最期までQEを続ける日本2018年8月1日 田中 宇7月31日、日銀が政策決定会合で、QEを今後も長期にわたって続けることを決めた。今回の政策決定は「次回大統領選挙でトランプが再選を果たす2020年まではQEを続ける。QEの資金によって、日本だけでなく米国の金利安(債券高)や株高を維持し、米国中心の債券金融システムの破綻を先送りすることで、トランプ再選に貢献する」という意味だ。貿易戦争や米露接近を機に対米自立を加速する欧州勢(ECB)は今年末でQEをやめるが、国が破綻しても対米従属を続けたい日本はまだまだQEを続ける。 (BoJ View: super easy policy until 2020 – ING) (トランプのバブル膨張策) 以前、日銀の政策発表は10月だと言われていた。日銀が10月でなく今回のタイミングでQEの長期化を表明したことは、11月の米国の中間選挙(議会選挙)との絡みを感じさせる。中間選挙でトランプの共和党が議会上下院とも勝利して多数派を維持できるよう、日本が日銀QEによる資金注入をして協力する構図だ。見返りにトランプは、覇権放棄策の日本への適用をゆるめ、日本政府が望む在日米軍の駐留継続を認めてくれるだろう。日本の官僚機構は、対米従属できる限り、隠然独裁を続けられる。 (Donald Trump’s Approval Rating Inches Higher, Buoyed by Republican Support) その代わり、いずれ(2021-25年ごろ??)QEの継続が困難になると、日本は、国債金利の上昇や株価の大幅下落、不況の顕在化などにみまわれ、経済が破綻する(すでに行き詰まっている経済が、資金収縮によって顕在化する)。QEは、長く続けるほど維持が難しくなり、最期の破綻もひどいものになる。日銀はQEの運営を、これまでより柔軟にやる方針を発表したが、これは今後、QEの管理が難しくなって金利が上がる場合、それを容認せざるを得ないかもしれないという意味だ。 (BOJ to Allow Flexibility in Bond Operations, Adjusts ETF Buying) (QEやめたらバブル大崩壊) 今春以来「トランプはドル高・円安を演出する日銀のQEに反対し、日本にQEをやめろと圧力をかけている」という指摘が出ていた。だが、トランプにとって日銀のQEは、為替をドル高にして米国の輸出産業を打撃するというマイナス面より、巨額資金が米国に流入し続けて米国の債券高・株高の維持に貢献し、トランプが米政界における自分の政治的優位を維持するための「好景気の演出」に使えるというプラス面の方が大きい。トランプは、QEに対する反対を引っ込めたか、もしくは最初から反対していなかった可能性が高い。 (BOJ Bid to Taper by Stealth Made Tougher by Supercharged Yen) (Trump, Breaking With Tradition, Talks Up GDP Report Before Release) ▼日本のQEは経済政策でなく外交政策 日銀のQE(量的緩和策)は、円を増刷して日本国債や日本株ETFなどの金融商品を買い込み、カネ余り状態を作って金利をゼロ前後に下げておく政策だ。これは表向き「デフレ傾向をなくすための策」とされているが、日本のデフレ傾向は、製造業の国際構造や日本の社会構造の変化による商品の値下がりによって起きているもので、通貨を過剰発行してもなくならない。それは、QEに反対して13年に日本政府(財務省、安倍晋三)からクビを切られた日銀の白川方明前総裁が主張していたことだ。 (米国と心中したい日本のQE拡大) QEはデフレ対策でなく、リーマン危機後に蘇生しない米国中心の債券金融システムを、官製相場にして蘇生したかのように見せかけて延命するための対策だ。通貨の過剰発行であるQEは、不健全な政策だ。米連銀(FRB)は、QEを続けるとドルの信用が落ちるので、米政府から日本政府にQEを肩代わりしろと政治圧力がかかり、対米従属一本槍の日本政府(官僚機構)は対米関係を重視するあまり、QEの不健全さを無視し、反対する白川を辞めさせ、官僚機構の代理人として財務省から送り込まれた黒田東彦が日銀総裁になり、14年末にQEを開始(急拡大)した。日本のQEは、経済政策でなく外交政策である。そのため、QEを経済政策として「解説」するマスコミの記事を読んでも、QEが何なのか理解できない(金融専門家、金融関係者は、それを「理解」したふりをすることを求められる。王様の新しい服はとても美しい!!)。 (Bank of Japan, caught between Trump and a hard place, must also confront ghosts of its past) 日銀は14年末以来、QEによって、日本政府が発行する国債の大半を買い占め続けており、今や日本の国債総残高の約半分を日銀が保有している。