなくなり、むしろ在韓米軍の撤退を求めるようになる。 (‘Cost Plus 50%:’ Trump Wants Hosts of US Troops to Pay a Premium) (ハノイ米朝会談を故意に破談させたトランプ

ドイツは、フランスなどと一緒にEUの国家統合の一環として軍事統合を進めている。従来の軍事的な対米従属(NATOへの従属)をやめて、EU統合軍を持って対米自立していこうとしている。そのような中でトランプがドイツに「5倍の駐留米軍費用を払え」と要求したわけだが、ドイツがこれを受諾する可能性は非常に低い。同時にトランプは、ロシアとの軍縮体制だったINF条約を離脱してロシア敵視を不必要に強め、米国(NATO)の傘下にいると自滅させられるとEUが思うように仕向けている。トランプがこれらの無茶苦茶をやるほど、ドイツは対米自立したい気持ちが強まる。 (Germany vows retaliation for US trade war on EU) (トランプの米露軍縮INF破棄の作用

トランプの今回の「費用プラス50」政策は、タイミング的に見ても、北朝鮮問題の解決や、米欧間の経済安保の亀裂拡大の中で出されている。これは、ドイツや韓国の対米自立心を扇動する、隠れた覇権放棄・多極化・世界からの撤兵策に見える。この策は、見てみぬふりをし続けている日本以外の国々に対して効き目がある。 (国民国家制の超越としての一帯一路やEU

▼トランプの世界撤兵が米議会で通るよう左傾化する米民主党

サウジアラビアにも米軍が駐留しているが、米議会は、サウジ軍が米国にはめられてイエメンで展開してきた侵略戦争に米軍が協力することを禁じる法律を作っている。サウジの権力者であるムハンマド皇太子(MbS)は昨秋、米諜報界にはめられて、反政府ジャーナリストのカショギをトルコのサウジ領事館内で殺害する事件を起こす失態を演じてしまい、それ以来、サウジは米政界で袋叩きにされている。それに加えて今回、駐留米軍の費用負担を大幅増額しろというトランプの要求が上乗せされ、サウジは米国から意地悪ばかりされている。今後の中東の安保体制を決める覇権国の役割は米国からロシアに移りつつあり、サウジは米国にカネを出す意味が減っている。トランプや米議会がサウジに無茶な要求をするほど、サウジは対米自立・親露になっていく。 (Without US support, Saudi Arabia would end Yemen war, experts say) (同盟諸国を難渋させるトランプの中東覇権放棄

米議会ではイエメンのほか、アフガニスタンからの米軍撤退を求める新法案が上院で審議されている。共和党の「隠れ親トランプ」なランド・ポール上院議員らがまとめた新法案は、5か月以内に米軍をアフガンから撤退することを求めている。アフガンでは、米軍がタリバンに勝って占領を成功裏に終わらせることができない状態が確定して久しい。トランプはもともとアフガンからの米軍総撤退を選挙公約に掲げており、米政府(諜報界)に巣食う軍産複合体から反対妨害されつつも、タリバンと交渉して撤兵の前提となる停戦合意を結ぶことを目指している。新法案は、タリバンとの交渉妥結との後の撤退プロセスに拍車をかける。米軍撤退後のアフガニスタンは、中国とその傘下のパキスタンや、ロシア、イランなどによって安定化と再建が行われるだろう。米国は関与しなくなっていく(軍産・米諜報界はISの残党を送り込んで再建の邪魔をする)。ここでも覇権放棄・多極化だ。 (Ending the War in Afghanistan) (US Quietly Negotiates ‘Peace with Honor’ in Afghanistan

トランプは、シリアからの米軍撤退を進めている。米軍撤退後のシリアは、ロシアやイランの影響圏になる。レバノンやイラクも同様だ。イラクの政府や議会も最近、トランプに怒りを扇動され、対米自立をめざす姿勢を強めている。 (ロシア、イスラエル、イランによる中東新秩序

トランプは今後、日本やドイツ、韓国など同盟諸国から米軍駐留費負担の増額分を受け取るのに加え、シリア、アフガン、イエメンなどから米軍が撤退することによる費用減少の恩恵も受ける。米軍が必要とする予算は減るはずだ。それなのにトランプは米政府の来年度予算で、国内支出を削って、軍事費を増やしている。これを見て「やっぱりトランプは軍産敵視でなく、軍産そのものだ」と早とちりする人がいそうだ。これは違う。トランプは、世界から米軍を撤退させて覇権を放棄し多極化を推進する一方で、米政府の軍事費を積み増し、米軍事産業や共和党内の軍産系がトランプを支持するよう鼻薬を嗅がせている。トランプは覇権放棄策の一環として、最終的に米政府が腐敗まみれで財政破綻することを密かに望んでいるふしがあり、自分の人気取りや再選のために米政府の財政を大盤振る舞いしている。 (Trump budget to propose slashing domestic spending, boosting defense

米民主党では、トランプ敵視の左派が台頭している。次期大統領選に出馬する民主党候補の多くが左派だ。彼らは、多くの分野でトランプを批判敵視しているが、民主党左派は世界からの米軍撤退や覇権放棄を目標に掲げており、その点でトランプと対立でなく同調している。シリアやアフガン、イエメンからの米軍撤退は、トランプだけでなく、共和党のトランプ派(草の根右派)、民主党の左派にも支持されており、これらを合計すると米議会の過半数を制する。半面、民主党は左派と中道派に分裂したまま次期大統領選挙に突入し、トランプを勝たせる結果になる。 (次期大統領選:勝算増すトランプ、泡沫化する軍産エスタブ) (Elizabeth Warren Calls for Breakup of Amazon, Google, Facebook



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