民間金融機関は国債を買えなくなり、代わりに米国債など米国の金融商品を買わざるを得なくなり、日本の資金が米国に流入して、米連銀がQEを続けているのと同じ効果を保持した。国債で利益を確保できなくなった日本の中小銀行は、高リスクの危ない投資を増やして潰れていくか、業容を縮小して潰れていくかの二者択一となっている。 (日銀マイナス金利はドル支援策) (加速する日本の経済難) 日銀のQEは、日本の民間金融機関にとって過酷なものだが、日本政府にとっては短期的においしい話になっている。日本国債の利回りはゼロ前後に下がり、巨額の財政赤字を抱える日本政府は、国債の利払い額が急減した(長期的にはいずれ迫られるQEの終了後、国債金利が大幅上昇して下がらなくなり、日本政府が財政破綻に瀕する)。 (One Trader Explains Why Japanese Tightening Is A Pipe Dream) (An Optimist's View Of The End Of America) 日銀のQEは、無から生み出した円資金で日本株のETFをも買い込み、いまや日本株ETFの80%を日銀が保有している。日本の上場企業の4割において、日銀が10大株主の中に入っていることになる。日銀が株を買い支え続けるので株価は下がらず上昇傾向を維持し、株高が続くので景気が良いとマスコミ(金融専門家)が喧伝し、安倍政権の経済政策が称賛されて支持率を押し上げている。実のところ、日本(や米国)の景気は回復しておらず、貧富格差の急拡大(中産階級の貧困層への下落)によって消費は減退傾向だが、株価と、経済指標の粉飾により、景気が回復しているかのような印象が流布している。(王様の新しい服の美しさが見えない者は、経済の「素人」だ。「素人の妄想」でなく「専門家の解説」が「真実」ですよぉ!!) (BOJ Is Now A Top-10 Shareholder In 40% Of All Japanese Companies; Owns 42% Of All Government Bonds) (New Report Warns Of "Unprecedented Wage Stagnation" In OECD Countries) 日銀のQE資金は、日本株の最大の買い手になっている。日銀は今回、QEで買う株式ETFの対象を日経225からTOPIXの方に移していくと発表し、金融マスコミは、この変更でどの株が上下するかと騒いでいる。これ自体、日銀の株買い支えの微妙なバランスが株価に大きな影響を与えることを示している。日銀が株を買うのをやめたら、日本の株価は確実に大幅下落する。もし本当に日本が好景気で、日銀がETFのかたちで株を大量に買い支えなくても株価が上がるのなら、日銀は株のETFなど買い込まない。QEは、債券金融システムの延命が目的であり、QEをやってきた中央銀行群の中で、株を大量に買っているのは日銀だけだ。米国と欧州の中銀は、債券を買い支えてきただけで、株を買っていない。 (Fed Could Avert an Inverted Yield Curve. But It Won’t.) 米国は、企業が社債を発行して自社株買いすることを奨励し、自社株買いが株価上昇の唯一最大の要因だ(自社株買い以外の全ての勢力は、株を売る傾向だ)。トランプは、従業員(=有権者)の給料を増やすためと言って法人に減税したが、その分の資金の多くは給与増でなく自社株買いに使われ、米国の株価を押し上げている。このため米国では、当局が株を買い支えなくても良い。 (The Only Stock Buyers In The First Half Were Buybacks: BofA) (Researchers Warn Income Inequality In US Getting Worse, It Was "Intentional") 米国も日本も、景気が悪いままなのに、資金注入によって株価が上がっていることが、好況の象徴だと歪曲喧伝されている。好景気だから日本の株価が上がっていると信じ込んでいる人が私の周囲にもいて、とくに日本経済新聞などを熱心に読み、自分は経済に詳しいと思っている人が頑迷だ。経済の歪曲報道は、ねずみ講的な話なので、政治の歪曲報道よりはるかにバレにくい。 (Ron Paul Warns When The "Biggest Bubble In History" Bursts, It'll "Cut The Stock Market In Half")
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